典型的な例では、口内や、性器、皮膚に潰瘍やびらんができ、それが消え、再び現れます。
診断は、確立された基準に基づいて下されます。
治療は、侵された部位によって異なりますが、一般的には、コルチコステロイドとときに免疫の働きを抑制する他の薬を用います。
(血管炎の概要 血管炎の概要 血管炎疾患は、血管の炎症(血管炎)を原因とする病気です。 血管炎は、特定の感染症や薬によって引き起こされる場合もあれば、原因不明の場合もあります。 発熱や疲労などの全身症状がみられることがあり、その後、侵された臓器に応じて他の症状がみられます。 診断を確定するために、患部の臓器の組織から採取したサンプルの生検を行い、血管の炎症を確認します... さらに読む も参照のこと。)
ベーチェット病は、世界中で発生していますが、地中海から中国までのシルクロード沿いの地域で最も多くみられます。米国では比較的まれです。男女でほぼ等しく起こり、一般的には20代から発症しますが、男性の方がより重度である傾向があります。ときには、小児に発生することもあります。ベーチェット病の原因は不明です。HLA-B51という 遺伝子 遺伝子 遺伝子とは、DNA(デオキシリボ核酸)のうち、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパク質の設計情報が記録された領域のことです。染色体は、細胞の中にあって複数の遺伝子が記録されている構造体です。 遺伝子は染色体内にあり、染色体は細胞の核にあります。 1本の染色体には数百から数千の遺伝子が含まれています。... さらに読む をもつ人など、特定の遺伝学的特徴がある人でリスクが高いと考えられます。
症状
ベーチェット病のほぼすべての患者で、重度のアフタ性口内炎(再発性アフタ性口内炎 再発性アフタ性口内炎 再発性アフタ性口内炎(アフタ性口内炎、アフタ性潰瘍)は、痛みを伴う小さな口内炎(潰瘍)が口の中にできる病気で、典型的には小児期に発症し、頻繁に再発します。 口のけが、ストレス、ある種の食べものが原因となって起こることがあります。 焼けつくような痛みを感じ、1日程度経過すると、口の中の軟部組織にアフタ性口内炎が発生します。 診断は、痛みとアフタ性口内炎の外見に基づいて下されます。... さらに読む )に似た、繰り返し起こり痛みのある口の潰瘍ができます。通常は口の潰瘍がベーチェット病の最初の症状です。びらんは、舌、歯ぐき、口の内壁など、口のどこにでも現れることがあり、密集してできることがよくあります。潰瘍は円形か楕円形で、直径は0.5~4インチ(約1~10センチメートル)あり、浅いことも深いこともあり、中心が黄色がかった色をしています。1~2週間持続します。
他の種類の口の潰瘍は非常によくみられますが(例えば単純ヘルペスウイルスによる口唇ヘルペス)、ベーチェット病による潰瘍は、それらに比べて持続期間が長くより重い傾向があります。
びらんは性器に現れることもあります。陰茎、陰嚢、外陰部のびらんは、痛みを伴う傾向があります。腟のびらんは痛みがないことがあります。
発熱と全身のだるさ(けん怠感)がみられることがあります。以下に示すその他の症状が、数日から数年後に現れます。
眼:25~75%の患者で眼が侵されます。眼の一部が断続的に炎症を起こします。この炎症(再発性虹彩毛様体炎または ぶどう膜炎 ぶどう膜炎 ぶどう膜炎は、ぶどう膜と呼ばれる眼の内側の色の付いた膜に生じる炎症のことです。 感染症、けが、全身性自己免疫疾患(体が自分の組織を攻撃する病気)により、または明らかな原因なく、ぶどう膜に炎症が生じることがあります。 症状は眼のうずき、眼が赤くなる、飛蚊症(ひぶんしょう)、視力障害などで、これらが複合して起こることもあります。... さらに読む )は、眼の痛みや、充血、光に対する過敏、かすみ目を引き起こします。そのほかにいくつかの眼の問題が起こることがあります。治療しないでいると、失明する可能性があります。
皮膚:水疱や膿が詰まった吹き出物が約80%の患者に生じます。皮下注射の針を刺した穴のようなわずかな外傷でさえ、小さな赤い隆起や膿で満たされた隆起ができる原因になることがあります。結節性紅斑と呼ばれる、痛みを伴う赤みがかった紫色の隆起が脚にできることがあります。
関節:患者の約半数で、膝関節などの大きな関節が痛むようになります。この比較的軽い炎症(関節炎)は進行せず、組織に損傷を与えることもありません。
血管:全身の血管の炎症(血管炎 血管炎の概要 血管炎疾患は、血管の炎症(血管炎)を原因とする病気です。 血管炎は、特定の感染症や薬によって引き起こされる場合もあれば、原因不明の場合もあります。 発熱や疲労などの全身症状がみられることがあり、その後、侵された臓器に応じて他の症状がみられます。 診断を確定するために、患部の臓器の組織から採取したサンプルの生検を行い、血管の炎症を確認します... さらに読む
)によって、動脈に血栓ができ、弱くなった血管の壁に膨らみ(動脈瘤)ができることがあります。脳に向かう動脈が血管炎に侵されている場合、脳卒中を起こすことがあります。腎臓に向かう動脈が侵されている場合、腎臓の損傷を起こすことがあります。肺の動脈が侵されると、出血が起こることがあり、患者が喀血する場合もあります。
消化管:症状には、腹部の不快感と腹痛、けいれん、下痢、腸の潰瘍などがあります。症状は 炎症性腸疾患 炎症性腸疾患(IBD) (クローン病 クローン病 クローン病は、炎症性腸疾患の一種で、一般的には小腸の下部、大腸、またはその両方に慢性炎症が生じますが、炎症は消化管のどの部分にも現れる可能性があります。 正確な原因は分かっていませんが、免疫システムが正常に機能していないことでクローン病が起こる可能性があります。 典型的な症状としては、慢性の下痢(血性となることもある)、けいれん性の腹痛、発熱、食欲不振、体重減少などがあります。... さらに読む
と 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎とは、大腸に炎症が起こり、潰瘍が形成される慢性炎症性腸疾患で、出血性の下痢や腹部のけいれん痛、発熱を伴う発作が起きます。潰瘍性大腸炎がない人と比べて、結腸がんの長期リスクが高まります。 この病気の正確な原因は分かっていません。 発作時の典型的な症状は、腹部のけいれん痛、便意の切迫、下痢(血性下痢が典型的)などです。 診断は、S状結腸内視鏡検査か、ときに大腸内視鏡検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む )によって生じるものと類似していることがあります。
中枢神経系:脳や脊髄の炎症は、あまり一般的ではありませんが、その結果は深刻なものです。最初に頭痛が起こることがあります。その他の症状には、発熱や項部硬直(髄膜炎 髄膜炎に関する序 髄膜炎とは、髄膜(脳と脊髄を覆う組織層)とくも膜下腔(髄膜と髄膜の間の空間)の炎症のことです。 髄膜炎は細菌、ウイルス、または真菌、感染症以外の病気、薬剤などによって引き起こされます。 髄膜炎の症状には、発熱、頭痛、項部硬直(あごを胸につけるのが難しくなる症状)などがありますが、乳児では項部硬直がみられない場合もあり、非常に高齢の人や免疫... さらに読む の症状)、錯乱、協調運動の障害があります。人格の変化や記憶障害が、数年後に起こることがあります。
診断
確立された基準
血液検査
ベーチェット病の診断を確定できる臨床検査はありませんが、医師は確立された基準に基づいて診断を下すことができます。口の潰瘍が1年間に3回起こり、以下の基準のうち2つがみられる患者、特に若い成人で、この病気が疑われます。
繰り返し起こる陰部の潰瘍
特徴的な眼の問題
皮膚の下の隆起、にきび、または潰瘍のように見える皮膚の病変
わずかな外傷によって引き起こされる皮膚の隆起または水疱
ただし、ベーチェット病の症状は、 反応性関節炎 反応性関節炎 反応性関節炎(以前はライター症候群と呼ばれていた)は、 脊椎関節炎の1つで、関節や関節の腱付着部の炎症を引き起こします。しばしば感染に関連しています。 関節の痛みと炎症が、感染(通常は泌尿生殖器か消化管の感染)に反応して起こることがあります。 腱の炎症、発疹、眼の充血もよくみられます。 診断は症状に基づいて下されます。 非ステロイド系抗炎症薬、サラゾスルファピリジンと、ときに免疫系を抑制する薬(アザチオプリンやメトトレキサートなど)が症... さらに読む (以前はライター症候群と呼ばれていた)、 全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは、関節、腎臓、皮膚、粘膜、血管の壁に起こる慢性かつ 炎症性の自己免疫結合組織疾患です。 関節、神経系、血液、皮膚、腎臓、消化管、肺、その他の組織や臓器に問題が発生します。 診断を下すため、血液検査のほか、ときにその他の検査を行います。 全身性エリテマトーデスの全患者でヒドロキシクロロキンが必要であり、損傷を引き起こし続けている全身性エリテマトーデス(活動性の全身性エリテマトーデス)の患者には、コルチコステロイドな... さらに読む
、 クローン病 クローン病 クローン病は、炎症性腸疾患の一種で、一般的には小腸の下部、大腸、またはその両方に慢性炎症が生じますが、炎症は消化管のどの部分にも現れる可能性があります。 正確な原因は分かっていませんが、免疫システムが正常に機能していないことでクローン病が起こる可能性があります。 典型的な症状としては、慢性の下痢(血性となることもある)、けいれん性の腹痛、発熱、食欲不振、体重減少などがあります。... さらに読む
、 ヘルペス 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症では、皮膚、口、唇(口唇ヘルペス)、眼、性器に、液体で満たされた、痛みのある小さな水疱が繰り返し発生します。 非常に感染力の強い ウイルス感染症であり、潰瘍に直接触れたり、ときには潰瘍がない場合でも患部に触れることで感染します。 ヘルペスウイルスは口の中や 性器に水疱や潰瘍を引き起こし、最初の感染時にはしばしば発熱と全身のけん怠感を伴います。... さらに読む
、 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎とは、大腸に炎症が起こり、潰瘍が形成される慢性炎症性腸疾患で、出血性の下痢や腹部のけいれん痛、発熱を伴う発作が起きます。潰瘍性大腸炎がない人と比べて、結腸がんの長期リスクが高まります。 この病気の正確な原因は分かっていません。 発作時の典型的な症状は、腹部のけいれん痛、便意の切迫、下痢(血性下痢が典型的)などです。 診断は、S状結腸内視鏡検査か、ときに大腸内視鏡検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む などの、別の多くの病気の症状と似ていることがあります。医師は、治まっては再発する(寛解と再発)症状のパターンがないか調べて、この病気を特定するための参考にするため、診断には数カ月かかることがあります。口の潰瘍は、口唇ヘルペス(単純ヘルペスウイルスによって生じる)など、他のよくみられるものに類似していることがあります。
血液の検査を行います。この検査でベーチェット病を特定することはできませんが、炎症があることは確定できます。
口の潰瘍や、ときに性器または皮膚のびらんしかみられない場合には、ベーチェット病の診断を確定するのは困難です。眼や血管の炎症など、他の症状がある場合には、はるかに簡単に診断を下せます。
予後(経過の見通し)
ベーチェット病の症状は、予測不可能に現れたり消えたりしながら、非常に破壊的になっていくことがあります。症状のある期間または症状のない期間(寛解期)が、数週間、数年間、または数十年間続く可能性があります。多くの患者は、最終的に寛解状態になります。ときには、神経系、消化管、または血管が致死的な損傷を受けることもあります。若年男性の場合と、動脈の病変がある場合または再発の回数が多い場合に、死亡リスクが最も高くなります。時間が経つにつれて、この病気は治まっていくようです。
治療
コルチコステロイドとその他の免疫抑制薬
症状に応じてその他の薬
ベーチェット病は治癒しませんが、通常は、治療により特有の症状を軽減できます。どの薬が使用されるかは、どの臓器が侵されているかと、重症度によって決まります。例えば、以下に示す薬を使用することがあります。
眼の炎症と皮膚のびらん:コルチコステロイド(炎症を軽減するために使用)を眼や皮膚に塗ることができます。アザチオプリン(免疫 免疫系の概要 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守るために、免疫系が備わっています。侵入物には以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕[ぜん]虫など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む の働きを抑える薬[免疫抑制薬])であるが、視界の鮮明さを保つのに役立ち、眼の痛みが生じるのを防ぎ、すでにあるびらんの治癒を促せる可能性があります。経口で投与するメトトレキサートは、眼の炎症を軽減するのに役立ちます。注射で投与するインターフェロンアルファと腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬は、眼の問題がある人に役立ちます。
眼または神経系の強い炎症:眼の炎症が強い場合、またはコルチコステロイドのプレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)で症状を十分に抑えられない場合は、免疫抑制薬のシクロスポリンが使用されることがあります。
口や陰部の潰瘍および関節痛:潰瘍には、コルチコステロイドのクリーム、局所麻酔薬、スクラルファートを塗ることができます。経口で投与するコルヒチン(痛風の治療に使用される)は、新たな潰瘍の予防に役立ち、関節痛を軽減することができます。ジアフェニルスルホンは、経口で投与され、口や陰部の潰瘍の数を減らし、その持続時間を短縮することがあります。サリドマイドは経口投与し、口、陰部、皮膚の潰瘍やびらんの治癒を助けることがありますが、投与を中止すると、再発することがあります。アザチオプリンも、経口で投与され、口や陰部の潰瘍の治癒や関節痛の軽減に役立ちます。エタネルセプトは腫瘍壊死因子阻害薬で(したがって、免疫の働きを抑制します)、新たな口の潰瘍の予防に役立ちます。エタネルセプトは注射により投与します。ときに、エタネルセプトの代わりに別の腫瘍壊死因子阻害薬(インフリキシマブまたは可能性としてアダリムマブ)が使用されます。コルヒチンで効果がない場合に、インターフェロンアルファも注射により投与することがあります。痛みを軽減し口の潰瘍の数を減らすためにアプレミラストを使用することができます。
他の薬が効かない場合、または生命を脅かす合併症や、眼や神経系の深刻な合併症が発生した場合に、シクロホスファミドやクロラムブシルを使用します。
さらなる情報
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