(肛門直腸疾患の評価 肛門直腸疾患の評価 肛門管は肛門縁から肛門直腸移行部(櫛状線,粘膜皮膚接合部,歯状線)までを指し,肛門直腸移行部には8~12の肛門陰窩と5~8の乳頭がある。肛門管は,肛門周囲の皮膚の延長である肛門上皮に裏打ちされている。肛門管および隣接した皮膚は体性感覚神経に支配され,痛覚刺激に対して感受性が高い。肛門管からの静脈還流は大静脈系を経由するが,肛門直腸移行部は... さらに読む も参照のこと。)
直腸炎は以下の臨床像を呈することがある:
特定の腸管感染症(例,Campylobacter属,Shigella属,Salmonella属― Professional.see chapter グラム陰性桿菌に関する序論 グラム陰性桿菌に関する序論 グラム陰性桿菌は数多くの感染症の原因となる。一部は共生微生物で腸内常在菌叢中に存在する。これらの共生微生物に加えて,動物または環境病原巣に存在する他の微生物が疾患を引き起こす場合もある。 尿路感染症, 下痢, 腹膜炎,および 血流感染症は,一般的にグラム陰性桿菌によって引き起こされる。... さらに読む )
放射線療法
抗菌薬使用に伴う直腸炎は Clostridioides difficile クロストリディオイデス(かつてのクロストリジウム)ディフィシレ関連下痢症 消化管内のClostridioides difficileが産生する毒素により,偽膜性大腸炎が引き起こされるが,典型的には抗菌薬の使用後に発生する。症状は下痢(ときに血性)であり,まれに進行して敗血症および急性腹症を来す。診断は便中のC. difficile毒素の同定による。第1選択の治療は,バンコマイシンまたはフィダキソマイシンの経口投与である。... さらに読む (かつてのClostridium difficile)に起因する可能性がある。
性行為により感染する病原体に起因する直腸炎は,男性と性交する男性でより多くみられる。易感染性患者は単純ヘルペスおよびサイトメガロウイルスに感染するリスクが特に高い。
直腸炎の症状と徴候
典型的には,患者はしぶり腹(便がないにもかかわらず排便の必要を強く感じる状態),下血,または粘液の排出を報告する。淋菌感染症,単純ヘルペスまたは直腸痛サイトメガロウイルスが原因の直腸炎は激しい肛門直腸痛を引き起こすことがある。
直腸炎の診断
直腸鏡検査またはS状結腸鏡検査
性感染症およびC. difficileの検査
直腸炎の診断は直腸鏡検査またはS状結腸鏡検査を必要とし,これらの検査で炎症を起こした直腸粘膜が明らかにされることがある。小さな不連続な潰瘍および小水疱はヘルペス感染を示唆する。直腸拭い液を,淋菌(Neisseria gonorrhoeae )および Chlamydia属(培養またはリガーゼ連鎖反応による),腸内病原体(培養による),および病原ウイルス(培養または免疫測定法による)について検査すべきである。
梅毒の血清学的検査 診断 梅毒は,スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)によって引き起こされる疾患で,臨床的に3つの病期に区別され,それらの間には無症状の潜伏期がみられることを特徴とする。一般的な臨床像としては,陰部潰瘍,皮膚病変,髄膜炎,大動脈疾患,神経症候群などがある。診断は血清学的検査のほか,梅毒の病期に基づいて選択される補助的検査による。第1選択の薬剤はペニシリンである。... さらに読む とC. difficile毒素の便検査を行う。ときに粘膜生検が必要である。
大腸内視鏡検査は,一部の患者では炎症性腸疾患を除外する上で価値ある情報が得られることがある。
直腸炎の治療
原因に応じた様々な治療法
感染性直腸炎は抗菌薬で治療できる。肛門性交の受け側の患者が非特異的直腸炎を有する場合は,経験的治療としてセフトリアキソン250mg,筋注,単回 + ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,7日間の投与を行ってもよい。C. difficileに起因する抗菌薬関連直腸炎には,バンコマイシン(125mg,経口,1日4回)またはフィダキソマイシン(200mg,経口,1日2回)を10日間投与する。
出血を伴う放射線直腸炎は通常,まず外用薬で治療されるが,これについて優れた研究で効力が示されたエビデンスは不足している。外用による治療としては,コルチコステロイドの泡沫剤(ヒドロコルチゾン90mg)もしくは浣腸剤(ヒドロコルチゾン100mgまたはメチルプレドニゾロン40mg)の1日2回,3週間投与,またはスクラルファート停留浣腸(2gを20mLの水で希釈,1日2回)も効果的となりうる。これらの治療法に反応しない患者には,ホルマリンの外用または 高気圧酸素治療 再圧治療 再圧治療では,1気圧を超える気圧に加圧され密閉されたチャンバー内で,数時間100%酸素を投与し,その後チャンバーを徐々に大気圧まで減圧する。ダイバーでは,この治療法は主に 減圧症および 動脈ガス塞栓症に用いられる。治療開始までの時間が短いことが良好な転帰と関連しているが,治療は浮上から数日以内であればいつでも開始すべきである。治療にかかわらず,重度の損傷は予後不良を示唆する。未治療の気胸では,再圧治療の実施前または開始時に胸腔ドレーンを... さらに読む が有益となりうる。
内視鏡的治療が行われることもある。アルゴンプラズマ凝固法は,少なくとも短期的(6週間未満)には症状の緩和に効果的であると思われる。他の凝固法には,レーザー,電気凝固法,ヒータープローブ法などがある。(American Society of Colon and Rectal Surgeonsの慢性放射線直腸炎の治療に関する臨床ガイドラインも参照のこと。)
直腸炎についてのより詳細な情報
以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American Society of Colon and Rectal Surgeons: Clinical practice guidelines for the treatment of chronic radiation proctitis