Msd マニュアル

Please confirm that you are a health care professional

honeypot link

排卵障害による異常子宮出血(AUB-O)

(機能性子宮出血)

執筆者:

JoAnn V. Pinkerton

, MD, University of Virginia Health System

レビュー/改訂 2020年 12月
ここをクリックすると、 家庭版の同じトピックのページに移動します
本ページのリソース

排卵障害による異常子宮出血(AUB-O)とは,診察および超音波検査で,通常の原因(婦人科の器質的異常,がん,炎症,全身性疾患,妊娠,妊娠合併症,経口避妊薬や特定の薬物の使用)が認められない,異常な子宮出血である。治療は通常,経口避妊薬などのホルモン療法または非ステロイド系抗炎症薬により行う。

排卵障害による異常子宮出血は,異常子宮出血(AUB)の最も頻度の高い原因であり,45歳以上の女性(症例の50%超)と若年女性(症例の20%)で最もよくみられる。

約90%の症例が無排卵性であり,10%が排卵性である。

病態生理

無排卵周期の間は,黄体は形成されない。このため,プロゲステロンの正常な周期的分泌が起こらず,エストロゲンが拮抗作用を受けずに子宮内膜を刺激する。プロゲステロンがない状態では,子宮内膜は増殖を続け,最終的には血流供給を超える;すると子宮内膜は不完全に脱落し,不規則に,またときとして大量にまたは長期間出血する。この異常な過程が繰り返されると,子宮内膜は過形成になることがあり,ときとして異型細胞やがん細胞を伴う。

排卵性の異常子宮出血ではプロゲステロン分泌が長引く;おそらくエストロゲンが出血の閾値に近い低値を保つため(月経中に起こるように),子宮内膜の不規則な脱落が生じる。肥満女性では,排卵性AUBはエストロゲン値が高い場合に起こり,無月経と不規則または長引く出血が交互に生じる。

合併症

病因

PALM-COEIN分類

PALM-COEIN分類

無排卵性AUBは,無排卵を引き起こすあらゆる疾患や病態によって生じうる(無排卵性無月経の主な原因 無排卵性無月経の主な原因 無排卵性無月経の主な原因 の表を参照)。無排卵はその大半が以下に該当する:

閉経期では,無排卵性AUBは卵巣機能不全または不全(ovarian insufficiency or failure)の早期徴候であることがある;卵胞は発育するが,卵胞刺激ホルモン(FSH)の上昇にもかかわらず,排卵を促すのに十分なエストロゲンが産生されない。 子宮内膜症 子宮内膜症 子宮内膜症では,骨盤内の子宮腔以外の部位に機能をもった子宮内膜組織が生着する。症状は生着の部位によって異なり,月経困難症,性交痛,不妊,排尿困難,排便時の痛みなどがみられる。症状の重症度は病期と無関係である。診断は直接観察のほか,ときに生検(通常は腹腔鏡下)による。治療法としては,抗炎症薬,卵巣機能と子宮内膜組織の増殖を抑制する薬剤,子宮... さらに読む の女性では約20%に無排卵性AUBを伴うが,その機序は不明である。

排卵性AUBは以下の場合に起こる可能性がある:

  • 多嚢胞性卵巣症候群(プロゲステロン分泌が長引くため)

  • 子宮内膜症(排卵に影響を与えない)

他の原因としては,卵胞期が短いことおよび黄体機能不全(子宮内膜への不十分なプロゲステロン刺激による)がある;排卵前のエストロゲンの急激な減少から少量の性器出血を起こしうる。

病因論に関する参考文献

症状と徴候

典型的な月経と比較した場合,異常子宮出血の特徴として以下が考えられる:

  • 出血がより頻回に起こる(21日未満の間隔―頻発月経)

  • 月経中により多く(7日超または80mL超)の出血がみられる(過多月経)

  • 出血が月経と月経の間に頻繁かつ不規則に起こる(不正子宮出血)

  • 月経中により多くの出血,および月経と月経の間に頻繁かつ不規則な出血が生じる(過多月経・不正出血[menometrorrhagia])

無排卵性AUBは予測不可能な時に予測不可能なパターンで起こり,基礎体温の周期的な変化を伴わない。

診断

  • 可能性のある他の原因の除外

  • 血算,妊娠検査,ホルモン測定(例,甲状腺刺激ホルモン[TSH],プロラクチン)

  • 通常,経腟超音波検査および子宮内膜採取

  • しばしばソノヒステログラフィーおよび/または子宮鏡検査

性器出血の量や時期が正常な月経と一致しない場合には異常子宮出血の評価を行うべきである。

排卵障害による異常子宮出血は除外診断であり,同様の 性器出血 性器出血 異常性器出血としては以下のものがある: 月経の量が非常に多い(過多月経)または頻度が多い(頻発月経) 月経に関連のない出血が,月経と月経の間に不規則に起こる(不正子宮出血) 月経中の量が非常に多く,月経と月経の間に不規則に起こる(過多月経・不正出血[menometrorrhagia]) 初経前の出血 さらに読む を起こす他の病態を除外しなければならない。思春期や閉経期の女性でも,妊娠を除外すべきである。特に貧血を認めるまたは出血のために入院が必要となる若年女性では,凝固障害を考慮すべきである。規則的な月経周期に長引くまたは多量の出血を伴う場合(排卵性の異常子宮出血の可能性)は,器質的な異常を示唆する。

臨床検査

典型的にはいくつかの検査を実施する:

  • 尿妊娠検査または血液妊娠検査

  • 血算

  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH),プロラクチン,およびときにプロゲステロン

妊娠可能年齢の全ての女性に妊娠検査を行うべきである。

血算はルーチンに行われる。しかしながら,多量出血を訴える女性でヘマトクリットが正常なことや,定期的に重い月経がある女性で貧血が重度であることがある。血清フェリチン値は体内の貯蔵鉄量を反映し,慢性的で多量の出血を認める場合に測定される。

甲状腺疾患と高プロラクチン血症は性器出血の一般的な原因であるため,乳汁漏出を認めない場合でも,TSH値を通常は測定し,またプロラクチン値を測定する。

出血が無排卵性のものか排卵性のものかを判定するために,黄体期(通常の月経サイクル14日目以降またはこの期間で基礎体温が上昇した後)に血清プロゲステロン値を測定する医師もいる。値が3ng/mL以上( 9.75nmol/L)の場合は排卵が起こったことを示す。

他の検査は病歴および身体診察の結果によって行い,以下を含む:

臨床的に適応となる全ての検査結果が正常の場合,診断は排卵障害による異常子宮出血となる。

追加検査

経腟超音波検査は以下のいずれかを認める場合に施行する:

  • 子宮内膜癌の危険因子(例,肥満,糖尿病,高血圧,多嚢胞性卵巣症候群,慢性の無排卵,男性型多毛症,長期にわたるエストロゲン単独の曝露と関連する他の病態)

  • 年齢35歳以上(女性に危険因子がある場合はこれより早く)

  • 経験的ホルモン療法にもかかわらず持続する出血

  • 内診にて骨盤内臓器を十分に診察できない場合

  • 卵巣または子宮の異常を示唆する臨床所見

これらの基準には異常子宮出血を認めるほぼ全ての女性が含まれる。

経腟超音波検査では,患者を放射線に曝露させることがなく,大部分のポリープ,筋腫,その他の腫瘤,卵巣の異常,子宮腺筋症,子宮内膜癌,および限局性の子宮内膜肥厚部位などの器質的異常を検出できる。限局性の肥厚が検出された場合,より小さな子宮内腫瘤(例,小さな子宮内膜ポリープ,粘膜下筋腫)を同定するためさらに検査が必要なことがある。ソノヒステログラフィー(子宮へ生理食塩水を注入し超音波検査を行う)はこれらの異常を評価するのに有用である;より侵襲的な検査である子宮鏡検査が適応となるかを決定するため,または子宮内腫瘤の切除を計画するために用いることができる。あるいは,ソノヒステログラフィーを行わずに子宮鏡検査を行うこともある。どちらも診察室で実施可能である。MRIにより,手術を計画する上で有用な詳細な画像を得られるが,高価であり,AUB患者に対する第1選択の画像検査ではない。

子宮内膜採取では,約25%の子宮内膜しか分析されないが,異常細胞の検出感度は約97%である。この検査は通常以下のいずれかの女性において,子宮内膜増殖症や悪性腫瘍を除外するために推奨される:

  • 35歳以上で子宮内膜癌の危険因子が1つ以上ある(上記参照)

  • 35歳未満で子宮内膜癌の危険因子が複数ある(上記参照)

  • 持続的,不規則もしくは多量の出血,または治療にもかかわらず異常なパターンで出血が再発する

  • 経腟超音波検査中に検知された,厚さが4mmを超える,限局性,または不規則な子宮内膜肥厚

  • 超音波検査所見で結論に至らない

狙い生検(子宮鏡下で行う)は子宮内膜腔を直接観察し異常組織を標的とするために行われることがある。ほとんどの子宮内膜生検検体は増殖性または非同期性の子宮内膜であり,分泌期の子宮内膜を認めないため,無排卵が確定する。

神経性やせ症が疑われる場合に不整脈(特に徐脈)の有無を確認するために,または患者が動悸を訴える場合に心電図検査を行う。

治療

  • 通常は非ステロイド系抗炎症薬,トラネキサム酸またはホルモン療法による出血のコントロール

  • 子宮内膜増殖症の女性では子宮内膜癌の予防

鉄欠乏性貧血は経口または非経口鉄剤で治療すべきである。

出血

排卵障害による異常子宮出血に対する非ホルモン療法はホルモン療法よりもリスクや有害作用が少なく,出血が起こった際に間欠的に投与できる。主に妊娠を望む女性,ホルモン療法を避けたい女性,または規則的に多量の出血(過多月経)がみられる女性の治療に用いられる。選択肢としては以下のものがある:

  • 非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)はプロスタグランジンを低下させることで出血を25~35%軽減し,また月経困難症を緩和する。

  • トラネキサム酸はプラスミノーゲン活性化因子を阻害し,月経時の出血を40~60%減少させる。

ホルモン療法(例,経口避妊薬,プロゲストーゲン,長時間作用型プロゲスチン放出子宮内避妊器具[IUD])は避妊を望む女性や閉経期の女性で最初に試されることが多い。この治療法には以下の作用がある:

  • 子宮内膜増殖を抑制する

  • 予測可能な出血パターンを回復する

  • 月経血を減少させる

ホルモン療法は通常出血が数カ月間コントロールされるまで行われる。

経口避妊薬(OC)は一般的に使用される。OCは,周期的または持続的に用いることで,排卵障害による異常子宮出血をコントロールできる。限られたデータではあるが以下の作用が示されている:

  • 月経時の出血を40~50%減少する

  • 乳房圧痛および月経困難症を緩和する

  • 子宮体がんおよび卵巣がんのリスクを軽減する

プロゲストーゲンは,以下の場合に単剤で使うことができる:

  • エストロゲンの禁忌がある(例,心血管系危険因子や深部静脈血栓症の既往がある患者)

  • 患者がエストロゲンを拒否する

  • 混合型OCを約3カ月使用しても無効である

消退出血は,混合型OCよりも周期的なプロゲスチン療法(酢酸メドロキシプロゲステロン10mg/日,経口または酢酸ノルエチステロン2.5~5mg/日,経口)を月に21日間行った方が予測しやすい場合がある。天然(微粒子化)プロゲステロン200mg/日を月に21日間周期的に投与することもある(特に妊娠の可能性がある場合);しかしながら,眠気が生じることがありまたプロゲスチンほど出血を減少させない。

周期的プロゲスチンまたはプロゲステロンを服用している患者が妊娠を防ぎたい場合は避妊法を用いるべきである。避妊法の選択肢としては,以下のものがある:

  • レボノルゲストレル放出IUD:6カ月後までに最大97%の避妊効果があり,また月経困難症を改善する。

  • 酢酸メドロキシプロゲステロンデポ剤の注射:無月経を起こし避妊効果があるが,不規則な少量の性器出血や可逆性の骨量減少が起こることがある。

他の治療法として排卵障害による異常子宮出血の治療にときに用いられるものには以下のものがある:

  • ダナゾール:月経時の出血を減少させる(子宮内膜萎縮を起こすことによる)が,アンドロゲン作用による多くの有害作用があり,低用量もしくは経腟製剤を用いることで軽減することがある。効果を得るためには,ダナゾールは通常,継続的に約3カ月間使用すべきである。通常は他の治療法が禁忌の場合にのみ用いられる。

  • ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト:これらの薬物は卵巣のホルモン産生を抑制し無月経を起こす;術前に筋腫や子宮内膜を縮小させる目的で使用される。しかしながら,低エストロゲン状態による有害作用(例,骨粗鬆症)のため使用は6カ月間に制限される;これらはしばしば低用量ホルモン療法と同時に使用される。

麦角誘導体はまれにしか効果的とならないため,排卵障害による異常子宮出血の治療として推奨されない。

妊娠を望み,出血が多量でない場合には,クロミフェン(50mg,経口,月経周期の5日目から9日目まで)による排卵誘発を試みてもよい。

頸管拡張・内膜掻爬(D&C)を伴う子宮鏡検査は診断だけでなく治療にも有用である;無排卵性出血が重度の場合やホルモン療法が無効な場合には第1選択の治療となることがある。子宮鏡検査中にポリープや筋腫などの器質的原因を同定したり除去することがある。この手技は出血を減少させる可能性があるが,子宮腔癒着のために無月経が生じることもある(アッシャーマン症候群)。

子宮内膜アブレーション(例,レーザー,ローラーボール,レゼクトスコープ,熱または凍結による)は60~80%において出血のコントロールに役立つことがある。アブレーションは子宮摘出術よりも低侵襲で,回復時間が短い。当初アブレーションが効果的で,その後に多量の出血が再発した場合は,アブレーションを繰り返すことがある。この治療法で出血がコントロールできない場合や,出血が再発し続ける場合は,原因は 子宮腺筋症 子宮腺筋症 子宮腺筋症は,子宮筋組織内に子宮内膜の腺および間質が認められる病態であり,子宮をびまん性に腫大させる傾向がある。 子宮腺筋症では,異所性子宮内膜組織がびまん性の子宮増大を促進する(球状の子宮増大)。子宮の大きさが2倍から3倍になることがあるが,典型的には妊娠12週時の子宮の大きさを超えない。 真の有病率は不明であるが,これは一部には診断が難しいことによる。しかしながら, 子宮内膜症,... さらに読む である可能性があり,排卵障害による異常子宮出血によるものではない。子宮内膜アブレーション後も妊娠の可能性はある。アブレーション後の妊娠率は5%にまで達することがある。アブレーションは瘢痕化を引き起こし,そのため後に子宮内膜の検体採取が困難になる可能性がある。

子宮摘出術(腹式または腟式)はホルモン療法を拒否する患者や,他の治療にもかかわらず症候性貧血がみられるか,または持続的で不規則な出血によって生活の質(QOL)が低下している場合に推奨されることがある。

緊急措置は出血が非常に多量な場合にごくまれに必要とされる。電解質輸液,血液製剤,また必要に応じて他の手段を用いて患者の血行動態を安定させる。出血が続く場合は,子宮に膀胱カテーテルを挿入し,30~60mLの水で膨らませ,タンポナーデにより止血する。患者の状態が安定したら,出血をコントロールするためにホルモン療法を行う。

ごくまれに,無排卵性AUBによる非常に多量の出血がみられる患者で,結合型エストロゲン剤の静注(25mg,4~6時間毎,合計4回)が行われることがある。この治療により約70%の患者で出血が止まるが,血栓症のリスクは上昇する。その直後から混合型OCを投与し,これは数カ月間出血がコントロールされるまで継続する場合がある。

子宮内膜増殖症

閉経後女性では,子宮内膜異型増殖症の治療として通常,子宮摘出を行う。

閉経前の女性では,子宮内膜異型増殖症は酢酸メドロキシプロゲステロン(40mg,経口,1日1回,3~6カ月間)またはレボノルゲストレル放出IUDで治療を行うことがある(1 治療に関する参考文献 排卵障害による異常子宮出血(AUB-O)とは,診察および超音波検査で,通常の原因(婦人科の器質的異常,がん,炎症,全身性疾患,妊娠,妊娠合併症,経口避妊薬や特定の薬物の使用)が認められない,異常な子宮出血である。治療は通常,経口避妊薬などのホルモン療法または非ステロイド系抗炎症薬により行う。 ( 性器出血も参照のこと。) 排卵障害による異常子宮出血は,異常子宮出血(AUB)の最も頻度の高い原因であり,45歳以上の女性(症例の50%超)と... さらに読む )。約3~6カ月後に,子宮内膜を採取する。子宮内膜生検を再度行い増殖症の消失が確認された場合には,周期的に酢酸メドロキシプロゲステロン(5~10mg,経口,1日1回,毎月10~14日間)を,妊娠を望む場合にはクロミフェンを投与することがある。この治療を3カ月間行い,その後通常は子宮内膜生検により反応を評価する。再度行った子宮内膜生検が異型増殖症の持続や進行を示す場合には,子宮摘出が必要になる場合がある。

より良性の嚢胞性または腺腫性の増殖症は通常,周期的高用量プロゲスチン療法(例,周期的な酢酸メドロキシプロゲステロン投与)または,プロゲスチンもしくはレボノルゲストレル放出IUDで治療可能である;約3カ月後に再度検体を採取する。

治療に関する参考文献

要点

  • 排卵障害による異常子宮出血は異常子宮出血の最も頻度の高い原因である。

  • 治療可能な出血原因がないか検査する;検査は妊娠検査,血算,貧血がみられる場合は貯蔵鉄量を確認するためにフェリチン,ホルモン値(TSH,プロラクチン,プロゲステロン)の測定,ならびに超音波検査またはオフィスヒステロスコピーによる検査および子宮内膜採取が行われることが多い。

  • リスクのある患者では,子宮内膜増殖症の検査を行い,治療する。

  • 出血をコントロールするために薬剤が必要な場合,NSAID,トラネキサム酸,OC,レボノルゲストレル放出IUD,または他のホルモン剤で治療することで,通常は効果がみられる。

ここをクリックすると、 家庭版の同じトピックのページに移動します
家庭版を見る
quiz link

Test your knowledge

Take a Quiz! 
ANDROID iOS
ANDROID iOS
ANDROID iOS
TOP