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不眠症と日中の過度の眠気

執筆者:

Richard J. Schwab

, MD, University of Pennsylvania, Division of Sleep Medicine

最終査読/改訂年月 2020年 6月
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やさしくわかる病気事典
本ページのリソース
  • 不眠症とは、寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚める、あるいは、睡眠の質が悪く、寝足りない感じがしたり、すっきりした感じが得られなかったりする状態です。

  • 日中の過度の眠気は、日中に異常なほど眠くなったり、眠り込んでしまったりする状態を指します。

寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚めるという症状は、年齢を問わずみられます。成人の約10%に長期的な(慢性の)不眠症があり、ときおり不眠を経験する人は約30~50%に上ります。

知っていますか?

  • およそ半数の人が少なくとも一度は不眠を経験しています。

  • ジフェンヒドラミンを含む処方または市販の睡眠薬は、不眠症の治療には適していません。

  • 不眠症に対する最善の治療法は認知行動療法で、この治療では睡眠を改善するために行動を修正します。

睡眠 睡眠の概要 睡眠は生存と健康に欠かせませんが、睡眠がなぜ必要で、正確にはどのような効果があるのか、まだ完全には解明されていません。睡眠による効果の1つは、日中の作業効率を回復させることです。 必要な睡眠時間は人によって大きく異なりますが、通常は1日6~10時間です。ほとんどの人は夜に眠ります。しかし、勤務形態に合わせるため昼間に睡眠をとらなければなら... さらに読む が妨げられると、ときに日中の活動に支障をきたすことがあります。不眠症または日中の過度の眠気があると、日中に眠気、疲れ、いらだちを覚え、集中力が低下したり活動に支障が出たりします。日中の過度の眠気がある患者は、仕事中や運転中に眠り込んでしまうことがあります。

不眠症には、いくつかのタイプがあります。

原因

不眠症と日中の過度の眠気の原因は、体内のものであることもあれば、体外のものであることもあります。不眠症と日中の過度の眠気の両方を引き起こすものもあれば、いずれか片方のみを引き起こすものもあります。特定の原因との明らかな関係がほとんどまたはまったくないにもかかわらず、慢性の不眠症がある人もいます。遺伝的な要因が関わっている可能性があります。

一般的な原因

不眠症の最も一般的な原因は以下のものです。

  • 望ましくない睡眠習慣(午後遅くや夜間にカフェイン入り飲料を飲む、深夜に運動をする、就寝・起床時刻が不規則であるなど)

  • 精神障害(特に、うつ病、不安症、物質乱用など)

  • その他の病気(心疾患、肺疾患、筋肉または骨の病気、慢性痛など)

  • ストレス(入院や失業によるものなど[適応障害性不眠症])

  • また夜眠れないと次の日に疲労が残ってしまうのではないかという過度の不安(精神生理性不眠症)

寝不足の分を取り戻そうと、遅くまで寝ていたり仮眠をとったりすると、翌日の晩にさらに眠りにくくなります。

日中の過度の眠気の最も一般的な原因は以下のものです。

主要な精神障害のほとんどは、不眠症と日中の過度の眠気を伴います。うつ病患者の約80%には日中の過度の眠気と不眠症があり、慢性不眠症患者の約40%には精神障害、通常は うつ病 うつ病 うつ病とは、日常生活に支障をきたすほどの強い悲しみを感じているか、活動に対する興味や喜びが低下している状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。 うつ病になると、悲しみに沈み、動作が緩慢になり、以前は楽しんでい... さらに読む 不安症 不安症の概要 不安は誰もが普通に経験する神経質、心配、困惑の感情です。不安は幅広い精神障害、例えば全般不安症、パニック症、恐怖症などでもみられます。このような障害はそれぞれ別のものですが、いずれも特に不安と恐怖に関連した苦痛と日常生活への支障を特徴としています。 不安に加え、患者が息切れ、めまい、発汗、心拍数の上昇、ふるえなどの身体症状を経験することも... さらに読む があります。

痛みまたは不快感を伴うあらゆる病気、特に動きによって痛みまたは不快感が悪化する病気があると、短時間ずつ目が覚めてしまうため、睡眠が妨げられます。

あまり一般的でない原因

薬剤を長期間使用したり、使用を中止(離脱)したりすると、不眠症や日中の過度の眠気が起こることがあります。

精神に作用する薬剤(向精神薬)の多くは、睡眠中に異常な動きを誘発し、睡眠を妨げます。不眠症の治療に一般的に用いられる鎮静薬は、易怒性や無関心をもたらし、覚醒レベルを低下させます。鎮静薬を2~3日以上使用した後に中止すると、もとの睡眠症状が突然悪化することがあります。

ときに、原因が睡眠障害である場合もあります。

中枢性または閉塞性睡眠時無呼吸症候群 中枢性睡眠時無呼吸症候群 睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に長い呼吸停止が繰り返し起こって眠りが妨げられる重篤な病気で、しばしば一時的に血液中の酸素レベルが低下して二酸化炭素濃度が上昇することもあります。 睡眠時無呼吸症候群の患者は、日中でも強い眠気を催し、睡眠中には大きないびきをかいて、あえぎや息詰まり、呼吸停止などを起こし、荒い鼻息とともに突然目を覚ますことがよく... さらに読む 中枢性睡眠時無呼吸症候群 は、多くの場合、患者が不眠症、あるいは睡眠の妨げや眠ってもすっきりしないなどの症状を訴えたときに、初めて特定されます。この病気は、別の病気(心疾患など)がある人、または特定の薬剤を使用している人に起こることもあります。中枢性または閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、夜の間中、呼吸が浅くなり、呼吸が何度も止まります。

ナルコレプシー ナルコレプシー ナルコレプシーは、日中の過度の眠気や、通常起きている時間帯に自分では制御できない眠気が繰り返し起こることを特徴とする睡眠障害で、通常は突然の筋力低下(情動脱力発作)を伴います。その他の症状として、睡眠麻痺、鮮明な夢、入眠時または覚醒時に起こる幻覚などがあります。 診断を確定するには、睡眠ポリグラフ検査と睡眠潜時反復検査など、睡眠検査室での検査が必要です。 覚醒状態を維持し、他の症状をコントロールするために薬剤を使用します。... さらに読む は、日中の過度の眠気や、通常起きている時間帯に自分では制御できない眠気が繰り返し起こることを特徴とする睡眠障害で、突然の一時的な筋力低下(情動脱力発作 情動脱力発作 ナルコレプシーは、日中の過度の眠気や、通常起きている時間帯に自分では制御できない眠気が繰り返し起こることを特徴とする睡眠障害で、通常は突然の筋力低下(情動脱力発作)を伴います。その他の症状として、睡眠麻痺、鮮明な夢、入眠時または覚醒時に起こる幻覚などがあります。 診断を確定するには、睡眠ポリグラフ検査と睡眠潜時反復検査など、睡眠検査室での検査が必要です。 覚醒状態を維持し、他の症状をコントロールするために薬剤を使用します。... さらに読む )を伴います。

評価

通常は、現在の症状に関する患者の説明と身体診察の結果に基づいて不眠症の原因が特定されます。多くの患者は、望ましくない睡眠習慣、ストレス、交代勤務など、明らかな原因を抱えています。

警戒すべき徴候

以下の症状には注意が必要です。

受診のタイミング

警戒すべき徴候がみられる人や、睡眠に関連する症状が日常生活に支障をきたしている人は、早めに医師の診察を受ける必要があります。

医師が行うこと

医師は、以下の点について質問します。

  • 睡眠パターン

  • 就寝時刻前後の習慣

  • 薬剤の使用(レクリエーショナルドラッグ[娯楽目的で使用される薬物]を含みます)

  • その他の物質の使用(アルコール[飲酒]、カフェイン、タバコ[喫煙]を含みます)

  • ストレスの程度

  • 病歴聴取

  • 身体活動のレベル

睡眠日誌をつけるよう指示されることもあります。睡眠日誌には、就寝時刻と起床時刻(夜間に覚醒した時刻を含みます)、仮眠をしたかどうか、睡眠に関する問題など、睡眠習慣を詳しく記録します。医師が不眠症の診断を検討する際は、人によって必要な睡眠時間が異なることを考慮します。

日中の過度の眠気がある患者には、エプワース眠気スケール(Epworth Sleepiness Scale)などのアンケートに記入してもらいます。これは、様々な状況で眠り込んでしまうことがどの程度あるかを調べるための質問票です。医師は、患者のベッドパートナーに対して、患者の睡眠中の異常(いびきや呼吸の停止など)について質問することもあります。

身体診察を行い、不眠症または日中の過度の眠気の原因になる病気(特に閉塞性睡眠時無呼吸症候群)がないかを調べます。

検査

症状から、望ましくない睡眠習慣、ストレス、交代勤務障害、またはレストレスレッグス症候群(入眠直前または睡眠中に脚や腕を動かしたくなる抗いがたい衝動)が疑われる場合、検査は不要です。

医師はときに、患者を睡眠障害の専門家に紹介し、睡眠検査室での評価を依頼することがあります。患者を紹介する理由には以下のものがあります。

睡眠検査室では、睡眠ポリグラフ検査を行うとともに、睡眠中に異常な動きがないかを一晩かけて観察します。ビデオ録画が行われる場合もあります。ときに、ほかの検査が行われることもあります。

通常、睡眠ポリグラフ検査は一晩かけて睡眠検査室で行われますが、睡眠検査室は病院や診療所にある場合もあれば、ホテルの部屋や、ベッド、浴室、モニタリング装置の備わった他の施設を用いる場合もあります。電極を頭皮や顔に貼り付け、脳の電気的活動(脳波 脳波検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む 脳波検査 )と眼球の動きを記録します。この電極は痛くありません。これらの記録から、睡眠段階に関する情報が得られます。心拍数(心電図検査 心電図検査 心電図検査は心臓の電気刺激を増幅して記録する検査法で、手早く簡単に行える痛みのない方法です。この記録は心電図と呼ばれ、以下に関する情報が得られます。 心臓の1回1回の拍動を引き起こしている、ペースメーカーとしての部分(洞房結節、洞結節) 心臓の神経伝導経路 心拍数や心拍リズム 心電図では、心臓が拡大していること(通常の原因は 高血圧)や、心臓に血液を供給する冠動脈の1つが閉塞しているために心臓に十分な酸素が行き届いていないことが示される... さらに読む 心電図検査 )、筋肉の活動(筋電図検査 筋電図検査と神経伝導検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む 筋電図検査と神経伝導検査 )、呼吸を記録するため、体のほかの部位にも電極がつけられます。指または耳たぶに痛みを伴わないクリップを取り付け、血液中の酸素レベルを記録します。睡眠ポリグラフ検査では、呼吸障害(閉塞性または中枢性睡眠時無呼吸症候群など)、けいれん性疾患、ナルコレプシー、周期性四肢運動障害、睡眠中の異常な動きや行動(睡眠時随伴症)を発見できます。今では一般に、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断のために自宅で睡眠ポリグラフ検査が行われますが、他の睡眠障害の診断には適応がありません。

睡眠潜時反復検査によって、身体的な疲労と日中の過度の眠気を区別し、ナルコレプシーがないかを確認します。患者は1日睡眠検査室で過ごします。2時間おきに5回仮眠をとる機会が与えられます。暗い部屋で横になり、仮眠をとるよう指示されます。この検査の一環として、睡眠ポリグラフ検査を行うことで、睡眠に入るまでにかかる時間(睡眠潜時)を測定します。睡眠ポリグラフ検査により、眠りについた時刻を記録し、睡眠段階をモニタリングします。

覚醒維持検査は、静かな部屋に座ったまま患者がどれくらいの間起きたままでいられるかを調べる検査です。この検査は、日中の眠気の重症度を判定し、患者が日常的な活動(運転など)を安全に行えるかを判断する上で有用です。

日中の過度の眠気のある患者の症状や身体診察の結果から、他の病気が疑われる場合は、心臓、肺、肝臓を評価する検査が行われることもあります。

治療

不眠症の治療は、その原因と重症度によって異なりますが、一般には以下のものを組み合わせた治療が行われます。

  • 不眠の一因となっている病気の治療

  • 良好な睡眠衛生

  • 認知行動療法

  • 睡眠薬

別の病気が原因で不眠が生じている場合は、その病気を治療します。このような治療により睡眠が改善することがあります。例えば、不眠症とうつ病がある場合、うつ病を治療することで、しばしば不眠症が軽減します。一部の抗うつ薬は、鎮静作用もあるため、就寝前に服用すると、眠りやすくなります。ただし、これらの薬剤は日中の眠気を引き起こすことがあり、特に高齢者でこの傾向が強くなります。

しかし、日中の眠気と疲労があり、特に日中の活動に支障をきたしている場合は、追加治療が必要であり、主にカウンセリング(認知行動療法 認知行動療法 睡眠関連の問題で最も多い訴えは、不眠症と日中の過度の眠気です。 不眠症とは、寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚める、あるいは、睡眠の質が悪く、寝足りない感じがしたり、すっきりした感じが得られなかったりする状態です。 日中の過度の眠気は、日中に異常なほど眠くなったり、眠り込んでしまったりする状態を指します。 ( 睡眠の概要も参照のこと。) 寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚めるという症状は、年齢を問わずみら... さらに読む )や、ときに 処方睡眠薬 処方睡眠薬 睡眠関連の問題で最も多い訴えは、不眠症と日中の過度の眠気です。 不眠症とは、寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚める、あるいは、睡眠の質が悪く、寝足りない感じがしたり、すっきりした感じが得られなかったりする状態です。 日中の過度の眠気は、日中に異常なほど眠くなったり、眠り込んでしまったりする状態を指します。 ( 睡眠の概要も参照のこと。) 寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚めるという症状は、年齢を問わずみら... さらに読む または 市販の睡眠薬 市販睡眠薬 睡眠関連の問題で最も多い訴えは、不眠症と日中の過度の眠気です。 不眠症とは、寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚める、あるいは、睡眠の質が悪く、寝足りない感じがしたり、すっきりした感じが得られなかったりする状態です。 日中の過度の眠気は、日中に異常なほど眠くなったり、眠り込んでしまったりする状態を指します。 ( 睡眠の概要も参照のこと。) 寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚めるという症状は、年齢を問わずみら... さらに読む が使用されます。市販の睡眠薬の使用を検討している場合、重大な副作用を伴う可能性があるため、まず医師に相談する必要があります。

アルコールは睡眠を補助するものとして適切ではなく、実際には睡眠を妨げる可能性があります。

睡眠衛生

睡眠衛生では、睡眠の改善に役立つ行動修正に重点を置きます。具体的には、ベッドで過ごす時間の制限、規則的な睡眠/覚醒スケジュールの確立、就寝前にリラックスするための行為(読書や温かい入浴など)などを行います。ベッドで過ごす時間を制限するのは、夜中に長時間目が覚めた状態でいるのを避けるためです。

認知行動療法

認知行動療法は、睡眠障害に関する専門の訓練を受けた心理士によって行われ、不眠症が普段の活動に支障をきたしている人や、睡眠を改善するための行動修正(良好な睡眠衛生)だけでは効果がなかった人に役立つ可能性があります。認知行動療法では一般に、4~8回の個人またはグループのセッションが行われますが、インターネットや電話を介して遠隔で行うこともできます。

療法士は、睡眠を改善するために行動を変える手助けをします。療法士の勧めにより、患者は睡眠日誌をつけます。日誌には、睡眠の質や長さを記録するほか、睡眠の妨げとなった可能性のある行動(夜遅くの食事または運動、アルコールまたはカフェインの摂取、不安、眠ろうとしているときに考えごとをやめられないなど)についても記録します。

療法士は、患者が眠れないのに眠ろうと努力してベッドで横になっている時間が少なくなるように、ベッドで過ごす時間を制限することを勧めます。

認知行動療法は、患者が自らの問題を理解し、望ましくない睡眠習慣を修正し、睡眠の助けにならない考えごと(眠れないことへの心配や次の日の予定についての心配など)をやめるのに役立ちます。認知行動療法では、リラクゼーション訓練の一環として、視覚的イメージ、段階的筋弛緩法、呼吸訓練なども活用されます。

処方睡眠薬

睡眠障害が日常生活に支障をきたし、健康感が損なわれている場合は、2~3週間を限度として、必要に応じて処方薬の睡眠薬(睡眠補助薬、睡眠導入剤などとも呼ばれる)を服用するのが助けになることがあります。

ほとんどの睡眠薬は、問題を起こす可能性があるため、処方せんが必要です。

  • 有効性の喪失:睡眠薬に慣れると、有効性が失われることがあります。これを耐性と呼びます。

  • 離脱症状:睡眠薬を2~3日以上服用した後に突然中止すると、もともとの睡眠症状が悪化し(反跳性不眠)、不安が増大することがあります。したがって医師は、薬剤の使用を中止するとき、数週間かけて徐々に用量を減らすよう勧めます。

  • 習慣性と依存の可能性:特定の睡眠薬を2~3日以上服用すると、それなしでは眠れないと感じるようになることがあります。薬剤の使用を中止すると、不安、神経質、短気になったり、不隠な夢を見たりすることがあります。

  • 過剰摂取の可能性:旧型の一部の睡眠薬は、推奨用量より多く服用した場合、錯乱やせん妄を生じる、呼吸が危険なほど遅くなる、脈が弱くなる、爪と唇が青くなるなどの副作用をもたらす可能性があり、死に至ることすらあります。

  • 重篤な副作用:大多数の睡眠薬は、呼吸機能を調整している脳領域を抑制する傾向があるため、特に高齢者や呼吸器系に問題がある人では、たとえ推奨用量で服用しても危険があります。薬剤によっては、昼間の覚醒レベルが低下し、車の運転や機械操作に危険が伴うことがあります。日中の眠気を催し呼吸を抑制する薬剤(アルコール、オピオイド[麻薬]、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬など)と睡眠薬を併用する場合は、特に危険です。これらの複合作用は、さらに危険です。特に、睡眠薬を推奨用量より多く服用した場合や、アルコールと一緒に服用した場合は、まれではあるものの、寝ながら歩いたり、車を運転したりしてしまうことがあり、重度のアレルギー反応が起こることも知られています。睡眠薬はまた、夜間の転倒リスクを高めます。

最近の睡眠薬は、効果を失わず、習慣性をもたらさず、また離脱症状を起こさずに長期間使用できます。過剰摂取した場合の危険性もそれほど高くありません。

ベンゾジアゼピン系薬剤は、最もよく使用される睡眠薬です。ベンゾジアゼピン系薬剤には、効果の比較的長いもの(フルラゼパムなど)とそうでないもの(テマゼパム[temazepam]、トリアゾラムなど)とがあります。医師は、高齢者には長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬剤を処方しないようにします。高齢者は、体内で薬剤を代謝して体外に排出する能力が若い人ほど高くないため、これらの薬剤を服用すると、日中の眠気、話し方が不明瞭になる、転倒、ときに錯乱などの問題が起きる可能性があるからです。

その他の有用な睡眠薬として、ベンゾジアゼピン系薬剤ではありませんが、ベンゾジアゼピン系薬剤と同じ脳領域に作用を及ぼすものがあります。これらの薬剤(エスゾピクロン、ザレプロン、ゾルピデム)は大部分のベンゾジアゼピン系薬剤より作用時間が短く、日中の眠気が生じにくくなっています。高齢者もこれらの薬剤に耐えられると考えられています。ゾルピデムには長時間作用型(徐放性)や、超短時間作用型(低用量)の剤形もあります。

ラメルテオンは新型の睡眠薬で、作用時間の短い上記の薬剤と同じ長所があります。それに加えて、効果を失わず、離脱症状も起こさずに、ベンゾジアゼピン系薬剤より長い期間使用することができます。習慣性もなく、過剰摂取の可能性もないと考えられています。しかし、多くの人では効果がありません。ラメルテオンは、メラトニン(睡眠を促すホルモン)と同じ脳領域に作用を及ぼすため、メラトニン受容体作動薬と呼ばれています。

新しいタイプの睡眠薬であるスボレキサントも不眠症の治療に使用できます。

市販睡眠薬

処方せんなしで購入できる市販の睡眠薬もありますが、市販の睡眠薬は処方薬より安全性が劣る可能性があり、特に高齢者でその傾向が強まります。市販の睡眠薬にはジフェンヒドラミンまたはドキシラミン(doxylamine)(どちらも 抗ヒスタミン薬 抗ヒスタミン薬 アレルギー反応(過敏反応)とは、通常は無害な物質に対して免疫系が異常な反応をすることを指します。 通常、アレルギー反応が起こると、くしゃみが起こり、涙目や眼のかゆみ、鼻水、皮膚のかゆみや発疹などが起こります。 アナフィラキシー反応と呼ばれる一部のアレルギー反応は生命を脅かします。... さらに読む 抗ヒスタミン薬 )が含まれています。これらの成分には日中の眠気のほか、ときに神経過敏、興奮、排尿困難、転倒、錯乱などの副作用があり、特に高齢者ではそのリスクが高くなります。

ジフェンヒドラミンを含む市販の睡眠薬は7~10日以上続けて服用してはいけません。通常、高齢者はこのような睡眠補助薬を服用してはいけません。これらは、往々にして眠れない夜に使用する目的で作られた薬剤であり、慢性の不眠症(重篤な基礎疾患の徴候である場合もあります)を治療する目的で作られた薬剤ではありません。これらの薬剤を長期間使用したり、突然中止したりすると、問題が生じることがあります。

メラトニンは、睡眠を促し、睡眠-覚醒リズムを調整するホルモンで、不眠症の治療に用いられることがあります。就寝時刻と起床時刻が常に遅い(例えば、午前3時に寝て、午前10時以降に起きるなど)こと(睡眠相後退症候群)による問題には、効果的な可能性があります。効果を得るためには、体が本来このホルモンを分泌する時間帯(ほとんどの人では夕方早く)にメラトニンを服用する必要があります。不眠症に対するメラトニンの使用については意見が割れていますが、副作用がほとんどないため安全に使用できます。短期間(長くても2~3週間)の使用であれば効果が得られることがありますが、長期的に使用した場合の影響は分かっていません。また、メラトニン製剤には規制がかかっていないため、成分と純度は確認できません。メラトニンを使用する際は、医師の監督が必要です。

このほかにも、スカルキャップやセイヨウカノコソウなど多数の薬用ハーブや栄養補助食品が健康食品店で販売されていますが、睡眠に対する効果と副作用はよく分かっていません。

抗うつ薬

一部の 抗うつ薬 抗うつ薬 うつ病とは、日常生活に支障をきたすほどの強い悲しみを感じているか、活動に対する興味や喜びが低下している状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。 うつ病になると、悲しみに沈み、動作が緩慢になり、以前は楽しんでい... さらに読む (パロキセチン、トラゾドン、トリミプラミン)は、うつ病の治療時よりも低用量で使用すると、不眠を緩和し、早朝覚醒を予防する効果があります。これらの薬剤は、うつ病でない人が、他の睡眠薬の副作用に耐えられないというまれなケースで使用されることがあります。しかし、日中の眠気などの副作用があり、特に高齢者では問題となることがあります。

ドキセピンは、高用量では抗うつ薬として用いられますが、低用量で使用した場合、睡眠薬として効果的な場合があります。

高齢者での重要事項:不眠症と日中の過度の眠気

睡眠パターンは加齢とともに悪化するため、不眠症を訴える人は若齢者より高齢者に多くみられます。高齢になるほど夜間に眠れずすぐに目が覚めやすくなり、日中に眠くなり仮眠をとる傾向があります。心身を最も回復させる深い睡眠の時間は次第に短くなり、最終的にはなくなります。高齢者の場合は通常、これらの変化だけでは睡眠障害には該当しません。

よく眠れない高齢者には、以下の対策が有益な可能性があります。

  • 決まった時刻に就寝する

  • 日中に多くの光を浴びる

  • 定期的に運動する

  • 日中の仮眠を減らす(仮眠をとると夜間に良質な睡眠をとることが余計難しくなるからです)

不眠症のある高齢者の多くにとって、睡眠薬は不要です。服用の必要がある場合は、こうした薬剤によって問題が生じる可能性があることを心に留めておくべきです。例えば、睡眠薬は錯乱を引き起こし、日中の覚醒レベルを低下させるため、車の運転が危険になります。そのため、服用には注意が必要です。

要点

  • 多くの不眠症や日中の過度の眠気は、望ましくない睡眠習慣、ストレス、体内の睡眠-覚醒リズムを乱す条件(交代勤務など)が原因です。

  • しかし、ときには閉塞性睡眠時無呼吸症候群や精神障害などの病気が原因であることもあります。

  • 通常、原因として閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が疑われる場合、診断がはっきりしない場合、一般的な対策で効果がない場合は、睡眠検査室または自宅での睡眠ポリグラフ検査が勧められます。

  • 軽度の不眠症であれば、規則的な睡眠スケジュールに従うなどの行動修正(良好な睡眠衛生)だけで十分な場合があります。

  • 行動修正が効果的でない場合は、通常は認知行動療法が次のステップとなり、必要に応じて睡眠薬の短期使用(最長で数週間)を検討することがあります。

  • 睡眠薬は、特に高齢者に問題を起こしやすく、転倒のリスクを高めます。

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