乳房症状(例, 腫瘤 乳房腫瘤(乳房のしこり) 乳房腫瘤は,あらゆる大きさの孤立した触知可能な部位を示す用語として,しこりよりも望ましい。乳房腫瘤は,患者によって偶発的または乳房自己検診中に見つかることや,ルーチンの身体診察中に医師により検出されることがある。 腫瘤は痛みを伴わないことも伴うこともあり,ときに 乳頭分泌物または皮膚変化を伴う。... さらに読む , 乳頭分泌物 乳頭分泌物 乳頭分泌物は妊娠または授乳中でない,特に妊娠可能年齢の女性で一般的な愁訴である。乳頭分泌物は,閉経後女性であっても必ずしも異常ではないが,男性では常に異常である。色に関係なく,自発性で片側性の乳頭分泌物は異常とみなされる。 乳頭分泌物は漿液性(黄色),粘液性(透明で水様性),乳白色,血液性(血性),膿性,複数の色で粘着性,または漿液血性(... さらに読む , 疼痛 乳房痛 乳房痛はよくみられる症状であり,限局性またはびまん性,片側性または両側性の場合がある。 限局性の乳房痛は通常,乳房嚢胞や乳房感染(例, 乳腺炎,膿瘍)など, 腫瘤を形成する局所的な疾患によって生じる。大部分の 乳癌は疼痛を引き起こさない。 びまん性かつ両側性の乳房痛は, 線維嚢胞性変化のほか,まれではあるがびまん性かつ両側性の乳腺炎が原因... さらに読む )は一般的なものであり,年間1500万人超が診察を受けている。90%以上の症状が良性疾患によるものであるが,常に 乳癌 乳癌 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。... さらに読む が懸念される。乳癌は頻度が高く,良性疾患に似ることがあるため,全ての乳房症状および乳房所見に対するアプローチは,最終的にがんを除外または確定することである。
評価
病歴
病歴には以下を含める:
症状の持続期間
月経および妊娠と症状の関係
疼痛,分泌物,皮膚変化の存在と種類
ホルモン療法を含む,薬物の使用
乳癌の既往歴および家族歴
前回のマンモグラフィーの日付と結果
乳房診察
診察の原則は,医師が行う場合と患者自身が行う場合で同様である。
乳房を視診して,形の非対称性,乳頭陥没,膨隆,および皮膚の陥凹形成がないか確認する(通常の姿勢については, 乳房診察 乳房診察 の図のAおよびBを参照)。大きさの左右差はよくみられるが,各乳房の輪郭は整っているはずである。両手を腰骨に押しつけたり,両手掌を額の前で合わせると(乳房診察 乳房診察 の図のCおよびDを参照),がんが明らかになることがある。これらの姿勢では胸筋が収縮するので,腫瘍の増大によりCooper靱帯が巻き込まれている場合,皮膚に微小な陥凹(dimpling)が現れ出ることがある。
乳首を軽くつまみ分泌物がないか調べ,ある場合は分泌源を同定する(例,複数の乳管かどうか)。
乳房診察
患者は座位または立位で,(A)両腕を側方に置く;(B)両腕を頭上まで挙上し胸筋筋膜と乳房を引き上げる;(C)両手を腰骨にしっかりと押しつける;または(D)額の前で両手掌を合わせ,胸筋を収縮させる。(E)腋窩の触診;図に示すようにして腕を支え,胸筋を弛緩させる。(F)患者は肩の下に枕を入れて仰臥位となり,調べる側の腕は頭上に挙上する。(G)乳房の触診は乳頭から外側へ向かって円を描くようにして進める。 |
腋窩リンパ節と鎖骨上リンパ節は,患者を座位または立位にすると最も容易に検査できる(乳房診察 乳房診察 の図のEを参照)。腋窩の診察の中に患者の腕を支えることで腕が弛緩し,腋窩深部にあるリンパ筋を触診できるようになる。
警戒すべき事項(Red Flag)
以下の所見は特に注意が必要である:
他の乳房組織と明らかに異なる感触の腫瘤または肥厚
皮膚または胸壁に固定した腫瘤
消失しない腫瘤
持続する乳房腫脹
橙皮状皮膚(乳房の皮膚のくぼみ,しわ,発赤,肥厚,または陥凹)
乳頭周囲の鱗屑を伴う皮膚
乳房の形の変化
乳頭の変化(例,陥没)
片側性の乳頭分泌物(特に血性の場合および/または自然に発生する場合)
検査
画像検査は以下を目的として行う:
スクリーニング:早期がんを発見するために無症状の女性を検査する
診断:乳房の異常(例,腫瘤,乳頭分泌物)を評価する
全ての女性に乳癌のスクリーニングを行うべきである。この考え方には全ての専門家団体が賛同しているが,スクリーニングの開始年齢や厳密な実施頻度については見解の不一致がある。
平均的リスクの女性に対する スクリーニングマンモグラフィー マンモグラフィー 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。... さらに読む の推奨は様々であるが,一般にスクリーニングは40~50歳の間に開始し,75歳または期待余命が10年未満になるまで1~2年毎に繰り返す(平均的リスクの女性に対する乳癌スクリーニングにおけるマンモグラフィーに関する推奨 平均的リスクの女性に対する乳癌スクリーニングにおけるマンモグラフィーに関する推奨 の表を参照)。乳房の線維腺組織は加齢とともに脂肪組織に置換される傾向にあり,脂肪組織は容易に異常組織と区別できることから,マンモグラフィーの効果は高齢の女性ほど高くなる。マンモグラフィーは高濃度乳房の女性では感度が低くなり,一部の州では,スクリーニングのマンモグラフィーで高濃度乳房であることが判明した場合は,その事実を患者に知らせることが義務づけられている。
マンモグラフィーでは,低線量のX線で両乳房を1方向(斜位)または2方向(斜位と頭尾)から撮影する。検出される異常所見のうち,がんに起因するものは約10~15%に過ぎない。マンモグラフィーの精度は,撮影技師の技術や経験にある程度依存し,偽陰性診断結果が15%を超えることがある。診断の参考にするためにデジタルマンモグラフィー画像をコンピュータ解析するセンターもある。このようなシステムは単独で診断に用いることは勧められないが,放射線科医が小さながんを検出する感度を高めているようである。
デジタルマンモグラフィーによる乳房トモシンセシス(3次元マンモグラフィー)は,がんの検出率をやや改善し,画像検査の再検査率を低下させる;この検査は高濃度乳房の女性で役立つ。しかしながら,この検査は従来のマンモグラフィーと比べて被曝線量がほぼ2倍である。
診断目的でのマンモグラフィーは以下を目的として行う:
腫瘤,疼痛,乳頭分泌物を評価する
病変の大きさおよび位置を特定し,周囲組織とリンパ節の画像を得る
生検をガイドする
手術後に,乳房の画像を撮影して再発の有無を確認する
診断目的でのマンモグラフィーでは,スクリーニングのマンモグラフィーよりも多くの方向からの撮影が必要である。撮影法には拡大撮影,圧迫スポット撮影などを含み,これらの手法を用いると疑いのある部位をよりよく視覚化できる。
超音波検査は以下を目的として行うことができる:
30歳未満の女性で検出された乳房の異常に対し,初めての画像検査として行う
コア生検が必要かもしれない異常な腋窩リンパ節を検出する
MRIやマンモグラフィーによって検出された異常を評価する(例,充実性か嚢胞性かを判断する)
異常な乳房組織に生検針をガイドする
MRIは以下を目的として行うことができる:
乳房の異常を診断する
手術前に,腫瘍の大きさ,胸壁への浸潤,および腫瘍の数を正確に同定する(特に高濃度乳房の女性において)
異常な腋窩リンパ節を同定する(乳癌の病期診断に役立つ)
乳癌のリスクが高い女性(例,BRCA遺伝子変異を有するか,乳癌の生涯リスクが20%以上と算出される場合)では,スクリーニングに乳房視触診とマンモグラフィーに加えてMRIを含めるべきである。MRIは,リスクが平均またはわずかに高い女性のスクリーニングには適切でないと考えられている。
高濃度乳房の女性では,医師は放射線科医へのコンサルテーションを行った上で,補助的なスクリーニング画像検査(例,超音波検査に加えマンモグラフィー,トモシンセシス)について患者と話し合うべきである。