バンクロフト糸状虫およびマレー糸状虫によるリンパ系フィラリア症

執筆者:Chelsea Marie, PhD, University of Virginia;
William A. Petri, Jr, MD, PhD, University of Virginia School of Medicine
Reviewed ByChristina A. Muzny, MD, MSPH, Division of Infectious Diseases, University of Alabama at Birmingham
レビュー/改訂 修正済み 2025年 1月
v42595549_ja
意見 同じトピックページ はこちら

リンパ系フィラリア症は,糸状虫上科(Filarioidea)の3種のうちのいずれかによる感染症である。急性症状としては,発熱,リンパ節炎,リンパ管炎,精巣上体炎,精索炎(精索の炎症)などがある。慢性症状としては,膿瘍,過角化,多関節炎,陰嚢水腫,リンパ浮腫,象皮病などがある。気管支攣縮,発熱,および肺浸潤を伴う熱帯性肺好酸球増多症もこの感染症の別の臨床像である。診断は血液検体中もしくはリンパ組織生検検体でのミクロフィラリア検出,超音波検査によるリンパ管中の成虫の観察,または血清学的検査による。治療はジエチルカルバマジンによる。

バンクロフト糸状虫症はアフリカ,アジア,太平洋地域,およびハイチを含むアメリカ大陸の熱帯および亜熱帯地域にみられる。マレー糸状虫症は南アジアおよび東南アジアの風土病である。

2000年には世界保健機関(World Health Organization:WHO)がGlobal Programme to Eliminate Lymphatic Filariasisを始動した。その結果,感染者が存在する地域の適格者を対象とする年1回の大規模な集団治療を通じて,感染拡大の阻止に大きな進展がみられている。2018年時点の感染者数は約5100万人で,このプログラムの開始以来74%減少している(1)。2023年には,感染拡大を阻止するために年1回の予防的治療が必要とされた人の数が39カ国で6億5700万人となった(1)。

リンパ系フィラリア症は,バンクロフト糸状虫(Wuchereria bancrofti)(約90%の症例),マレー糸状虫(Brugia malayi),またはB. timoriによって引き起こされる。蚊により伝播する。感染性の幼虫は蚊を介してリンパ管に移行し,そこで6~12カ月以内に糸状の成虫に発育する。受精卵をもつ雌の成虫はミクロフィラリアを産み,ミクロフィラリアは血中を循環する。バンクロフト糸状虫(W. bancrofti)の体長は雌虫で約80~100mm,雄虫で約40mmである。

寄生虫感染症へのアプローチおよびフィラリア感染症の概要も参照のこと。)

総論の参考文献

  1. 1.World Health Organization (WHO): Lymphatic filariasis.Accessed October 21, 2024.

リンパ系フィラリア症の症状と徴候

感染すると,明らかな臨床症状を伴わないミクロフィラリア血症を引き起こす場合がある。症状および徴候は主に成虫によって引き起こされる。流行地域を離れると,ミクロフィラリア血症は徐々に消失する。

急性炎症性フィラリア症(acute inflammatory filariasis)では,4~7日間のエピソード(しばしば再発を繰り返す)の間に,発熱とリンパ管炎を伴うリンパ節の炎症(acute adenolymphangitisと呼ばれる)または急性精巣上体炎および精索炎が生じ,二次性の細菌感染症がよくみられる。四肢の限局性病変が膿瘍を引き起こし,それが外部に排膿して瘢痕を残すことがある。Adenolymphangitisのエピソードは通常,慢性疾患発症より20年以上先行する。急性フィラリア症は,現地住人よりも曝露歴のない流行地域への移民でより重症化する。

慢性フィラリア症は,潜行性で何年も経てから発現する。大半の患者で無症候性のリンパ管拡張が起こるが,成虫に対する慢性炎症反応および細菌の二次感染により,罹患部位の慢性リンパ浮腫が生じることがある。細菌および真菌感染症に対して局所的に感染しやすくなることも,慢性リンパ浮腫の発生にさらに寄与する。圧痕を残す下肢の慢性リンパ浮腫が象皮病(慢性リンパ管閉塞)に進行することがある。バンクロフト糸状虫(W. bancrofti)は陰嚢水腫と陰嚢象皮病を引き起こすことがある。その他の型の慢性フィラリア症はリンパ管の破裂またはリンパ液の異常漏出によって引き起こされ,乳び尿症および乳び性陰嚢水腫を来す。

リンパ系以外の徴候としては,慢性の顕微鏡的血尿およびタンパク尿,ならびに軽度の多関節炎などがあり,全て免疫複合体の沈着に起因すると推定される。

熱帯性肺好酸球増多症は,再発性気管支攣縮,一過性肺浸潤,微熱,および著明な好酸球増多を伴うまれな臨床像である。ミクロフィラリアに対する過敏反応が原因である可能性が最も高い。慢性の肺障害から肺線維症を来す可能性がある。

リンパ系フィラリア症の診断

  • 血液検体またはリンパ組織生検検体の鏡検

  • バンクロフト糸状虫(W. bancrofti)に対する抗原検査(国際的に利用可能であるが,米国では利用できない)

  • 抗体検査

リンパ系フィラリア症の診断は,鏡検で血中のミクロフィラリアを検出することで確定する。血液の濾過または遠心分離による濃縮法は,血液厚層塗抹標本より感度が高い。血液検体はミクロフィラリア血症のピーク時(大半の流行地域では夜間,しかし多くの太平洋諸島では昼間)に採取しなければならない。超音波検査により,拡張したリンパ管の中に生きた成虫を観察することができ,その成虫の動きはフィラリアダンス(filarial dance)と呼ばれている。

いくつかの血液検査が利用可能である:

  • 抗体検出:抗フィラリアIgG1およびIgG4に対する酵素免疫測定法

  • 抗原の検出:バンクロフト糸状虫(W. bancrofti)抗原に対する迅速免疫クロマトグラフィー検査

活動性のフィラリア感染症がみられる患者では,通常は血中抗フィラリアIgG4濃度が高値となる。しかしながら,フィラリアと他の蠕虫の間にはかなりの抗原交差反応性が認められている上,血清学的検査が陽性であっても過去と現在のフィラリア感染を鑑別することはできない。バンクロフト糸状虫(W. bancrofti)抗原に対する迅速診断検査は,フィラリア症根絶計画の一環として国際的に用いられているが,米国では認可されていない。

バンクロフト糸状虫(W. bancrofti)およびマレー糸状虫(B. malayi)に対するPCR検査が研究施設で利用可能となっている。

バンクロフト糸状虫(W. bancrofti)とマレー糸状虫(B. malayi)の両種とも,リンパ組織の生検検体中で成虫を同定できることがある。

リンパ系フィラリア症の治療

  • ジエチルカルバマジン

ジエチルカルバマジン(DEC)はミクロフィラリアと成虫を死滅させるが,成虫に対する効果は一定しない。米国ではDECは,フィラリア症が臨床検査で確定された後,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)からのみ入手可能である。

パール&ピットフォール

  • ロア糸状虫(Loa loa)または回旋糸状虫(Onchocerca volvulus)が感染している患者にジエチルカルバマジン(DEC)を使用すると重篤な反応が生じる可能性があるため,DECによる治療を行う際は,開始前にこれらの寄生虫の同時感染がないか評価すべきである。

急性リンパ系フィラリア症の治療

従来よりDECが2mg/kg,経口,1日3回,12日間で使用されてきたが,代替法として6mg/kg,経口,単回も可能である。概して,1日レジメンは12日間のレジメンと同等の効果があるようである(1)。

DECの有害作用は通常限られており,血中ミクロフィラリア数に依存する。最もよくみられるのは,めまい,悪心,発熱,頭痛,および筋肉または関節の疼痛であり,これらはフィラリア抗原の放出に関連すると考えられている。

ロア糸状虫(Loa loa)による感染症(ロア糸状虫症)または回旋糸状虫(Onchocerca volvulus)による感染症(オンコセルカ症)がある患者にDECを使用すると重篤な反応が生じる可能性があるため,DECによる治療を行う際は,開始前にこれらの寄生虫の同時感染がないか評価すべきである。オンコセルカ症が同時流行している地域では,経口アルベンダゾール400mg + 経口イベルメクチン200μg/kgの単回投与を選択でき,イベルメクチンのみではリンパ系フィラリア症の原因となる成虫を殺傷することができない。DECは,ロア糸状虫の血中のミクロフィラリア濃度が高い患者では,脳症などの生命を脅かす有害作用のリスクがあるため,使用すべきではない。

ドキシサイクリン200mg/日を4~6週間経口投与することで,軽症から中等症の患者では成虫の感染虫体数が減少し,病態が軽減する(2)。ドキシサイクリンは,フィラリア内の内部共生菌であるWolbachiaを死滅させ,結果的にフィラリアの成虫を死滅させる。単独で用いることも,DEC(3)またはアルベンダゾール(4)と組み合わせることもできる。

Acute adenolymphangitisの急性発作は通常自然に消退するが,二次的細菌感染症を抑制するため抗菌薬を要することがある。

慢性リンパ浮腫の治療

慢性リンパ浮腫は,抗菌薬の全身投与による二次的細菌感染症の治療を含め,綿密なスキンケアを必要とする;これらの抗菌薬は象皮病への進行を遅延または予防しうる。

DEC療法が慢性リンパ浮腫を予防または軽快させるかどうかについては,依然として議論がある。ドキシサイクリン200mg/日を4~6週間経口投与することでリンパ浮腫を軽減できることを示唆したエビデンスがあり,進行例を対象とする定期的な治療が提唱されている(5)。

患肢に弾力包帯を施すなどの保存的治療により腫脹が緩和される。

象皮病の極端な症例においては,リンパ流出を促進するためのリンパ節-静脈シャントによる外科的減圧術がある程度の長期的効果をもたらす。大きな陰嚢水腫も外科的に処置されることがあるが,再発がよくみられる。

熱帯性肺好酸球増多症の治療

熱帯性肺好酸球増多症はDEC 2mg/kg,経口,1日3回,14~21日間の投与に反応するが,最大25%の症例で再発し,治療コースの追加が必要になる。

治療に関する参考文献

  1. 1.Meyrowitsch DW, Simonsen PE, Makunde WH.Mass diethylcarbamazine chemotherapy for control of bancroftian filariasis: comparative efficacy of standard treatment and two semi-annual single-dose treatments. Trans R Soc Trop Med Hyg.1996;90(1):69-73.doi:10.1016/s0035-9203(96)90484-8

  2. 2.Taylor MJ, Makunde WH, McGarry HF, Turner JD, Mand S, Hoerauf A.Macrofilaricidal activity after doxycycline treatment of Wuchereria bancrofti: a double-blind, randomised placebo-controlled trial. Lancet.2005;365(9477):2116-2121.doi:10.1016/S0140-6736(05)66591-9

  3. 3.Mand S, Pfarr K, Sahoo PK, et al.Macrofilaricidal activity and amelioration of lymphatic pathology in bancroftian filariasis after 3 weeks of doxycycline followed by single-dose diethylcarbamazine. Am J Trop Med Hyg.2009;81(4):702-711.doi:10.4269/ajtmh.2009.09-0155

  4. 4.Gayen P, Nayak A, Saini P, et al.A double-blind controlled field trial of doxycycline and albendazole in combination for the treatment of bancroftian filariasis in India. Acta Trop.2013;125(2):150-156.doi:10.1016/j.actatropica.2012.10.011

  5. 5.Mand S, Debrah AY, Klarmann U, et al.Doxycycline improves filarial lymphedema independent of active filarial infection: a randomized controlled trial. Clin Infect Dis.2012;55(5):621-630.doi:10.1093/cid/cis486

リンパ系フィラリア症の予防

流行地域では,蚊による刺咬の回避が旅行者に対する最良の防護となる(例,ジエチルトルアミド[DEET]を露出部の皮膚に使用する,ペルメトリンを染み込ませた衣類を着用する,また蚊帳を使用する)。

世界保健機関(World Health Organization:WHO)は2000年に,流行地域の地図を作成し,リスクのある集団全体に対して治療を実施するべく,Global Programme to Eliminate Lymphatic Filariasisを始動させた。いくつかのレジメンが用いられている(1)。それらのレジメンはミクロフィラリア血症を減少させ,それにより蚊による寄生虫の伝播を減少させる。

予防に関する参考文献

  1. 1.World Health Organization: Alternative mass drug administration regimens to eliminate lymphatic filariasis.2017.Accessed October 28, 2024. 

要点

  • リンパ系フィラリア症は蚊により伝播され,感染性の幼虫がリンパ管に移行し,そこで成虫に発育する。

  • リンパ管内の成虫は炎症を引き起こし,それがacute adenolymphangitisまたは急性精巣上体炎もしくは慢性リンパ管閉塞につながり,一部の患者では象皮病または陰嚢水腫に至ることがある。

  • ミクロフィラリア血症がピークとなる時間帯(種により異なる)に採取した血液を濾過または遠心分離により濃縮した上で,ミクロフィラリアを顕微鏡で検出することにより診断する。

  • 抗原,抗体,および寄生虫DNAに対する検査は,鏡検の代替の診断法である。

  • ロア糸状虫(Loa loa)および回旋糸状虫(Onchocerca volvulus)の同時感染を除外してから,ジエチルカルバマジン(DEC)で治療する。

  • WHOの世界的な根絶プログラムにより,多くの流行地域で伝播が減少している。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. WHO: The Global Programme to Eliminate Lymphatic Filariasis

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
iOS ANDROID
iOS ANDROID
iOS ANDROID