多発性硬化症(MS)

執筆者:Michael C. Levin, MD, College of Medicine, University of Saskatchewan
レビュー/改訂 2021年 3月
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多発性硬化症(MS)は,脳および脊髄における散在性の脱髄斑を特徴とする。一般的な症状としては,視覚および眼球運動異常,錯感覚,筋力低下,痙縮,排尿機能障害,軽度の認知症の症状などがある。典型的には複数の神経脱落症状がみられ,寛解と増悪を繰り返しながら,次第に能力障害を来す。診断には,時間的・空間的に独立した複数の特徴的な神経病変(部位は中枢神経系)を示す臨床所見またはMRI所見を必要とする。治療法としては,急性増悪に対するコルチコステロイド,増悪予防のための免疫調節薬,支持療法などがある。

脱髄疾患の概要も参照のこと。)

多発性硬化症には免疫機序が関与していると考えられている。原因として1つ仮定されているのは,潜伏性のウイルス(おそらくエプスタイン-バーウイルスなどのヒトヘルペスウイルス)による感染で,これが活性化されることで二次的な自己免疫応答を惹起するというものである。

特定の家系内およびヒト白血球抗原(HLA)アロタイプ(HLA-DR2)の保有者において発生率が高いことから,遺伝的感受性が示唆される。

MSは,生後最初の15年間を熱帯地域で過ごした人々(1/10,000)よりも温帯地域で過ごした人々(1/2000)に多くみられる。1つの説明としては,ビタミンDの低値がMSのリスク上昇と関連しており,ビタミンD値は日光曝露の程度と相関しているが,温帯気候ではその程度が少ないというものがある。喫煙もリスクを上昇させるようである。

発症年齢は15~60歳で,典型的には20~40歳である;女性の方がやや頻度が高い。

視神経脊髄炎スペクトラム障害(デビック病)は,以前はMSの亜型と考えられていたが,現在では独立した別の疾患と認識されている。

MSの病態生理

局所的な脱髄(プラーク)が生じ,プラークの内部や周囲において,乏突起膠細胞の破壊,血管周囲の炎症,ならびにミエリンの脂質およびタンパク質成分の化学変化が生じる。軸索損傷はよくあることであり,神経細胞体の死滅または損傷が起こることもある。

中枢神経系全体にわたって,主に白質,とりわけ側柱および後柱(特に頸部),視神経,脳室周囲に散在するプラークには,線維性グリオーシスが生じる。中脳,橋,および小脳の神経路も侵される。大脳および脊髄の灰白質も侵されることがあるが,程度ははるかに小さい。

MSの症状と徴候

多発性硬化症は多様な中枢神経系の障害を特徴とし,寛解と増悪を繰り返す。MSを免疫調節薬で治療しない場合,増悪頻度は平均では2年に1回ほどであるが,大きな幅がある。

MSは予測不能に進行または退行する場合もあるが,以下のような典型的な進行のパターンがある:

  • 再発寛解型:増悪と寛解が交互にみられ,寛解期には部分的または完全な回復に至り,症状が安定したりする。寛解期は数カ月から数年持続することがある。増悪は自然に生じることもあれば,インフルエンザなどの感染症が引き金となることもある。再発型MSには,活動性二次性MS(active secondary MS;臨床的な再発または脳もしくは脊髄のMRIでの新規病変の出現がみられた場合と定義される)などがある。

  • 一次性進行型:疾患が進行しない一時的な停滞期間がみられることはあるが,寛解はなく,緩徐に進行していく。再発寛解型とは異なり,明らかな増悪はみられない。

  • 二次性進行型:再発と寛解の繰り返し(再発寛解型)で始まり,その後緩徐に疾患が進行する。

  • 進行再発型:緩徐に進行するが,その過程で突然の明らかな再発がみられる。この型はまれである。

多発性硬化症の最もよくみられる初期症状は以下でのものある:

  • 一肢または複数肢,体幹,または顔面半側の錯感覚

  • 下肢または手の筋力低下または巧緻運動障害

  • 視覚障害(例,球後視神経炎による片眼の部分的視力障害および疼痛,核間性眼筋麻痺による複視,暗点)

MSのその他の一般的な初期症状としては,四肢の軽度のこわばりや異常な易疲労性,軽度の歩行障害,回転性めまい,軽度の感情障害などがあり,これらはいずれも通常は中枢神経系が散在的に侵されていることを意味し,ごく軽微な場合もある。MS患者の大半に膀胱症状(例,頻尿,尿意切迫,排尿遅延,失禁尿閉)がみられる。疲労感がよくみられる。高熱の影響(例,暑い天候,熱い風呂,発熱)によって症状と徴候が一時的に増悪することがある(Uhthoff現象)。

軽度の認知症の症状がよくみられる。無関心,判断力の欠如,または不注意が生じることもある。情緒不安定や多幸感など感情面の障害がよくみられ,なかでも抑うつが最もよくみられる。抑うつは反応性の場合もあれば,MSの脳病変に部分的に起因している場合もある。少数の患者では痙攣発作がみられる。

脳神経

典型的には,片側性または非対称性の視神経炎,および両側性の核間性眼筋麻痺がみられる。

周辺視野よりも中心視野が侵される。

視神経炎により,視力障害(暗点から失明まで)および眼球運動時の眼痛のほか,ときに視野異常,視神経乳頭腫脹,部分的または完全な瞳孔求心路障害が生じる。

核間性眼筋麻痺は,第3,第4,および第6脳神経核を連絡する内側縦束に病変がある場合に起こる。水平注視時に片眼の内転が減少し,他眼(外転する)の眼振を伴う;輻輳は正常に保たれる。MSでは,核間性眼筋麻痺は典型的には両側性である;片側性の核間性眼筋麻痺はしばしば虚血性脳卒中によって引き起こされる。

頻度は低いが,前方注視時(第1眼位)の振幅の小さい急速な眼球振動(振子眼振)はMSに特徴的である。回転性めまいがよくみられる。間欠的な顔面半側のしびれもしくは疼痛(三叉神経痛に似る),麻痺,または攣縮が生じることもある。球麻痺,小脳損傷,または皮質制御の障害により,軽度の構音障害が生じることがある。その他の脳神経の障害はまれであるが,脳幹損傷の結果として起こることもある。

運動

筋力低下が一般的にみられる。通常,これは脊髄の皮質脊髄路の損傷を反映しており,主に下肢が侵され,両側性かつ痙性である。

通常は深部腱反射(例,膝蓋腱反射およびアキレス腱反射)が亢進し,しばしば伸展性足底反応(バビンスキー徴候)およびクローヌスが認められる。痙性不全麻痺により,硬直したアンバランスな歩行が生じ,進行例では車椅子生活を余儀なくされる場合もある。後になって,感覚刺激(例,ベッドシーツ)に対する有痛性の屈曲攣縮が生じることもある。大脳または頸髄の病変により不全片麻痺を生じることがあり,ときにこれが主症状である。

可動性の低下により,骨粗鬆症のリスクが増加する。

小脳

進行したMSでは,小脳性運動失調および痙縮が重度の障害をもたらすことがある;その他,小脳性の症候には,言語不明瞭,断綴性言語(単語や音節の出だしで一旦停止する傾向があり,ゆっくりした発音の仕方をする),Charcot三徴(企図振戦,断綴性言語,および眼振)などがある。

感覚

錯感覚といずれかの感覚の部分的脱失がよくみられ,しばしば局在化する(例,手または下肢の一方または両方)。

疼痛を伴う様々な感覚障害(例,灼熱痛または電撃痛)が自発的,または触れられた反応で発現することがある(特に脊髄が侵されている場合)。一例としてレルミット(Lhermitte)徴候,すなわち頸部屈曲の際に脊椎を下方に向かって,または下肢に至るまで放散する電撃痛がある。

客観的な感覚変化は,早期には一過性に生じるのみで,確認が難しい場合が多い。

脊髄

本症では膀胱の機能障害がよくみられる(例,尿意切迫,排尿遅延,部分的な尿閉,軽度の尿失禁)。便秘,男性では勃起障害,女性では性器の感覚脱失が生じることもある。進行したMSでは,明らかな尿失禁および便失禁が生じることがある。

脊髄病変(プラーク)は,神経障害性疼痛の一般的な原因である。

MSの亜型である進行性脊髄症は,脊髄による筋力低下の原因となるが,その他の障害は引き起こさない。

MSの診断

  • 臨床基準

  • 脳および脊髄MRI

  • ときに髄液IgG値および誘発電位

視神経炎,核間性眼筋麻痺,またはMSを示唆する他の症状が患者にみられ,特に障害が多巣性または間欠性の場合には,多発性硬化症が疑われる。MSが疑われる場合,脳MRIおよび脊髄MRIを施行する。

MRIは,MSに対して最も感度の高い画像検査であり,脊髄と延髄の接合部の非脱髄性病変(例,くも膜下嚢胞,大後頭孔腫瘍)など,MSに類似する他の治療可能な疾患を除外することができる。ガドリニウム造影剤の使用により,炎症が活発なプラークを古いプラークと識別することができる。また,より高いMRI磁場(3~7テスラ)により細静脈周囲のMSプラークと非特異的な白質病変とを鑑別可能である。

MSは以下の病態と鑑別する必要がある:

  • clinically isolated syndrome(MSに典型的な臨床症状が1回のみ認められる場合)

  • radiologically isolated syndrome(臨床症状がない患者でMSに典型的なMRI所見が偶然認められた場合)

これらとMSの鑑別は,MSの診断には時間的かつ空間的に分離した複数の中枢神経系病変(部位は中枢神経系)の所見を認める必要があることから可能である。例えば,以下のいずれかで時間的な分離を示すことができる:

  • 増悪と寛解の既往がある

  • 無症状であるにもかかわらず,MRIで増強される病変と増強されない病変が同時に認められた

  • 以前に病変があった患者において,後に施行されたMRIで新たな病変が認められた

空間的な分離(散在)は,MSで典型的に侵される以下の5つの中枢神経系領域のうち2つ以上に病変を認めることで確立される(1):

  • 脳室周囲:3つ以上の病変

  • 皮質/傍皮質(皮質に隣接する白質および/または皮質):少なくとも1つの病変

  • テント下:少なくとも1つの病変

  • 脊髄:少なくとも1つの病変

  • 視神経:少なくとも1つの病変(MRIまたは臨床的評価による)

追加検査

MRIと臨床所見で診断に至らない場合は,別の神経学的異常の存在を客観的に実証するために,追加の検査が必要となることがある。そのような検査としては,誘発電位のほか,ときに髄液または血液検査などを行う。

誘発電位(感覚刺激に対する電気的反応の遅延)の方が症状や徴候よりMSに対する感度が高い場合が多い。視覚誘発電位検査は感度が高く,頭蓋病変が確認されない患者(例,病変が脊髄だけにある患者)で特に役立つ。体性感覚誘発電位および聴性脳幹誘発電位も測定することがある。

髄液検査は(通常はMRIで診断可能であるため)行われることは少ないが,MRIおよび臨床所見で結論が出ない場合や感染症(例,中枢神経系ライム病)を除外しなければならない場合に役立つ可能性がある。髄液検査には,初圧,細胞数と細胞分画,タンパク質,糖,IgG,オリゴクローナルバンドのほか,通常はミエリン塩基性タンパク質およびアルブミンなどがある。IgGは通常上昇し,髄液中のタンパク質(正常は11%未満)やアルブミン(正常は27%未満)の割合など,髄液の構成成分の割合として示される。IgG値は疾患の重症度と相関する。通常は髄液の電気泳動により,オリゴクローナルIgGバンドが検出できる。脱髄が活発な時期にはミエリン塩基性タンパク質が上昇することがある。髄液のリンパ球数およびタンパク質含量がやや上昇することもある。

血液検査が必要な場合がある。ときに,全身性疾患(例,SLE)や感染症(例,ライム病)がMSに類似することがあり,特異的な血液検査によって除外する必要がある。MSとの鑑別を目的として,視神経脊髄炎スペクトラム障害に特異的なIgG抗体(アクアポリン4抗体[NMO-IgGとしても知られる])を測定する血液検査を行うこともある。

診断に関する参考文献

  1. 1.Filippi M, Rocca MA, Ciccarelli O, et al: MRI criteria for the diagnosis of multiple sclerosis: MAGNIMS consensus guidelines.Lancet Neurol 15 (3):292–303, 2016.doi: 10.1016/S1474-4422(15)00393-2

MSの予後

多発性硬化症の経過は極めて多様であり,予測不可能である。大部分の患者,特にMSが視神経炎で始まった患者の場合には,寛解が数カ月から10年以上持続することがある。

Clinically isolated syndromeの患者の多くは,最終的にはMSを発症し,通常は最初の症状の出現から5年以内に,2つ目の病変が明らかになるか,MRIで病変が検出される。疾患修飾療法により,進行を遅らせることができる。radiologically isolated syndromeの患者では,MSへの進行のリスクがあるが,このリスクについてはさらなる研究が必要である。

初期の脳または脊髄MRIがより広範な病勢を示す場合,また受診時に運動,腸,および/または膀胱症状が存在する場合,または再発時の回復が不完全である場合,より早期の障害のリスクがある。中年期に発症して頻回に増悪が起きている男性など,一部の患者では,急速に身体機能が失われることがある。喫煙が病勢の進行を加速する場合もある。

短命となるのは極めて重症の症例に限られる。

MSの治療

  • コルチコステロイド

  • 免疫調節薬により増悪を予防し,身体障害の発生を遅らせる

  • 痙縮に対してバクロフェンまたはチザニジン

  • 疼痛に対してガバペンチンまたは三環系抗うつ薬

  • 支持療法

多発性硬化症の治療目標としては,以下のものがある:

  • 急性増悪の期間を短縮すること

  • 増悪の頻度を低下させること

  • 症状を軽減すること

  • 身体障害の発生を遅らせる,特に歩行能力を維持すること(重要)

増悪および再発の治療

コルチコステロイドは,短期コースで投与され,生活機能を損なうに十分な客観的障害(例,視力障害,筋力低下,協調運動障害)をもたらしている急性発症の症状または増悪の治療に用いられ,具体的なレジメンとしては以下のものがある:

  • メチルプレドニゾロン(500~1000mgを1日1回,3~5日間静注)

  • より頻度は下がるが,プレドニゾン1250mg/日,経口(例,625mg,経口,1日2回または1250mg,経口,1日1回),3~5日間

最近のデータからは,高用量メチルプレドニゾロン(1000mg/日,連続3日間)の経口または静脈内投与に同程度の効力がある可能性が示されている(1, 2)。コルチコステロイド静注は急性増悪を短期間に抑え,進行を遅らせ,MRIによる病勢の評価を改善することを示すエビデンスもある。

増悪の重症度を軽減するのにコルチコステロイドが無効に終わる場合は,血漿交換が用いられることがある。血漿交換は,MSの全ての再発型(再発寛解型,進行再発型,二次性進行型)に使用できる。一次性進行型MSには使用されない。

難治性の重症例には,血漿交換および造血幹細胞移植がいくらか有用となる可能性がある。

疾患修飾療法

さらなる情報についてはPractice guideline recommendations summary: Disease-modifying therapies for adults with multiple sclerosisを参照のこと。

インターフェロンやグラチラマーなどの免疫調節療法は,急性増悪の頻度を減らし,最終的な能力障害に至るのを遅らせる。典型的なレジメンとしては以下のものがある:

  • インターフェロンβ1b,250μg,皮下,隔日

  • インターフェロンβ1a(Avonex®),30μg,筋注,週1回

  • インターフェロンβ1a(Rebif®),22μgまたは44μg,皮下,週3回

  • インターフェロンβ1a(Pledgridy®),125μg,皮下,2週間に1回

インターフェロンの頻度の高い有害作用としては,インフルエンザ様症状と抑うつ(時間とともに軽減する傾向がある),月単位の治療後に生じる中和抗体の発現,血球減少などがある。

グラチラマー酢酸塩を20mg,皮下,1日1回または40mg,皮下,週3回(投与間隔を48時間以上とする)で使用してもよい。

以下の経口免疫調節薬は,活動性二次性MSを含む再発型MSの治療に使用できる:

  • フィンゴリモド0.5mg,経口,1日1回

  • シポニモド,CYP2C9の遺伝子型に応じて1mgまたは2mg,経口,1日1回(維持量)(初回投与量は0.25mg,1日1回)

  • オザニモド,0.92mg,経口,1日1回(維持量)(初回投与量は0.23mg,1日1回)。

  • テリフルノミド(teriflunomide),14mg,経口,1日1回

  • フマル酸ジメチル,240mg,経口,1日2回

一部の患者では,おそらくこれらの経口免疫調節薬の方がグラチラマーおよびインターフェロンよりも効果的である(3,4,5)。

ほとんどの患者が自己注射を嫌うため,経口免疫調節薬は再発性MSの第1選択治療として使用される機会が一層増えている。

疾患修飾療法は,再発型多発性硬化症の治療に使用できる。疾患修飾性免疫調節療法の選択についてはコンセンサスがない。少なくとも1つの病変(画像で認められる)と臨床的に孤立した症候群がある患者に疾患修飾療法を行う場合など,多くの専門家が患者教育と共同での意思決定を推奨している。ある薬剤が無効であれば,別の薬剤を試すことができる。

特に他の治療に抵抗性を示す進行性MSには,免疫抑制薬のミトキサントロン12mg/m2を3カ月毎,24カ月にわたって静注するのが役立つ場合がある。ただし,MS治療薬であるモノクローナル抗体の出現以降,ミトキサントロンはあまり使用されなくなっている。

抗α4インテグリン抗体であるナタリズマブは,白血球の血液脳関門の通過を阻害する;月1回の点滴で増悪回数と新規脳病変の数を低減できるが,進行性多巣性白質脳症(PML)のリスクを上昇させる可能性がある。

PMLのリスクを高める薬剤には以下のものがある(リスクの高い順):

  • ナタリズマブ

  • リツキシマブ

  • フィンゴリモド

  • まれに,フマル酸ジメチル

これらの薬剤のいずれかを使用する場合,MSの管理に長けた神経科医へのコンサルテーションが強く推奨される。これらの薬剤を開始する前に血液検査を行い,PMLを引き起こすJCウイルス(JCV)に対する抗体がないか確認すべきである。その結果に応じて,以下を行う:

  • 結果が陽性であれば,PMLのリスクについて患者にカウンセリングを行うべきである。

  • 結果が陰性であっても,セロコンバージョンがよくみられるため,これらの薬剤のいずれかを使用している限り,6カ月毎に抗体検査を行うべきである。

  • 検査結果が陽転した場合も,やはりこのリスクに関して患者にカウンセリングを行うべきであり,医師はこのリスクがない薬剤への切替えを考慮すべきである。

リスクの高い薬剤を継続する場合は,約6カ月毎に脳MRIを行うべきである。

PML症状(例,失語,精神状態の変化,半盲,運動失調)が発症したら,直ちに脳MRI(ときにガドリニウムを使用)を行う必要がある。MRIでしばしばPMLをMSと鑑別できる。MRIの施行後に腰椎穿刺を行い,髄液PCR(髄液ポリメラーゼ連鎖反応)検査でJCV DNAの有無を確認すべきである。陽性判定はPMLを意味するため,神経科医および感染症専門医への緊急のコンサルテーションが必要である。また,陽性と判定された患者がナタリズマブを服用していた場合は,速やかに薬剤を除去するために血漿交換を行ってもよく,免疫再構築症候群(IRIS)が発生した場合は,コルチコステロイドを投与する。

パール&ピットフォール

  • ナタリズマブまたはフィンゴリモドを使用している患者に意識状態の変化,失語,半盲,または運動失調がみられた場合は,直ちに脳MRI,続いて腰椎穿刺を行いPMLの有無を確認する。

抗CD52ヒト化モノクローナル抗体であるアレムツズマブの静脈内投与がMSの治療に効果的であることが示されている。ただし,自己免疫疾患,重篤な輸注反応(infusion reaction),および特定の悪性腫瘍のリスクを高めることから,アレムツズマブは通常,他の2剤以上の治療で効果が得られなかった場合にのみ使用される。アレムツズマブを12mg,静注,1日1回で5日間投与した後,12カ月後に12mg,静注,1日1回で3日間投与し,必要に応じてこれを12カ月毎に繰り返す。

クラドリビンは再発型MSに効果的であり,活動性の高い再発型MSに対する適切な治療となりうる。クラドリビンは年1回の治療コース2回で経口投与する(1コース当たり1.75mg/kg)。各治療コースは4~5日の2サイクルに分け,約4週間の間隔を空けて行う。治療前,治療中,治療後のリンパ球数をモニタリングすべきであり,免疫抑制に関連する有害作用が発現しないか注意深くモニタリングすべきである。

抗CD20(B細胞)ヒト化モノクローナル抗体であるオクレリズマブの6カ月毎の点滴での投与も,再発型MSの治療に効果的である(6)。用量300mgを点滴静注,2週間後に300mgを点滴静注,さらにその6カ月後から6カ月毎に600mgの点滴静注と続ける。オクレリズマブはまた,一次性進行型MSの治療にも,典型的には外来で使用できる。

リツキシマブ(米国ではMSの適応外とされている)もまた,グラチラマーおよびインターフェロンよりも効果的であり(7),オクレリズマブよりはるかに安価であることから,欧州全域およびカナダで広く使用されている。リツキシマブの通常用量としては,15日間の間隔を空けて1000mgを2回静注する;その後,6カ月毎またはCD19陽性B細胞数が2%を超えたときに1000mgを投与する。

現在利用できる様々な疾患修飾薬の効力の比較に関するコンセンサスはない。治療は患者に合わせて個別化し,その使用に詳しいMS専門医が管理すべきである。

免疫調節薬が無効の場合は,月1回の免疫グロブリン静注療法が役立つ可能性がある。

より重症の進行性MSにミトキサントロン以外の免疫抑制薬(例,メトトレキサート,アザチオプリン,ミコフェノール酸,シクロホスファミド,クラドリビン)が使用されているが,これについては議論がある。

症状のコントロール

以上の他にも,特定の症状をコントロールする目的で以下の治療を行うことができる:

  • 痙縮には,バクロフェン(10~20mg,経口,1日3回~1日4回)またはチザニジン(4~8mg,経口,1日3回)を漸増投与する。筋力低下と痙縮がみられる患肢には歩行訓練および関節可動域訓練が役立つ可能性がある。

  • 歩行障害は,4-アミノピリジン(ファンプリジン)の徐放性製剤10mg,12時間毎により治療することがある。

  • 疼痛を伴う錯感覚の治療には,通常はガバペンチン100~800mg,経口,1日3回またはプレガバリン25~150mg,経口,1日2回を使用するが,その他の選択肢として,三環系抗うつ薬(例,アミトリプチリン25~75mg,経口,就寝時,またはアミトリプチリンの抗コリン作用に耐えられない場合はデシプラミン25~100mg,経口,就寝時),カルバマゼピン(200mg,経口,1日3回),その他の抗てんかん薬,オピオイドなどがある。

  • 抑うつには,カウンセリングおよび抗うつ薬による治療を行う。

  • 膀胱機能障害には,基礎にある機序に応じた治療を行う。

  • 便秘は,便軟化剤または緩下薬を定期的に服用することで治療できる。

  • 疲労はアマンタジン(100mg,経口,1日3回),モダフィニル(100~300mg,経口,1日1回),アルモダフィニル(armodafinil)(150~250mg,経口,1日1回),または徐放性アンフェタミン(10~30mg,1日1回)により治療する。

支持療法

多発性硬化症の患者を励まし安心させることが助けとなる。

理学療法を併用するか否かにかかわらず,定期的な運動(例,ステーショナリーバイク,ランニングマシン,水泳,ストレッチ,バランス運動)が(進行したMS患者にも)推奨されるが,これは運動によって心臓および筋の状態が整えられ,痙縮が軽減し,拘縮と転倒を予防でき,心理的にも有益であるためである。

ビタミンDサプリメント(例,600~4000IU/日により血中濃度20~50ng/mL[50~125nmol/L]を達成する)は進行のリスクを軽減する可能性がある(8)。用量が十分であることを確認するために,血清ビタミンD濃度をモニタリングすべきである。ビタミンDはまた,可動性が低下しているまたはコルチコステロイドを服用しているためにリスクが高い患者では特に,骨粗鬆症のリスクを軽減する。

患者はできるだけ正常時に近い活動的な生活を維持し,過度の労働,疲労,および過度の暑さへの曝露を避けるようにすべきである。喫煙は中止するべきである。

ワクチン接種により増悪のリスクが高まることはないようである。

衰弱している患者には,褥瘡および尿路感染症の予防策が必要であり,間欠的自己導尿が必要になる場合もある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Le Page E, Veillard D, Laplaud DA, et al: Oral versus intravenous high-dose methylprednisolone for treatment of relapses in patients with multiple sclerosis (COPOUSEP): A randomised, controlled, double-blind, non-inferiority trial.Lancet 386 (9997):974–981, 2015.doi: 10.1016/S0140-6736(15)61137-0

  2. 2.Burton JM, O'Connor PW, Hohol M, Beyene J: Oral versus intravenous steroids for treatment of relapses in multiple sclerosis.Cochrane Database Syst Rev 12:CD006921, 2012.doi: 10.1002/14651858.CD006921.pub3

  3. 3.Freedman MS, Devonshire V, Duquette P, et al: Treatment optimization in multiple sclerosis: Canadian MS working group recommendations.Can J Neurol Sci 47 (4):437–455, 2020.doi: 10.1017/cjn.2020.66 Epub 2020 Apr 6

  4. 4.Li H, Hu F, Zhang Y, Li K: Comparative efficacy and acceptability of disease-modifying therapies in patients with relapsing–remitting multiple sclerosis: A systematic review and network meta-analysis. J Neurol 267(12):3489-3498, 2020.doi: 10.1007/s00415-019-09395-w Epub 2019 May 25

  5. 5.Rae-Grant A, Day GS, Ruth Ann Marrie RA, et al: Practice guideline recommendations summary: Disease-modifying therapies for adults with multiple sclerosis: Report of the Guideline Development, Dissemination, and Implementation Subcommittee of the American Academy of Neurology.Neurology 90 (17):777–788, 2018.doi: 10.1212/WNL.0000000000005347

  6. 6.Hauser SL, Bar-Or A, Comi G, et al: Ocrelizumab versus interferon beta-1a in relapsing multiple sclerosis.N Engl J Med 376 (3):221–234, 2017.doi: 10.1056/NEJMoa1601277

  7. 7.Granqvist M, Boremalm M , Poorghobad A, et al: Comparative effectiveness of rituximab and other initial treatment choices for multiple sclerosis.JAMA Neurol 75 (3):320–327, 2018.doi: 10.1001/jamaneurol.2017.4011

  8. 8.Multiple Sclerosis Society of Canada: Vitamin D and Multiple Sclerosis Recommendations.Accessed 3/9/21

MSの要点

  • 多発性硬化症では中枢神経系の脱髄が生じる;多発性硬化症は進行を予測できない場合もあるが,いくつかの典型的な進行パターンが存在する。

  • 最も一般的な症状は,錯感覚,筋力低下または巧緻運動障害,および視覚症状であるが,非常に多彩な症状が生じうる。

  • MSの診断は,時間的・空間的に独立した複数の特徴的病変をMRIおよび臨床所見によって確認すれば確定となる;しかしながら,特徴的な臨床的異常やおそらくは画像検査上の病変が1つのみ存在する場合でも,後にMSに進行する可能性が高い。

  • コルチコステロイド(重症の増悪に対して)および免疫調節薬(増悪を遅らせるまたは予防するため)より治療する。

  • 支持療法を行うとともに,必要に応じて薬剤により症状(例,痙縮,疼痛を伴う錯感覚,抑うつ,膀胱機能障害,疲労,歩行障害)の治療を行う。

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