憩室とは,管腔臓器から突出した袋状の構造であり,その臓器の全層を備えている場合,真性憩室とみなされる(憩室性疾患の定義 憩室性疾患の定義 憩室とは,管腔臓器から突出した袋状の粘膜構造である。 消化管の真性憩室は消化管壁の全層を備えている。 食道憩室および メッケル憩室は真性憩室である。 仮性憩室または偽憩室は,粘膜および粘膜下層が腸壁の筋層を越えて突出したものである。 大腸憩室は仮性憩室である。 英語では,単一の憩室はdiverticulum,複数の憩室はdiverticu... さらに読む も参照)。
メッケル憩室の病態生理
胎生初期には,中腸と卵黄嚢をつなぐ卵黄腸管または臍腸管が通常6週目までに消失する。回腸との連結部が萎縮しなければ,メッケル憩室が生じる。この先天性憩室は,腸管の腸間膜対側から発生し,正常腸管の全層を有しており,したがって真性憩室である。患者の4分の1未満では,メッケル憩室に胃(したがって塩酸を分泌する壁細胞を含む),膵臓,またはその両方の異所性組織が含まれる。
メッケル憩室がある人の合併症発生率は約2%に過ぎない。憩室の発生率に男女差は認められないが,合併症が起きる可能性は男性の方が2~3倍高い。メッケル憩室の合併症としては以下のものがある:
腫瘍
出血は,幼児(5歳未満)により多く,憩室内の異所性胃粘膜から分泌される胃酸によって隣接する回腸組織に潰瘍が生じた場合に起こる。
腸閉塞はいずれの年齢でも起こりうるが,児童と成人でより多くみられる。小児では,閉塞は憩室の 腸重積症 腸重積症 腸重積症とは,腸管の一部(内筒)が隣接部位(外筒)に嵌入した状態のことで,腸閉塞やときに腸管虚血を引き起こす。診断は超音波検査による。治療は空気注腸のほか,ときに手術による。 腸重積症は一般に,生後6カ月から3歳までに発生し,そのうち65%が1歳未満,80~90%は2歳未満で発生する。本症は,この年齢層における腸閉塞の原因として最も頻度の高い病態であり,4歳未満の小児にほぼ男女差なく発生する。4歳以上の小児では,腸重積症は男性ではるかに... さらに読む に起因する可能性が最も高い。腸閉塞はまた,癒着,腸捻転,異物残存,腫瘍,または嵌頓ヘルニア(Littreヘルニア)から発生することもある。
急性のメッケル憩室炎はいずれの年齢でも起こりうるが,発生率のピークは児童期にみられる。
穿孔は腹膜炎の原因となる。
メッケル憩室の症状と徴候
いずれの年齢でも,腸閉塞は痙攣性の腹痛,悪心,および嘔吐を引き起こす。急性のメッケル憩室炎は,典型的には臍の下または隣接部に限局する腹痛および圧痛を特徴とし,しばしば嘔吐を伴い,虫垂炎のそれに類似する。
小児で無痛性の鮮紅色の下血が繰り返し起こることがあり,通常これはショックを引き起こすほど重度ではない。成人でも出血が起こることがあり,典型的には明白な出血ではなく黒色便を来す。
メッケル憩室の診断
症状に基づく
出血に対して:核医学検査,無線式のカプセル内視鏡検査,および小腸内視鏡検査
疼痛に対して:CT
メッケル憩室の診断は困難な場合が多く,検査は主症状に基づいて選択する。
下血がメッケル憩室に起因すると疑われる場合は,過テクネチウム酸ナトリウム(99mTc)を用いたシンチグラフィー(メッケルシンチグラフィー)によって,出血がみられる患児の85~97%で異所性胃粘膜(すなわち憩室)を同定できる。異所性胃粘膜のない憩室は,メッケルシンチグラフィーでは検出できない。無線式のカプセル内視鏡検査と小腸内視鏡検査では,出血源として憩室を視覚的に同定することができる。
腹痛および局所の圧痛がみられる患者には,経口造影剤を用いたCTを施行すべきである。嘔吐と腹部仙痛が優勢な場合は,閉塞の診断を目的として臥位および立位で腹部X線撮影を施行することができる。ときに,虫垂炎を想定した外科的検索時に初めてメッケル憩室の確定診断が下されることもあり,虫垂炎疑いで行う検索時に虫垂が正常と判明した場合には,必ずメッケル憩室を検索するべきである。
メッケル憩室の治療
手術
メッケル憩室に起因して腸閉塞を起こした患者には,早期の手術が必要である。 腸閉塞の治療 治療 腸閉塞は,腸の閉塞を引き起こす病態によって,腸内容の腸管内通過の有意な機械的障害または完全停止が引き起こされた状態である。症状としては痙攣痛,嘔吐,重度で持続性の便秘,放屁の消失などがある。診断は臨床的に行い,腹部X線検査により確定する。治療は,輸液蘇生および経鼻胃管吸引により行い,完全閉塞のほとんどの症例で手術を施行する。 ( 急性腹痛も参照のこと。) 機械的閉塞は,小腸閉塞(十二指腸を含む)と大腸閉塞に分類される。閉塞は,部分または... さらに読む の詳細については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。
隣接する回腸組織の硬結を伴った出血性憩室には,腸管の硬化部を憩室とともに切除する手術が必要になる。回腸の硬結を伴わない出血性憩室は,憩室のみの切除が必要である。
メッケル憩室炎にも通常は切除が必要である。
開腹手術時に偶然発見された小さな無症候性の憩室については,切除する必要はない。手術時に偶然発見されたメッケル憩室の管理については,議論がある。小児および若年成人の憩室では,たとえ無症候性でも切除を選択する医師もいる。無症状の高齢患者でも,触診で肥厚を触知する場合は憩室を切除するが,肥厚した憩室には異所性粘膜が含まれる場合があり,そのため合併症のリスクが高い可能性がある。
メッケル憩室の要点
メッケル憩室は,回腸の腸間膜対側によくみられる先天性の袋状の構造であり,ときに出血,炎症,または閉塞を引き起こす。
25%未満の憩室が塩酸を分泌する異所性の胃組織を含んでおり,それによって隣接する回腸粘膜に潰瘍および出血が生じる可能性がある。
メッケル憩室炎の患者には,虫垂炎のそれと類似する疼痛がみられることがある。
検査は主症状に応じて選択する。
メッケルシンチグラフィーは,出血がみられる小児におけるメッケル憩室の検出感度が高い。
症候性の憩室は外科的に切除する。