(骨折の概要 骨折の概要 骨折とは,骨が破損することである。ほとんどの骨折は,正常な骨に単一の大きな力が加わることで生じる。 骨折以外の筋骨格系損傷には以下のものがある: 関節脱臼および亜脱臼(部分的な関節脱臼) 靱帯捻挫,筋挫傷,および腱損傷 筋骨格系の損傷はよくみられる現象であるが,その受傷機転,重症度,および治療法は様々である。四肢,脊椎,骨盤のいずれにも発... さらに読む も参照のこと。)
ほとんどの股関節骨折は転倒によって起こるが,高齢患者では,通常は 骨粗鬆症 骨粗鬆症 骨粗鬆症は,骨密度(単位体積当たりの骨量)が減少し,骨の構造が劣化する進行性の代謝性骨疾患である。骨格の脆弱性は,軽度または不顕性の外傷による骨折(脆弱性骨折と呼ぶ)の原因となる(特に胸腰椎,手関節,および股関節)。診断は,二重エネルギーX線吸収法(DXA)または脆弱性骨折の確認による。予防および治療には,危険因子の是正,カルシウムおよび... さらに読む により骨が脆弱になっていることから,ごくわずかに見える力(例,寝床での寝返り,椅子から立ち上がる,歩行)で骨折に至ることがある。
骨折部位としては以下のものがある:
大腿骨頭
大腿骨頸部(骨頭下)
転子間
転子下
骨頭下および転子間骨折が最も頻度の高い型である。
股関節骨折の合併症としては以下のものがある:
骨折癒合不全
合併症は転位のある大腿骨頸部骨折の高齢患者でより頻度が高い。
大腿骨頸部骨折の患者では,骨折により大腿骨頭への血液供給が妨げられるため,骨壊死のリスクが高い。
症状と徴候
股関節骨折ではほとんどの場合鼠径部痛および歩行不能を来す。ときに膝に関連痛が生じるため,膝関節異常と誤解される。同様に,恥骨枝の骨折が鼠径部痛を引き起こすことがある。
転位骨折患者は歩行できず,著明な疼痛があり,患側の下肢が短縮し外旋しているように見える。対照的に,嵌入骨折患者は歩行できることがあり,疼痛は軽度のみで見た目の変形はない。しかし,そのような患者は通常,膝を伸ばした状態で抵抗に逆らって下肢全体を屈曲することができない。
膝を曲げた状態で他動的な股関節の回転運動を行うと疼痛が増悪し,転子部滑液包炎など関節外の障害と股関節骨折とを鑑別する助けとなる。
診断
単純X線
まれにMRIまたはCT
股関節骨折の疑いの診断は骨盤X線の前後像および仰臥位側面像(cross-table lateral view)から始める。骨折が1つ同定されれば,大腿骨全体のX線撮影を行うべきである。微妙な骨折所見(例,ごくわずかな転位または嵌入骨折の場合)として,大腿骨頸部の海綿骨密度または骨皮質の不規則性などがありうる。しかし,ときにX線は正常であり,特に骨頭下骨折または重度の骨粗鬆症の患者でその可能性が高い。
骨折がX線上で認められないが依然臨床的に疑われる場合,MRIは不顕性骨折に対して感度および特異度がほぼ100%であるため,これを施行する。CTはより感度の低い代替法である。
治療
通常は観血的整復内固定術(ORIF)
ときに大腿骨頭置換術または人工股関節全置換術
大多数の股関節骨折は,疼痛持続期間を最短にするため,また非外科的治療の後には必要となるが重篤な合併症(例,深部静脈血栓症,褥瘡,デコンディショニング,肺炎,死亡)のリスクを(特に高齢患者の場合)高めることとなる長期間の 床上安静 臥床の影響 病院は,救急処置,診断検査,集中治療,または手術を提供し,入院を必要とする場合とそうでない場合がある。高齢患者は,若年患者と比較して病院を多く利用する;高齢患者は救急外来からの入院がより多く,入院回数と期間がより多く,入院中により多くの資源を使用している。 2015年において,約57,000人の65歳以上の成人が救急外来を受診し,そのうち33.6%が入院となったが,これは2006年の42%から20%の減少であった... さらに読む を避けるため,外科的に治療する。
股関節骨折の治療後,できるだけ早く リハビリテーション 股関節手術のリハビリテーション ( リハビリテーションの概要も参照のこと。) 股関節骨折の手術後,できるだけ早くリハビリテーションを始める。最初の目標は,筋力を増強し,健側の萎縮を予防することである。当初は,患肢を完全に伸展した状態での等尺性運動しか行うことができない。膝の下に枕を置くことは,股関節および膝の屈曲拘縮につながることがあるため,禁忌である。 患肢の運動を徐々に増やしていくことで,通常自立歩行ができるようになる。リハビリテーションの速度は,施行した手術の種... さらに読む を始める。
予防的抗凝固療法により,股関節骨折後の静脈血栓症の発生率が低下する可能性がある。
高齢の股関節骨折患者は,救急部門で股関節手術のためのcardiac clearance(術前心機能評価)を待つ間,苦痛を感じる場合がある。股関節の単独骨折の高齢患者では,疼痛コントロールのために大腿神経ブロックおよび腸骨筋膜下ブロックが用いられることが増えてきている。これにより疼痛を最長6~8時間にわたりコントロールすることが可能で,全身的な有害作用(例,呼吸抑制)を引き起こしやすいオピオイドの使用は不要である。局所神経ブロックの禁忌としては,出血性疾患や凝固障害などがある(1 治療に関する参考文献 股関節骨折は,大腿骨の骨頭,頸部,または転子(突起)間もしくは転子下の部位で起こることがある。この骨折は高齢患者(特に骨粗鬆症の高齢者)で最も多く,通常は平坦な地面での転倒により起こる。診断はX線,または必要であればMRIによる。治療は通常は観血的整復内固定術(ORIF),またはときに人工骨頭置換術(hemiarthroplasty)もしくは人工股関節全置換術(total hip... さらに読む )。
大腿骨頸部骨折
高齢患者における大腿骨頸部の転位のない嵌入骨折および若年患者における全ての大腿骨頸部骨折は,典型的にはORIFで治療する。
高齢患者における転位のある大腿骨頸部骨折は,早期に無制限の荷重負荷を可能にし,追加手術が必要になる可能性を最小限にするために,通常は人工股関節置換術で治療する。歩行量が非常に少なく,そのため関節にかかるストレスがほとんどない高齢患者は,通常は人工骨頭置換術(大腿骨近位部のみ置換する)で治療する;より活動的な高齢患者ほど人工股関節全置換術(大腿骨近位部を置換し,寛骨臼表面を修復する)で治療することが多くなる。人工股関節全置換術はより広範で,リスクが大きいが,機能面ではより良好な結果が得られる。
転子間骨折
転子間骨折は通常ORIFで治療する(観血的整復内固定術[ORIF] 観血的整復内固定術(ORIF) の図を参照)。
観血的整復内固定術(ORIF)
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治療に関する参考文献
1.Haines L, Dickman E, Ayvazyan S, et al: Ultrasound-guided fascia iliaca compartment block for hip fractures in the emergency department.J Emerg Med 43 (4):692–697, 2012.doi: 10.1016/j.jemermed.2012.01.050
要点
股関節(特に骨頭下および転子間)骨折は,骨粗鬆症の高齢患者で多くみられる。
大腿骨頭の骨壊死,骨折癒合不全,および変形性関節症が一般的な合併症である。
状況から股関節骨折が疑われ,患者が膝関節を伸展した状態で抵抗に逆らって下肢全体を屈曲することができない場合は,軽度の疼痛しかなく歩行可能であっても,嵌入骨折を疑う。
原因不明の股関節痛または膝関節痛があり,疼痛のため歩行困難な全ての患者に対し,膝を曲げた状態で股関節を回転させる;この手技により疼痛が増悪する場合は股関節骨折の可能性がある。
骨折が臨床所見に基づき疑われるが,X線では認められない場合,MRIを施行する。
ほとんどの骨折を外科的(ORIFまたは人工股関節置換術)に治療して,できるだけ早く歩けるようにする。
短期間の疼痛コントロールには,オピオイドの代わりに大腿神経ブロックおよび腸骨筋膜下ブロックを考慮する(特に股関節単独骨折の高齢患者)。