舌の色や表面に変化が起きることがある。変化は限局性の場合もあれば,舌の大半に及ぶ場合もある。症状を伴わない変化もあるが,舌の不快感を引き起こす変化もある。
(全身性疾患と口腔の全身性疾患における口腔所見の表も参照のこと。)
舌の変色
舌の乳頭面(背側)は,喫煙もしくは噛みタバコ,特定の食品もしくはビタミンの摂取,または色のついた細菌の表面での増殖によって,変色することがある。
背側の黒い変色は,経口ビスマス製剤が原因である場合がある。このような変色は,歯ブラシによる舌のブラッシングまたは舌スクレーパーによる擦過で除去できる可能性がある。
舌下面にみられる変化しない局所的な小さな青黒い変色は,アマルガムタトゥーである可能性がある。
青白い平滑舌は,萎縮性舌炎が原因である可能性があり,鉄欠乏症またはビタミンB12欠乏症とともに生じる場合がある。
マゼンタ舌は,ビタミンB12欠乏症を示唆する。
苺舌は,猩紅熱の最初の徴候や,幼児では川崎病の徴候である可能性がある。
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赤平舌と口腔の疼痛は,舌全体の炎症(舌炎)を示唆している可能性があるほか,ナイアシン欠乏症によって生じる可能性がある。
舌の表面の変化
最もよくみられる舌表面の変化は良性で,具体的には以下のものである:
地図状舌(良性移動性舌炎,または遊走性紅斑)
溝状舌(しばしば地図状舌を合併する)
毛舌
地図状舌では,舌が部分的に赤く平滑になり(糸状乳頭の萎縮による),わずかに隆起した黄白色の縁で囲まれることが多い。それ以外の部分は白色または黄色でざらざらしている場合があり,これは乾癬状の変化を示すか,乾癬そのものが併存している。変色部は数週間から数年かけて移動する可能性がある。この病態は通常は疼痛を伴わず,治療は不要である。症状がある場合は,低用量のコルチコステロイドを塗布することがときに有用である。
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溝状舌は,米国では通常約5%の成人(および高齢者では最大30%)にみられる特発性疾患である。深い溝が正中線に沿ってみられるか,舌背上に分布している。溝状舌は地図状舌,ダウン症候群,またはメルカーソン-ローゼンタール(Melkersson-Rosenthal)症候群(顔面神経麻痺と肉芽腫性口唇炎も特徴とするまれな症候群)とともに生じることがある。
毛舌は,正常な糸状乳頭にケラチンが蓄積することにより生じ,舌に毛が生えたような外観を呈する。毛舌は,舌への機械的刺激の欠如(例,口腔衛生不良による)に加えて,乳頭間に残存した食物残渣が除去されないことによって生じる。毛舌はまた,発熱後,抗菌薬治療後,または過酸化物入り洗口液の過剰使用後に現れることもある。ヘビースモーカーでよくみられる。毛舌は,毛状白板症(通常は免疫不全[特にHIV感染症]に合併し,白い毛状の外観を呈する斑として舌縁に現れる)と混同してはならない。
舌の病変
舌に局所の病変または変色が生じることがある。
舌潰瘍は,ヘルペス様アフタ性潰瘍(舌下面)である場合もあれば,誤って噛んだり破折歯または修復物にこすれたりしたことによる外傷に起因する場合もある。
舌上の白色調の斑は,頬の内側にときにみられるものと類似するが,以下のものを伴う場合がある:
発熱
脱水
第2期梅毒
口腔カンジダ症(鵞口瘡)
扁平苔癬
白板症
口呼吸
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舌にみられる赤い斑は,以下のものを示している可能性がある:
紅板症
悪性貧血と関連する萎縮性舌炎
正中菱形舌炎
誤って噛んだり鋭利な歯または修復物にこすれたりしたことによる外傷性潰瘍
白板症および紅板症は,口腔扁平上皮癌の徴候である場合がある。