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大動脈弁狭窄症

執筆者:

Guy P. Armstrong

, MD, Waitemata District Health Board and Waitemata Cardiology, Auckland

レビュー/改訂 2022年 7月
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やさしくわかる病気事典
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大動脈弁狭窄症は、大動脈弁の開口部が狭くなり、左心室から大動脈への血流が妨害(閉塞)されている状態です。

  • 70歳未満の人で最も一般的な原因は、弁に影響を及ぼす先天異常です。

  • 70歳以上の人で最も一般的な原因は、弁尖の肥厚(大動脈弁硬化症)です。

  • 胸の圧迫感、息切れ、失神が起こることがあります。

  • 大動脈弁狭窄症の診断は通常、聴診器で確認される特徴的な心雑音と心エコー検査の結果に基づいて下されます。

  • 定期的な診察で状態をモニタリングし、症状がみられる人には弁を置き換える手術を行う場合があります。

大動脈弁狭窄症では、狭くなった弁の開口部から大動脈へ血液を送り出すときに左心室にかかる負担が大きくなるため、通常は左心室の壁を構成する筋肉の層が厚くなります。肥厚した心筋はより多くの血液を必要としますが、ときに冠動脈からの血液供給が心筋の必要量を満たすことができず、特に運動時に不足します。血液供給の不足により、胸の圧迫感や失神が起こり、突然死に至る場合もあります。心筋が弱って、 心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む 心不全 が起こる場合もあります。異常な大動脈弁には、まれに感染が起きることがあります(感染性心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む 感染性心内膜炎 )。

大動脈弁狭窄症の原因

北米や西欧では、大動脈弁狭窄症は弁尖の瘢痕化とカルシウム蓄積(石灰化)の結果として起こることが多く、主に高齢者の病気です。このような場合、大動脈弁狭窄症は60歳以降に顕著となりますが、70~80歳くらいまでは症状が現れません。

70歳未満の人では、 先天異常 心臓の異常の概要 約100人に1人は心臓に異常をもって生まれます。重症の場合もありますが、多くはそうではありません。心臓の異常には心臓壁、弁、心臓に出入りする血管の異常形成などがあります。 心臓の先天異常の症状は年齢に応じて変わります。乳児では、努力性呼吸や速い呼吸、哺乳不良、授乳中の発汗または呼吸数の増加、唇または皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)、異... さらに読む が最も一般的な原因になっていて、具体的には、本来3つあるべき 弁尖が2つしかないもの 大動脈二尖弁 大動脈二尖弁とは、大動脈弁の弁尖が正常なら3枚あるはずのところ、2枚しかない状態のことです。 大動脈弁は、心臓が拍動するたびに開くことで、血液が心臓から全身に送り出されるように調節している弁です。正常な大動脈弁には3枚の弁尖(葉っぱのような膜)があります。 心臓の先天異常で最も多いのが大動脈二尖弁です。大動脈弁が二尖弁になっていると、大動脈弁が正常に開かなかったり( 大動脈弁狭窄症と呼ばれる状態)、正常に閉じないために血液が全身に送られ... さらに読む や、弁の形が漏斗状になっているものなどがあります。乳児の間は、大動脈弁の開口部が狭くても問題は起こりませんが、成長するにしたがって問題が生じます。弁の開口部は大きさが変わらない一方、心臓は成長していき、全体量が増える血液を小さいままの弁の開口部を通して送り出そうとするために、さらに大きくなっていきます。また何年か経過すると、障害のある弁の開口部にカルシウムが蓄積して、開口部はますます硬く狭くなります。

加齢に関連する注意点:大動脈弁硬化症

大動脈弁にカルシウムが蓄積して弁が肥厚しているものの、弁を通る血流を阻害しない場合があります。この病気は大動脈弁硬化症と呼ばれ、65歳以上の人の約4分の1にみられます。

大動脈弁硬化症は症状を引き起こしませんが、弱い心雑音を生じさせることがあり、聴診器で聴き取ることができます。大動脈弁硬化症があっても特に変化を感じられない場合もありますが、 心臓発作 急性冠症候群(心臓発作、心筋梗塞、不安定狭心症) 急性冠症候群は、冠動脈が突然ふさがる(閉塞する)ことによって起こります。この閉塞により、その位置と程度に応じて、不安定狭心症か心臓発作(心筋梗塞)が起こります。心臓発作とは、血液供給がなくなることにより心臓の組織が壊死する病気です。 急性冠症候群を発症すると、通常は胸部の圧迫感や痛み、息切れ、疲労などが起こります。 急性冠症候群が起きたと思ったら、まず救急車を呼んでから、アスピリンの錠剤を噛み砕いて服用します。... さらに読む 急性冠症候群(心臓発作、心筋梗塞、不安定狭心症) 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む 、さらには死に至るリスクを高めます。そのため、大動脈弁硬化症の人では、 動脈硬化 動脈硬化 アテローム性動脈硬化とは、太い動脈や中型の動脈の壁の中に主に脂肪で構成されるまだら状の沈着物(アテロームあるいはアテローム性プラーク)が形成され、それにより血流が減少ないし遮断される病気です。 アテローム性動脈硬化は、動脈の壁が繰り返し損傷を受けることによって引き起こされます。... さらに読む 動脈硬化 の危険因子を特定し、取り除いたり制御したりすることが重要です。危険因子には喫煙、高血圧、コレステロール値と中性脂肪(トリグリセリド)値の異常、糖尿病などがあります。

大動脈弁狭窄症の症状

先天異常により大動脈弁狭窄症が起きている人は、成人になるまで症状が現れないことがあります。

重度の大動脈弁狭窄症では、血圧が突然低下するため、運動中に失神することがあります。失神は通常、めまいやふらつきなどの前兆症状なしに起こります。

大動脈弁狭窄症の診断

  • 身体診察

  • 心エコー検査

負荷試験の結果が異常であるか、症状が現れた場合は、 冠動脈疾患 冠動脈疾患の概要 冠動脈疾患とは、心臓の筋肉(心筋)への血液供給が部分的または完全に遮断されることで起きる病気です。 心筋は酸素を豊富に含んだ血液を絶えず必要とします。その血液を心臓に送る血管は、大動脈が心臓から出たところで枝分かれする 冠動脈です。この血管が狭くなる冠動脈疾患では、血流が遮断されて、... さらに読む 冠動脈疾患の概要 もあるかどうかを判断するため、 心臓カテーテル検査 心臓カテーテル検査 心臓カテーテル検査と冠 動脈造影検査は、手術を行わずに心臓とそこに血液を供給する血管(冠動脈)を調べることができる低侵襲検査です。通常、これらの検査は、 非侵襲的な検査では十分な情報が得られない場合や、非侵襲的な検査では心臓や血管の問題が示唆されない場合、患者の症状から心臓や冠動脈の問題が強く疑われる場合に行われます。これらの検査の利点の1つとしては、検査中に 冠動脈疾患など様々な病気の治療も行えることがあります。... さらに読む 心臓カテーテル検査 も必要になります。大動脈弁の修復術または置換術が計画されている場合は、心臓手術中に治療できる冠動脈疾患があれば特定するために、 心臓カテーテル検査 心臓カテーテル検査 心臓カテーテル検査と冠 動脈造影検査は、手術を行わずに心臓とそこに血液を供給する血管(冠動脈)を調べることができる低侵襲検査です。通常、これらの検査は、 非侵襲的な検査では十分な情報が得られない場合や、非侵襲的な検査では心臓や血管の問題が示唆されない場合、患者の症状から心臓や冠動脈の問題が強く疑われる場合に行われます。これらの検査の利点の1つとしては、検査中に 冠動脈疾患など様々な病気の治療も行えることがあります。... さらに読む 心臓カテーテル検査 がしばしば行われます。

大動脈弁狭窄症の治療

  • 心臓弁の置換手術

手術前に、利尿薬により心不全を治療します(表「 心不全の治療に用いられる主な薬剤 心不全の治療に用いられる主な薬剤 心不全の治療に用いられる主な薬剤 」を参照)。狭心症の治療はしばしば困難ですが、これは、ニトログリセリン(冠動脈疾患患者の狭心症治療に用いる薬剤)がまれに危険なレベル低血圧を起こし、大動脈弁狭窄症患者の狭心症を悪化させることがあるからです。

先天異常により弁に欠損がある小児および若い成人では、ときにはバルーン弁切開術と呼ばれる手法を用いて、弁を拡張して開けることができます。この手法では、先端にバルーン(小さな風船)の付いたカテーテルを静脈または動脈から心臓の中に挿入します(心臓カテーテル法 心臓カテーテル検査 心臓カテーテル検査と冠 動脈造影検査は、手術を行わずに心臓とそこに血液を供給する血管(冠動脈)を調べることができる低侵襲検査です。通常、これらの検査は、 非侵襲的な検査では十分な情報が得られない場合や、非侵襲的な検査では心臓や血管の問題が示唆されない場合、患者の症状から心臓や冠動脈の問題が強く疑われる場合に行われます。これらの検査の利点の1つとしては、検査中に 冠動脈疾患など様々な病気の治療も行えることがあります。... さらに読む 心臓カテーテル検査 )。弁の内部に到達したら、バルーンを膨らませて癒着した弁尖を剥がします。

大動脈弁狭窄症による何らかの症状がある場合(特に狭心症、失神、運動時の息切れ)、または左心室機能が低下し始めた場合は、大動脈弁を置換します。異常な弁を置き換える手術は、ほぼすべての人で最善の治療法で、弁置換術後の予後(経過の見通し)は極めて良好です。大動脈弁置換術は伝統的に開心術によって行われていました。(動画「」を参照のこと。)

高齢患者では、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)と呼ばれる手技により、大腿動脈から挿入したカテーテルを通して心臓弁を置換できる例が増えてきています。このような患者に対するTAVIの治療成績は、総じて薬物療法より優れていて、外科的な心臓弁置換術と同等です。

心臓に人工弁を入れている人が外科的、歯科的または内科的処置(表「 米国において抗菌薬による予防が必要とされている処置の例 米国において抗菌薬による予防が必要とされている処置の例* 米国において抗菌薬による予防が必要とされている処置の例* 」を参照)を受ける場合は、心臓弁の感染症(感染性心内膜炎)の発生リスクを低下させるために処置の前に抗菌薬を服用する必要があります。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

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