メトロニダゾールは殺菌的に作用する 抗菌薬 抗菌薬の概要 抗菌薬には,細菌または真菌に由来するものと,人工的に合成されるものがある。厳密には,「抗生物質(antibiotics)」は細菌または真菌に由来する抗微生物薬のみを指す用語であるが,しばしば(本マニュアルも含めて)「抗菌薬(antibacterial drug)」の同義語として使用される。 ( 新生児における抗菌薬も参照のこと。) 抗菌薬には以下をはじめとする数多くの作用機序がある:... さらに読む である。特定の細菌において細胞壁を越えて細胞内に侵入して,DNAを破壊し,DNA合成を阻害する。関連薬剤であるチニダゾールはニトロイミダゾールの一種で,同様の作用機序を有するが,臨床での使用はより限定的である。
薬物動態
メトロニダゾールの経口剤は良好に吸収される。通常,経口投与が不可能な場合は静脈内投与とする。メトロニダゾールは体液中に広く分布し,髄液中にも移行して高濃度となる。
メトロニダゾールは肝臓で代謝されると考えられており,主に尿中に排泄されるが,腎機能不全のある患者でも排泄が低下することはない。ただし,末期腎臓病の患者ではメトロニダゾールの代謝物が蓄積する可能性があるため,それらの患者では,頭痛,痙攣,末梢神経障害(主に四肢のしびれまたは錯感覚)を含む中枢神経系作用など,メトロニダゾールに関連する有害作用についてモニタリングすべきである。
チニダゾールはメトロニダゾールよりも半減期がわずかに長いため,投与回数を減らすことができる。
メトロニダゾールおよびチニダゾールの適応
メトロニダゾールは以下に対して活性を示す:
特定の原虫(例, 腟トリコモナス トリコモナス症 トリコモナス症は,腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)による腟または男性性器の感染症である。無症候性のこともあれば,尿道炎,腟炎,もしくはときに膀胱炎,精巣上体炎,または前立腺炎を引き起こすこともある。診断は,直接鏡検,試験紙検査,もしくは腟分泌物の核酸増幅検査,または尿もしくは尿道培養による。患者およびセックスパートナーは,メトロニダゾールまたはチニダゾールにより治療する。... さらに読む , 赤痢アメーバ アメーバ症 アメーバ症は,赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)による感染症である。糞口感染により発生する。感染症は一般的には無症状であるが,軽度の下痢から重度の赤痢まで様々な症状が生じることもある。腸管外感染症には肝膿瘍などがある。診断は便検体中の赤痢アメーバ(E. histolytica)の同定か,腸管外疾患が疑われる場合の血清学的検査による。有症状例の治療はメトロニダゾールまたはチニダゾールによ... さらに読む , ランブル鞭毛虫 ジアルジア症 ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)は,鞭毛を有する原虫であるランブル鞭毛虫(Giardia duodenalis[G. lamblia,G. intestinalis])による感染症である。感染症は無症状のこともあれば,間欠性の鼓腸から慢性吸収不良までの様々な症状を引き起こすこともある。診断は新鮮便もしくは十二指腸内容物からの原虫の同定,または便中のジアルジア(Giardia)抗原検... さらに読む [Giardia lamblia])
メトロニダゾールは主に偏性嫌気性菌による感染症に対して使用され,しばしば他の抗菌薬と併用される。メトロニダゾールは 細菌性腟症 細菌性腟症(BV) 細菌性腟症は,乳酸桿菌が減少し,嫌気性病原体が過剰増殖する腟内細菌叢の複雑な変化による腟炎である。症状は,灰色で粘稠度が低く,魚のような臭いのある帯下である。診断は腟分泌物の検査により確定される。治療は通常,経口または外用メトロニダゾールもしくは外用クリンダマイシンによる。 ( 腟炎の概要も参照のこと。) 細菌性腟症は最も頻度の高い感染性 腟炎である。発生機序は明らかではないが,複数の病原細菌の異常増殖と通常の乳酸桿菌(腟内細菌叢の主た... さらに読む に対する第1選択薬である。この薬剤には他にも臨床用途がある(メトロニダゾールの臨床用途の例 メトロニダゾールの臨床用途の例 の表を参照)。
チニダゾールは,主に上述の原虫に対して使用される。嫌気性細菌による全身性感染症には使用されない。
メトロニダゾールおよびチニダゾールの禁忌
メトロニダゾールおよびチニダゾールは,同薬剤に対するアレルギー反応の既往がある患者では禁忌である。
妊娠中および授乳中の使用
いくつかの動物種を対象としたメトロニダゾールの生殖試験では,発がん活性のリスク増大が認められた。適切な対照を置いた十分な研究で妊婦を対象に実施されたものはない。ヒトを対象としたほとんどの試験では,妊娠中にメトロニダゾールを使用してもがん,先天異常,胎児に対するその他の有害作用のリスク上昇は認められていないが,第1トリメスターにメトロニダゾールを使用した母親の新生児で口唇裂(ときに口蓋裂を合併)を報告した研究もある。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の2015 sexually transmitted diseases treatment guidelinesは,トリコモナス症の治療に対し,妊娠のどの段階であれ2gの単回投与が可能としているが,第1トリメスター中にはメトロニダゾールの使用を避けるよう推奨する専門家もいる。
メトロニダゾールは母乳中に移行するため,授乳期間中の使用は推奨されない。
妊娠中のチニダゾールの使用に関するデータは限られているが,動物試験で中等度のリスクが示唆されているため,妊娠中にはチニダゾールは避ける。
メトロニダゾールおよびチニダゾールの有害作用
メトロニダゾールおよびチニダゾールの有害作用としては以下のものがある:
消化管障害
中枢神経系作用および末梢神経障害
ジスルフィラム様反応
悪心,嘔吐,頭痛,痙攣発作,失神,その他の中枢神経系作用,および末梢神経障害が生じる可能性があり,また発疹,発熱,および可逆性の好中球減少が報告されている。メトロニダゾールは金属味および濃色尿を引き起こすことがある。使用後7日以内にアルコールを摂取すると,ジスルフィラム様反応(紅潮,頭痛,悪心,嘔吐など)が発生することがある。
チニダゾールの方が消化管障害の発生率がわずかに低い可能性がある。
メトロニダゾールおよびチニダゾールの投与に関する留意事項
メトロニダゾールおよびチニダゾールの用量は,腎不全患者でも減量しない。メトロニダゾールは重大な肝疾患がある患者では通常50%減量するが,チニダゾールは肝疾患を対象とした研究が行われていないため,もし使用するのなら慎重に使用すべきである。
メトロニダゾールおよびチニダゾールはワルファリンの代謝を阻害し,その抗凝固作用を増強する可能性がある。
メトロニダゾールおよびチニダゾールについてのより詳細な情報
Centers for Disease Control and Prevention: Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelines, 2015