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腹水

執筆者:

Danielle Tholey

, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University

レビュー/改訂 2021年 1月
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腹水とは,腹腔内に液体が貯留した状態のことである。最も一般的な原因は門脈圧亢進症である。症状は通常,腹部膨隆により生じる。診断は身体診察のほか,しばしば超音波検査またはCTに基づく。治療法としては,食塩制限,利尿薬,腹腔穿刺などがある。腹水に感染が起こることもあり(特発性細菌性腹膜炎 特発性細菌性腹膜炎 (SBP) 特発性細菌性腹膜炎(SBP)は,感染源が不明な腹水の感染症である。臨床像としては,発熱,倦怠感,腹水症状,悪化する肝不全などがみられる。診断は腹水検査による。治療はセフォタキシムまたはその他の抗菌薬による。 ( 腹水も参照のこと。) SBPは 肝硬変による腹水で特に多くみられる。この感染症は重篤な続発症や死につながることもある。SBPの最も一般的な起因菌は,グラム陰性の大腸菌(Escherichia... さらに読む ),しばしば疼痛と発熱を伴う。感染の診断には腹水の分析および培養が必要である。感染は抗菌薬で治療する。

腹水の病因

腹水は肝疾患の結果として生じるが,それらの障害は通常慢性であるが,ときに急性のこともある;肝臓と無関係の病態によって腹水が生じることもある。

肝臓に関連した原因としては以下のものがある:

門脈血栓症は,肝細胞障害を伴わない限り,通常腹水を引き起こさない。

肝臓と関連のない原因としては以下のものがある:

腹水の病態生理

発生機序は複雑であり,完全には解明されていない。関係する因子としては,一酸化窒素により誘導される内臓の血管拡張,門脈血管におけるスターリング力の変化(低アルブミン血症による低浸透圧と門脈圧亢進),腎臓での過剰なナトリウム保持(尿中ナトリウム濃度は通常5mEq/L[5mmol/L]未満)などのほか,可能性としては肝リンパ形成の増加も挙げられる。

腎臓でのナトリウム保持に関連するとみられる機序としては,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化,交感神経系の緊張亢進,腎内血流の皮質を迂回するシャント,一酸化窒素の生成増加,抗利尿ホルモン,キニン,プロスタグランジンおよび心房性ナトリウム利尿ペプチドの生成または代謝の変化などがある。内臓の動脈循環における血管拡張が誘因となりうるが,それらの異常の具体的な役割や相互関係についてはまだ明らかではない。

腹水の症状と徴候

少量の腹水であれば症状はみられない。中等量の腹水では腹囲および体重の増加がみられる。大量の腹水は非特異的なびまん性の腹圧を生じるが,実際の疼痛はまれであり,他に 急性腹痛 急性腹痛 腹痛はよくみられる症状であり,重要ではない場合も多い。しかしながら,急性および重度の腹痛はほぼ常に腹腔内疾患の症状である。手術の必要性に関する唯一の指標である場合もあり,迅速な対処が必要である:特定の疾患では,症状出現から6時間未満で 腸管の壊疽および穿孔が起こる可能性がある(例,絞扼性閉塞または動脈塞栓による腸管への血液供給阻害)。腹痛... さらに読む の原因があることを示唆する。腹水が横隔膜を押し上げた場合,呼吸困難を生じることがある。 特発性細菌性腹膜炎 特発性細菌性腹膜炎 (SBP) 特発性細菌性腹膜炎(SBP)は,感染源が不明な腹水の感染症である。臨床像としては,発熱,倦怠感,腹水症状,悪化する肝不全などがみられる。診断は腹水検査による。治療はセフォタキシムまたはその他の抗菌薬による。 ( 腹水も参照のこと。) SBPは 肝硬変による腹水で特に多くみられる。この感染症は重篤な続発症や死につながることもある。SBPの最も一般的な起因菌は,グラム陰性の大腸菌(Escherichia... さらに読む (SBP)の症状としては,それまではなかった腹部不快感や発熱などがある。

徴候には,濁音界の移動(腹部打診時に検出)および波動感がある。1500mL未満の量では,身体所見は生じないことがある。大量の腹水が生じると,腹壁が張り,臍窩の平坦化がみられる。肝疾患や腹膜障害における腹水は,通常は独立してみられるか,末梢の浮腫と不釣り合いに生じ,全身性疾患(例,心不全)では通常その逆となる。

腹水の診断

  • 身体所見から診断が明確にならない限り,超音波検査またはCT

  • しばしば腹水の検査

大量の液体が貯留している場合,身体診察の所見に基づいて診断できるが,画像検査の方がより感度が高い。超音波検査およびCTでは,身体診察より少量の液体(100~200mL)を検出できる。腹痛,発熱,または原因不明の悪化がみられる腹水患者では,特発性細菌性腹膜炎(SBP)が疑われる。しかしながら,SBPが無症状に経過し,肝臓の合成機能の悪化や 急性腎障害 急性腎障害(AKI) 急性腎障害は,数日間から数週間で腎機能が急速に低下する病態であり,これにより,尿量減少の有無にかかわらず,血中に窒素化合物が蓄積する(高窒素血症)。原因は重度の外傷,疾患,または手術による腎臓の灌流低下である場合が多いが,ときに急速進行性の内因性の腎疾患に起因する場合もある。症状としては,食欲不振,悪心,嘔吐などがある。無治療の場合,痙攣... さらに読む が唯一の徴候となる場合もある。また,治療の遅れは死亡率の上昇につながるため,治療閾値は低く設定すべきである。

  • 新たに腹水と診断された。

  • 腹水の原因が不明である。

  • SBPが疑われる。

約50~100mLの腹水を採取し,肉眼所見,タンパク質濃度,細胞数および白血球分画,培養による分析を行い,臨床的に適応があれば,細胞診,抗酸菌染色,および/またはアミラーゼの分析も行う。炎症または感染による腹水とは対照的に,門脈圧亢進症による腹水は透明の淡黄色を呈し,タンパク質濃度および多形核白血球(PMN)数が低く(250/μL未満),また最も信頼性の高い情報として,血清腹水アルブミン濃度較差(SAAG,血清アルブミン濃度から腹水アルブミン濃度を引いた値)が高い。1.1g/dL(11g/L)以上のSAAGは,門脈圧亢進症による腹水に比較的特異的な所見である。腹水でのPMN数 > 250/μLはSBPを意味するが,血性腹水の場合には,腫瘍または結核が示唆される。まれにみられる乳状(乳び性)の腹水は,リンパ腫またはリンパ管閉塞で最もよくみられる。

腹水の治療

  • 食塩制限

  • ときにスピロノラクトン,場合によりフロセミドを併用

  • ときに治療的腹腔穿刺

(American Association for the Study of Liver Diseases[AASLD]の診療ガイドライン,Management of Adult Patients with Ascites Due to Cirrhosisも参照のこと。)

まずは食塩制限(1日2000mg)を行い, 門脈圧亢進症 門脈圧亢進症 門脈圧亢進症とは,門脈内の圧力が上昇した状態である。原因として最も頻度が高いものは,肝硬変(先進国),住血吸虫症(流行地域),および肝血管異常である。続発症として,食道静脈瘤や門脈大循環性脳症などが生じる。診断は臨床基準に基づいて行い,しばしば画像検査や内視鏡検査を併用する。治療としては,内視鏡検査,薬剤,またはその両方による消化管出血の予防のほか,ときに門脈下大静脈吻合術または肝移植を行う。... さらに読む による腹水には最もリスクの少ない治療を行う。厳格なナトリウム制限で数日内に利尿を開始できなかった場合は,利尿薬を使用すべきである。通常はスピロノラクトンが効果的である(50mg,1日1回~200mg,1日2回の範囲で経口投与)。スピロノラクトンでは不十分な場合は,ループ利尿薬(例,フロセミド20~160mg,経口,通常1日1回または20~80mg,経口,1日2回)を加える。スピロノラクトンはカリウムを保持し,フロセミドはカリウムを喪失させるため,これらの薬剤の併用により,カリウム異常のリスクを軽減しながら,至適な利尿が得られる場合が多い。水分制限は,低ナトリウム血症(血清ナトリウム値が125mEq/L[125mmol/L]未満)の治療のみ適応となる。

体重および尿中ナトリウム濃度値の変化が治療に対する反応を反映する。1日約0.5kgの体重減少が理想であるが,これは腹水コンパートメントからの移動がこれ以上速く進まないためである。より積極的な利尿は,特に末梢浮腫がみられない場合,血管内から体液を喪失させ,これにより腎不全や電解質平衡異常(例,低カリウム血症)が生じて, 門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症は,肝疾患患者に発生することがある精神神経症状の症候群である。ほとんどの場合,門脈大循環シャントが形成された患者において,腸管内タンパク質の増加または急性の代謝ストレス(例,消化管出血,感染,電解質異常)の結果として発生する。主に精神神経症状がみられる(例,錯乱,羽ばたき振戦,昏睡)。診断は臨床所見に基づく。治療法は通常,原因となっている急性の病態の是正,ラクツロースの経口投与,ならびにリファキシミンなど非吸収性抗菌薬の... さらに読む の誘因となることがある。末梢浮腫がある場合は,通常は1kg/日までのより積極的な利尿で忍容性良好となる(1 治療に関する参考文献 腹水とは,腹腔内に液体が貯留した状態のことである。最も一般的な原因は門脈圧亢進症である。症状は通常,腹部膨隆により生じる。診断は身体診察のほか,しばしば超音波検査またはCTに基づく。治療法としては,食塩制限,利尿薬,腹腔穿刺などがある。腹水に感染が起こることもあり( 特発性細菌性腹膜炎),しばしば疼痛と発熱を伴う。感染の診断には腹水の分析および培養が必要である。感染は抗菌薬で治療する。... さらに読む )。持続性の腹水は,通常は不十分な食塩制限が原因である。

治療的腹腔穿刺を利尿薬と併用することができる。5L以上の腹水を除去した場合は,除去量1Lにつき25%アルブミン6~8gを投与すべきである。アルブミンは, 肝腎症候群 肝腎症候群 肝疾患はしばしば全身性の症状や異常を引き起こす。 ( 肝臓の構造および機能と 肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) 進行した肝不全では,低血圧によって腎機能障害が生じることがある。進行した肝不全または 肝硬変で生じる血流亢進(心拍出量および心拍数の増加)と低血圧の発生機序については,あまり解明されていないが,部分的には広範囲に及ぶ末梢血管拡張(splanchnic vasodilation)の代償機構である。肝硬変に寄与しうる因子と... さらに読む の誘因となりうる腹腔穿刺後の低血圧(腹腔穿刺後の循環機能障害)のリスクを低減するのに役立つ。治療的腹腔穿刺は利尿薬よりも迅速に腹水を減らすことができるが,腹水の再貯留を予防するために利尿薬の継続投与が必要である。

自己の腹水を再注入する方法(例,LeVeen腹腔静脈シャント術)は,しばしば合併症を引き起こすため,現在ではあまり用いられていない。経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)は門脈圧を低下させ,他の治療に抵抗性を示す腹水を効果的に治療できるが,TIPSは侵襲性が高く,門脈大循環性脳症や肝細胞機能の悪化などの合併症を引き起こすことがある。

治療に関する参考文献

腹水の要点

  • 腹水とは,腹腔内に液体が貯留した状態であり,通常は門脈圧亢進症,ときにその他の肝内性または肝外性の病態によって引き起こされる。

  • 中等度の腹水では腹囲および体重の増加がみられ,大量の腹水では腹部膨隆,腹圧,呼吸困難が生じ,腹水の貯留が1500mL未満なら無症候の場合もある。

  • 診断が明らかでない限り,超音波検査またはCTにて腹水の存在を確認する。

  • 新たに腹水が診断された場合,原因不明の場合,または特発性細菌性腹膜炎が疑われる場合には,腹腔穿刺を行い,腹水を検査する。

  • 食塩制限を推奨するとともに,それで効果が不十分な場合は,利尿薬の使用と治療的腹腔穿刺を考慮する。

  • 難治性腹水の患者は速やかに肝移植施設に紹介する。

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