VIPomaは,膵島細胞から発生する膵内分泌腫瘍の一種である。これらの腫瘍のうち50~75%は悪性で,診断時に極めて大きい(7cm)ものもある。VIPomaの約6%は, 多発性内分泌腫瘍症 多発性内分泌腫瘍症(MEN)の概要 多発性内分泌腫瘍症(MEN)は遺伝的に異なる3つの家族性疾患から成り,いくつかの内分泌腺における腺腫様過形成および悪性腫瘍を伴う。 MEN 1では,主に副甲状腺の過形成またはときに腺腫(その結果 副甲状腺機能亢進症が生じる)ならびに膵島細胞および/または下垂体の腫瘍を認める。 MEN... さらに読む (MEN)の一部として発生する。
(膵内分泌腫瘍の概要 膵内分泌腫瘍の概要 膵内分泌腫瘍は膵島細胞およびガストリン産生細胞から発生し,しばしば多くのホルモンを生成する。それらの腫瘍は膵臓に最も多く発生するが,他の臓器,特に十二指腸,空腸,および肺にみられることがある。 膵内分泌腫瘍の臨床像は大きく次の2つに分けられる: 機能性 非機能性 非機能性腫瘍は,胆道もしくは十二指腸の閉塞症状,消化管出血,または腹部腫瘤を引き起こすことがある。 さらに読む も参照のこと。)
VIPomaの症状と徴候
VIPomaの主な症状は長引く大量の水様性下痢(絶食時便量は750~1000mL/日を超え,非絶食時便量は3000mL/日を上回る)と, 低カリウム血症 症状と徴候 低カリウム血症とは,体内の総カリウム貯蔵量の不足またはカリウムの細胞内への異常な移動によって血清カリウム濃度が3.5mEq/L(3.5mmol/L)未満となった状態である。最も頻度の高い原因は腎臓または消化管からの過剰喪失である。臨床的特徴としては筋力低下や多尿などがあり,重度の低カリウム血症では心臓の興奮性亢進が生じることがある。診断は血清学的検査による。治療はカリウム投与および原因の管理である。... さらに読む , 代謝性アシドーシス 症状と徴候 代謝性アシドーシスは重炭酸イオン(HCO3−)の一次性の減少で,通常は二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の低下を伴う;pHは著明に低下するか,またはわずかに正常範囲を下回る。代謝性アシドーシスは,血清中の未測定陰イオンの有無に基づいて高アニオンギャップまたはアニオンギャップ正常に分類される。原因には,ケトン体および乳酸の蓄積,腎不全,薬物または毒素の摂取(高アニオンギャップ),消化管または腎からのHCO3... さらに読む ,および脱水の症状である。患者の半数で下痢が持続し,残り半数では下痢の重症度は経時的に変化する。診断までの下痢の罹病期間は,患者の約33%では1年未満であるが,25%では5年以上である。
嗜眠,筋力低下,悪心,嘔吐,および痙攣性の腹痛がしばしば起こる。
VIPomaの診断
分泌性下痢の確認
血清血管作動性腸管ペプチド(VIP)濃度
超音波内視鏡検査,PET(陽電子放出断層撮影),またはシンチグラフィーで局在の特定が可能
VIPomaの診断には分泌性下痢の証明が必要である(便の浸透圧が血漿浸透圧とほぼ同じで,便中のナトリウムおよびカリウム濃度の合計の2倍が,測定された便の浸透圧に当たる)。分泌性下痢の他の原因,特に下剤乱用を除外する必要がある(下痢の検査 検査 便の60~90%は水分である。欧米では,便の量は健康な成人で100~200g/日,乳児で10g/kg/日で,非吸収性食物(主に炭水化物)の量によって異なる。下痢は,排便量が1日当たり200gを超える場合と定義される。しかしながら,多くの人は便の流動性が高まることを下痢と考えている。これに対して,食物繊維を摂取した多くの人が体積の大きな有形の便を出すが,それを下痢とみなすことはない。... さらに読む を参照)。そのような患者では,血清VIP濃度を測定すべきである(理想的には下痢発作時)。著明な高値を示せば診断確定となるが,軽度の上昇は短腸症候群や炎症性疾患でも起こることがある。VIP高値の患者では,腫瘍の局在検査として超音波内視鏡検査,PET,オクトレオチドシンチグラフィーなどを施行するか,転移部位を同定するための動脈造影を行うべきである。
電解質測定と血算を行うべきである。50%以下の患者では高血糖と耐糖能障害が生じる。また,50%の患者で 高カルシウム血症 高カルシウム血症 高カルシウム血症とは,血清総カルシウム濃度が10.4mg/dL(2.60mmol/L)を上回るか,または血清イオン化カルシウム濃度が5.2mg/dL(1.30mmol/L)を上回った状態である。主な原因には副甲状腺機能亢進症,ビタミンD中毒,がんなどがある。臨床的特徴としては多尿,便秘,筋力低下,錯乱,昏睡などがある。診断は,イオン化カルシウムおよび副甲状腺ホルモンの血清中濃度測定による。カルシウムの排泄を増強し骨のカルシウム吸収を抑制... さらに読む が生じる。
VIPomaの治療
水分および電解質の補給
オクトレオチド
限局例には外科的切除
まず,水分および電解質を補給する必要がある。便中喪失を補い,アシドーシスを避けるために重炭酸塩を投与する必要がある。水分補給とともに水分および電解質の便中喪失が増加するため,持続的経静脈補給が困難になることがある。
オクトレオチドは通常,下痢を抑制するが,高用量が必要になることがある。奏効例では,長時間作用型オクトレオチド製剤20~30mg,筋注,月1回の投与が有益となりうる。オクトレオチドは膵酵素の分泌を抑制するため,オクトレオチドを使用する患者には膵酵素剤の服用も必要になることがある。
限局性腫瘍患者の50%は腫瘍切除術で治癒する。転移性腫瘍のある患者では,肉眼で見える全ての腫瘍の切除により,症状が一時的に緩和することがある。ストレプトゾシンとドキソルビシンの併用は,客観的反応がみられれば(50~60%),下痢を軽減し,腫瘍を縮小させることができる。VIPomaを対象に検討されている新規の化学療法として,テモゾロミドをベースとするレジメン,エベロリムス,スニチニブなどがある。化学療法では治癒は得られない。
VIPomaの要点
VIPomaの半数以上は悪性である。
大量の水様性下痢(しばしば1日1~3L)がよくみられ,しばしば電解質異常および/または脱水を引き起こす。
水様性下痢が確認された患者では,血清血管作動性腸管ペプチド(VIP)濃度を測定すべきである(理想的には下痢発作時)。
超音波内視鏡検査,PET(陽電子放出断層撮影),オクトレオチドシンチグラフィー,または動脈造影により腫瘍の局在を同定する。
腫瘍は可能であれば外科的に切除し,下痢はオクトレオチドで抑制する。