
代謝性アルカローシスの概要
代謝性アルカローシスの「アルカローシス」とは血液のpHを7.45以上に上昇させる過程を指し,「代謝性」とはそれが血液中の重炭酸イオン(HCO3-)の濃度上昇に起因するということを意味します。
正常では,血液のpHは,pHを上昇させる塩基(主に重炭酸イオン[HCO3-])の濃度とpHを低下させる酸(主に炭酸[H2CO3])の濃度のバランス(比)に依存しています。血液のpHは常に7.35~7.45である必要があります。
代謝性アルカローシスは一般に2つの主な原因,すなわち水素イオン(H+)の喪失および重炭酸イオン(HCO3-)の増加に起因し,実際にはこれら2つが両方存在することも少なくありません。水素イオン(H+)の喪失は,消化管または腎臓のいずれかで起こります。消化管からの喪失は,嘔吐時に最もよくみられますが,これは胃の分泌物は酸性度が高い,すなわち水素イオン(H+)を多く含んでいるためです。また,正常であれば,胃分泌物は膵臓に流入し,重炭酸イオン(HCO3-)の分泌物と接触し,胃酸が中和されます。トリプシンやキモトリプシンなどの様々な膵酵素が効果的な作用を発揮できるのはそのためです。そのため,嘔吐時には胃酸が失われるだけでなく,膵臓は重炭酸イオン(HCO3-)を腸管に分泌しなくなり,それが血液中に蓄積します。
水素イオン(H+)が失われるもう1つの経路は尿を介したもので,これはアルドステロンホルモンが過剰に存在する状況で発生します。これはアルドステロンを過剰分泌する副腎腫瘍がある場合に起こることがあります。アルドステロンの作用により,遠位曲尿細管および集合管のα介在細胞を介して水素イオン(H+)が排泄され,重炭酸イオン(HCO3-)の再吸収が増加します。その結果,尿はより酸性に,血液はより塩基性に傾きます。
代謝性アルカローシスの2つ目の原因,すなわち重炭酸イオン(HCO3-)の増加は,通常,腎臓からの重炭酸イオン(HCO3-)の再吸収の増加によって引き起こされます。腎臓のこの作用を刺激する原因には様々なものがあります。その1つは細胞外液の減少つまり過剰喪失であり,ループ利尿薬およびサイアザイド系利尿薬の使用のほか,重度の脱水に伴って発生します。その結果生じるアルカローシスは濃縮性アルカローシスと呼ばれます。ときに,脱水は代謝性アルカローシスの他の原因(長引く嘔吐など)と併発することがあります。もう1つの刺激は低カリウム血症(血中カリウム濃度の低下)であり,これは消化管からの過剰な喪失(下痢など),または利尿薬の使用による腎臓からの過剰な喪失によって引き起こされます。いずれにしても,細胞外腔の容積またはカリウムが減少すると,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化されます。その結果,アンジオテンシンIIおよびアルドステロンの濃度が上昇し,腎臓が水分を保持し始めるとともに,近位曲尿細管での重炭酸イオン(HCO3-)の再吸収が増加します。また,遠位曲尿細管および集合管のα介在細胞は,水素イオン(H+)を尿中にある程度分泌しますが,重要なのは,この細胞は重炭酸イオン(HCO3-)も新たに産生し,その重炭酸イオンがまた再吸収されるということです。
もう1つのシナリオは,過剰な重炭酸イオン(HCO3-)が体内に由来するのではなく,炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)のような制酸薬の形で大量に摂取されるケースです。このような薬剤は典型的には胃酸を中和し,消化不良を緩和するために用いられます。ですが,制酸薬を過剰に使用すると,胃の中で水素イオン(H+)よりも重炭酸イオン(HCO3-)が多くなることがあり,過剰な重炭酸イオン(HCO3-)は血液中に吸収される可能性があります。
これら全てのプロセスが,結果として血中の重炭酸イオン(HCO3-)濃度を増加させ,血液pHを上昇させます。ただし,多くの場合,それに加えて低カリウム血症がみられます。例えば嘔吐では,胃分泌物中のカリウムイオン(K+)が失われます。その他の状況,例えば濃縮性アルカローシスの発生時や副腎腫瘍がある場合などには,アルドステロンが増加します。アルドステロンは遠位曲尿細管と集合管の内腔を覆う主細胞に作用し,これらの細胞からカリウムイオン(K+)が尿中に排泄されます。つまり,低カリウム血症は代謝性アルカローシスの原因にも結果にもなりえるということです。
血液中のHCO3-濃度が上昇した場合,身体にはpHの均衡の維持を助けるいくつかの重要な機序が備わっています。第一に,全身の細胞には,細胞膜を介して水素イオン(H+)をカリウムイオン(K+)と交換する特殊なイオン輸送体があります。この輸送体を使って,細胞は水素イオン(H+)を細胞内から血中へ,そしてカリウムイオン(K+)を血中から細胞内へ移動させることができます。これは低カリウム血症に寄与する可能性があります。
第二の機序には呼吸器系が関与しており,このプロセスは頸動脈壁および大動脈弓壁にある化学受容器から始まります。これらの化学受容器はpHが上昇すると発火する頻度が減少し,脳幹の呼吸中枢に呼吸数および呼吸の深さを減少させる必要があることを知らせます。呼吸が遅く浅くなると,分時換気量,すなわち1分間に肺に出入りする空気の量が減少します。換気が低下すると,体外に排出される二酸化炭素(CO2)の量が減少し,これにより体内のPCO2が上昇してpHが低下します。
第三の機序として,代謝性アルカローシスの原因が利尿薬の使用や細胞外液量減少などの腎臓の問題でなければ,通常は数日後に腎臓によって不均衡が是正されるというものがあります。腎臓は水素イオンの保持を増やす一方で,重炭酸イオン(HCO3-)の再吸収を減らすため,HCO3-は尿中に排泄されやすくなります。
以上のように,代謝性アルカローシスは,血液のpHを7.45以上に上昇させる血中重炭酸イオン(HCO3-)濃度の上昇によって引き起こされます。これは嘔吐または副腎腫瘍による水素イオン(H+)の喪失に起因することが最も多いですが,制酸薬または体液減少による重炭酸イオン(HCO3-)の増加に起因することもあります。
Metabolic Alkalosis (https://www.youtube.com/watch?v=eTOFH8B_Rsg&list=PLY33uf2n4e6PT53f0Z5LmFHo7Vb0ljn5b&index=11) by Osmosis (https://open.osmosis.org/) is licensed under CC-BY-SA 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/).