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脱臼の概要

執筆者:

Danielle Campagne

, MD, University of California, San Francisco

レビュー/改訂 2021年 1月
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脱臼は,関節を形成する2つの骨が完全に離れることである。亜脱臼は部分的にずれることである。脱臼した関節は,医師により整復(復元)されるまで脱臼したままであることが多いが,ときに自然に治る。

脱臼のほかに,筋骨格系の損傷には以下のものがある:

筋骨格系の損傷はよくみられる現象であるが,その受傷機転,重症度,および治療法は様々である。四肢,脊椎,骨盤のいずれにも発生する。

脱臼は開放性(皮膚の創傷を介して外界と交通している)または閉鎖性の場合がある。

予後および治療は,脱臼の部位および重症度により大きく異なる。

合併症

脱臼の重篤な合併症はまれであるが,生命や患肢の温存を脅かす,または患肢の永続的な機能障害を引き起こす可能性がある。開放性脱臼(感染の素因となる)と血管,組織灌流,および/または神経を破綻させる脱臼では,合併症のリスクが高い。脱臼は,特に速やかに整復しない場合に,血管損傷および神経損傷のリスクが骨折より高い傾向がある。血管または神経を侵さない閉鎖性脱臼(特に速やかに整復するもの)は,重篤な合併症を引き起こす可能性が最も低い。

脱臼の急性合併症(合併損傷)としては以下のものがある:

脱臼の長期合併症としては以下のものがある:

評価

  • 重篤な損傷の評価

  • 病歴聴取および身体診察

  • X線

  • ときにMRIまたはCT

脱臼はときに臨床的に明らかなこともあるが,そうでない場合(例,青年の肩関節変形)は,脱臼を骨折およびその他の損傷と鑑別する必要がある。

救急部門で,受傷機転から重度の損傷または複数の損傷の可能性が示唆される場合(高速度での自動車衝突事故または高所からの転落など),最初に全ての臓器について重篤な損傷がないか頭から足先まで評価し,必要であれば蘇生を行う(外傷患者へのアプローチ 外傷患者へのアプローチ 外傷は1~44歳の年齢層における死亡原因の第1位である。米国では2017年には外傷による死亡が243,039件あり,およそ70%が事故によるものであった。故意の外傷による死亡のうち,70%以上は自傷行為によるものであった。死亡以外でも,外傷により年間約4320万人が救急外来を受診し,280万人が入院している。... さらに読む を参照)。不顕性の失血による 出血性ショック 循環血液量減少性ショック ショックとは臓器灌流が低下した状態で,その結果細胞の機能障害および細胞死を生じるものである。関係する機序は,循環血液量の減少,心拍出量の減少,および血管拡張(ときに毛細血管床をバイパスする血液のシャントを伴う)である。症状としては,精神状態の変化,頻脈,低血圧,乏尿などがある。診断は臨床的になされ,血圧測定およびときに組織灌流低下のマーカ... さらに読む について患者を評価する(特に股関節脱臼が疑われる場合)。四肢が損傷した場合,直ちに開放創,ならびに神経血管損傷(しびれ,麻痺,灌流不良)および コンパートメント症候群 コンパートメント症候群 コンパートメント症候群とは,閉鎖した筋膜の区域内における組織にかかる圧力の上昇であり,結果として組織虚血を来す。最も初期の症状は,損傷の重症度に釣り合わない疼痛である。診断は臨床的に行い,通常はコンパートメント内圧の測定により確定する。治療は筋膜切開による。 コンパートメント症候群では,永続的に障害が連鎖する。正常では受傷後に発生する組織... さらに読む (例,損傷の程度に釣り合わない疼痛,蒼白,錯感覚,冷感,脈拍消失)の症状または徴候について評価する。

患者に脱臼だけでなく骨折やその他の筋骨格系損傷がないか確認すべきである;ときに骨折が除外されるまで一部の評価結果は据え置いておく。

脱臼した関節の上下の関節も診察すべきである。

一部の脱臼は臨床的に診断可能であるが,通常はX線撮影を行う。

病歴

受傷機転(例,力の方向および大きさ)から損傷の種類が示唆されることがある。しかしながら,多くの患者は正確な受傷機転を覚えていないか,または説明できない。

医学的評価の前に消失した変形を患者が報告した場合,その変形は自然整復された真の変形と想定すべきである。

身体診察

診察には以下の行為が含まれる:

  • 血管評価および神経学的評価

  • 開放創,変形,腫脹,斑状出血,および動作の減少または異常を検索するための視診

  • 圧痛,捻髪音,および骨や腱の肉眼的異常を把握するための触診

  • 受傷部位の上下の関節の診察

  • ときに亜脱臼に対して,不安定性のある関節の負荷試験

筋攣縮および筋肉の疼痛により身体診察(特に負荷試験)が制限される場合,鎮痛薬の全身投与または局所麻酔薬の投与を行うと,ときに診察が容易になる。または,筋攣縮が軽快するまで(通常数日間)損傷部を固定し,その後再び診察してもよい。

特定の所見により脱臼または他の筋骨格系損傷が示唆されることがある。

創傷が脱臼の近くにある場合,開放性脱臼と想定する。

変形は脱臼または亜脱臼(関節における骨の部分的な分離)の徴候である場合もあるが,骨折の場合もある。

腫脹は一般的に筋骨格系の重大な損傷を示唆するが,発生に数時間を要する場合がある。

圧痛は,ほぼ全ての筋骨格系損傷に伴ってみられ,多くの患者にとって受傷部位周囲の触診は不快感をもたらす。

肉眼的な関節不安定性は,脱臼または重度の靱帯断裂を示唆する。

負荷試験 負荷試験 関節外(外側および内側側副靱帯)もしくは関節内(前および後十字靱帯)の靱帯の捻挫,または半月板損傷が,膝関節の外傷により起こることがある。症状は疼痛,関節液貯留,不安定性(重度の捻挫の場合),ロッキング(一部の半月板損傷の場合)などである。診断は,身体診察,およびときにMRIによる。治療は,PRICE(保護,安静,氷冷,圧迫,挙上)および... さらに読む を実施して受傷関節の安定性を評価してもよいが,骨折が疑われる場合は,X線により骨折が除外されるまで,負荷試験を延期する。ベッドサイドの負荷試験では,通常は関節を正常な可動域に対して垂直方向に他動的に開く(負荷をかける)。急性疼痛が生じる損傷の際の筋攣縮によって関節の不安定性が隠れることがあるため,周囲の筋肉を可能な限り弛緩させて試験を愛護的に始め,続いて繰り返し行い,その都度わずかに負荷を強めていく。所見は反対側の健側と比較の上,示されるが,主観に基づく所見であることから限定的なものとなる可能性がある。近位指節間(PIP)関節脱臼では全て,脱臼の整復後に負荷試験を実施する。

鎮痛薬または麻酔薬の注射にもかかわらず筋攣縮が重度の場合,数日後に攣縮が軽快したときに再度診察を繰り返すべきである。

診察中に特定の部位に注意を向けると,見逃されることが多い損傷の発見に役立つことがある(見逃されることが多い脱臼および上肢の筋骨格系損傷の診察 見逃されることが多い脱臼および上肢の筋骨格系損傷の診察 見逃されることが多い脱臼および上肢の筋骨格系損傷の診察 の表を参照)。

患者が痛みを訴える関節が身体診察で正常であった場合,関連痛が原因である可能性がある。例えば,大腿骨頭すべり症(または頻度は低いが股関節骨折)の患者は膝に疼痛を感じることがある。

画像検査

全ての四肢損傷で画像検査が必要なわけではない。画像検査が必要な場合,通常はまずX線検査を行う。

単純X線検査は,主に骨を描出するため,脱臼の診断に有用である。異なる面で撮影した画像を少なくとも2つ含めるべきである(通常は前後像と側面像)。

以下の場合は,追加の画像(例,斜位)を撮ることがある:

  • 評価で骨折が示唆され,2つの画像が陰性である場合。

  • 特定の関節に対してルーチンに行う場合(例,足関節の評価のための果間関節窩撮影,足の評価のための斜位像)。

  • 特定の異常が疑われる場合(例,後方脱臼が疑われる場合の肩関節のY像)。

指の側面像では,対象の指を他の指から離すべきである。

MRIまたはCTは,脱臼に伴うことがある微細な骨折の有無を確認するために行ってもよい。

その他の検査は合併損傷の有無を確認するために行う:

  • 動脈損傷(例,膝関節脱臼患者における膝窩動脈損傷)の疑いを確認するための動脈造影またはCT血管造影

  • 神経損傷の疑いを確認するための筋電図検査および/または神経伝導検査

治療

  • 合併損傷の治療

  • 適応に応じた整復,副子固定,および鎮痛薬

  • 適応に応じたRICE(安静[rest],氷冷[ice],圧迫[compression],挙上[elevation])またはPRICE(保護[protection]を含む)

  • 通常は固定

  • ときに手術

ほとんどの関節脱臼は手術せずに整復できる(正常な解剖学的位置に戻す)。ときに,閉鎖的な手技で脱臼を整復できず,開放手術が必要となる。関節が整復されれば,追加の手術は不要であることが多いが,ときに,関連する骨折,関節内のデブリス(debris),または残存する不安定性のために手術が必要になる。

初期治療

重篤な問題が合併している場合は,それを先に治療する。

切断された神経を外科的に修復する;ニューラプラキシーおよび軸索断裂に対する初期治療は,通常,観察,支持療法,およびときに理学療法による。

開放性脱臼が疑われる場合,無菌的な創傷ドレッシング,破傷風の予防,広域抗菌薬(例,第2世代セファロスポリン系 + アミノグリコシド系),ならびに洗浄とデブリドマンのための手術(およびそれによる感染予防)が必要となる。

ほとんどの中程度および重度の脱臼は,特に肉眼的に状態が不安定な場合,疼痛を軽減し不安定型損傷によるさらなる軟部組織の損傷を防ぐため,副子固定により直ちに固定する(堅くないまたは全周を覆わないデバイスによる固定)。

初期治療後,脱臼の整復,固定,および適応となる対症療法を行う。

以下の場合は,脱臼に対して外科的修復が必要となることがある:

  • 関節を支える構造が損傷している場合。

  • 整復後も関節が不安定なままである場合。

整復

脱臼を整復する。

可能であれば非観血的整復(徒手整復により,皮膚切開を伴わない)を行う;鎮静が必要な場合がある。非観血的整復が不可能な場合は観血的整復(皮膚の切開を伴う)を行うが,その場合は麻酔が必要となる。

典型的に,脱臼には整復を維持するためにギプス,副子,三角巾,またはその他の機器(例,膝関節用の創外固定器)が必要である。

PRICE

脱臼患者ではPRICE(保護,安静,氷冷,圧迫,挙上)が有益である可能性があるが,この方法は強いエビデンスにより裏付けられているわけではない。

保護はさらなる損傷の予防に役立つ。これには,受傷部位の使用制限,副子もしくはギプスの装着,または松葉杖の使用が含まれる。

安静はさらなる損傷を予防し治癒を加速する可能性がある。

氷冷および圧迫は腫脹および疼痛を最小限に抑える可能性がある。ビニール袋またはタオルで氷を包み,最初の24~48時間断続的に(15~20分間,できるだけ頻回に)患部に当てる。損傷は,副子,弾性包帯,または重度の腫脹を引き起こす可能性のある特定の損傷に対してはJones圧迫包帯によって圧迫できる。Jones包帯は4層から成り,1層目(最も内側)と3層目は綿の詰め物,2層目と4層目は弾性包帯である。

患肢を最初の2日間,浮腫が下降する経路が保たれるように心臓より高い位置に挙上することで,重力により浮腫液の排出が促され,腫脹を最小限にとどめることができる。

48時間後,15~20分間定期的に温熱(例,温熱パッド)を当てると,疼痛が緩和され,治癒が加速することがある。

固定

固定は,さらなる損傷を予防することにより,疼痛を軽減し,治癒を促進する。損傷の近位および遠位の関節を固定すべきである。

ギプスを装着する患者には,以下の内容などを記載した書面による指示を与える:

良好な衛生状態が重要である。

固定具の装着

副子急性期治療としての関節固定:一般的に用いられる方法 急性期治療としての関節固定:一般的に用いられる方法 急性期治療としての関節固定:一般的に用いられる方法 の図を参照)は一部の安定している脱臼の固定に使用できる。副子は周囲を取り囲まないため,患者は氷冷が可能であり,ある程度動かすことができる。また,腫脹がいくらかは許容されるため,コンパートメント症候群の一因となることがない。最終的にギプスを必要とする一部の脱臼は,腫脹の大半が消失するまで最初は副子で固定する。

三角巾では,ある程度のサポートが得られ,可動性が制限される;完全固定では悪影響のある脱臼(例,完全に固定すると,急速に癒着性関節包炎[凍結肩]に至る可能性がある肩関節の脱臼)に対して有用となることがある。

固定帯(布または紐)を三角巾とともに使用して,腕が外側に振れないようにすることがある(特に夜間)。固定帯は背部および受傷部位上に巻く。

関節の長期間の固定(若年成人では3~4週間を超えるもの)は,硬直,拘縮,および筋萎縮を引き起こす可能性がある。これらの合併症は急速に発生することがあり,永続的となる場合もある(特に高齢者の場合)。最初の数日または数週間以内に自動運動を再開すると,拘縮および筋萎縮が最小限にとどまる可能性があり,それにより機能回復が加速する。理学療法士は,可能な限り機能を維持するために固定中に患者ができることを助言する(例,肩関節を固定した場合の肘関節,手関節,および手の関節可動域訓練)。固定後,理学療法士は,可動域と筋力を改善する運動を患者に提供し,受傷関節を強化・安定化することで,再発および長期障害の予防を助けることができる。

老年医学的重要事項

高齢者は以下の理由から脱臼(およびその他の筋骨格系損傷)を起こしやすい:

  • 頻回に転倒する傾向(例,加齢による固有感覚喪失,固有感覚や姿勢反射に対する薬剤の有害作用,起立性低血圧による)

  • 転倒時の防御反射の障害

高齢者における筋骨格系の損傷での治療の目標は,日常生活動作を迅速に取り戻すことである。

高齢者では不動状態(例,関節固定)に有害作用が伴う可能性がより高い。早期運動および理学療法が機能の回復に必須である。

併存疾患(例,関節炎)が回復を妨げる場合がある。

要点

  • 動脈血流を途絶させる脱臼およびコンパートメント症候群は患肢の温存を脅かし,最終的に生命を脅かす可能性がある。

  • 脱臼だけでなく骨折ならびに靱帯,腱,および筋肉の損傷がないか確認する(ときに骨折が除外されるまでこの評価の一部を延期する)。

  • 受傷部位の上下の関節を診察する。

  • 関連痛を考慮するが,特に患者が痛いと特定した関節で身体所見が正常であった場合に考慮する(例,胸鎖関節損傷患者における肩関節痛)。

  • X線撮影を行い,脱臼だけでなく合併する骨折を診断する。

  • 重篤な合併損傷があれば直ちに治療し,不安定な脱臼を副子固定し,できるだけ早く疼痛を治療して脱臼を整復する。

  • 全ての脱臼は,整復後直ちにギプス,三角巾,または他の器具で固定する。

  • ギプスのケアに関して,患者に書面で明確な指示を与える。

  • 早期運動を可能にする治療法を選択し,可動域と筋力の改善および将来の脱臼予防のため,推奨される運動を行うよう患者(特に高齢者)に奨励する。

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