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黄疸

執筆者:

Danielle Tholey

, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University

レビュー/改訂 2021年 1月
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黄疸とは,高ビリルビン血症によって皮膚および粘膜が黄色化した状態である。ビリルビン値が約2~3mg/dL(34~51μmol/L)になると,肉眼的に黄疸が明らかとなる。

黄疸の病態生理

ビリルビンの大半は,ヘモグロビンが非抱合型ビリルビン(と他の物質)に分解される際に生成される。非抱合型ビリルビンは,血中でアルブミンと結合して肝臓に輸送され,肝細胞に取り込まれ,グルクロン酸抱合を受けて水溶性となる。抱合型ビリルビンは胆汁中に排泄され,十二指腸に排出される。腸管内では,ビリルビンが細菌によって代謝され,ウロビリノーゲンが産生される。ウロビリノーゲンの一部は便中に排泄されるが,一部は再吸収され,肝細胞により抽出され,再処理後に胆汁中に再び排泄される(腸肝循環― ビリルビン代謝の概要 ビリルビン代謝の概要 肝臓は代謝的に複雑な臓器である。肝細胞(肝実質細胞)は以下の肝代謝機能を担っている: ビリルビン代謝の一段階としての胆汁の産生および排泄( ビリルビン代謝の概要を参照) 炭水化物のホメオスタシスの調節 脂質合成と血漿リポタンパク質の分泌 コレステロール代謝の調節 さらに読む を参照)。

黄疸の概要
動画

高ビリルビン血症の機序

高ビリルビン血症では,非抱合型ビリルビンと抱合型ビリルビンのどちらかが優位となることがある。

非抱合型高ビリルビン血症は,ほとんどの場合,以下の要因の1つまたは複数によって発生する:

  • 産生亢進

  • 肝臓への取込みの減少

  • 抱合の減少

抱合型高ビリルビン血症は,ほとんどの場合,以下の要因の1つまたは複数によって発生する:

  • 肝細胞の機能障害(肝細胞機能障害)

  • 肝臓からの胆汁排出の遅延(肝内胆汁うっ滞)

  • 肝外での胆汁流出路の閉塞(肝外胆汁うっ滞)

結果

黄疸の病因

高ビリルビン血症は,非抱合型が優勢な場合と抱合型が優勢な場合に分類できるが,多くの肝胆道疾患では両方のパターンが起こりうる。

特定の薬物(黄疸を引き起こす可能性がある薬物および毒性物質 黄疸を引き起こす可能性がある薬物および毒性物質 黄疸を引き起こす可能性がある薬物および毒性物質 の表を参照)の使用を含む多くの病態(成人における黄疸の機序と原因 成人における黄疸の機序と原因 成人における黄疸の機序と原因 の表を参照)が黄疸の原因となりうるが,全体として最も一般的な原因は以下のものである:

黄疸の評価

病歴

現病歴には,黄疸の発症および持続期間を含めるべきである。高ビリルビン血症では,黄疸が顕在化する前に,尿が暗色化することがある。したがって,暗色尿の発生は,黄疸の発生よりも正確に高ビリルビン血症の発生を示唆する。重要な関連症状としては,発熱,黄疸前の前駆症状(例,発熱,倦怠感,筋肉痛),便の色の変化,そう痒,脂肪便,腹痛(部位,重症度,期間,放散を含める)などがある。重症を示唆する重要な症状としては,悪心および嘔吐,体重減少,凝固障害の症状(例,紫斑や出血が起きやすい,タール便または血便)などがある。

システムレビュー(review of systems)では,体重減少および腹痛(がん),関節痛および関節腫脹(自己免疫性 慢性肝炎の概要 慢性肝炎は肝炎が6カ月以上続く場合をいう。一般的な原因としては,B型およびC型肝炎ウイルス,非アルコール性脂肪肝炎(NASH),アルコール性肝疾患,自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎)などがある。多くの患者では急性肝炎の病歴がなく,最初の徴候は無症候性のアミノトランスフェラーゼ高値である。受診時から肝硬変やその合併症(例,門脈圧亢進症)がみられる場合もある。確定診断とグレードおよび病期の判定のために,ときに生検が必要となる。治療は合併症と... さらに読む または ウイルス性肝炎 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎は,多様な伝播様式と疫学的性質を有する一群の肝親和性ウイルスによって引き起こされる,肝臓のびまん性炎症である。ウイルス感染による非特異的な前駆症状に続いて,食欲不振,悪心,しばしば発熱または右上腹部痛がみられる。黄疸がしばしばがみられ,典型的には他の症状が消失し始める頃に発生する。ほとんどの症例で自然消失するが,慢性肝炎に進行する場合もある。ときに,急性ウイルス性肝炎から急性肝不全に進行する(劇症肝炎を示唆する)。診断... さらに読む ヘモクロマトーシス 遺伝性ヘモクロマトーシス 遺伝性ヘモクロマトーシスは,過剰な鉄(Fe)蓄積を特徴とする遺伝性疾患で,組織障害を引き起こす。所見としては,全身症状,肝疾患,心筋症,糖尿病,勃起障害,および関節障害がみられることがある。診断は,血清フェリチン,鉄,およびトランスフェリン飽和度の高値により行い,遺伝子検査により確定する。連続的な瀉血による治療が一般的である。 ( 鉄過剰症の概要も参照のこと。) 遺伝性ヘモクロマトーシスには,変異した遺伝子に応じて,以下に示す1~4型の... さらに読む 遺伝性ヘモクロマトーシス 原発性硬化性胆管炎 原発性硬化性胆管炎(PSC) 原発性硬化性胆管炎(PSC)は,胆管に生じる斑状の炎症,線維化,および狭窄を特徴とする原因不明の疾患である。80%の患者には炎症性腸疾患もみられ,最も多いのは潰瘍性大腸炎である。その他の併存疾患として,結合組織疾患,自己免疫疾患,免疫不全症候群などがあり,ときに日和見感染症を合併することもある。疲労とそう痒が潜行性かつ進行性に発生する。診断は胆道造影(磁気共鳴胆道膵管造影[MRCP]または内視鏡的逆行性胆道膵管造影[ERCP])による。... さらに読む サルコイドーシス サルコイドーシス サルコイドーシスは単一または複数の臓器および組織に生じる非乾酪性肉芽腫を特徴とする炎症性疾患であり,病因は不明である。肺およびリンパ系が侵される頻度が最も高いが,サルコイドーシスはどの臓器にも生じうる。肺症状は,無症状から咳嗽,労作時呼吸困難,および,まれであるが肺または他臓器の機能不全に至るまで様々である。通常はまず肺病変を理由に本疾患... さらに読む サルコイドーシス ),無月経(妊娠)など,考えられる原因の症状がないか検討すべきである。

既往歴の聴取では,既知の原因疾患を同定すべきであり,具体的には,肝胆道疾患(例, 胆石 胆石症 胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。先進国では,成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられる。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によって消化不良や高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状... さらに読む 胆石症 肝炎 肝炎の原因 肝炎とは,びまん性または斑状の壊死を特徴とする肝臓の炎症である。 肝炎には急性の場合と慢性(通常は6カ月以上続く場合と定義される)の場合がある。 急性ウイルス性肝炎は,ほとんどの症例で自然に消失するが, 慢性肝炎に進行する場合もある。 肝炎の一般的な原因としては以下のものがある:... さらに読む 肝硬変 肝硬変 肝硬変は,正常な肝構築が広範に失われた 肝線維化の後期の病像である。肝硬変は,密な線維化組織に囲まれた再生結節を特徴とする。症状は何年も現れないことがあり,しばしば非特異的である(例,食欲不振,疲労,体重減少)。後期の臨床像には, 門脈圧亢進症, 腹水,代償不全に至った場合の 肝不全などがある。診断にはしばしば肝生検が必要となる。肝硬変は通常,不可逆的と考えられている。治療は支持療法である。... さらに読む ), 溶血 溶血性貧血の概要 赤血球は正常な寿命(約120日)が尽きると,循環血液から取り除かれる。溶血は,赤血球が未熟な段階で破壊され,それにより赤血球寿命が短くなる(120日未満)ことと定義される。骨髄での赤血球産生が赤血球寿命の短縮を代償できなくなると貧血が生じるが,この状態を非代償性溶血性貧血と呼ぶ。骨髄により代償できている場合,その状態を代償性溶血性貧血と呼... さらに読む 溶血性貧血の概要 を来す疾患(例, 異常ヘモグロビン症 異常ヘモグロビン症の概要 異常ヘモグロビン症は,ヘモグロビン分子の構造または産生に影響を及ぼす遺伝性疾患である。 ヘモグロビン分子はポリペプチド鎖で構成され,ポリペプチド鎖の化学構造は遺伝的に制御されている。電気泳動の移動度で識別される各種ヘモグロビンは,発見された順にアルファベット(例,A,B,C)で命名されているが,最初に発見された異常ヘモグロビンである鎌状赤血球ヘモグロビンは,ヘモグロビンSと命名された。... さらに読む ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素 [G6PD]欠損症 グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症 グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症は,黒人に多くみられるX連鎖性の酵素欠損症であり,急性疾患後または酸化性薬物(サリチル酸系,スルホンアミド系など)の摂取後に溶血を引き起こすことがある。診断はG6PDの測定に基づくが,急性溶血時には網状赤血球の存在によって(網状赤血球は老化した細胞と比較してG6PDが豊富)検査結果がしばしば偽陰性となる。治療は支持療法である。... さらに読む グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症 ),肝または胆道疾患を合併する疾患(炎症性腸疾患 炎症性腸疾患の概要 炎症性腸疾患(IBD)は,消化管の様々な部位で再燃と寛解を繰り返す慢性炎症を特徴とする病態であり,下痢および腹痛を引き起こし, クローン病と 潰瘍性大腸炎が含まれる。 消化管粘膜における細胞性免疫応答により炎症が生じる。炎症性腸疾患の正確な病因は不明であるが,多因子性の遺伝的素因を有する患者において,腸内常在菌叢が異常な免疫反応を引き起こ... さらに読む ,浸潤性疾患[例, アミロイドーシス アミロイドーシス アミロイドーシスは,異常凝集したタンパク質から成る不溶性線維の細胞外蓄積を特徴とする多様な疾患群である。これらのタンパク質は局所に蓄積してほとんど症状を引き起こさない場合もあるが,全身の複数の臓器に蓄積して,重度の多臓器不全をもたらすこともある。アミロイドーシスは原発性の場合と,種々の感染症,炎症,または悪性疾患に続発する場合とがある。 さらに読む アミロイドーシス リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫は,網内系およびリンパ系から発生する不均一な一群の腫瘍である。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別される( ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の比較の表を参照)。 リンパ腫はかつて, 白血病とは全く異なる疾患と考えられていた。しかし現在では,細胞マーカーとそれらのマーカーを評価するツールについて理解が深まったことで,これら... さらに読む サルコイドーシス サルコイドーシス サルコイドーシスは単一または複数の臓器および組織に生じる非乾酪性肉芽腫を特徴とする炎症性疾患であり,病因は不明である。肺およびリンパ系が侵される頻度が最も高いが,サルコイドーシスはどの臓器にも生じうる。肺症状は,無症状から咳嗽,労作時呼吸困難,および,まれであるが肺または他臓器の機能不全に至るまで様々である。通常はまず肺病変を理由に本疾患... さらに読む サルコイドーシス 結核 結核 結核は,しばしば初感染から一定期間の潜伏期を経て発症する慢性進行性の抗酸菌感染症である。結核は肺を侵すことが最も多い。症状としては,湿性咳嗽,発熱,体重減少,倦怠感などがある。診断は喀痰の塗抹および培養によることが最も多いが,分子生物学に基づく迅速診断検査の利用も増えてきている。治療では複数の抗菌薬を少なくとも6カ月間投与する。... さらに読む 結核 ], HIV感染症またはAIDS ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,2つの類似したレトロウイルス(HIV-1およびHIV-2)のいずれかにより生じ,これらのウイルスはCD4陽性リンパ球を破壊し,細胞性免疫を障害することで,特定の感染症および悪性腫瘍のリスクを高める。初回感染時には,非特異的な熱性疾患を引き起こすことがある。その後に症候(免疫不全に関連するもの)が現れ... さらに読む ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 を含む)などが挙げられる。

薬歴には,肝臓に影響を及ぼすことが知られている薬剤の使用および毒性物質への曝露(黄疸を引き起こす可能性がある薬物および毒性物質 黄疸を引き起こす可能性がある薬物および毒性物質 黄疸を引き起こす可能性がある薬物および毒性物質 の表を参照)に関する質問と,肝炎の予防接種に関する質問を含めるべきである。

手術歴には,過去に受けた胆道手術(狭窄の原因となりうる)に関する質問を含めるべきである。

社会歴には,肝炎の危険因子(肝炎の危険因子 肝炎の危険因子 肝炎の危険因子 の表を参照),飲酒の量と期間,注射薬物の使用,および性交歴に関する質問を含めるべきである。

家族歴には,家族内での軽度の黄疸の反復および診断済みの遺伝性肝疾患に関する質問を含めるべきである。患者自身のレクリエーショナルドラッグ使用歴とアルコール乱用歴については,可能であれば,患者の友人や家族から確証を得るべきである。

身体診察

バイタルサインを評価して,発熱や全身毒性の徴候(例,低血圧,頻脈)がないか確認する。

患者の全般的な外観,特に悪液質や嗜眠に注意する。

腹部を視診して,側副血行路, 腹水 腹水 腹水とは,腹腔内に液体が貯留した状態のことである。最も一般的な原因は門脈圧亢進症である。症状は通常,腹部膨隆により生じる。診断は身体診察のほか,しばしば超音波検査またはCTに基づく。治療法としては,食塩制限,利尿薬,腹腔穿刺などがある。腹水に感染が起こることもあり( 特発性細菌性腹膜炎),しばしば疼痛と発熱を伴う。感染の診断には腹水の分析および培養が必要である。感染は抗菌薬で治療する。... さらに読む ,手術瘢痕がないか確認する。肝臓を触診して,肝腫大,腫瘤,結節,圧痛がないか確認する。脾臓を触診して,脾腫がないか確認する。腹部を診察して,臍ヘルニア,濁音界の移動,波動感,腫瘤,圧痛がないか確認する。直腸診を行って,肉眼的出血または潜血がないか確認する。

男性では,精巣萎縮および女性化乳房について確認する。

神経学的診察には,精神状態の評価と羽ばたき振戦(手を羽ばたかせるような特徴的な振戦)の評価を含める。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 著明な腹痛および腹部圧痛

  • 精神状態の変化

  • 消化管出血(潜在性または肉眼的)

  • 斑状出血,点状出血,または紫斑

所見の解釈

重症度は,肝機能障害(もしあれば)の程度が主な指標となる。上行性胆管炎は,緊急の治療を要するため,注意が必要である。

重度の肝機能障害は,脳症(例,精神状態の変化,羽ばたき振戦)または凝固障害(例,易出血性,紫斑,タール便または便潜血陽性)から示唆され,特に 門脈圧亢進症 門脈圧亢進症 門脈圧亢進症とは,門脈内の圧力が上昇した状態である。原因として最も頻度が高いものは,肝硬変(先進国),住血吸虫症(流行地域),および肝血管異常である。続発症として,食道静脈瘤や門脈大循環性脳症などが生じる。診断は臨床基準に基づいて行い,しばしば画像検査や内視鏡検査を併用する。治療としては,内視鏡検査,薬剤,またはその両方による消化管出血の予防のほか,ときに門脈下大静脈吻合術または肝移植を行う。... さらに読む の徴候(例,腹部側副血行路,腹水,脾腫)のある患者でその傾向が強い。重度の上部消化管出血は,門脈圧亢進症(および凝固障害も関与する可能性あり)による 静脈瘤出血 静脈瘤 静脈瘤は,門脈圧亢進症に起因する下部食道または近位胃の静脈拡張で,門脈圧亢進症の原因は典型的には肝硬変である。大出血することがあるが,他には何も症状を引き起こさない。診断は上部消化管内視鏡検査による。治療は主に内視鏡的結紮術およびオクトレオチド静脈内投与による。ときに経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術を行う必要がある。 ( 消化管出血の概要も参照のこと。) 門脈圧亢進症は,いくつかの病態によってもたらされるが,主な原因は... さらに読む 静脈瘤 を示唆する。

上行性胆管炎は,発熱と持続性の著明な右上腹部痛から示唆されるが, 胆道閉塞 総胆管結石症および胆管炎 総胆管結石症は,胆管内に結石が存在する病態であり,それらの結石は胆嚢内または胆管内で形成される。結石により胆道仙痛,胆道閉塞,胆石性膵炎,または胆管炎(胆管の感染と炎症)が引き起こされる。胆管炎が発生すると,狭窄,うっ滞,および総胆管結石症につながりうる。診断には通常,磁気共鳴胆道膵管造影または内視鏡的逆行性胆道膵管造影による画像検査が必要となる。早期の内視鏡的または外科的減圧が必要である。... さらに読む を伴う 急性膵炎 急性膵炎 急性膵炎は,膵臓(および,ときに隣接組織)の急性炎症である。最も頻度が高い誘因は胆石および飲酒である。急性膵炎の重症度は,局所合併症および一過性または持続性の臓器不全の有無に基づいて,軽症,中等症,重症に区分される。診断は臨床像,血清アミラーゼおよびリパーゼ値,ならびに画像検査に基づく。治療は支持療法であり,輸液,鎮痛薬,栄養サポートを行う。急性膵炎の全死亡率は低いが,重症例における合併症発生率および死亡率はかなり高い。... さらに読む 急性膵炎 (例,総胆管結石または膵仮性嚢胞)でも同様の病像を呈することがある。

黄疸の原因は,以下のように示唆される:

その他の診察所見も参考にある可能性がある(黄疸の原因を示唆する所見 黄疸の原因を示唆する所見 黄疸の原因を示唆する所見 の表を参照)。

検査

以下を施行する:

血液検査には,全例で総ビリルビン,直接ビリルビン,アミノトランスフェラーゼ,およびアルカリホスファターゼの測定を含める。検査結果は,胆汁うっ滞を肝細胞機能障害と鑑別する上で有用となる(胆汁うっ滞のある患者では通常,画像検査が必要となるため重要である):

  • 肝細胞機能障害:アミノトランスフェラーゼ値の著明な上昇(> 500U/L[8.35μkat/L])とアルカリホスファターゼ値の中等度の上昇(正常上限値の3倍以下)

  • 胆汁うっ滞:アミノトランスフェラーゼ値の中等度の上昇(< 200U/L[3.34µkat/L])とアルカリホスファターゼ値の著明な上昇(正常上限値の3倍を超える)

肝細胞機能障害または胆汁うっ滞のある患者では,抱合型ビリルビンが尿中に排泄されるため,ビリルビン尿による暗色尿もみられ,非抱合型ビリルビンは排泄されない。ビリルビン分画でも抱合型と非抱合型を鑑別することができる。アミノトランスフェラーゼ値とアルカリホスファターゼ値がともに正常の場合は,ビリルビン分画を調べることが ジルベール症候群 ジルベール症候群 遺伝性または先天性代謝疾患では,非抱合型と抱合型のどちらの高ビリルビン血症も生じうる( ビリルビン代謝の概要を参照)。 非抱合型高ビリルビン血症:クリグラー-ナジャー症候群,ジルベール症候群,および原発性シャント高ビリルビン血症 抱合型高ビリルビン血症:デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) このまれな遺伝性肝疾患は,ビリルビンの(主にビリルビンジグルクロニド... さらに読む 溶血 溶血性貧血の概要 赤血球は正常な寿命(約120日)が尽きると,循環血液から取り除かれる。溶血は,赤血球が未熟な段階で破壊され,それにより赤血球寿命が短くなる(120日未満)ことと定義される。骨髄での赤血球産生が赤血球寿命の短縮を代償できなくなると貧血が生じるが,この状態を非代償性溶血性貧血と呼ぶ。骨髄により代償できている場合,その状態を代償性溶血性貧血と呼... さらに読む 溶血性貧血の概要 (非抱合型)などと デュビン-ジョンソン症候群 デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群 遺伝性または先天性代謝疾患では,非抱合型と抱合型のどちらの高ビリルビン血症も生じうる( ビリルビン代謝の概要を参照)。 非抱合型高ビリルビン血症:クリグラー-ナジャー症候群,ジルベール症候群,および原発性シャント高ビリルビン血症 抱合型高ビリルビン血症:デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) このまれな遺伝性肝疾患は,ビリルビンの(主にビリルビンジグルクロニド... さらに読む ローター症候群 デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群 遺伝性または先天性代謝疾患では,非抱合型と抱合型のどちらの高ビリルビン血症も生じうる( ビリルビン代謝の概要を参照)。 非抱合型高ビリルビン血症:クリグラー-ナジャー症候群,ジルベール症候群,および原発性シャント高ビリルビン血症 抱合型高ビリルビン血症:デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) このまれな遺伝性肝疾患は,ビリルビンの(主にビリルビンジグルクロニド... さらに読む (抱合型)などとの鑑別に役立つ可能性がある。

その他の血液検査としては,臨床的疑いや最初の検査所見に基づき,以下に示すように施行する:

疼痛から肝外閉塞もしくは胆管炎が示唆される場合,または血液検査で胆汁うっ滞が示唆される場合は,画像検査を施行する。

通常は腹部超音波検査を最初に施行する;超音波検査では通常,高い精度で肝外閉塞を検出できる。CTおよびMRIも選択可能である。通常, 胆石 胆石症 胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。先進国では,成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられる。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によって消化不良や高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状... さらに読む 胆石症 の診断精度は超音波検査の方が高く,膵病変の診断精度はCTの方が高い。これらの検査によって胆道系および局所の肝病変に生じた異常を検出できるが,びまん性の肝細胞障害(例, 肝炎 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎は,多様な伝播様式と疫学的性質を有する一群の肝親和性ウイルスによって引き起こされる,肝臓のびまん性炎症である。ウイルス感染による非特異的な前駆症状に続いて,食欲不振,悪心,しばしば発熱または右上腹部痛がみられる。黄疸がしばしばがみられ,典型的には他の症状が消失し始める頃に発生する。ほとんどの症例で自然消失するが,慢性肝炎に進行する場合もある。ときに,急性ウイルス性肝炎から急性肝不全に進行する(劇症肝炎を示唆する)。診断... さらに読む 肝硬変 肝硬変 肝硬変は,正常な肝構築が広範に失われた 肝線維化の後期の病像である。肝硬変は,密な線維化組織に囲まれた再生結節を特徴とする。症状は何年も現れないことがあり,しばしば非特異的である(例,食欲不振,疲労,体重減少)。後期の臨床像には, 門脈圧亢進症, 腹水,代償不全に至った場合の 肝不全などがある。診断にはしばしば肝生検が必要となる。肝硬変は通常,不可逆的と考えられている。治療は支持療法である。... さらに読む )を検出する上での精度は低い。

肝生検 肝生検 肝生検では,肝組織の構造と肝損傷(種類,程度, 線維化)の証拠について組織学的情報が得られ,その情報は,診断だけでなく,病期分類,予後,および管理においても必須である。得られるのは小さな組織片のみであるが,その検体は通常(たとえ局所病変が複数ある場合も)病変全体を代表する。 経皮的肝生検は,ベッドサイドで超音波ガイド下で施行する。肝臓を描出した上で巣状病変を標的にできることから,超音波ガイド下の方が好ましい。... さらに読む は一般的には必要ないが,特定の疾患(例,肝内胆汁うっ滞を引き起こす疾患,ある種の肝炎,浸潤性疾患, デュビン-ジョンソン症候群 デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群 遺伝性または先天性代謝疾患では,非抱合型と抱合型のどちらの高ビリルビン血症も生じうる( ビリルビン代謝の概要を参照)。 非抱合型高ビリルビン血症:クリグラー-ナジャー症候群,ジルベール症候群,および原発性シャント高ビリルビン血症 抱合型高ビリルビン血症:デュビン-ジョンソン症候群およびローター症候群 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) このまれな遺伝性肝疾患は,ビリルビンの(主にビリルビンジグルクロニド... さらに読む ヘモクロマトーシス 遺伝性ヘモクロマトーシス 遺伝性ヘモクロマトーシスは,過剰な鉄(Fe)蓄積を特徴とする遺伝性疾患で,組織障害を引き起こす。所見としては,全身症状,肝疾患,心筋症,糖尿病,勃起障害,および関節障害がみられることがある。診断は,血清フェリチン,鉄,およびトランスフェリン飽和度の高値により行い,遺伝子検査により確定する。連続的な瀉血による治療が一般的である。 ( 鉄過剰症の概要も参照のこと。) 遺伝性ヘモクロマトーシスには,変異した遺伝子に応じて,以下に示す1~4型の... さらに読む 遺伝性ヘモクロマトーシス ウィルソン病 ウィルソン病 ウィルソン病では,結果として肝および他の臓器に銅が蓄積する。肝症状または神経症状が出現する。診断は,血清セルロプラスミン濃度の低値,銅の尿中排泄量の高値,およびときに肝生検の結果に基づく。治療は,低銅食およびペニシラミンまたはトリエンチンなどの薬物から成る。 ウィルソン病は,男女ともに罹患する銅代謝の障害であり,約30,000人中1人にみられる。罹患者は,13番染色体に位置する劣性遺伝子変異体がホモ接合型である。人口の約1... さらに読む ウィルソン病 )の診断の助けとなりうる。他の検査で肝酵素異常の説明がつかない場合にも,生検が有用となりうる。

腹腔鏡検査では,開腹手術のような侵襲を与えることなく,肝臓および胆嚢を直接観察することができる。原因不明の胆汁うっ滞性黄疸では,ときに腹腔鏡検査が,まれに試験開腹が必要となる。

黄疸の治療

  • 原因および合併症の治療

原因および合併症に対する治療を行う。成人では,黄疸自体に対する治療は必要ない(新生児では状況が異なる― 新生児高ビリルビン血症 新生児高ビリルビン血症 黄疸とは,高ビリルビン血症(血清ビリルビン濃度の上昇)が原因で皮膚および眼球が黄色く変色することである。黄疸を発生させる血清ビリルビン値は,皮膚の色調および体の部位によって異なるが,通常,2~3mg/dL(34~51μmol/L)で強膜に,約4~5mg/dL(68~86μmol/L)で顔面に黄疸が認められるようになる。ビリルビン値が上昇す... さらに読む を参照)。そう痒が煩わしい場合は,コレスチラミン2~8g,1日2回の経口投与で軽減できることがある。しかしながら,コレスチラミンは完全胆道閉塞の患者には無効である。

老年医学的重要事項

高齢者では症状が弱かったり,みられなかったりする場合があり,例えば, 急性ウイルス性肝炎 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎は,多様な伝播様式と疫学的性質を有する一群の肝親和性ウイルスによって引き起こされる,肝臓のびまん性炎症である。ウイルス感染による非特異的な前駆症状に続いて,食欲不振,悪心,しばしば発熱または右上腹部痛がみられる。黄疸がしばしばがみられ,典型的には他の症状が消失し始める頃に発生する。ほとんどの症例で自然消失するが,慢性肝炎に進行する場合もある。ときに,急性ウイルス性肝炎から急性肝不全に進行する(劇症肝炎を示唆する)。診断... さらに読む でも腹痛が軽度ないし認められないことがある。 門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症は,肝疾患患者に発生することがある精神神経症状の症候群である。ほとんどの場合,門脈大循環シャントが形成された患者において,腸管内タンパク質の増加または急性の代謝ストレス(例,消化管出血,感染,電解質異常)の結果として発生する。主に精神神経症状がみられる(例,錯乱,羽ばたき振戦,昏睡)。診断は臨床所見に基づく。治療法は通常,原因となっている急性の病態の是正,ラクツロースの経口投与,ならびにリファキシミンなど非吸収性抗菌薬の... さらに読む の結果として生じた睡眠障害や軽度の錯乱を認知症によるものと見誤ることもある。

黄疸の要点

  • 急性黄疸のある患者,とりわけウイルス性の前駆症状がみられる若年ないし健康な患者では,急性ウイルス性肝炎を疑う。

  • 疼痛を伴わない黄疸,体重減少,腹部腫瘤,および軽微なそう痒がみられる高齢患者では,がんによる胆道閉塞を疑う。

  • アミノトランスフェラーゼ値が500U/Lを超え,かつアルカリホスファターゼ値の上昇が正常上限値の3倍未満の場合は,肝細胞機能障害を疑う。

  • アミノトランスフェラーゼ値が200U/L未満で,かつアルカリホスファターゼ値の上昇が正常上限値の3倍を超える場合は,胆汁うっ滞を疑う。

  • 精神状態の変化と凝固障害がみられる場合は,重大な肝機能障害が生じている。

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