網膜剥離の病因
剥離には,裂孔原性剥離(網膜裂孔を伴う),牽引性剥離,および漿液性(滲出性)剥離の3種類が存在する。牽引性および漿液性網膜剥離は裂孔/円孔を伴わないため,非裂孔原性と呼ばれる。
裂孔原性網膜剥離は最も頻度が高い。危険因子としては以下のものがある:
近視
白内障手術の既往
眼外傷
網膜格子状変性
網膜剥離の家族歴
牽引性網膜剥離は,線維性の網膜前膜に起因する硝子体網膜牽引により起こりうるものであり,増殖性糖尿病網膜症または鎌状赤血球網膜症で起こることがある。
漿液性網膜剥離は,網膜下腔への滲出液に起因する。原因には,特にフォークト-小柳-原田病における重度の ぶどう膜炎 ぶどう膜炎の概要 ぶどう膜炎はぶどう膜(虹彩,毛様体,および脈絡膜)の炎症と定義される。しかしながら,網膜と前房内の房水,硝子体液もしばしば障害を受ける。約半数は特発性である;同定可能な原因には,外傷,感染症,および全身性疾患などがあり,そのうち多くは自己免疫性である。症状としては,視力低下,眼痛,充血,羞明,飛蚊症などがある。ぶどう膜炎は臨床的に同定可能... さらに読む ,脈絡膜血管腫,および原発性または転移性の脈絡膜癌がある( Professional.see page 網膜を侵すがん 網膜を侵すがん 網膜を侵すがんは,通常脈絡膜に原発する。網膜は,その支持を脈絡膜に依存し,血液供給の半分も脈絡膜に依存しているため,がんによる脈絡膜の障害は視覚に影響を及ぼす可能性が高い。 脈絡膜黒色腫は脈絡膜のメラノサイトより発生する。脈絡膜黒色腫は,眼に発生するがんで最も頻度が高く,白人の発生率は約2500人に1人である。皮膚の色が濃い人々では,これほど多くない。好発年齢は55~60歳である。限局性であることもあれば,転移して死に至ることもある。... さらに読む )。
網膜剥離の症状と徴候
網膜剥離は無痛性である。裂孔原性網膜剥離の初期症状としては,濃いまたは不整形の硝子体浮遊物(特に突然の増加),閃光(光視症),霧視などがある。剥離が進行すると,患者は視野中にカーテン,ベールが降りたように感じたり,視野が薄暗いと感じることが多い。黄斑が侵されると,中心視力が低下する。硝子体出血が同時に起こることがある。牽引性網膜剥離および漿液性(滲出性)網膜剥離は霧視を引き起こしうるが,初期には無症状であることがある。
網膜剥離の診断
散瞳下で倒像眼底検査
以下のいずれかを認めた患者,特にリスク患者では網膜剥離を疑うべきである:
飛蚊症の突然の増加または変化
光視症
視野にカーテンまたはベールが降りたようだと訴える
突然の説明がつかない視力障害
硝子体出血により網膜が遮られている
倒像眼底検査では網膜剥離が明らかとなり,ほぼ全例で網膜剥離の病型を鑑別できる。手持ち式検眼鏡を用いた直像眼底検査では,一部の網膜剥離を見逃すことがあり,それが周辺部にある場合もある。強膜圧迫による倒像眼底検査,眼をごく周辺部に向けさせて行う細隙灯顕微鏡検査,または三面鏡を用いた細隙灯顕微鏡検査のいずれかによる周辺部眼底検査を行うべきである。
硝子体出血(網膜裂孔に起因して起こることがある),白内障,角膜混濁,または外傷により網膜が遮られている場合は,網膜剥離を疑い,Bモード超音波検査を行うべきである。
網膜剥離の治療
網膜裂孔の閉鎖
強膜内陥術
気体網膜復位術
硝子体切除術
網膜裂孔による網膜剥離は,限局性であることも多いが,速やかに治療しなければ網膜全体に広がる可能性がある。網膜剥離が疑われる患者,または診断が確定した患者は緊急に眼科医の診察を受けるべきである。
裂孔原性網膜剥離の治療では,病変の原因および部位に応じて1つまたはそれ以上の方法を用いる。このような方法には,レーザーまたは凍結療法による網膜裂孔の閉鎖がある。強膜内陥術では,シリコン片を強膜に縫い付け,強膜を陥凹させて内側の網膜を押さえつけることにより,硝子体の網膜に対する牽引力を弱める。この手術では,網膜下腔から液を排出することがある。他の治療法として,気体網膜復位術(硝子体内へのガス注入)および硝子体切除術がある。剥離を伴わない網膜裂孔は,レーザー光凝固または経結膜冷凍凝固により閉鎖できる。裂孔原性剥離のほぼ全例は,手術的に復位できる。
硝子体網膜牽引による非裂孔原性剥離は硝子体切除術による治療が可能であり,ぶどう膜炎による滲出性剥離はコルチコステロイドの全身投与,免疫抑制薬(例,メトトレキサート,アザチオプリン,腫瘍壊死因子[TNF]阻害薬)の全身投与に反応することがある。ぶどう膜炎による滲出性剥離には,代替の治療法として眼周囲へのコルチコステロイド注射,コルチコステロイドの硝子体内注射,またはデキサメタゾンの硝子体インプラントがある。原発性および転移性の脈絡膜癌も治療を要する。脈絡膜血管腫は,局所光凝固または光線力学療法に反応することがある。
網膜剥離に関する要点
裂孔原性剥離の危険因子には,近視,白内障手術の既往,眼外傷,および網膜格子状変性がある。
網膜剥離はいずれの病型も最終的には霧視に至る;裂孔原性網膜剥離の初期症状としては,不整形の硝子体浮遊物(特に突然の増加)や閃光(光視症)などがある。
飛蚊症の突然の増加もしくは変化,光視症,視野にカーテンもしくはベールが降りたようだという訴え,突然の説明がつかない視力障害が生じた場合,または硝子体出血により網膜が遮られている場合は,眼科医に紹介して緊急の倒像眼底検査を行い,網膜剥離の診断をつける。
裂孔原性網膜剥離に対しては,網膜裂孔の閉鎖(レーザーまたは凍結療法による),強膜内陥術による裂孔の閉鎖,気体網膜復位術,および/または硝子体切除術による治療を行う。