オピオイド中毒および離脱

執筆者:Gerald F. O’Malley, DO, Grand Strand Regional Medical Center;
Rika O’Malley, MD, Grand Strand Medical Center
レビュー/改訂 2020年 5月
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多幸作用を有するオピオイドは,高用量では鎮静および呼吸抑制を引き起こす。呼吸抑制は,特異的な解毒剤(例,ナロキソン)または気管挿管と機械的人工換気により管理可能である。離脱症状は,初期には不安および薬物渇望として現れ,その後に呼吸数増加,発汗,あくび,流涙,鼻漏,散瞳,および胃痙攣として現れ,後期には立毛,振戦,筋攣縮,頻脈,高血圧,発熱,悪寒,食欲不振,悪心,嘔吐,および下痢として現れる。診断は臨床的診察に加え,尿検査により行う。離脱症状は,長時間作用型オピオイド(例,メサドン)またはブプレノルフィン(オピオイド作動薬・拮抗薬)に置換することで治療可能である。

「オピオイド」とは,特異的オピオイド受容体に結合するいくつかの天然物質(ケシに由来する),およびこれらの半合成/合成アナログを指す用語である。オピオイド(強力な鎮痛薬で咳嗽と下痢の管理に果たす役割は限定的)は,広く入手可能で多幸作用があるため,一般的な乱用薬物でもある;オピオイド鎮痛薬およびオピオイド使用障害とリハビリテーションも参照のこと。

病態生理

主なオピオイド受容体にはΔ,κ,およびμの3種類がある。これらは中枢神経系全体に発現しているが,特に疼痛知覚に関連する領域および経路で発現している。これらの受容体は,一部の感覚神経,肥満細胞,および消化管の一部の細胞にも存在する。

オピオイド受容体は内因性エンドルフィンにより刺激され,一般に鎮痛と多幸感を生じる。オピオイドは主に鎮痛薬として治療に使用される。オピオイドはそれぞれ受容体活性が異なり,一部のオピオイド(例,ブプレノルフィン)はアゴニストとアンタゴニストの作用をともに有する。純粋なアンタゴニスト作用を有する化合物(例,ナロキソン,ナルトレキソン)が入手可能である。

外因性オピオイドは,経口,静脈内,皮下,直腸内,経鼻粘膜,または吸入(喫煙として)のほぼ全ての投与経路で摂取可能である。最大効果は静脈内注射後約10分,経鼻吸入後約10~15分,および経口摂取後90~120分で到達するが,最大効果到達時間と効果持続期間は薬物毎に大きく異なる。

慢性効果

直ちにオピオイド耐性(tolerance)が生じ,要求量が増大する。オピオイドの様々な作用に対する耐性は,一様には生じないことが多い。例えばヘロイン使用者は,ヘロインのもつ多幸感や呼吸抑制作用に対しては比較的寛容ができるが,瞳孔収縮と便秘は依然残ることがある。

数日使用しただけでも,その後に軽度のオピオイド離脱症候群が起こることがある。オピオイドが高用量で依存期間が長いほど,離脱症候群は重度になる。

オピオイド自体の長期的影響は軽微であり,メサドンの使用が数十年に及んでも生理的忍容性は良好そうであるが,一部のオピオイド長期使用者は慢性的な便秘,大量発汗,末梢浮腫,眠気,および性欲減退を経験する。しかしながら,オピオイドを注射する長期使用者の多くでは,夾雑物(例,タルク)や混ぜ物(例,非処方覚醒剤)による有害作用や,HIV感染症やB/C型肝炎などの感染症よる心臓,肺,および肝臓の障害が認められ,これらの感染症は注射針の共用や不衛生な投薬( see page 注射薬物の使用)によって拡散する。

妊娠

妊娠中にオピオイドを使用すると,胎児のオピオイド依存が起こることがある。

症状と徴候

急性効果

急性オピオイド中毒は多幸感と眠気を特徴とする。肥満細胞作用(例,紅潮,そう痒)が多く認められ,特にモルヒネで顕著である。消化管作用には,悪心,嘔吐,腸音減弱,便秘などがある。

中毒または過剰摂取

主な中毒作用は呼吸数と呼吸深度の減少であり,これは無呼吸に進行することがある。その他の合併症(例,肺水腫,これは一般にオピオイド過剰摂取後数分から数時間以内に発生する)と死亡は,主に低酸素症に起因する。瞳孔の縮小(縮瞳)が認められる。せん妄,低血圧,徐脈,体温低下,および尿閉が起こることもある。

ペチジンの反復使用(治療目的を含む)により代謝物ノルペチジンが蓄積し,中枢神経系を刺激して痙攣発作活動を引き起こすことがある。

セロトニン症候群が,フェンタニル,ペチジン,トラマドール,メサドン,コデイン,またはオキシコドンをセロトニン作動性のある他の薬剤(例,選択的セロトニン再取り込み阻害薬,モノアミン酸化酵素阻害薬)と併用すると起こることがある。セロトニン症候群は以下の1つ以上から成る:

  • 筋緊張亢進

  • 振戦および反射亢進

  • 自発性,誘導性,または眼球のクローヌス

  • 発汗および自律神経不安定状態

  • 激越

  • 体温 > 38℃ + 眼球または誘発性クローヌス

離脱

オピオイドの離脱症候群には通常,中枢神経系活動亢進の症状と徴候がある。症候群の発症と期間は,各薬剤とその半減期に依存する。症状は早ければヘロインの最終投与後4時間で現れ,48~72時間で最大となり,約1週間後に鎮静化する。不安および薬物渇望に続き,安静時呼吸数が増加して1分間に16回を超え,通常は発汗,あくび,流涙,鼻漏,散瞳,および胃痙攣を伴う。後に,立毛(鳥肌),振戦,筋攣縮,頻脈,高血圧,発熱・悪寒,食欲不振,悪心,嘔吐,および下痢が発生することがある。

オピオイドからの離脱では,発熱,痙攣発作,または精神状態の変化は生じない。悲惨なほど症状が激しい場合があるものの,オピオイドからの離脱で死に至ることはない。

メサドン(半減期が長い)を使用していた者における離脱症候群はより緩徐に発生し,ヘロイン離脱症状ほど急激に重度とはならないと考えられるが,使用者の中にはヘロイン離脱症状よりもひどいと表現する人もいる。離脱症候群が寛解した後でも,嗜眠,倦怠感,不安,および睡眠障害が最長で数カ月間持続する場合がある。薬物渇望は数年にわたり持続することもある。

診断

  • 臨床的に決定

オピオイド使用の診断は通常臨床的に行い,ときに尿薬物検査により行う;薬物に関連する合併症を同定する必要があれば,臨床検査を行う。薬物濃度は測定しない。

治療

  • 支持療法

  • オピオイドの離脱症状に対して,ときに薬物療法(例,オピオイド作動薬,オピオイド作動薬・拮抗薬,オピオイド拮抗薬,またはクロニジンによる)

中毒または過剰摂取

気道を確保して呼吸を助けるための治療を最優先とする。

  • ナロキソン0.4~2mgを静脈内投与

  • ときに気管挿管

自発呼吸が認められる患者はオピオイド拮抗薬,典型的にはナロキソン0.4mgの静脈内投与(体重20kg未満の小児には0.1mg/kg)で治療可能である;ナロキソンはアゴニスト作用がなく,半減期が非常に短い(特定の毒物の症状と治療法の表を参照)。オピオイドによる意識消失と無呼吸は,大半の患者でナロキソンにより急速に回復する。直ちに利用できる静脈路がない場合は,筋肉内,皮下,または鼻腔内投与も効果的である。2分以内に反応がみられない場合は,2回目または3回目の投与を施行してよい。ほぼ全ての患者が3回の0.4mg投与に対して反応を示す(鼻腔スプレーは4mgの単回吸入投与)。そうでない場合には,患者の病状はオピオイド過剰摂取によるものではない可能性が高いが,大量のオピオイド過剰摂取,およびフェンタニル誘導体などの合成オピオイドによる中毒であればより高用量のナロキソンが必要となる。

一部の患者は意識が戻ると興奮し,せん妄状態になり,闘争的になるため,またナロキソンが急性離脱症状を誘発するため,ナロキソンを投与する前に緩やかな身体的拘束を行うべきである。長期薬物使用者の離脱症状を軽減するため,臨床状況からみて緊急に完全回復させる必要がない場合には,一部の専門医はごく少量のナロキソン(0.1mg)に用量を調節することを提案している。

無呼吸の患者は,直ちに投与できれば最初にナロキソン2mgの静脈内投与で治療可能である;傾眠状態のみの患者に対する量よりも高用量であることに注意すること。米国の一部地域および一部の国では,ナロキソンが処方なしに入手可能であるため,無呼吸の患者を友人または家族が救助できる。ナロキソンが入手可能で速やかに投与される場合,気管挿管が必要になることはまれである。

自発呼吸が再開した後,患者を数時間観察すべきである。ナロキソンの作用持続時間は一部のオピオイドよりも短いため,メサドンや,オキシコドンまたはモルヒネ徐放錠の過剰摂取では,呼吸抑制が数時間以内に再発する可能性がある。そのため,観察の期間は関与するオピオイドの半減期に応じて異なる。長時間作用型オピオイドを使用した患者は一般的に観察のために入院させるべきである;短時間作用型オピオイドを使用した患者は数時間後に退院させてよい。

呼吸抑制が再発した場合には,適切な用量のナロキソンを再投与すべきである。最良の投与レジメンは明確ではない。多くの医師が,最初に効果的であった用量と同じ用量のボーラス投与を繰り返す。ナロキソンの持続静注を用いる医師もいる;一般的には最初に効果的であった用量の約3分の2の用量で開始する。理論上は,持続静注によって呼吸数を維持するための用量調整が可能であるが,実際にはこれは困難なことがあり,患者の生命は静脈ラインの確保に依存している;注入が妨げられると(例,患者が静脈ラインを引き抜くことによる)すぐに呼吸抑制が再発する。いずれのレジメンでも綿密なモニタリング(一般的には集中治療室内)が必要である。

ナロキソンの薬理活性が消失し,オピオイドに関連する症状が認められなくなるまで,患者を観察すべきである。ナロキソンの血清中半減期は約1時間であるため,ナロキソンを投与後2~3時間も観察すれば転帰が明らかになるはずである。静注ヘロインの半減期は比較的短く,静注ヘロインのナロキソンによる回復後に呼吸抑制が再発することはまれである。

急性肺水腫は酸素投与で治療するが,非侵襲的または侵襲的呼吸支援法(例,二相性陽圧換気[BiPAP]気管挿管)もしばしば使用される。

離脱と解毒

治療にはいくつかの方法が考えられる:

  • 治療せず(「cold turkey(即座の断薬)」)

  • メサドンまたはブプレノルフィンによる置換

  • クロニジンによる症状緩和

  • 長期補助(おそらくナルトレキソンによる)

オピオイド離脱症候群はひどく不快であるが,自然に軽快し,生命を脅かすものではない。わずかな代謝的および身体的な離脱作用が6カ月も持続する場合がある。身体的または精神的併存症により入院が必要な患者を除き,離脱症状は典型的には外来で管理される。

離脱症状の管理の選択肢としては,患者がオピオイドを最終投与した後の自然経過にまかせる方法(「cold turkey」)や,制御されたスケジュールで漸減が可能な別のオピオイド(代替薬)を投与する方法などがある。離脱期間中はクロニジンにより,ある程度の症状緩和が得られる。The US Substance Abuse and Mental Health Services Administration(SAMHSA)は,Medication-Assisted Treatmentについての情報を提供している。

メサドン代替療法は,適切な用量のメサドンは半減期が長く,鎮静作用と多幸感がそれほど強くないため,重症の嗜癖患者のオピオイド離脱症状を管理する方法として好んで用いられる。いずれの医師も入院中にまたは外来で3日間にわたるメサドン代替療法を開始してよいが,その後の治療は認可されたメサドン治療プログラムを用いて継続する。重度の離脱症状(全ての離脱症状ではない)を予防できる最低量のメサドンを経口投与する。典型的な用量範囲は15~30mgの1日1回投与であり,耐性が生じていない患者では,用量が25mg以上になると危険なレベルの鎮静が起こることがある。

適切な用量を推定するための症状尺度が利用可能である。離脱症状の証拠が認められたら,用量を増やす必要がある。適切な用量が確立された後は,安定用量(メサドン維持療法)で投薬を継続すると決定された場合を除き,用量を1日当たり10~20%ずつ徐々に減らしていくべきである。メサドンを漸減中,患者は不安を感じてさらなる量のメサドンを求めることが多い。

メサドン維持療法プログラムを受けている嗜癖者にとってのメサドンからの離脱は,メサドンの用量が約100mg,1日1回と高い場合もあるため,特に困難と考えられる;それらの患者では完全な解毒を試みる前に,数週間かけて用量を60mg/日まで徐々に減らしていくべきである。

メサドンは,QTc延長および重篤な不整脈(トルサード・ド・ポワンツ[ see also heading on page QT延長症候群とトルサード・ド・ポワンツ型心室頻拍]など)と関連することが報告されている。したがって,メサドンを投与中および用量漸減中は患者の適切な評価とモニタリングを行いながら,メサドンを非常に注意深く使用すべきである。

ブプレノルフィンも,通常は舌下投与されるオピオイド部分作動薬で,離脱時に使用されて成果を上げている。乱用の可能性を減少させるため,ナロキソンがブプレノルフィンに添加される。舌下投与した場合,ブプレノルフィン(オピオイド作動薬)の効果が著明に認められ,離脱症状が軽減する。粉砕して注射した場合,ナロキソンの効果が著明に認められ,離脱症状が増加する。離脱症状の徴候が初めて現れたときに初回舌下投与を行う。重度の症状を効果的に抑制するのに必要な用量をできるだけ迅速に漸増する;一般に8~16mg/日の舌下投与が用いられる。その後にブプレノルフィンを数週間かけて漸減する。SAMHSAのウェブサイト(Medication-Assisted Treatmentを参照)では,ブプレノルフィンおよび薬剤を処方するための特例条項が適用されるために必要な訓練についてのさらなる情報が提供されている。ブプレノルフィンを解毒または維持療法に使用するためのプロトコルは,米国保健福祉省(Department of Health and Human Services)のウェブサイトでダウンロード可能である。

クロニジンは,中枢作用性アドレナリン作動薬で,オピオイドからの離脱の自律神経症状と徴候を抑制できる。開始用量は0.1mgの4~6時間毎の経口投与であり,耐えられれば0.2mgの4~6時間毎の経口投与に増量してもよい。クロニジンは低血圧と眠気をもたらすことがあり,クロニジンを中止すると,不穏,不眠症,易怒性,頻脈,および頭痛を誘発することがある。

迅速および超迅速プロトコルが離脱と解毒の管理に関して評価されている。迅速プロトコルでは,離脱を誘導するためにナロキソン,ナルメフェン,およびナルトレキソンを併用し,離脱症状を抑制するためにクロニジンおよび様々な補助薬を使用する。一部の迅速プロトコルは,オピオイド離脱症状を抑制するためにブプレノルフィンを使用する。超迅速プロトコルは,患者を全身麻酔下に置いた上で,オピオイド排泄を強化するためにナロキソンと利尿薬の大量ボーラスを使用する場合がある;これらの超迅速プロトコルは,合併症のリスクが高い上に実質的な上乗せ効果がみられないため,推奨されない。

解毒自体は治療ではないことを,医師は理解しなければならない。解毒は最初のステップに過ぎず,その後に継続的治療プログラムを実施しなければならず,本プログラムには様々な種類のカウンセリングや,おそらく非オピオイド拮抗薬(例,ナルトレキソン)が含まれると考えられる。

より詳細な情報

  1. US Substance Abuse and Mental Health Services Administration (SAMHSA)

  2. Findtreatment.gov: Listing of licensed US providers of treatment for substance use disorders

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