甲状腺機能正常症候群(euthyroid sick syndrome)

執筆者:Jerome M. Hershman, MD, MS, David Geffen School of Medicine at UCLA
レビュー/改訂 2020年 9月
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甲状腺機能正常症候群(euthyroid sick syndrome)は,甲状腺疾患以外の全身疾患を有し臨床的には甲状腺機能に異常のない患者における血清甲状腺ホルモン低値の状態である。診断は甲状腺機能低下症の除外に基づく。治療は基礎疾患に向けて行われる;甲状腺ホルモンの補充は適応とならない。

甲状腺機能の概要も参照のこと。)

様々な種類の急性または慢性の非甲状腺性疾患がある患者で,甲状腺機能検査の結果が異常を示すことがある。このような疾患には,急性および慢性疾患,特に絶食,飢餓,タンパク質-エネルギー低栄養,重度外傷,心筋梗塞慢性腎臓病糖尿病性ケトアシドーシス神経性やせ症肝硬変,熱傷,敗血症などがある。

トリヨードサイロニン(T3)の低下が最もよくみられる。さらに重症または罹病期間の長い患者では,サイロキシン(T4)も低下する。血清リバースT3(rT3)は上昇する。患者の甲状腺機能は臨床的には正常であり,甲状腺刺激ホルモン(TSH)の上昇はない。

発生機序は不明であるが,末梢でのT4からT3への変換の減少,T4から生成されるrT3のクリアランス低下,サイロキシン結合グロブリン(TBG)への甲状腺ホルモンの結合低下などが考えられる。炎症性サイトカイン(例,TNFα,インターロイキン1)が一部の変化の原因となっている可能性がある。

疾患を有する患者における甲状腺機能検査異常の解釈は,ヨードを多量に含む造影剤やアミオダロン(末梢でのT4からT3への変換を低下させる)などの種々の薬物の影響,およびドパミンやコルチコステロイド(下垂体のTSH分泌が減少し,その結果血清TSHが低値となり,続いてT4分泌が減少する)などの様々な薬剤によって複雑になる。

パール&ピットフォール

  • 重症(severely ill)の患者には,甲状腺機能障害が強く疑われない限り,甲状腺機能検査をオーダーすべきでない。

甲状腺機能正常症候群(euthyroid sick syndrome)の診断

  • TSH

  • 血清コルチゾール

  • 臨床判断

診断における難問は,患者が甲状腺機能低下症と甲状腺機能正常症候群のどちらに罹患しているのかという点である。最も優れた検査はTSH測定であり,甲状腺機能正常症候群では低値,正常範囲内,または軽度高値となるが,甲状腺機能低下症ほどの高値を示すことはない。

血清rT3は上昇しているが,この測定はまれにしか行われない。

血清コルチゾール値は,甲状腺機能正常症候群ではしばしば上昇しており,下垂体-視床下部疾患による甲状腺機能低下症では低値または正常低値を示す。

検査は非特異的であるため,急性または慢性疾患患者における甲状腺機能検査異常の解釈を行うには臨床判断が必要となる。甲状腺機能障害が強く疑われない限り,このような患者では甲状腺機能検査をオーダーすべきでない。

甲状腺機能正常症候群(euthyroid sick syndrome)の治療

  • 基礎疾患の治療

甲状腺ホルモンの補充による治療は不適切である。基礎疾患を治療すれば,甲状腺検査の結果は正常化する。

甲状腺機能正常症候群(euthyroid sick syndrome)の要点

  • 重篤な患者の多くは甲状腺ホルモンが低値であるが,臨床的な甲状腺機能低下はみられないため,甲状腺ホルモンの補充は不要である。

  • TSH値は,真の甲状腺機能低下症の患者では著明な上昇がみられるが,甲状腺機能正常症候群の患者では,低値,正常値,またはごくわずかな上昇しかみられない。

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