眼の挫傷および裂傷

執筆者:Ann P. Murchison, MD, MPH, Wills Eye Hospital
レビュー/改訂 2020年 9月
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眼の鈍的外傷による結果は,眼瞼損傷から眼窩損傷まで幅広い。

眼外傷の概要も参照のこと。)

眼瞼

眼瞼の挫傷(眼瞼皮下出血をもたらす)は,臨床的に重要というよりむしろ審美的問題であるが,より重篤な損傷をときに併発することがあるため,見過ごしてはならない。合併症のない挫傷の治療では,受傷後24~48時間氷嚢で冷やして腫脹を防ぐ。

軽度の眼瞼裂傷で眼瞼縁または瞼板に及んでいない場合は,6-0または7-0ナイロン糸(小児であれば,腸吸収糸)による縫合で修復してもよい。眼瞼縁の裂傷の修復は,正確に傷口を並置し,切痕が残ることを避けるために,眼科医が行うのが最も望ましい。複雑な眼瞼裂傷は,上下眼瞼の内側部のもの(涙小管まで及んでいる可能性がある),貫通性のもの,眼瞼下垂を伴うもの,および眼窩脂肪が露出するものまたは瞼板に及ぶものも含めて,眼科医が修復すべきである。

眼球

外傷により以下の病態を生じうる:

  • 結膜,前房,および硝子体の出血

  • 網膜出血,浮腫,または網膜剥離

  • 虹彩の裂傷

  • 白内障

  • 水晶体脱臼

  • 緑内障

  • 眼球破裂(裂傷)

眼瞼の大きな浮腫または裂傷がある場合,評価が困難になることがある。その場合でも,緊急眼手術の必要性が明らかである(可能な限り早急に眼科医による評価を要する)場合を除き,眼瞼を開き,眼球に圧をかけすぎないよう注意し,できるだけ完全な診察を行う。最低でも,以下の項目は評価する:

  • 視力

  • 瞳孔の形および瞳孔反応

  • 外眼筋運動

  • 前房の深さまたは前房出血

  • 赤色反射の有無

視力の評価

以下に視力の高いものから順に視力評価基準を挙げる:

  • スネレン視力表を読める

  • ある距離で指の数を数えられる(例,3cmの位置で指の数を数える)

  • 手の動きがわかる

  • 光を知覚できる

  • 光の知覚を失う

診察を容易にするため,鎮痛薬,または手術の同意が得られた後であれば抗不安薬を投与することがある。開瞼器または眼瞼固定器を落ち着いて慎重に用いることで,眼瞼を開くことができる。市販の器具が入手できなければ,ペーパークリップをS字型に開いた後,U字型の端を180°に曲げて成型した手作りの開瞼器を用いて眼瞼を開くことができる。以下の内いずれかに当てはまれば眼球裂傷を疑うべきである:

  • 角膜または強膜の裂傷を認める。

  • 房水が漏出している(Seidel徴候陽性)。

  • 前房が非常に浅い(例,角膜に皺があるように見える)または非常に深い(水晶体より後部の破裂による)。

  • 瞳孔の形が不規則である。

  • 赤色反射は消失している。

眼球裂傷が疑われる場合,眼科医の診察を受けられるまでに行うことができる処置には,眼内異物に対する場合と同様,保護具をつけることおよび抗菌薬の全身投与により可能性のある感染症に対処することが挙げられる。異物および骨折などのその他の損傷がないかを確認するため,CTを施行すべきである。抗菌薬の局所投与は避ける。嘔吐は,眼圧を上昇させ,眼内容物を漏出させる一因となる恐れがあるため,必要に応じて制吐薬を用いて抑制する。開放創の真菌感染は危険であるため,手術で閉創するまで,コルチコステロイドは禁忌である。眼球の開放創は破傷風予防の適応である。

ごくまれに,片側の眼球の裂傷後,対側の無傷の眼球に炎症が起き(交感性眼炎),無治療では視力障害から失明に至ることがある。この機序は自己免疫反応である;コルチコステロイド点眼により進行を予防できるため,眼科医によって処方されることがある。

前房出血

前房出血では,再出血,緑内障,および角膜血痕が続発することがあり,いずれも恒久的な視力障害を引き起こす可能性がある。前房出血が視覚を妨げるほど大きい場合を除き,症状は合併損傷によるものである。典型的には,直接視診で前房に血液の層,凝血塊,またはその両方が認められる。血液層は,前房の重力負荷部(通常下部)に半月状の層として認められる。重症度はそれほど高くない微小前房出血は,直接視診では前房の混濁として,細隙灯顕微鏡検査では赤血球が浮遊していることで検出できる。

可能な限り早急に眼科医が対応すべきである。患者を床上安静として頭部を30~45°挙上し,さらなる損傷から眼を保護するために眼保護具を装着する(角膜上皮剥離および異物を参照)。再出血のリスクが高い患者(例,大量の前房出血,出血性素因,抗凝固薬使用,または鎌状赤血球症の患者),眼圧の管理が困難な患者,または推奨される治療へのアドヒアランスが悪い可能性のある患者は,入院させる場合がある。非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の経口投与および局所投与は,再出血の原因となることがあるため禁忌である。

眼圧は,急性に上昇することも(鎌状赤血球症または鎌状赤血球形成傾向の患者では通常,数時間以内),数カ月から数年後に遅れて上昇することもある。したがって,数日間は眼圧を毎日モニタリングし,その後の数週間および数カ月間は定期的に測定するとともに,症状が現れた場合(例,眼痛,視力低下,悪心―急性閉塞隅角緑内障に似た症状)にも測定する。眼圧が上昇した場合,0.5%チモロール1日2回,0.2%もしくは0.15%ブリモニジン1日2回,またはその両方を投与する。治療に対する反応は眼圧により判定し,眼圧がコントロールされるか,相当率の眼圧低下が証明されるまで,1~2時間毎にチェックすることが多い;その後は通常1日1~2回測定する。炎症および瘢痕化を抑えるために,散瞳薬(例,0.25%スコポラミン1日3回または1%アトロピン1日3回,5日間)およびコルチコステロイドの局所投与(例,1%酢酸プレドニゾロン,1日4~8回,2~3週間)がしばしば投与される。

出血が再発する場合,どのように対処したらよいか眼科医に相談すべきである。アミノカプロン酸50~100mg/kgを4時間毎に(30g/日を超えない)5日間経口投与するか,またはトラネキサム酸25mg/kgを1日3回5~7日間経口投与することで,出血の再発が減少する可能性がある;また,縮瞳薬または散瞳薬も投与しなければならない。続発性緑内障を伴う出血の再発では,まれに外科的な血液除去が必要となる。

吹き抜け骨折

吹き抜け骨折は,鈍的外傷により眼窩壁の最も弱い部分から眼窩内容物が圧出されて起き,典型的には眼窩床から圧出される。眼窩内側および上壁も骨折することがある。眼窩内出血は,眼窩下神経の絞扼,眼瞼浮腫,および斑状出血などの合併症を引き起こす可能性がある。患者には顔面または眼窩の痛み,複視,眼球陥入,頬および上口唇の知覚鈍麻(眼窩下神経の絞扼または損傷による),鼻出血,および皮下気腫がみられることがある。顔面の他の部位の骨折または損傷も除外しなければならない。診断には,CTで薄いスライスで顔面の骨を撮影するのが最も有用である。眼球運動が損なわれている場合(例,複視がみられる),外眼筋の絞扼の徴候を評価すべきである。複視または美容的に許容できない眼球陥入があれば,外科的修復が適応となることがある。空気の逆流による眼窩コンパートメント症候群を防ぐため,患者には鼻をかまないよう伝えておくべきである。局所血管収縮薬を2~3日使用することで鼻出血が軽減することがある。副鼻腔炎がある場合は,経口抗菌薬を使用できる。

眼窩コンパートメント症候群

眼窩コンパートメント症候群(OCS)は,眼科的緊急症(ophthalmic emergency)である。OCSは,眼圧が突如亢進したときに発生し,通常は,出血を伴う外傷に起因する。症状には突然の視力障害,複視,眼痛,眼瞼腫脹,斑状出血などがある。身体診察所見として,視力低下,結膜浮腫,瞳孔求心路障害,眼球突出,眼筋麻痺,眼圧亢進などがみられることがある。診断は臨床的に行い,画像検査を待って治療開始を遅らせるべきではない。治療では直ちに外眼角縫線切開(lateral cantholysis)(側方眼角腱を外科的に露出し,その下枝を切開する)を行い,続いて以下を行う:

  • ベッドの頭側を45°挙上した状態でのモニタリング(患者を入院させて行う場合もある)

  • 急性閉塞隅角緑内障と同様の眼圧亢進に対する治療

  • 何らかの凝固障害があればその治療

  • さらなる眼圧亢進の予防(痛み,悪心,咳嗽,いきみ,重度の高血圧を予防または最小化する)

  • 氷冷または冷罨法による冷却

要点

  • 眼瞼裂傷が複雑な場合(例,眼瞼縁,瞼板,または涙小管を通る,眼瞼下垂を生じる,または眼窩脂肪が露出している場合)は,眼科医に相談する。

  • 眼球の外傷により,眼球の裂傷,白内障,水晶体脱臼,緑内障,硝子体出血,または網膜損傷(出血,剥離,もしくは浮腫)が生じうる。

  • 外傷の結果,角膜もしくは強膜の眼に見える裂傷,房水の漏出,異常に浅いもしくは深い前房,または不規則な形の瞳孔がみられれば,眼球破裂を疑う。

  • 前房出血は,細隙灯顕微鏡検査によって診断するのが最もよく,診断されれば頭を30~45°挙上させた状態での床上安静および眼圧の綿密なモニタリングが必要である。

  • 吹き抜け骨折による複視または許容できない眼球陥入があれば,外科的修復のために患者を紹介する。

  • 眼窩コンパートメント症候群の患者には直ちに外眼角切開術を行う。

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