糸状のフィラリア成虫は,リンパ組織または皮下組織の中に生息する。受精卵をもった雌は活発に運動する子孫(ミクロフィラリア)を産み,ミクロフィラリアは血液中を循環,または組織を移行する。適当な吸血昆虫(蚊またはハエ)に摂取されると,ミクロフィラリアは発育して感染性の幼虫となり,幼虫は昆虫の刺咬により次の宿主の皮膚に接種される。感染部位を除けば,いずれのフィラリアの生活環も類似している。ヒトに感染するフィラリアは数種のみである。以下の主なフィラリア症は,成虫の寄生部位に基づいて分類できる:(寄生虫感染症へのアプローチ 寄生虫感染症へのアプローチ ヒトの寄生虫は,ヒトの体表または体内に生息して,その個体(宿主)から栄養を摂取する微生物である。寄生虫には以下の3種類がある: 単細胞生物(原虫,微胞子虫) 多細胞生物である蠕虫 ダニやシラミなどの外部寄生虫 原虫および蠕虫による寄生虫感染症は,世界的に疾患および死亡の原因としてかなりの割合を占めている。寄生虫感染症は中南米,アフリカ,お... さらに読む も参照のこと。)
皮下フィラリア症としては以下のものがある:
リンパ系フィラリア症としては以下のものがある:
バンクロフト糸状虫(Wuchereria bancrofti),マレー糸状虫(Brugia malayi),およびB. timoriにより引き起こされる リンパ系フィラリア症 バンクロフトおよびマレー糸状虫症(リンパ系フィラリア症) リンパ系フィラリア症は,糸状虫上科(Filarioidea)の3種のうちのいずれかによる感染症である。急性症状としては,発熱,リンパ節炎,リンパ管炎,精巣上体炎,精索炎(精索の炎症)などがある。慢性症状としては,膿瘍,過角化,多関節炎,陰嚢水腫,リンパ浮腫,象皮病などがある。気管支攣縮,発熱,および肺浸潤を伴う熱帯性肺好酸球増多症もこの感染症の別の臨床像である。診断は血液中のミクロフィラリア検出,超音波検査によるリンパ管中... さらに読む
その他の種類のフィラリア症として以下のものがある:
マンソネラ症 マンソネラ症 マンソネラ症とは,常在糸状虫(Mansonella perstans),M. ozzardi,およびM. streptocercaによって引き起こされる疾患のことを指す。ヌカカまたはブユの刺咬を介して伝播する。この感染症はしばしば無症状となるが,症状が現れることもある。M. perstansおよびM. ozzardi感染症の診断は,血液塗抹標本でミクロフィラリアを同定... さらに読む (胸膜,心膜,または腹膜に常在糸状虫[Mansonella perstans],皮下組織にM. ozzardi,真皮にM. streptocercaの成虫が寄生することによる)
イヌ糸状虫症 イヌ糸状虫症 イヌ糸状虫症は,イヌ糸状虫( Dirofilaria immitis)またはその他のDirofilaria属寄生虫によるフィラリア感染症であり,感染した蚊を介してヒトに伝播する。 ( 寄生虫感染症へのアプローチおよび フィラリア感染症の概要も参照のこと。) ヒトが症候性のイヌ糸状虫症を発症することは非常にまれであるが,梗塞した肺組織内で幼虫が被包化され,境界明瞭な肺結節を形成することがある;まれに,幼虫が眼,... さらに読む (犬の糸状虫であるDirofilaria immitisによる;幼虫が肺,まれに眼,脳または精巣に寄生する;幼虫はヒトの体内で成虫にならない)
フィラリア感染症(Wuchereria,Brugia,Onchocerca,およびMansonella感染症など)に対するスクリーニング用の血清学的検査を提供している専門研究施設もある。こういった検査は感度が高いが,特定のフィラリア感染症を同定したり,活動性の感染と過去の感染を鑑別したりすることはできない。この鑑別は症状のある旅行者ではそれほど重要でないが,鑑別ができない場合,流行地域の人々における本検査の有用性は制限される。