鼻出血は多くの場合,患部のタンポナーデによってコントロールできる。
鼻出血は,鼻腔前部または後部からの出血に起因する。前鼻出血は,鼻孔をつまんで10分間閉鎖することで治療できる。つまんでもうまくいかず,出血部位が観察可能で限局している場合の次のステップは,焼灼で前鼻出血をコントロールすることであり,焼灼が不成功に終わるか,適応がない場合は,その後にタンポナーデを行う。後鼻出血では管理方法が大きく異なるため,出血部位の同定が極めて重要である。
到達可能な出血部位を同定できる場合は,タンポナーデの短所の一部(例,感染リスク,パッキング材の移動)と不快感を回避できるため,焼灼が望ましいことがある。
(鼻出血も参照のこと。)
適応
鼻腔前部の明確に視認できない部位からの出血
焼灼による鼻出血の止血が不成功に終わった場合
禁忌
絶対的禁忌
頭蓋底骨折の可能性があるか,同定された場合
顎顔面または鼻骨の重大な外傷
コントロール不良の気道または血行動態の不安定性
ここで述べる処置法は,自然発生した鼻出血または軽微な外傷による鼻出血を対象としたものである。重大な顔面外傷がある患者の鼻出血は,専門医が管理すべきである。
相対的禁忌
出血側への重度の鼻中隔弯曲症(タンポナーデ材料の挿入が困難になる)
合併症
鼻中隔穿孔の可能性がある圧迫壊死などの鼻粘膜損傷(特に両側の鼻腔をパッキングする場合)
鼻腔前部のパッキングが後方の上咽頭領域に移動するか,誤嚥されて気道内に入る
副鼻腔炎やまれに毒素性ショック症候群などの感染症
パッキング除去時の再出血
器具
手袋,マスク,ガウン
患者用のガウンまたはドレープ
吸引装置とFrazier型吸引管および/または他の吸引管付き吸引カテーテル
タンポナーデ機器またはタンポナーデ材料*
膿盆
ヘッドレスト付きの椅子または耳鼻咽喉科用の椅子
光源と額帯鏡または調節可能な細い光線のヘッドランプ
鼻鏡
舌圧子
バイオネット型鑷子(せっし)
鼻腔ガーゼとタンポンを切断するためのハサミ
抗菌薬軟膏(バシトラシン)
滅菌生理食塩水5mL
麻酔薬/血管収縮薬の混合外用剤(例,4%コカイン,1%テトラカイン,または4%リドカイン + 0.5%オキシメタゾリン),または血管収縮薬のみの外用剤(例,0.5%オキシメタゾリンスプレー)
綿棒または綿球
*タンポナーデの材料/機器にはいくつかの種類がある:
圧縮されたポリ酢酸ビニルの鼻腔タンポン(ときに内部に気道チューブを伴う),理想的には頬に固定して誤嚥を予防し,抜去を補助できる抜去用の紐が付いたもの
空気の通り道があり,カルボキシメチルセルロース(血小板を凝集させる)で覆われた,高容量,低圧の膨張式バルーンタンポン
幅1.25cm(1/2インチ),長さ180cm(72インチ)のワセリンガーゼ片
鼻腔タンポンは,挿入しやすくなるよう高度に圧縮されており,水分を吸収すると拡張し柔らかくなる。タンポンはガーゼパッキングと比較して快適であり挿入がはるかに容易なため,利用可能であれば望ましい。
ワセリンガーゼ片の挿入は不快であり,しばしばある程度の鎮痛および/または軽度の鎮静(ただし,気道障害のリスクが生じるほどではない)を必要とする。したがって,この処置は,他の方法が奏効しないか利用できない場合にのみ行うべきである。
その他の留意事項
抗凝固薬または抗血小板薬の使用について問診する。
出血性疾患の症候がみられるか,重度または反復性の鼻出血がある場合は,血算,プロトロンビン時間(PT),および部分トロンボプラスチン時間(PTT)の結果を確認する。
関連する解剖
キーゼルバッハ部位は,鼻中隔前部の血管分水嶺領域であり,前鼻出血が最も起きやすい部位である。
体位
患者を座位にし,頭部を伸展させてスニッフィングポジションをとらせる(耳鼻咽喉科用の椅子が望ましい)。患者の後頭部を支え,突然後方に動かないようにすべきである。患者の鼻が医師の眼と同じ高さに来るようにすべきである。
持続する出血や嚥下した血液の嘔吐があった場合に受け止めるために,患者に膿盆を持たせておくべきである。
処置のステップ-バイ-ステップの手順
最初のステップ:
患者に穏やかに鼻をかむよう指示して血栓を除去するか,慎重に鼻腔を吸引する。
患者の鼻または頬に示指を当て,鼻鏡を柄が床と平行になるように(ブレードが縦に開くように)挿入する。
明るいヘッドランプまたは額帯鏡(片手が空き吸引または器具を操作できる)を使用して,ゆっくりと鼻鏡を開き鼻を診察する。
視界の妨げになる血液および血栓があれば,Frazier型吸引管付き吸引カテーテルを用いて全て除去する。
鼻中隔前部のキーゼルバッハ部位からの出血および鼻の奥からの出血を検索する。
血管収縮薬/麻酔薬の混合外用剤を塗布する:4%コカイン溶液または4%リドカイン + オキシメタゾリン約3mLを小さな薬杯に入れ,綿球2~3個をそれに含浸させ,縦に重ねるように鼻に挿入する(あるいは,オキシメタゾリンなどの血管収縮薬の外用剤を噴霧し,表面麻酔薬のみを含浸させた綿球を挿入する)。
止血または出血の軽減,麻酔,および粘膜腫脹の軽減のために,外用剤を10~15分間塗布したままにする。
圧縮された(拡張式)鼻腔タンポンの挿入:
タンポンをバシトラシンやムピロシンなどの外用抗菌薬軟膏でコーティングする。
タンポンの長さと幅を鼻に合うように切る。市販されている典型的な8cmの鼻腔タンポンは,調節することなく成人の鼻腔に合わせることができる。
タンポンを顔面に対して垂直に挿入し,鼻腔底に対して平行に前進させるが,不快感を減らすため,この操作は1回の滑らかな動きで行う。
タンポンを適切に挿入した後,18~22Gの血管カテーテルを用いて生理食塩水または局所麻酔薬5~10mLをタンポンに注入して,タンポンを拡張させる。
紐(ある場合)をガーゼに巻き付けて後方へのずれを防ぐか,紐を頬にテープで留める。
必要であれば,2個目のタンポンを挿入して鼻腔を満たす。両方のタンポンの先端が鼻孔の高さにあるか,わずかに突出していることを確認する。
タンポン挿入後10分間は患者を観察し,出血がコントロールされていることを確認する。
膨張式タンポンの挿入:
機器を滅菌水に30秒間浸す(生理食塩水に浸してはならない)。
機器を顔面に対して垂直に挿入し,プラスチックの輪が鼻腔内に入るまで,鼻腔底に対して平行に前進させる。
20mLシリンジを用いて,パイロットカフが丸く硬くなるまで機器を空気で膨らませる。水や生理食塩水で膨らませたり,機器に潤滑剤や抗菌薬軟膏を塗布したりしてはならない。
テープまたは透明なドレッシング材を用いて,拡張ポートを患者の顔面に固定する。
ワセリンガーゼパッキングの挿入:
処置に耐えられる可能性が低いと思われる患者には,低用量の鎮痛薬の静脈内投与を考慮する(例,フェンタニル0.5~1.0μg/kg,最大用量100μg,65歳以上ではより低用量とする可能性あり)。
ワセリンガーゼを端から約10cmの位置でバイオネット型鑷子(せっし)で把持する(これによりガーゼを挿入する深さが決まる)。ワセリンガーゼ片の端が鼻孔のすぐ外にくるまで,ガーゼ片を後方へ,鼻腔底と平行に鼻腔内に進める。
再び8~10cmのガーゼ片を把持し,鼻腔底と平行に挿入して鼻腔の全長にわたって伸展するように,前のガーゼ層の上にじゃばら状に重ねる。
毎回,1回の動作で鼻の奥まで挿入できる長さのガーゼ片を把持する。
パッキングが後方に滑らないように,各層を前の層より若干前方に置く。
何層か置く毎に,パッキングをバイオネット型鑷子で押し下げて圧縮する。
鼻腔が充填されるまで,ガーゼ片の層を重ね続ける。全長にわたるガーゼ片(典型的には長さ180cm[72インチ])が必要になることがある。
アフターケア
鼻出血の治療後4日間はアスピリンまたは非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を使用しないよう患者に助言する。
前部パッキングは通常,3~5日間留置する。
鼻腔タンポンは1日3回,水または生理食塩水で湿らせるべきである。
副鼻腔炎やまれに毒素性ショック症候群が起きるリスクがわずかにあるため,1コースの抗菌薬による治療を考慮する。
注意点とよくあるエラー
鼻鏡を側面に向かって開いたり,支えなしで使用したりしてはならない。(鼻鏡を持つ手の指を患者の頬または鼻に当てて支える。)
タンポンは鼻腔底と平行にまっすぐ奥へ挿入し,鼻の外形と平行になるよう上方に傾けてはならない。
ガーゼが鼻腔前部に集まらないようにすること;包装されたガーゼの全長の180cm(72インチ)近くまで挿入できない場合は,おそらく十分な深さまで挿入されていない。
膨張式のタンポナーデ機器を使用する場合は,鼻中隔の圧迫壊死を引き起こす可能性があるため,過度の膨張を避ける(特に両側に用いる機器)。
膨張式のタンポナーデ機器を抜去する際は,抜去前に完全に脱気する。
アドバイスとこつ
術者がかがむよりも,患者の椅子を眼の高さまで上げた方が,術者の腰にかかる負担が軽くなる。
必要であれば,対側の鼻腔をパッキングすることで,タンポナーデを改善し鼻中隔弯曲を予防できる。
圧縮された鼻腔タンポンは,挿入前に酸化再生セルロース素材の層で包むことで,止血を容易にすることができる。