妊娠初期の骨盤痛(下腹部痛)

執筆者:Emily E. Bunce, MD, Wake Forest School of Medicine;
Robert P. Heine, MD, Wake Forest School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 12月
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骨盤痛(下腹部痛)は妊娠初期に一般的で,重篤または軽度の疾患を伴うことがある。骨盤痛の原因となる病態には,性器出血も引き起こすものがある。これらの疾患(例,異所性妊娠の破裂,出血性黄体嚢胞破裂)の中には,出血が重度で,ときに出血性ショックを引き起こすものがある。

上腹部および腹部全体の痛みの原因は妊娠していない患者の場合と同様である。

病因

妊娠初期に生じる骨盤痛の原因(骨盤痛の主な原因の表を参照)としては,以下のものが考えられる:

  • 産科的

  • 婦人科的,非産科的

  • 非婦人科的

特異的な疾患が同定されない場合がある。

妊娠初期における骨盤痛の最も頻度の高い産科的原因は以下のものである:

  • 妊娠中の正常な変化

  • 自然流産(切迫,進行,不全,完全,敗血症性または稽留)

最もよくみられる重篤な産科的原因は以下のものである:

非産科的で婦人科的な原因には付属器捻転を含むが,妊娠中は黄体が卵巣を腫大させ,卵巣が茎捻転を起こすリスクが高まるため,妊娠中により頻度が高い。

一般的な非婦人科的原因には,以下のように様々なよくみられる消化管疾患および泌尿生殖器疾患を含む:

妊娠後期における骨盤痛は,陣痛により,または骨盤痛の原因となる多くの非産科的原因により生じることがある。

表&コラム

評価

妊娠初期における骨盤痛の患者の評価では,まず重篤となりうる治療可能な原因(例,破裂した,または未破裂の異所性妊娠,敗血症性流産,虫垂炎)を除外すべきである。

病歴

現病歴には患者の経妊回数および経産回数,痛みの発症(突然または緩徐),位置(限局性またはびまん性),動作が痛みに及ぼす影響,および性質(痙攣性または仙痛)を含めるべきである。違法に試みられた人工中絶の病歴は敗血症性流産を示唆するが,そのような病歴がない場合にも敗血症性流産が否定されるわけではない。

システムレビュー(review of systems)では,原因を示唆する泌尿生殖器または消化管の症状がないか検討すべきである。

重要な泌尿生殖器症状としては以下のものがある:

重要な消化管症状としては以下のものがある:

既往歴の聴取では,骨盤痛の原因として知られている疾患(例,炎症性腸疾患,過敏性腸症候群,腎結石症,異所性妊娠,自然流産)がないか検討すべきである。これらの疾患の危険因子を同定すべきである。

異所性妊娠の危険因子としては以下のものがある:

  • 異所性妊娠の既往(最も重要)

  • 性感染症または骨盤内炎症性疾患の既往

  • 喫煙

  • 子宮内避妊器具の使用

  • 年齢35歳以上

  • 腹部手術の既往(特に卵管手術)

  • 排卵誘発薬の使用または生殖補助医療

  • 複数のセックスパートナー

  • 腟洗浄

自然流産の危険因子としては以下のものがある:

  • 年齢35歳以上

  • 自然流産の既往

  • 喫煙

  • 薬物(例,コカイン,アルコール,多量のカフェイン)

  • 子宮の異常(例,平滑筋腫,癒着)

腸閉塞の危険因子としては以下のものがある:

  • 腹部手術の既往

  • ヘルニア

身体診察

身体診察はバイタルサイン,特に発熱および循環血液量減少の徴候(低血圧,頻脈)の評価から始める。

評価は腹部の診察および内診に焦点を置く。腹部を触診して,圧痛,腹膜刺激徴候(反跳痛,筋硬直,筋性防御),および子宮の大きさを確認し,打診して鼓音を調べる。ドプラ超音波検査用のプローブを用いて胎児心音を確認する。

内診には頸管の視診を含み,分泌物,開大,および出血がないか確認する。分泌物を認める場合は,採取し培養検査を行うべきである。腟円蓋に存在する血液や凝血塊は愛護的に取り除く。

双合診では頸部移動痛,付属器の腫瘤または圧痛,および子宮の大きさを確認すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 血行動態不安定(低血圧,頻脈,または両方)

  • 失神または失神様の状態

  • 腹膜刺激徴候(反跳痛,筋硬直,筋性防御)

  • 発熱,悪寒,および膿性帯下

  • 性器出血

所見の解釈

特定の所見が骨盤痛の原因を示唆することがあるが,常に診断に有用であるわけではない(骨盤痛の主な原因の表を参照)。

妊娠初期に骨盤痛を認める全ての女性で,他のいかなる所見にかかわらず,最も重篤な原因(すなわち異所性妊娠)を除外しなければならない。骨盤痛の非産科的原因(例,急性虫垂炎)を常に考慮し,妊娠していない女性の場合と同様に調べなければならない。

どんな患者でも,腹膜刺激所見(例,限局性の圧痛,筋性防御,反跳痛,筋硬直)に注意が必要である。一般的な原因としては,虫垂炎や異所性妊娠の破裂のほか,頻度は低いが卵巣嚢胞破裂などがある。しかしながら,腹膜刺激がなくてもこれらの疾患を除外することはできず,強く疑わなければならない。

原因を示唆する所見としては,以下のものがある:

  • 痛みを伴う性器出血:自然流産または異所性妊娠

  • 開大した子宮口または頸管から排出された組織:一般に,進行,不全,または完全流産

  • 発熱,悪寒,および膿性帯下:敗血症性流産(特に子宮に対する器具操作の既往または違法に試みられた人工中絶の病歴がある患者)

骨盤内炎症性疾患は妊娠中はまれであるが,起こりうる。

検査

骨盤痛の原因として産科的原因が疑われる場合は,定量的β-hCG測定,血算,血液型,Rh型判定を行うべきである。血行動態が不安定な場合(低血圧,持続する頻脈,または両方を認める)は,血液の交差適合試験を行うべきで,フィブリノーゲン値,フィブリン分解産物およびプロトロンビン時間/部分トロンボプラスチン時間(PT/PTT)を検査する。

子宮内妊娠を確定するため骨盤内超音波検査を行う。しかしながら,妊娠検査が陽性で血行動態が不安定な患者では,異所性妊娠または出血を伴う自然流産である可能性が非常に高いため,超音波検査を延期することが可能で,延期すべきである。

経腹および経腟超音波検査の両方を必要に応じて用いるべきである。子宮内が空で組織が排出されていなければ,異所性妊娠が疑われる。ドプラ超音波検査で付属器への血流が欠如または減少している場合は,付属器(卵巣)捻転が疑われる。しかしながら,自然に捻転が戻ることがあるためこの所見が常にみられるわけではない。

腹腔鏡検査は通常の検査後,依然として明らかな,かつ診断のつかない疼痛の診断目的に用いることができる。

治療

妊娠初期の骨盤痛の治療は原因に対して行う。

異所性妊娠が確定し破裂していない場合は,しばしばメトトレキサートを考慮することが可能で,もしくは外科的卵管切開または卵管切除が行われることがある。異所性妊娠が破裂または漏出している場合は,直ちに腹腔鏡下または開腹下で治療する。

自然流産の治療は流産の種類と患者の血行動態の安定性により異なる。切迫流産は経口鎮痛薬を用いて保存的に治療する。進行,不全,または稽留流産は,ミソプロストールによる薬物療法か,頸管拡張・内膜掻爬(D & C)による子宮内容除去術により治療する。敗血症性流産は子宮内容除去術に加えて,抗菌薬の静脈内投与により治療する。

血液型がRh陰性の女性に性器出血や,異所性妊娠を認める場合はRho(D)免疫グロブリンを投与すべきである。

黄体嚢胞破裂子宮筋腫変性は経口鎮痛薬を用いて保存的に治療する。

付属器捻転の治療は外科的に行う:

  • 卵巣が温存可能な場合:捻転の用手的整復

  • 卵巣が梗塞し温存不可能な場合:卵巣摘出または卵管切除を行う

要点

  • 妊娠初期における骨盤痛では常に異所性妊娠を懸念すべきである。

  • 妊娠中の急性腹症の原因として,非産科的病因を考慮する。

  • 明らかな非産科的原因が同定できない場合は,通常は超音波検査が必要である。

  • 最近の子宮に対する器具操作や人工中絶の病歴がある場合には敗血症性流産を疑う。

  • 全ての女性に対して妊娠初期に血液型およびRh型を同定する;多量の性器出血または異所性妊娠が生じた場合,Rh陰性の全ての女性にRho(D)免疫グロブリンを投与すべきである。

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