遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチ

執筆者:Matt Demczko, MD, Mitochondrial Medicine, Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2020年 4月
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遺伝性代謝疾患(先天性代謝異常症)は大半がまれであるため,診断するには強く疑う必要がある。適切な時期に診断を下すことができれば,早期治療が可能となり,急性および慢性の合併症や発達障害,さらには死を回避できる可能性がある。

評価

症状と徴候は非特異的となる傾向があり,それらは遺伝性代謝疾患以外の原因(例,感染)によって生じることの方が多いため,そうしたより可能性の高い原因も検討すべきである。

病歴聴取と身体診察

新生児期に発症する疾患は,より重篤となる傾向があり,そうした疾患の多くで典型的にみられる臨床像としては以下のものがある:

  • 嗜眠

  • 哺乳不良

  • 嘔吐

  • 痙攣発作

発症時期が比較的遅い疾患では,発育および発達が障害される傾向があるが,その他にも嘔吐,痙攣発作,および筋力低下が起こりうる。

発育遅滞は,同化の低下または異化の亢進を示唆するが,その原因としては,エネルギー産生基質の利用可能性の低下(例,糖原病)と,エネルギーまたはタンパク質の利用効率の低下(例,有機酸血症,尿素サイクル異常症)がある。

発達遅滞は,脳における慢性的なエネルギー欠乏(例,酸化的リン酸化障害),脳に必要なエネルギー基質以外の炭水化物の供給不足(例,無治療のガラクトース血症におけるウリジン-5-二リン酸-ガラクトース[UDP-ガラクトース]の欠損),または脳における慢性的なアミノ酸欠乏(例,フェニルケトン尿症におけるチロシンの欠乏)を反映している。

神経筋症状(痙攣発作,筋力低下,筋緊張低下,ミオクローヌス,筋肉痛,脳卒中,または昏睡)は,脳(例,糖原病I型における低血糖発作,ミトコンドリア酸化的リン酸化障害における脳卒中)または筋(例,筋型糖原病における筋力低下)における急性のエネルギー欠乏を示唆する。神経筋症状はまた,脳への毒性化合物の蓄積(例,尿素サイクル異常症における高アンモニア血症性昏睡)または組織破壊(例,長鎖ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素欠損症または筋型糖原病の患者における横紋筋融解症およびミオグロビン尿)を反映している場合もある。

先天性脳奇形は,胎児の発育中におけるエネルギー(例,ピルビン酸脱水素酵素欠損症におけるATP産生の減少)または重要な前駆体(例,7-デヒドロコレステロール還元酵素の欠損症つまりSmith-Lemli-Opitz症候群におけるコレステロール減少)の利用可能性の低下を反映している場合もある。

自律神経症状は,グルコース消費量の増加またはグルコース産生量の減少による低血糖から生じる場合(例,糖原病または遺伝性フルクトース不耐症における嘔吐,発汗,蒼白,および頻脈)と,代謝性アシドーシスから生じる場合(例,有機酸血症における嘔吐およびクスマウル呼吸)がある。一部の病態では両方が生じる(すなわち,プロピオン酸血症ではアシルCoAの蓄積により代謝性アシドーシスが起こり,それにより糖新生が阻害されて低血糖を来す)。

新生児期以降の非生理的黄疸は,内因性の肝疾患を反映したものであるのが通常であり,特に肝酵素上昇を伴う場合はその可能性が高いが,遺伝性代謝疾患に起因する場合もある(例,無治療のガラクトース血症,遺伝性フルクトース不耐症,チロシン血症I型)。

体液の異常な匂いは,特定の化合物の蓄積を反映したものである(例,イソ吉草酸血症における蒸れた足のような匂い,メープルシロップ尿症における甘い匂い,フェニルケトン尿症におけるネズミ臭またはカビ臭,チロシン血症における茹でたキャベツのような匂い)。

空気への曝露により尿の変色がみられる疾患も存在する(例,アルカプトン尿症では暗褐色,ポルフィリン症では紫褐色)。

臓器腫大は,基質の分解反応の障害による臓器細胞中への基質の蓄積を反映したものである場合がある(例,肝型糖原病および多くのライソゾーム病における肝腫大,糖原病II型における心拡大)。

眼病変としては,ガラクトキナーゼ欠損症または古典的ガラクトース血症における白内障や,酸化的リン酸化障害における眼筋麻痺および網膜変性などがある。

初回検査

遺伝性代謝疾患が疑われる場合は,まず新生児スクリーニング検査の結果を検討し,基本的な代謝スクリーニング検査をオーダーすることにより評価を開始するが,典型的に選択される項目としては以下のものがある:

  • グルコース

  • 電解質およびアニオンギャップの算出

  • 血算および末梢血塗抹検査

  • 肝機能検査

  • アンモニア値

  • 血清アミノ酸値

  • 尿検査

  • 尿中有機酸

グルコースの測定では,低血糖または高血糖を検出できるが,食事時間に対する測定のタイミングを調整しなければならない場合がある(例,糖原病における空腹時低血糖)。

電解質の測定により,代謝性アシドーシスが検出され,アニオンギャップの有無が判定されるが,代謝性アシドーシスの確認には動脈血ガス分析が必要になる場合がある。アニオンギャップ正常のアシドーシスは,尿細管損傷を引き起こす遺伝性代謝疾患において発生する(例,ガラクトース血症チロシン血症I型)。アニオンギャップ開大性のアシドーシスは,メチルマロン酸血症プロピオン酸血症など,滴定酸の蓄積が典型的にみられる遺伝性代謝疾患で発生するが,乳酸アシドーシスによっても引き起こされることがある(例,ピルビン酸脱炭酸酵素欠損症またはミトコンドリア酸化的リン酸化障害におけるもの)。アニオンギャップの開大がみられる場合は,乳酸濃度およびピルビン酸値も測定すべきである。乳酸/ピルビン酸比が上昇していれば,ピルビン酸代謝異常症による酸化的リン酸化障害(乳酸/ピルビン酸比が正常となる)は除外される。

血算および末梢血塗抹検査では,赤血球のエネルギー欠乏または白血球異常による溶血(例,一部のペントースリン酸経路の疾患および糖原病Ib型でみられるもの)と,代謝物の蓄積による血球減少(例,プロピオニルCoAの蓄積によるプロピオン酸血症における好中球減少)を検出できる。

肝機能検査では,肝細胞の損傷,機能不全,またはその両方を検出できる(例,無治療のガラクトース血症,遺伝性フルクトース不耐症,チロシン血症I型におけるもの)。

アンモニア値は,尿素サイクル異常症,有機酸血症,および脂肪酸酸化障害において上昇する。

尿検査では,ケトン尿症(糖原病の一部および多数の有機酸血症においてみられる)を検出でき,低血糖(ときにアシドーシスを伴う)の存在下でケトン体が認められなければ脂肪酸酸化障害または高インスリン血症が示唆される。

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特異的検査および確定診断検査

上記の簡易なスクリーニング検査のいずれかで遺伝性代謝疾患が支持された場合は,より特異的な検査が適応となる可能性がある。糖代謝物,ムコ多糖,アミノ酸,有機酸は,クロマトグラフィーおよび質量分析法を用いた直接測定が可能である。血漿中アミノ酸の定量検査には,アシルカルニチンの血漿中プロファイルを含めるべきである。尿中有機酸分析には,アシルカルニチンの尿中プロファイルを含めるべきである。

スクリーニングおよび初期検査によってある疾患または疾患群が示唆された後,確定診断検査として一般には遺伝子配列決定から開始し,すでに知られている数百の変異の中から1つを検出する。現在では必要とされる機会はより少ないものの,その他の確定診断検査として,生検(例,肝腫大を伴う他の疾患と肝型糖原病を鑑別するための肝生検,ミトコンドリアミオパチーにおける赤色ぼろ線維を検出するための筋生検)および酵素検査(例,ライソゾーム病の診断のために血球および皮膚細胞を使用する)などもある。

正常な状態では検出できない症状,徴候,または定量的な生化学的異常を検出するため,慎重な判断の下で負荷試験が施行される。高感度の代謝物検出法が利用できるようになったことから,負荷試験の必要性は低下してきたが,現在でもときに行われている具体的な例としては,絶食試験(例,肝型糖原病における低血糖誘発のため),誘発試験(例,遺伝性フルクトース不耐症の症状誘発のためのフルクトース負荷,肝型糖原病におけるグルカゴン負荷[高血糖を認めない場合この疾患が示唆される]),身体負荷(例,筋型糖原病において乳酸産生およびその他の変形を誘発するための運動負荷試験)などが挙げられる。負荷試験には何らかのリスクを伴う場合が多いため,管理の行き届いた環境下,出現した症状と徴候を消失させるための明確な計画を立てた上で施行しなければならない。

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