吸収不良の概要

執筆者:Atenodoro R. Ruiz, Jr., MD, The Medical City, Pasig City, Philippines
レビュー/改訂 2021年 2月
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吸収不良とは,食物中の物質が十分に同化されない状態であり,消化,吸収,または輸送の障害に起因する。

吸収不良は,多量栄養素(例,タンパク質,炭水化物,脂肪),微量栄養素(例,ビタミン,ミネラル),またはその両方に影響を及ぼすことがあり,結果として便中への過剰排泄,栄養欠乏,および消化管症状が起こる。吸収不良は,ほぼ全ての栄養素の吸収障害を伴う全体的なものと,特定の栄養素だけの吸収不良を伴う部分的(単独的)なものがある。

吸収不良の病態生理

消化および吸収は次の3段階で起こる:

  1. 腔内での酵素による脂肪,タンパク質,炭水化物の加水分解―この段階で胆汁酸塩は脂肪の可溶化を促進する

  2. 刷子縁酵素による消化および最終産物の取り込み

  3. 栄養素のリンパ輸送

一般に,これらの段階のいずれが障害されても吸収不良という言葉が用いられるが,厳密に言うなら,第1段階の障害は吸収不良ではなく消化不良である。

脂肪の消化

長鎖脂肪酸トリグリセリドは,膵酵素(リパーゼおよびコリパーゼ)によって脂肪酸とモノグリセリドに分解され,これらが胆汁酸およびリン脂質と結合することにより,空腸細胞を通過できるミセルが形成される。吸収された脂肪酸は再合成され,タンパク質,コレステロール,およびリン脂質と結合してカイロミクロンを形成し,これがリンパ系を経由して輸送される。中鎖脂肪酸トリグリセリドは直接吸収される。

吸収されない脂肪は,脂溶性ビタミン(A,D,E,K)と,おそらく一部のミネラルを捕捉し,欠乏症を引き起こす。細菌の異常増殖によって胆汁酸塩の脱抱合および脱水酸化が起こり,脂肪の吸収が抑制される。吸収されなかった胆汁酸塩は結腸で水分の分泌を刺激するため,下痢が起こる。

炭水化物の消化

炭水化物および二糖類は,膵酵素のアミラーゼと微絨毛上の刷子縁酵素によって構成単糖類に分解される。吸収されなかった炭水化物は,結腸細菌による発酵を受けて二酸化炭素,メタン,水素,および短鎖脂肪酸(酪酸,プロピオン酸,酢酸,乳酸)に分解される。これらの脂肪酸は下痢の原因となる。ガスは腹部の膨隆および膨満を引き起こす。

タンパク質の消化

タンパク質の消化は,胃においてペプシンにより開始される(ペプシンはさらに,膵酵素の分泌に極めて重要なコレシストキニンの分泌を刺激する)。刷子縁酵素であるエンテロキナーゼは,トリプシノーゲンをトリプシンへと活性化し,これが多くの膵プロテアーゼを活性型に変換する。活性型膵酵素はタンパク質をオリゴペプチドに加水分解し,オリゴペプチドは直接吸収されるか,アミノ酸まで加水分解される。

吸収不良の病因

吸収不良には多くの原因がある( see table 吸収不良の原因)。いくつかの吸収不良疾患(例,セリアック病)は,大半の栄養素,ビタミン,および微量ミネラルの吸収を障害するのに対し(global malabsorption),他の吸収不良疾患(例,悪性貧血)は,より選択的である。

膵機能不全では,機能喪失が90%を上回ると吸収不良が生じる。管腔内の酸度の上昇(例,ゾリンジャー-エリソン症候群)によって,リパーゼおよび脂肪の消化が阻害される。肝硬変および胆汁うっ滞によって,肝内胆汁の合成または十二指腸への胆汁酸塩の排出が減少し,吸収不良が起こる。その他の原因については,本節の別の箇所で考察されている。

細菌,ウイルス,および寄生虫の急性感染症では,一過性の吸収不良が生じることがあり(胃腸炎の概要も参照),これはおそらく,絨毛および微絨毛の表面が一時的に損傷する結果と考えられる。小腸の慢性細菌感染症は,小腸内細菌異常増殖症(SIBO)が生じることのある盲係蹄,全身性強皮症憩室の場合を除けば,まれである。腸内細菌は食物中のビタミンB12および他の栄養素を消費し,場合によっては酵素系に干渉し,粘膜損傷を引き起こす可能性がある。

表&コラム

吸収不良の症状と徴候

吸収されなかった物質がもたらす影響として,特に全般的な吸収不良(global malabsorption)では,下痢,脂肪便,腹部膨満,ガスなどがある。その他の症状は栄養欠乏に起因する。十分な食物摂取にもかかわらず,しばしば体重が減少する。

最も一般的な症状は慢性下痢症であり,通常はこれが患者を評価するきっかけとなる。脂肪の排泄が7g/日を上回ると,脂肪便(過度の脂肪を含む便で吸収不良の特徴)が発生する。脂肪便とは,悪臭を放ち蒼白で体積の大きい脂ぎった便である。

進行した吸収不良では,重度のビタミンおよびミネラル欠乏が起こり,症状は特定栄養素の欠乏に関連する( see table 吸収不良の症状)。ビタミンB12欠乏症は盲係蹄症候群で発生する場合や,遠位回腸または胃の広範囲切除後にみられる場合がある。鉄欠乏症は,軽度の吸収不良患者における唯一の症状となることがある。

表&コラム

無月経は低栄養によって生じることがあり,若年女性におけるセリアック病の重要な臨床像である。

吸収不良の診断

  • 診断は典型的には詳細な病歴から臨床的に明らかとなる。

  • 吸収不良がもたらす結果をスクリーニングするための血液検査

  • 吸収不良を確定診断するための便中脂肪検査(診断が不明確な場合)

  • 原因の診断は内視鏡検査,造影X線検査,または所見に基づいた他の検査による

慢性下痢,体重減少,および貧血がみられる患者では,吸収不良が疑われる。病因はときに明らかである。例えば,慢性膵炎に起因する吸収不良の患者では,通常は急性膵炎発作の既往がある。セリアック病患者では,グルテン含有食品により増悪する古典的な下痢が生涯にわたってみられ,疱疹状皮膚炎を呈することもある。肝硬変および膵癌の患者では,黄疸がみられることがある。炭水化物摂取から30~90分後に起こる腹部膨隆,過剰放屁,水様性下痢は,二糖類分解酵素欠損症,通常はラクターゼ欠乏症を示唆する。複数に及ぶ腹部手術の既往は短腸症候群を示唆する。

既往歴から具体的な原因が示唆される場合は,その疾患を対象とする検査を行うべきである(推奨される吸収不良の評価の図を参照)。原因を容易に判断できない場合は,血液検査をスクリーニングの手段として用いることができる(例,血算,赤血球指数,フェリチン,ビタミンB12,葉酸,カルシウム,アルブミン,コレステロール,プロトロンビン時間)。検査結果から何らかの診断が示唆され,さらなる検査の方向が示されることがある。

推奨される吸収不良の評価

大球性貧血を認めた場合は,葉酸およびビタミンB12の血清中濃度を測定すべきである。葉酸欠乏症は,上部小腸が侵される粘膜疾患(例,セリアック病熱帯性スプルーWhipple病)でよくみられる。ビタミンB12低値は,悪性貧血,慢性膵炎小腸内細菌異常増殖症(SIBO),および回腸末端部の疾患でみられる。腸内細菌はビタミンB12を利用して葉酸を合成することから,ビタミンB12低値と葉酸高値が同時に認められる場合は,SIBOが示唆される。

小球性貧血は鉄欠乏症を示唆するが,これはセリアック病で生じることがある。アルブミンは栄養状態の一般的な指標である。アルブミン低値は,摂取不足,肝硬変における合成低下,またはタンパク質消耗により発生する可能性がある。血清カロテン(ビタミンAの前駆体)低値は,摂取が十分である場合は,吸収不良を示唆する。

吸収不良の確認

吸収不良を確認するための検査は,症状が漠然としていて,病因が明らかでない場合に適応となる。大半の吸収不良検査では脂肪吸収不良を評価するが,これは脂肪吸収の測定が比較的容易であるためである。脂肪便が確認されれば,炭水化物吸収不良の確認は意味がなくなる。糞便中の窒素定量は困難であるため,タンパク質吸収不良の検査はまれにしか行われない。

72時間蓄便による便中脂肪量の直接測定は,脂肪便を確定診断する検査のゴールドスタンダードであるが,原因が明らかな肉眼的脂肪便には不要である。しかしながら,この検査をルーチンに施行できる施設はごく少数である。便を3日間採取し,患者はこの期間中に100g/日以上の脂肪を摂取する。便中総脂肪量を測定する。便中脂肪量が7g/日を上回る場合は異常である。重度の脂肪吸収不良(便中脂肪量40g/日以上)は,膵機能不全または小腸粘膜疾患を示唆するが,この検査では吸収不良の特異的原因は特定できない。一部の検査結果には脂肪排泄率が含まれるが,これは便中脂肪排泄量の1日平均(グラム)を脂肪摂取量の1日平均(グラム)で割った値と定義される。脂肪排泄率が7%を上回る場合は,脂肪吸収不良が示唆される。この検査は汚く,不快で,時間がかかるため,ほとんどの患者に受け入れられず,実施は困難である。

便塗抹標本のズダンIII染色は,便中脂肪に対して簡便で直接的であるが,非定量的なスクリーニング検査である。ステアトクリット法は,1つの便検体で行われる重量測定法であり,感度および特異度ともに高いと報告されている(72時間蓄便を基準として使用)。近赤外分光分析法(NIRA)は,便中の脂肪,窒素,および炭水化物を同時に測定する分析法である。これらの検査法は米国では広く普及していない。

便中のエラスターゼおよびキモトリプシンの測定も膵臓起因と腸管起因の吸収不良を鑑別する上で役立つ可能性があり,膵外分泌機能不全ではいずれも低下するが,腸管が原因の吸収不良ではいずれも正常である。

D-キシロース吸収試験も病因が明らかでない場合には施行できるが,内視鏡検査と画像検査が進歩したことで,この検査は現在ほとんど使用されていない。D-キシロース吸収試験は,腸管粘膜の完全性を非侵襲的に評価し,粘膜疾患と膵疾患を鑑別する上で役立つ可能性があるが,この検査で異常がみられた場合には内視鏡検査と小腸粘膜生検が必要となる。そのため,腸粘膜疾患の確定診断を目的とする場合は,この検査は小腸生検に取って代わられている。

D-キシロースは,受動拡散によって吸収され,消化に膵酵素を必要としない。中等度から重度の脂肪便の存在下でD-キシロース試験の結果が正常である場合は,小腸粘膜疾患ではなく膵外分泌機能不全が示唆される。腸内細菌はペントースを代謝し,吸収可能なD-キシロースを減少させるため,SIBOにより異常な結果がもたらされる可能性がある。

絶食後,D-キシロース25gを水200~300mLに溶解して経口投与する。尿を5時間にわたり採取し,1時間後に静脈血検体を採取する。血清D-キシロース20mg/dL(1.33mmol/L)未満または尿検体中4g未満は吸収異常を示唆する。偽低値は腎疾患,門脈圧亢進症,腹水,または胃排出遅延でも発生する可能性がある。

吸収不良の原因の診断

吸収不良のいくつかの原因を診断するためには,より特異的な診断検査(例,上部消化管内視鏡検査,大腸内視鏡検査,バリウムによるX線撮影)が適応となる。

小腸粘膜疾患が疑われる場合または大量の脂肪便を認める患者でD-キシロース試験の結果が異常の場合には,上部消化管内視鏡検査と小腸生検を行う。内視鏡検査により,小腸粘膜を視覚的に評価できるとともに,生検時に病変部に誘導することが可能である。腸内細菌の異常増殖が臨床的に疑われる場合は,細菌の異常増殖を確認するため,小腸吸引液を細菌培養およびコロニー計数に送ることができる。通常の内視鏡では到達できない小腸遠位部の疾患を検索するため,現在ではビデオカプセル内視鏡検査を選択できるようになっている。小腸生検での組織学的特徴( see table 特定の吸収不良疾患における小腸粘膜の組織学的所見)によって,特定の粘膜疾患を確認できる。

表&コラム

小腸X線検査(例,経口小腸造影,ゾンデ法による小腸造影,CT小腸造影,MR小腸造影)で腸内細菌異常増殖の素因である器質的所見を検出できる。具体的には,空腸憩室,瘻孔,外科的に作られた盲係蹄や吻合,潰瘍,狭窄などがある。これらの画像検査で粘膜異常が検出されることもある。腹部臥位X線で慢性膵炎を示唆する膵臓の石灰化を認めることがある。小腸バリウム造影検査は,感度も特異度も低いが,粘膜疾患を示唆する所見(例,拡張した小腸係蹄,菲薄化または肥厚した粘膜ヒダ,バリウム塊の粗大な断裂)が認められることがある。CT,磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP),および内視鏡的逆行性胆道膵管造影によって慢性膵炎の診断を確定できる。

膵機能不全の検査(例,セクレチン負荷試験,ベンチロミド試験,Pancreolauryl試験,血清トリプシノーゲン,便中エラスターゼ,便中キモトリプシン)は,既往歴で示唆される場合に行うが,軽症の膵疾患に対する感度は低い。

呼気試験は腸内細菌異常増殖症の診断に役立つ。グルコース水素およびラクツロース水素呼気試験が最も頻用されている。これらの検査では,細菌による炭水化物の分解によって生じる呼気中の水素を測定する。二糖類分解酵素欠損症の患者では,腸内細菌が結腸内の吸収されなかった炭水化物を分解するため,呼気中の水素が増加する。SIBOの診断には,内視鏡検査時に採取した吸引物の細菌培養に代わって,水素呼気試験が用いられるようになっている。乳糖水素呼気試験は,ラクターゼ欠乏症の確定診断にのみ有用であり,吸収不良の評価での初期診断検査としては用いられない。

シリング試験では,ビタミンB12の吸収不良を評価する。この検査では,欠乏の原因が悪性貧血,膵外分泌機能不全,腸内細菌異常増殖,回腸疾患のいずれであるかを4段階で同定する。

  • 第1段階:放射性標識したシアノコバラミン1μgの経口投与と,肝臓中の結合部位を飽和させるための非標識コバラミン1000μgの筋肉内投与を同時に行う。24時間蓄尿により放射能を測定し,尿中排泄率が経口投与量の8%を下回る場合は,コバラミンの吸収不良が示唆される。

  • 第2段階:第1段階で異常が認められた場合は,内因子を加えて試験を繰り返す。内因子の投与で吸収が正常化した場合は,悪性貧血が存在する。

  • 第3段階:第3段階は膵酵素を追加して行うが,この段階での正常化は,コバラミン吸収不良が膵機能不全に続発したものであることを示唆する。

  • 第4段階:第4段階は嫌気性菌をカバーする抗菌薬を投与してから行うが,抗菌薬投与後の正常化はSIBOを示唆する。

回腸疾患または回腸切除に続発するコバラミン欠乏症では,全ての段階で異常となる。

吸収不良の比較的まれな原因の検査として,血清ガストリン(ゾリンジャー-エリソン症候群),内因子および壁細胞抗体(悪性貧血),汗中塩化物イオン濃度(嚢胞性線維症),リポタンパク質電気泳動(無βリポタンパク質血症),血清コルチゾール(アジソン病)がある。

回腸末端の疾患(例,クローン病,回腸末端の広範切除)に伴って起こりうる胆汁酸吸収不良を診断するためには,胆汁酸吸着レジン(例,コレスチラミン)による治療を試験的に行うことができる。あるいは,SeHCAT(selenium-75–labeled homocholic acid taurine)試験を行うことができる。この検査では,セレン75標識合成胆汁酸を経口投与し,7日後に残存している胆汁酸を全身スキャンまたはガンマカメラで測定する。胆汁酸吸収に異常がある場合,貯留は5%未満となる。SeHCAT試験は米国を含む多くの国で利用できない。

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