(潜水障害の概要 潜水障害の概要 米国では年間1000例以上の潜水関連障害が発生しており,致死率は10%を超える。同様の障害が,トンネルやケーソン(建設工事に用いる防水を保つための構造物)内の作業者に起こることがあり,そのような環境では作業場から水を遮断するために圧縮空気が用いられている。 多くの障害が高圧に関連するが,高圧は水深の深い場所またはケーソン内で,その地点より... さらに読む も参照のこと。)
圧外傷(ダイバーにはスクイーズと呼ばれる)のリスクは,表面から水深10m(33フィート)で最も高い。圧外傷のリスクは,身体中の空気を含む空間内の圧力平衡を妨げうるあらゆる病態(例,副鼻腔の閉塞,耳管閉塞,構造的奇形,感染症)により増大する。
耳の圧外傷 耳および副鼻腔の圧外傷 圧外傷は,身体区画内のガス容積が圧力に応じて変化することに起因する組織損傷である。耳(耳痛,難聴,および/または前庭症状が生じる)または副鼻腔(痛みおよび鼻閉が生じる)に起こりうる。診断にはときに聴力検査および前庭機能検査が必要となる。治療としては,必要に応じて,鼻閉改善薬,鎮痛薬,およびときにコルチコステロイド経口投与または内耳,中耳,あるいは副鼻腔の重篤な損傷に対する外科的修復などがある。... さらに読む は,潜水関連の全障害の約2/3を占める。
水深の深い場所でたとえ1回でも空気または他の気体を吸い込んだダイバーでは,浮上中にその気体を体外に逃がさないか,または浮上が急速である場合に,気体が膨らんで肺が過度に膨張し, 肺の圧外傷 肺の圧外傷 圧外傷は,身体区画内のガス容積が圧力に応じて変化することに起因する組織損傷である。肺の圧外傷のリスクを高める因子として,特定の行動(例,急速な浮上,息止め,圧縮空気を用いた呼吸)および肺疾患(例,慢性閉塞性肺疾患)などがある。気胸および縦隔気腫がよくみられる臨床像である。患者には,神経学的診察および胸部画像検査が必要である。気胸は治療する。予防としては,リスクのある行動を減らすようにするほか,高リスクダイバーに対するカウンセリングがある... さらに読む が引き起こされる。肺の過膨張は圧縮された空気を吸い込んだダイバーに発生することが最も多いが,スイミングプールでも底で圧縮された空気を吸い込んだ場合に生じることがあり(例,スキューバの装具が用いられる場合),まれに逆さにしたバケツ内の空気を吸い込んでも生じることがある。
圧外傷はまた,消化管(消化管の圧外傷 消化管の圧外傷 潜水中に少量の空気を飲み込んだ場合,浮上中にそれが膨張し(消化管の圧外傷),引き起こされる症状は通常は自然に軽快する。 ( 潜水障害の概要および 圧外傷の概要も参照のこと。) ダイバーは潜水中,レギュレーターからの吸気が不適切なとき,または耳および副鼻腔の圧平衡を行う際に少量の空気を飲み込むことがある。この空気は浮上中に膨張し,腹部膨満感,痙攣,疼痛,げっぷ,および鼓腸を引き起こす;これらの症状は自然に軽快する。消化管破裂がまれに生じ,... さらに読む ),歯(歯の圧外傷 歯,マスク,および眼の圧外傷 圧外傷は,身体区画内のガス容積が圧力に応じて変化することに起因する組織損傷である。歯の周辺,潜水用フェイスマスク内,またはハードコンタクトレンズ下の空隙で起こりうる。 ( 潜水障害の概要および 圧外傷の概要も参照のこと。) 歯の圧外傷潜降中または浮上中に,齲蝕の根元または詰め物に隣接した空隙の中の圧力が急速に変化すると,疼痛または歯の損傷が生じる場合がある。舌圧子で打診すると,そのような歯は痛むことがある。... さらに読む ),眼(眼の圧外傷 歯,マスク,および眼の圧外傷 圧外傷は,身体区画内のガス容積が圧力に応じて変化することに起因する組織損傷である。歯の周辺,潜水用フェイスマスク内,またはハードコンタクトレンズ下の空隙で起こりうる。 ( 潜水障害の概要および 圧外傷の概要も参照のこと。) 歯の圧外傷潜降中または浮上中に,齲蝕の根元または詰め物に隣接した空隙の中の圧力が急速に変化すると,疼痛または歯の損傷が生じる場合がある。舌圧子で打診すると,そのような歯は痛むことがある。... さらに読む ),および顔面(マスク圧外傷 歯,マスク,および眼の圧外傷 圧外傷は,身体区画内のガス容積が圧力に応じて変化することに起因する組織損傷である。歯の周辺,潜水用フェイスマスク内,またはハードコンタクトレンズ下の空隙で起こりうる。 ( 潜水障害の概要および 圧外傷の概要も参照のこと。) 歯の圧外傷潜降中または浮上中に,齲蝕の根元または詰め物に隣接した空隙の中の圧力が急速に変化すると,疼痛または歯の損傷が生じる場合がある。舌圧子で打診すると,そのような歯は痛むことがある。... さらに読む )にも生じうる。
症状
現れる症候は侵された部位に依存するが,いずれも圧力が変化するとほぼすぐに出現する。症状としては,耳痛,回転性めまい,難聴,副鼻腔の疼痛,鼻出血,腹痛などがみられる。呼吸困難と意識の変容または消失によって生命が脅かされる可能性があるが,これらは肺胞破裂および 気胸 気胸 気胸は胸腔内に空気が存在することであり,部分的または完全な肺虚脱を引き起こす。気胸は,自然に起こることもあれば,外傷または医療行為が原因で起こることもある。診断は,臨床基準および胸部X線に基づく。ほとんどの気胸は経カテーテル的吸引または胸腔ドレナージを必要とする。 原発性自然気胸は,肺の基礎疾患がなく,典型的には,背が高く痩身の10代および20代の若年男性に発生する。原発性自然気胸は,喫煙によって生じた,または患者が遺伝的にもつ,胸膜下... さらに読む から生じうる。
こうした医学的な身体の異常に伴い,水深が深い場所でその症状が生じた場合,身体能力や方向感覚が失われることがあり, 溺水 溺水 溺水は液体への水没に起因する呼吸障害である。非致死性(以前はnear drowningと呼ばれた)の場合と致死性の場合がある。溺水により低酸素症が生じ,複数の臓器,特に脳が損傷する可能性がある。治療は,呼吸停止,心停止,低酸素症,低換気,および低体温からの回復を含めた支持療法による。... さらに読む につながる可能性がある(潜水に対する医学的禁忌の具体例 潜水に対する医学的禁忌の具体例 の表を参照)。ときに遅発合併症として続発性感染症が生じる。
診断
臨床的評価
画像検査
診断は主に臨床的に行う;ときに画像検査により圧外傷を確定できることがある。ときにその他の異常または臓器機能不全のため患者を評価することがある。
治療
対症療法
その他の治療は個々の特異的障害に依存する
ほとんどの圧外傷は対症療法および外来でのフォローアップを要するのみである;しかし一部の障害は生命を脅かす。生命を脅かす可能性がある圧外傷の緊急事態は肺胞または 消化管の破裂 消化管の圧外傷 潜水中に少量の空気を飲み込んだ場合,浮上中にそれが膨張し(消化管の圧外傷),引き起こされる症状は通常は自然に軽快する。 ( 潜水障害の概要および 圧外傷の概要も参照のこと。) ダイバーは潜水中,レギュレーターからの吸気が不適切なとき,または耳および副鼻腔の圧平衡を行う際に少量の空気を飲み込むことがある。この空気は浮上中に膨張し,腹部膨満感,痙攣,疼痛,げっぷ,および鼓腸を引き起こす;これらの症状は自然に軽快する。消化管破裂がまれに生じ,... さらに読む を伴うものであり,特に以下のものを呈する患者でみられる:
意識変容などの神経症状または神経学的徴候
気胸
腹膜刺激徴候
バイタルサインの異常
安定化のための初期治療には,高流量100%酸素投与(high-flow 100% oxygen)などがあり,呼吸不全が切迫しているようであれば, 気管挿管 気管挿管 人工エアウェイを必要とする患者の多くは,以下のような気管挿管による管理が可能である: 経口気管挿管(口腔から管を挿入する) 経鼻気管挿管(鼻から管を挿入する) ほとんどの場合,経鼻気管挿管よりも経口気管挿管が望ましく,喉頭直達鏡またはビデオ喉頭鏡により施行される( ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管を参照)。経口気管挿管は,経鼻気管挿管よりも通常手早く施行できるため無呼吸および重症(critically... さらに読む を行う。陽圧換気は気胸を誘発または増悪させる恐れがある。
気胸が疑われる患者で血行動態が不安定であるか, 緊張性気胸 治療 の徴候を認める場合は,径の太い(例,14G)針を第2肋間鎖骨中線上に挿入して直ちに胸腔内の減圧を図り, 胸腔ドレーン 外科的胸腔ドレナージ 外科的胸腔ドレナージとは胸腔に外科用ドレーンを挿入し,空気または液体を排出する手技である。 再発性,持続性,外傷性,大きい,緊張性,または両側性の 気胸 陽圧換気下の患者における気胸 症状を伴うまたは繰り返す大量の 胸水 膿胸または肺炎随伴性胸水 さらに読む を留置する。神経症状または 動脈ガス塞栓 動脈ガス塞栓症 動脈ガス塞栓症は,悲惨な転帰を招きうる病態であり,気泡が動脈に入るか,動脈内で形成されることで血流に閉塞が生じ,組織の虚血を来す。動脈ガス塞栓症は中枢神経系の虚血を引き起こす可能性があり,急速な意識消失,その他の中枢神経系症候,またはその両方を来しうる;他の臓器も侵すことがある。診断は臨床的に行い,おそらく画像検査により裏付けされる。治療は100%酸素の投与および緊急的 再加圧である。... さらに読む のその他の所見がある患者は,準備が整い次第直ちに治療のため 再圧チャンバー 再圧治療 再圧治療では,1気圧を超える気圧に加圧され密閉されたチャンバー内で,数時間100%酸素を投与し,その後チャンバーを徐々に大気圧まで減圧する。ダイバーでは,この治療法は主に 減圧症および 動脈ガス塞栓症に用いられる。治療開始までの時間が短いことが良好な転帰と関連しているが,治療は浮上から数日以内であればいつでも開始すべきである。治療にかかわらず,重度の損傷は予後不良を示唆する。未治療の気胸では,再圧治療の実施前または開始時に胸腔ドレーンを... さらに読む へ搬送する。
状態が安定すれば,持続する特定の型の圧外傷に対する治療を行う。
重度のまたは反復する潜水関連障害で治療を受けた患者は,潜水医学の専門家に相談するまで,潜水に復帰すべきではない。
要点
圧外傷のほとんどは耳のものである。
生命を脅かす恐れのある症候(神経症状,気胸,腹膜刺激徴候,バイタルサインの異常)がない限り,圧外傷には対症療法で十分である。
生命を脅かす可能性がある傷害がある患者には,100%酸素投与および必要に応じてその他の安定化処置を行う。
状態が安定すれば,持続する特定の型の圧外傷に対する治療を行う。
より詳細な情報
Divers Alert Network: 24-hour emergency hotline, 919-684-9111
Duke Dive Medicine: Physician-to-physician consultation, 919-684-8111