β酸化経路の異常

執筆者:Matt Demczko, MD, Mitochondrial Medicine, Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2020年 4月
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    この過程には遺伝性の障害が数多く存在するが,典型的なものでは空腹時に低血糖および代謝性アシドーシスを呈し,心筋症および筋力低下を引き起こすものもある。

    β酸化経路の異常は,脂肪酸・グリセロール代謝異常症に含まれる(を参照)。

    遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチおよび遺伝性代謝疾患が疑われる場合の検査も参照のこと。

    アセチルCoAはβ酸化サイクルの反復により脂肪酸から生成される。脂肪酸を完全に異化するためには,炭素鎖の長さ(超長鎖,長鎖,中鎖,および短鎖)に特異的な4つの酵素(アシルCoA脱水素酵素,ヒドラターゼ,ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素,およびリアーゼ)の一式が必要となる。脂肪酸酸化障害の遺伝形式は全て常染色体劣性である。

    表&コラム

    中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCADD)

    この欠損症はβ酸化サイクルの障害の中で最も頻度が高く,米国の多くの州で拡大新生児スクリーニングに組み込まれている。

    臨床像は典型的には生後2~3カ月後にみられ始め,通常は絶食に続いて(早ければ12時間後)発生する。嘔吐に加えて嗜眠を来し,急速に進行して痙攣発作や昏睡を呈し,ときに死に至る(乳児突然死症候群として現れることもある)。発症時には低血糖,高アンモニア血症,ならびに尿中および血清中ケトン体の予想外の低値を呈する。代謝性アシドーシスがしばしばみられるが,晩期に出現する場合もある。

    MCADDの診断は,血漿中の中鎖脂肪酸カルニチン抱合体もしくは尿中のグリシンの検出,または培養線維芽細胞における酵素欠損の証明によるが,DNA検査により大半の症例で確定できる。

    急性発症の治療は輸液維持速度の1.5倍での10%ブドウ糖液の静脈内投与( see page 維持必要量)によるが,医師によっては急性発症時のカルニチン補充も支持されている。予防法は低脂肪高炭水化物食療と長時間の絶食の回避である。また夜間絶食中の安全性を高めるため,しばしばコーンスターチ療法が用いられる。

    長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素欠損症(LCHADD)

    この欠損症は2番目に多い脂肪酸酸化障害である。MCADDと共通の特徴が多くあるが,心筋症;筋労作に伴う横紋筋融解症,クレアチンキナーゼ値の大幅な上昇,およびミオグロビン尿;末梢神経障害;ならびに肝機能異常などを呈することもある。胎児がLCHADDの母親は,しばしば妊娠期間中にHELLP症候群(溶血,肝酵素値上昇,および血小板数低値)を発症する。

    LCHADDの診断は,有機酸分析での長鎖ヒドロキシ酸の過剰,およびアシルカルニチンプロファイルにおける長鎖ヒドロキシ酸のカルニチン抱合体またはアシルグリシンプロファイルにおけるグリシン抱合体の存在に基づく。LCHADDは皮膚線維芽細胞の酵素分析によって確定できる。

    急性増悪時の治療には,水分補給,ブドウ糖大量投与,床上安静,尿アルカリ化,およびカルニチン補充がある。長期治療には,高炭水化物食,中鎖脂肪酸トリグリセリドの補充,絶食および激しい運動の回避などがある。

    極長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(VLCADD)

    この欠損症はLCHADDと類似するが,一般的に重大な心筋症を合併する。

    グルタル酸血症II型

    脂肪酸アシル脱水素酵素の補酵素から電子伝達鎖への電子伝達における障害は,全ての鎖長の脂肪酸が関与する反応に影響を与え(マルチプルアシルCoA脱水素酵素欠損症),さらにいくつかのアミノ酸の酸化にも影響を与える。

    そのため臨床像には,空腹時低血糖,重度の代謝性アシドーシス,高アンモニア血症が含まれる。

    グルタル酸血症II型の診断は,有機酸分析におけるエチルマロン酸,グルタル酸,2-および3-ヒドロキシグルタル酸,その他のジカルボン酸の上昇,ならびにタンデム質量分析におけるグルタリルカルニチン,イソバレリルカルニチン,その他のアシルカルニチンの濃度上昇による。DNA解析により診断を確定できる。

    グルタル酸血症II型の治療は,リボフラビンが一部の患者で効果的である可能性がある以外,MCADDと同様である。

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