乳児および小児における便秘の器質的原因

原因

示唆する所見

診断アプローチ

解剖学的原因

肛門狭窄

生後24~48時間に排便が遅延

爆発的な排便および排便痛

腹部膨隆

肛門の外見または位置の異常

指診により狭い肛門管を触知

臨床的評価

肛門の前方偏位

排便時に著しい怒責および疼痛を伴う重度の慢性便秘

典型的には,便軟化剤および下剤の積極的な使用に反応しない

肛門開口部が会陰の色素沈着部中央に存在しない

API(anal position index)*値は前方偏位を示すが,その基準には性差がある:

  • 女児:< 0.29

  • 男児:< 0.49

鎖肛

腹部膨隆

排便がない

肛門の外見もしくは位置の異常,または肛門がない場合もある

診察

内分泌疾患または代謝性疾患

尿崩症

多飲

多尿

水分摂取で治まる過度の啼泣

体重減少

嘔吐

尿および血清浸透圧

抗利尿ホルモン値

血清ナトリウム

ときに水制限試験

高カルシウム血症

悪心,嘔吐

筋力低下

腹痛

食欲不振,体重減少

多飲

多尿

血清カルシウム

低カリウム血症

筋力低下

多尿,脱水

発育不全の病歴

おそらく,アミノグリコシド系薬剤,利尿剤,シスプラチン,またはアムホテリシンの使用歴

電解質検査

甲状腺機能低下症

哺乳不良

徐脈

新生児での泉門開大および筋緊張低下

耐寒性低下,乾燥皮膚,疲労,遷延性黄疸

甲状腺刺激ホルモン(TSH)

サイロキシン(T4)

脊髄の異常

脊髄髄膜瘤

出生時に肉眼的に認められる脊椎部病変

下肢反射または筋緊張の減弱

肛門括約筋反射の消失

腰仙椎の単純X線

脊椎MRI

潜在性二分脊椎

仙骨部多毛または皮膚小陥凹が認められることがある

脊椎MRI

係留脊髄

歩行変化

下肢痛または下肢筋力低下

尿失禁

背部痛

脊椎MRI

脊髄腫瘍または脊髄感染症

背部痛

下肢痛または下肢筋力低下

下肢反射の減弱

歩行変化

尿失禁

脊椎MRI

腸疾患

セリアック病(グルテン腸症)

食事で小麦を摂取し始めた後に発症(典型的には生後4~6カ月後)

発育不良

反復性腹痛

腹部膨満

下痢または便秘

血算

セリアック病の血清学的検査(抗組織トランスグルタミナーゼIgA抗体)

十二指腸生検のための内視鏡検査

牛乳タンパク質不耐症(牛乳アレルギー)

嘔吐

下痢または便秘

血便

裂肛

発育不良

牛乳タンパク質除去による症状消失

ときに内視鏡検査または大腸内視鏡検査

嚢胞性線維症

新生児の胎便排泄遅延または胎便性イレウス

より年長の小児では,小腸閉塞(胎便性イレウスと同病態)の反復エピソードも発現しうる

発育不良

肺炎または喘鳴の反復エピソード

汗試験

遺伝子検査

ヒルシュスプルング病

胎便排泄遅延

腹部膨隆

指診により狭い肛門管を触知

下部消化管造影

確定診断のための直腸肛門内圧測定および直腸生検

過敏性腸症候群

慢性反復性腹痛

しばしば,下痢と便秘が交互に発現

残便感

粘液排出

食欲不振および体重減少はなし

臨床的評価

偽性腸閉塞

悪心,嘔吐

腹痛および腹部膨隆

腹部X線

結腸通過時間

胃十二指腸内圧測定

腸管の腫瘍

体重減少

盗汗

発熱

腹痛および/または腹部膨隆

腹部腫瘤触知

腸閉塞

MRI

脳性麻痺および他の重度の神経脱落症状

脳性麻痺は腸管の緊張低下および運動麻痺を起こすため,大半の脳性麻痺の小児でみられる

食物繊維の少ない調整栄養剤による経管栄養

臨床的評価

薬物有害作用

抗コリン薬,抗うつ薬,化学療法薬,またはオピオイドの使用

示唆する病歴

臨床的評価

毒素

乳児ボツリヌス症

吸啜不良,哺乳困難,食欲不振,流涎の新たな発生

弱い啼泣

易刺激性

眼瞼下垂

下行性または全身性の筋緊張低下および筋力低下

生後12カ月より前に蜂蜜を摂取した可能性

便中のボツリヌス毒素検出検査

鉛中毒

大半が無症状の可能性が高い

おそらく間欠的腹痛,散発的な嘔吐,疲労,易刺激性

発達のマイルストンの欠如

血中鉛濃度

*API(anal position index)は以下のように算出する:

  • 女児:肛門から陰唇小帯までの距離/尾骨から陰唇小帯までの距離(正常平均 ± SD:0.45 ± 0.08)

  • 男児:肛門から陰嚢までの距離/尾骨から陰嚢までの距離(正常平均 ± SD:0.54 ± 0.07)

SD = 標準偏差

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