歯科補綴物

執筆者:Bernard J. Hennessy, DDS, Texas A&M University, College of Dentistry
レビュー/改訂 2021年 3月
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    歯の喪失は齲蝕歯周病,または外傷による場合があるが,処置の失敗により抜歯されることもある。歯の喪失によって審美,発声,および咬合の問題ならびに残存歯の移動が生じうる。

    歯科補綴物の種類

    歯科補綴物には以下のものがある:

    • 固定性のブリッジ

    • 可撤性局部床義歯

    • 可撤性総義歯

    • オッセオインテグレーテッド・インプラント

    ブリッジ(固定性の局部床義歯)は,両端では全ての咬合圧を受ける隣接する天然歯(支台歯)に合着されたクラウン(全部鋳造冠)と鑞着または鋳造されたダミー(ポンティック)で構成されている。現在では,コンピュータを利用した設計・製造技術を用いて,切削加工によりブリッジを作製することが可能である。セメントで固定されたブリッジは,取り外すことはできない。ブリッジは可撤性局部床義歯よりも小さいが,1個または複数のブリッジにより歯列弓内の多数歯の修復が可能である。

    可撤性局部床義歯は,典型的には支台歯を挟み込むクラスプのついた補綴物であり,清掃と就寝時にはずすことができる。咬合圧の一部は,義歯の床下の軟組織によって支えられている(多くの場合,顎の両側)。この補綴物は通常,多数歯の補綴が必要で,かつブリッジやインプラントが応用できない,または患者が経済的に可能でない場合に使用される。

    総義歯は無歯顎の場合に使用される可撤性の補綴物である。総義歯は患者の咀嚼を助け,発音や外見の改善に役立つが,天然歯の咀嚼効率や感覚が得られるものではない。歯牙欠損により下顎骨は徐々に吸収し,結果として修理(裏装もしくは改床と呼ばれる)または新製を要する不適合義歯の原因となる。代替手段には,口腔外科処置による歯槽堤の拡大,または欠損歯を補う歯科インプラントがある。

    インプラントは典型的には歯根の代わりとなるチタン製のシリンダーもしくはスクリューである。1本またはそれ以上のインプラントを歯槽骨中に埋入し,そこでインプラントは周囲の骨と結合する。直ちに,または6カ月後までに,1本ずつの人工歯から総義歯までをインプラントに装着する。インプラントが支える補綴物は簡単に除去できるが,インプラント体は容易には除去できない。これらの部位には感染の可能性があるため,徹底した口腔衛生が必要である。

    歯科補綴物と手術

    一般に,全ての可撤性の歯科補綴物は,補綴物の破損または気道への誤嚥を防ぐために,全身麻酔,咽喉手術または痙攣療法の前に除去される。補綴物は変形を防止するために水中に保管する。しかし麻酔科医の中には,補綴物をそのまま留置することが,気管チューブの挿入の助けになり,より正常な顔貌が保たれるため麻酔マスクがより適合し,さらに残存歯による対合欠損部歯肉の損傷を防ぎ,喉頭鏡検査も妨害されないと信じている者もいる。

    義歯の問題点

    ときとして,義歯床下粘膜に炎症が生じる(義歯性口内炎,炎症性乳頭状過形成症)。この病態はしばしば無痛性であり,要因には,カンジダ感染,不適合義歯,口腔衛生不良,義歯の過度の動き,およびもっとも頻度が高い1日24時間の義歯装着がある。粘膜は赤くビロード状に見える。カンジダの過剰繁殖は付着性の綿状の斑または,より一般的には,粘膜上のびらん性病変によって示唆される。カンジダ(Candida)の存在は,典型的な枝分かれした菌糸の顕微鏡像から確認できる。カンジダ(Candida)が存在しない場合には,炎症性乳頭状過形成症の可能性は低い。

    適合状態が良好な義歯の新製によってほぼ確実に状況は改善する。他の処置には,口腔や義歯の衛生状態の改善,旧義歯の調整,長期にわたる義歯の撤去,抗真菌療法(ナイスタチンによる口腔の含嗽および義歯を夜間にナイスタチンで浸け置くこと)がある。義歯を市販の洗浄液に浸漬することが,ときに有効である。他の選択肢としては,義歯床粘膜面へのナイスタチン懸濁液の塗布とクロトリマゾール・トローチの10mg,1日5回服用がある。カンジダ(Candida)感染が局所的な口腔内の処置で消失しない場合は,フルコナゾール100mg(最初に2錠およびその後は消失するまで1日1錠)を投与してもよい。炎症が持続する場合は生検の適応であり,全身性疾患を除外すべきである。

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