( 憩室の病気の定義 憩室の病気の定義 憩室(けいしつ)の病気は、小さな風船のような袋(憩室)が消化管の特定の構造の層から突き出した状態を特徴とします。 憩室が発生する場所は、大腸(結腸)が群を抜いて最も多くなっています。結腸の内側の層が外側の筋層から突き出ると、憩室になります。 憩室は食道( 食道憩室)にもできることがありますが、胃にできることはまれです。メッケル憩室は、小腸... さらに読む も参照のこと。)
通常、憩室炎は大腸(結腸)に起こります。
左下腹部の痛み、圧痛、発熱が、典型的な症状です。
診断は、CT検査の結果に基づいて下され、憩室炎が治まった後に、大腸内視鏡検査を行います。
憩室炎の症状が軽度の場合は、安静、流動食と、ときに抗菌薬の服用により治療しますが、重度の場合は入院して、抗菌薬を静脈内投与し、ときには手術を行うこともあります。
結腸の憩室は、大腸壁の中間にあって厚みのある筋層が弱くなった箇所に起こります。腸壁の内側の薄い層がその弱くなった部分から突き出て、小さな袋を形成します。
憩室症 大腸の憩室症 (憩室の病気の定義も参照のこと。) 憩室(けいしつ)症は風船状の袋(憩室)が1つ以上ある状態で、通常は大腸(結腸)に起こります。 腸の筋層のけいれんが憩室を引き起こすと考えられています。 通常、憩室では症状はみられませんが、ときに炎症や出血が起こり、血便や下血が生じる場合もあります。 診断は、一般に大腸内視鏡検査、下部消化管造影検査、CT検査、またはビデオカプセル内視鏡検査によって確定します。 さらに読む の人で、憩室に小さな穴(ときに微細な穴)ができると、腸からの細菌が放出されて、憩室炎が発生します。穴ができなくても憩室には炎症が起こりえると考えている医師もいます。憩室炎は、大腸の最後の部分で直腸のすぐ上のS状結腸に最も多く起こります。
憩室炎は40歳以上の人で多くなります。憩室炎は、どの年代でも重症化する可能性がありますが、高齢者で最も重症化し、特にコルチコステロイドなどの免疫系を抑制する薬を服用している場合には、感染のリスク(結腸の感染を含む)も上昇するため、非常に重篤な状態に陥ります。50歳未満で憩室炎のために手術を受けなければならない人の男女比は、3:1で男性が多くなります。70歳以上で憩室炎のために手術を受けなければならない人の男女比は、3:1で女性が多くなります。
症状
憩室炎の症状としては一般的に、痛みや圧痛(通常は左下腹部)、発熱、ときに吐き気や嘔吐がみられます。憩室炎では通常、 消化管出血 消化管出血 口から肛門までの消化管のいずれの部分でも、出血が起こることがあります。出血は肉眼で容易に見える場合(顕性)もあれば、量が少なすぎて見えない場合(潜在性)もあります。潜在性の出血(潜血)は、特別な化学物質を用いた便サンプルの検査でのみ検出されます。 嘔吐物中に血液がみられる場合(吐血)があり、この場合上部消化管(通常は胃または小腸の最初の部... さらに読む は起こりません。
憩室炎の合併症
憩室炎の合併症には以下のものがあります。
瘻
膿瘍
腹膜炎
瘻(ろう)とは、ある臓器と別の臓器や皮膚との間に異常な連絡路が生じた状態をいいます。憩室炎による腸の炎症により、大腸と他の臓器との間に、瘻が形成されることがあります。瘻は通常、大腸の憩室が膀胱などの他の臓器に接触した場合に形成されます。大腸に含まれる細菌によって炎症が起き、隣接する組織にゆっくりと穴があいて、その部分が瘻になります。ほとんどの瘻は、S状結腸と膀胱との間に形成されます。瘻は女性より男性で多くみられますが、女性でも、 子宮摘出術 子宮摘出術について理解する を受けた場合は大腸と膀胱が子宮によって隔てられなくなるため、瘻が形成されるリスクが高まります。瘻が大腸と膀胱との間に形成されると、常在菌を含む腸の内容物が膀胱に入り、 尿路感染症 尿路感染症(UTI)の概要 健康な人では、膀胱の中にある尿は無菌(細菌などの感染性の微生物が存在しない状態)です。尿が膀胱から体外へと排出されるまでの通路(尿道)にも、感染症を引き起こす細菌はほとんど存在していません。しかし、尿路のどの部分にも感染が起こる可能性はあり、尿路で発生した感染症は尿路感染症(UTI)と呼ばれています。... さらに読む を引き起こします。頻度は低いですが、瘻は大腸と小腸、子宮、腟、腹壁との間に、さらには太ももとの間にも形成されることがあります。
憩室炎の合併症
憩室が破れると、細菌や血液を含む腸の内容物が腹腔にこぼれ、感染症を起こします。大腸とその臓器の間に異常な連絡路(瘻)が形成されることがあり、これは通常は他の臓器に接触した憩室が破れたときに起こります。 ![]() |
膿瘍とは、膿がたまった状態を指します。炎症が起こった憩室の周囲に 腹腔内膿瘍 腹腔内膿瘍 膿瘍(のうよう)は、内部に膿がたまった空洞で、通常は細菌感染が原因で生じます。 大半の人で絶え間ない腹痛と発熱が生じます。 CT(コンピュータ断層撮影)検査などの画像検査を行うことで、膿瘍と他の問題を区別することができます。 治療としては、膿瘍から膿が排出され、抗菌薬が投与されます。 腹腔内膿瘍は、横隔膜の下部、腹部中央部、骨盤内、または腹腔の後部に形成されることがあります。また膿瘍は腎臓、脾臓、膵臓、肝臓、前立腺などのあらゆる腹部臓器... さらに読む が生じることがあり、悪化する痛みと発熱を引き起こします。
腹膜炎 腹膜炎 腹痛はよく起こりますが、多くの場合軽度です。しかし、強い腹痛が急に起きた場合は、ほとんどが重大な問題であることを示しています。このような腹痛は、手術が必要なことを示す唯一の徴候であるかもしれず、速やかに診察を受ける必要があります。乳幼児や高齢者、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者、免疫系を抑制する作用のある薬を使用中の患者では、腹痛には特に注意が必要です。高齢者では同じ病気の若い成人よりも腹痛が弱いことがあり、病状が重篤な場合でも腹痛... さらに読む は腹腔内の感染であり、憩室の壁が破裂すると発生することがあります。
憩室炎で起こりうるその他の合併症として、付近の臓器(子宮、膀胱、消化管の他の部分など)の炎症があります。憩室炎が再発を繰り返すと、瘢痕化(はんこんか)と筋肉の肥厚が生じて大腸の内径が狭くなり、硬い便が通過できなくなるため、腸閉塞を起こすことがあります。
診断
腹部および骨盤のCT検査
炎症が治まった後に大腸内視鏡検査
憩室症 大腸の憩室症 (憩室の病気の定義も参照のこと。) 憩室(けいしつ)症は風船状の袋(憩室)が1つ以上ある状態で、通常は大腸(結腸)に起こります。 腸の筋層のけいれんが憩室を引き起こすと考えられています。 通常、憩室では症状はみられませんが、ときに炎症や出血が起こり、血便や下血が生じる場合もあります。 診断は、一般に大腸内視鏡検査、下部消化管造影検査、CT検査、またはビデオカプセル内視鏡検査によって確定します。 さらに読む があるとすでに分かっているケースでは、ほぼ症状のみに基づいて憩室炎が診断されることがあります。しかし、大腸や腹腔および骨盤内の他の臓器の異常で、憩室炎と似た症状を引き起こすものが多数あり、例えば 虫垂炎 診断 虫垂炎とは虫垂に起こる炎症と感染症です。 しばしば虫垂の内部に閉塞が生じることで虫垂が炎症を起こし、感染症が生じます。 腹痛、吐き気、発熱がよくみられます。 試験開腹、またはCT検査や超音波検査などの画像検査が行われます。 治療では、虫垂の切除手術と感染症治療のための抗菌薬の投与が行われます。 さらに読む 、 結腸がん 大腸がん 大腸がんのリスクは、家族歴や食事に関する一部の要因(低繊維、高脂肪)によって高まります。 典型的な症状としては、排便時の出血、疲労、筋力低下などがあります。 50歳以上の人ではスクリーニング検査が重要です。 診断を下すために大腸内視鏡検査がよく行われます。 早期に発見された場合に最も高い治癒の可能性があります。 さらに読む
、 卵巣がん 診断 卵巣がんでは、病巣が大きくなるか、範囲が広がるまで、症状がみられないことがあります。 卵巣がんの疑いがある場合は、血液検査、超音波検査、MRI検査、CT検査などを行います。 通常は、左右の卵巣および卵管と子宮を切除します。 多くの場合、手術後に化学療法が必要になります。 (女性生殖器のがんの概要を参照のこと。) さらに読む 、 膿瘍 診断 膿瘍(のうよう)は、内部に膿がたまった空洞で、通常は細菌感染が原因で生じます。 大半の人で絶え間ない腹痛と発熱が生じます。 CT(コンピュータ断層撮影)検査などの画像検査を行うことで、膿瘍と他の問題を区別することができます。 治療としては、膿瘍から膿が排出され、抗菌薬が投与されます。 腹腔内膿瘍は、横隔膜の下部、腹部中央部、骨盤内、または腹腔の後部に形成されることがあります。また膿瘍は腎臓、脾臓、膵臓、肝臓、前立腺などのあらゆる腹部臓器... さらに読む 、子宮壁の良性腫瘍( 子宮筋腫 診断 子宮筋腫は、筋肉組織と線維組織から構成される良性(がんではない)腫瘍で、子宮内に発生します。 子宮筋腫は痛み、異常な性器出血、便秘、繰り返す流産、頻尿や尿意切迫などの症状を引き起こします。 診断は内診のほか、通常は超音波検査によって確定されます。 筋腫により問題が起きている場合にのみ、治療が必要になります。... さらに読む
)などが含まれます。
病態が虫垂炎や他の疾患ではなく、憩室炎であると判断するために、腹部および骨盤部の CT検査 CT(コンピュータ断層撮影)検査 CT検査では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度から撮影された一連のX線画像であり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとはcomputed... さらに読む が役立つことがあります。妊婦や若年者に対する代替の検査として、 MRI検査 CT検査とMRI検査 CT検査( CT(コンピュータ断層撮影)検査)とMRI検査( MRI(磁気共鳴画像)検査)は、腹部臓器の大きさや位置を調べるのに適しています。さらに、これらの検査では悪性腫瘍(がん)や良性腫瘍(がんではない腫瘍)もしばしば検出されます。血管の変化も検出できます。虫垂や憩室などの炎症も通常は明確に分かります。ときに、X線照射や手術のガイド役としてこれらの検査を用いることもあります。... さらに読む があります。
炎症が治まるか感染症の治療が済むと、 大腸内視鏡検査 内視鏡検査 内視鏡検査とは、柔軟な管状の機器(内視鏡)を用いて体内の構造物を観察する検査です。チューブを介して器具を通すことができるため、内視鏡は多くの病気の治療にも使うことができます。口から挿入する内視鏡検査では、食道(食道鏡検査)、胃(胃鏡検査)、小腸の一部(上部消化管内視鏡検査)が観察できます。肛門から挿入する内視鏡検査では、直腸(肛門鏡検査)、大腸下部と直腸と肛門(S状結腸内視鏡検査)、大腸全体と直腸と肛門(大腸内視鏡検査)が観察できます。... さらに読む (観察用の柔軟な管状の機器を用いた大腸の検査)が行われます。この検査は大腸がんではないことを確認するために行われます。大腸内視鏡検査は、炎症を起こしている腸管を傷つけたり破ったりことがあるため、通常は治療後6~8週間経過してから行う必要があります。診断を確定するために、まれに試験開腹が必要です。
治療
軽度の憩室炎に対しては、流動食および安静
重度の憩室炎に対しては、絶食および抗菌薬の投与
ときに手術
軽度の憩室炎は、安静にして流動食をとり、ときに抗菌薬を服用することにより自宅で治療できます。通常は憩室炎の症状が速やかに軽減します。憩室炎に対し抗菌薬が必要ないこともあります。数日後に高繊維食が開始できます。1~3カ月後に、結腸の評価のために大腸内視鏡検査を受けます。
重度の憩室炎では、異なる治療が必要です。憩室炎の症状が重度の場合(例えば、腹痛がみられる、38.3℃を超える発熱がある、経口抗菌薬の効果がみられない、その他の重篤な感染症や合併症の証拠がみられる場合など)は入院します。病院では、輸液と抗菌薬が静脈内投与されます。また、床上安静の状態を続けて、症状が治まるまでは絶食します。
なかには、憩室炎の治療として抗菌薬と安静だけで十分な場合もあります。
膿瘍の排膿
大きい膿瘍は、CT検査の画像でガイドしながら針を皮膚に刺して排膿します。排膿が役に立てば、症状が回復して柔らかい食事が再開できるまで入院します。排膿しても効果がみられない場合は、手術が必要です。
憩室炎に対する手術
腸管が破裂しているか、腹膜炎が生じている場合には、緊急手術が必要です。また、憩室炎の症状が重く、手術以外の治療(例えば抗菌薬)で48時間以内に症状が軽快しない場合などでも手術が必要になります。痛み、圧痛、発熱が悪化している場合も手術が必要です。
手術では、腸の病変部を切除します。穿孔(せんこう)、膿瘍、重度の腸の炎症がない健康な状態の人であれば、その切断部をすぐにつなぎ合わせます。それ以外の人では、一時的人工肛門造設術が必要です。人工肛門造設術では、大腸と腹部の皮膚表面の間に開口部がつくられます。約10~12週間(ときにはこれより長期間)経過し、炎症が消失して患者の状態が改善した後に、腸の切断部をつなぎ合わせる再手術をして、人工肛門を閉鎖します。
人工肛門造設術について理解する
人工肛門造設術では、大腸(結腸)を切除します。結腸とつながっている部分の断端を皮膚に形成した開口部から皮膚の表面へ移動させます。その部分を皮膚に縫合します。便はこの開口部を通って使い捨てのバッグの中に入ります。 ![]() |
瘻の治療では、瘻がある大腸の部分を切除し、大腸の切断部をつなぎ合わせ、膀胱や小腸など他の影響を受けた部分を修復します。