補体系

執筆者:Peter J. Delves, PhD, University College London, London, UK
レビュー/改訂 2020年 4月
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    補体系は,感染に対する防御に役立つ酵素カスケードである。多くの補体タンパク質が不活性の酵素前駆体(酵素原)として血清中に存在する;細胞表面に存在する補体タンパク質もある。(免疫系の概要も参照のこと。)

    補体系は以下によって自然免疫と獲得免疫の橋渡しをする:

    • 抗体応答および免疫記憶の増強

    • 異種細胞の溶解

    • 免疫複合体およびアポトーシス細胞の除去

    補体成分には多くの生物学的機能がある(例,走化性の亢進,免疫グロブリンE[IgE]に依存しない肥満細胞の脱顆粒の誘発)。

    補体の活性化

    補体活性化経路には以下の3つがある(補体活性化経路の図を参照):

    • 古典経路

    • レクチン経路

    • 副経路

    補体活性化経路

    古典経路,レクチン経路,および副経路は,C3転換酵素(C3 con)がC3をC3aとC3bに切断すると,最終の共通経路に収束する。Ab = 抗体;Ag = 抗原;C1-INH = C1インヒビター;MAC = 膜侵襲複合体;MASP = MBL関連セリンプロテアーゼ;MBL = マンノース結合レクチン。上線は活性化を示す。

    古典経路の成分は,Cに加え,同定された順番に基づく数字で表示されている(例,C1,C3)。副経路の成分は,アルファベット(例,B因子,D因子)または名称(例,プロパージン)で表されることが多い。

    古典経路の活性化には,以下の2種類がある:

    • 抗体依存性(C1が,抗原-IgM複合体または凝集した抗原-IgG複合体と相互作用した場合に生じる)

    • 抗体非依存性(ポリアニオン[例,ヘパリン,プロタミン,アポトーシス細胞由来のDNAおよびRNA],グラム陰性細菌,または結合C反応性タンパク[CRP]がC1と直接反応した場合に生じる)

    この経路は,C1インヒビター(C1-INH)によって制御される。遺伝性血管性浮腫はC1-INHの遺伝的欠損が原因である。

    レクチン経路の活性化は抗体非依存性である;血清タンパク質のマンノース結合レクチン(MBL)がマンノース,フコース,または細菌の細胞壁,酵母細胞壁,もしくはウイルスのN-アセチルグルコサミン基に結合した場合に生じる。この経路は,他の点では構造的および機能的に古典経路と似ている。

    副経路の活性化は,微生物細胞表面の成分(例,酵母細胞壁,細菌細胞壁リポ多糖体[内毒素])または免疫グロブリン(例,腎炎因子,凝集IgA)が少量のC3を切断した場合に生じる。この経路は,プロパージン,H因子,および崩壊促進因子(CD55)によって制御される。

    この3つの活性化経路は,C3転換酵素がC3をC3aとC3bに切断すると,最終の共通経路に収束する(補体活性化経路の図を参照)。C3の切断により,補体系の細胞傷害性成分である膜侵襲複合体(MAC)の形成に至ることがある。MACは,異種細胞の溶解を引き起こす。

    I因子は,CD46(membrane cofactor protein)を含む補因子とともに,C3bおよびC4bを不活化する。

    補体の欠損または異常

    特定の補体成分の欠損または異常は,固有の疾患と関連している;以下はその例である:

    補体の生物活性

    補体成分には,様々な細胞上の補体受容体(CR)によって媒介される他の免疫機能がある。

    • CR1(CD35)は,食作用を促進して免疫複合体の除去を助ける。

    • CR2(CD21)は,B細胞による抗体産生を調節するとともに,エプスタイン-バーウイルス受容体でもある。

    • CR3(CD11b/CD18),CR4(CD11c/CD18),およびC1q受容体は,食作用に関与する。

    • C3a,C5a,C4a(弱い)は,アナフィラトキシン活性を有する;肥満細胞の脱顆粒を引き起こして,血管透過性の亢進および平滑筋の収縮をもたらす。

    • C3bは,病原性微生物を覆うことによってオプソニンとして働き,それによって食作用を増強する。

    • C3dは,B細胞による抗体産生を増強する。

    • C5aは好中球遊走因子である;好中球および単球の活性を調節し,細胞接着の増強,脱顆粒および顆粒球からの細胞内酵素の放出,毒性酸素代謝物の産生,ならびに他の細胞代謝性事象の開始を引き起こすことがある。

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