超音波ガイド下末梢静脈カテーテル挿入

執筆者:Yiju Teresa Liu, MD, Harbor-UCLA Medical Center
レビュー/改訂 2020年 10月
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超音波ガイド下末梢静脈カテーテル挿入は,リアルタイム(動的)に超音波を用いて静脈穿刺をガイドし,注射針の上にカテーテルを通して末梢静脈(通常は上腕深部の触知不能な静脈)にカテーテルを留置する方法である。

超音波ガイドを用いると,末梢静脈(特に深部の触知不能な静脈)へのカテーテル挿入が容易になる。本項では,超音波をガイドとした静脈内カテーテル留置の方法を紹介する。静注を開始する実際の手順は,超音波を用いない場合と同じであり,詳細は末梢静脈カテーテル挿入に記載されている。

適応

  • カテーテル挿入に適した末梢静脈の同定が困難であり,その点を除けば中心静脈カテーテルを必要としない患者

禁忌

絶対的禁忌

  • なし

相対的禁忌

  • 術者が超音波診断装置の扱いに慣れていない,またはその訓練を受けていない

静脈内へのカテーテル留置には特定の部位を使用することへの相対的禁忌がいくつかあるが,適切な部位が同定されれば,超音波診断装置を使用することへの禁忌はない。

合併症

  • なし

静脈内カテーテル留置の合併症はいくつかあるが,これらは超音波診断装置の使用とは無関係である。

器具

静注の開始に必要な標準的な器具に加えて,以下のものが必要である:

  • 高周波(例,7.5MHz以上)の超音波診断装置,リニア型プローブ(トランスデューサー)

  • プローブにかける透明のカバー(例,滅菌ドレッシング,使い捨てのプローブカバー)

  • 滅菌の水性潤滑剤の使い捨て用パッケージ(複数回使用できるボトル入りの超音波検査用ゼリーより望ましい)

その他の留意事項

  • 超音波ガイド下の末梢静脈カテーテル挿入では,一般に2つの画像が用いられる。短軸像(short-axis)(横断面像,断層像[transverse, cross-sectional])は撮影が容易であり,静脈と動脈の位置関係を確認するのに最良であるため,通常はこれが好んで使用される。ただし,短軸像では針は横断面(高エコーの[白い]点)しか見えず,針の先端を識別するには撮影面が針の先端を横切る際に白い点が現れたり消えたりすることのみを頼りにしなければならない。

  • 超音波の長軸(縦断面,in-plane)像は技術的に撮影が難しい(プローブ,静脈,および針を1つの面に映さなければならない)が,針の全体(先端を含む)が常に描出されるため,血管内へ正確に留置できる。末梢静脈が狭小化していると,縦断面像を得ることが困難になる。

関連する解剖

末梢静脈には表在性のものも深在性のものもある。典型的には,表在静脈が視認または触知できない場合に,超音波によるガイドが必要となる。超音波ガイド下での静脈内カテーテル留置の典型的な標的としては以下のものがある:

  • 前腕深部静脈

  • 上腕静脈(典型的には上腕内側の上腕動脈の両側に2本の上腕静脈が存在する)

体位変換

  • カテーテルを挿入する部位を快適な場所に置き,予定穿刺部位がしっかり露出するように体位を調整する(例,上腕静脈または尺側皮静脈にカテーテルを挿入するには,腕を外転および外旋させて上腕内側を露出する)。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

穿刺部位の準備ならびに静脈カテーテルの挿入および固定の手順は超音波ガイドを用いない場合と同じであり,ここでは説明しない。

超音波診断装置を準備し,候補となる静脈を同定する

  • 超音波装置が正しく設定され機能していることを確認する:装置を2-DモードまたはBモードに設定し,各施設のプロトコルに則った適切な画像記録を取得できる状態にする。プローブを保持したり動かしたりするときに,画面がプローブの空間的な向きと相関していることを確認する。これはほとんどの場合,プローブについているマークを患者の左側ではなく操作者の左側に向けることを意味する。プローブ先端のサイドマークは,超音波装置の画面上の丸い点/記号に対応する。正確な左右の向きを得るために,必要に応じて画面の設定とプローブの位置を調整する。

  • 穿刺候補部位の近位に駆血帯を巻き,非清潔下に予備的な超音波検査を施行して,適当な静脈を同定する。望ましい静脈の部位は,直線状で幅が広く,表面に比較的近く,付近の動脈と明らかに区別できるものである。

  • 短軸(断層,横断面)像を用いて,血管が低エコー(超音波画面上で黒く見える),周囲組織が灰色になるように端末上でゲインを調整する。全体が見えるように,最大深度を骨表面に設定する。静脈に沿ってプローブを近位から遠位へゆっくりとスライドさせ,静脈がプローブ中央の下にくるようにプローブを調整/回転させる。最大深度が皮膚表面から候補の静脈までの距離のおよそ2倍になるよう調節する。

  • 適当なカテーテル 挿入部位を同定したら,駆血帯を外す。

一般に,静脈は動脈よりも大きく,壁が薄く,卵円形で(動脈の場合は壁が厚くて円形),圧迫(すなわち,プローブによる圧迫)によりつぶれやすい。静脈内腔が変形したり隠れたりしないよう,圧迫は軽く行う。

静脈血栓症がある場合,カテーテル挿入の対象とならない;静脈内腔にエコー源性(灰色の不整な形)を呈することがあるが,多くの場合,血栓のある静脈が圧迫できないことによって診断される。

超音波ガイド下に末梢静脈カテーテルを挿入する

  • 前述の通り,点滴に必要な器具を用意し,挿入部位を準備する

  • 予定穿刺部位の近位に駆血帯を再度巻く。

  • 2層のゼリーを用いる。1層目はプローブの先端に塗布し,プローブを滅菌の透明ドレッシングで覆い,密着させて気泡を除去する。その後,カバーで覆った先端部に再度,滅菌潤滑剤を塗布する。

  • 短軸(横断面)像から始める:プローブの先端を皮膚の上に,静脈を横切るように置く。標的とする静脈刺入部位を選択し,この画像が超音波画面上の中央に来るようにする(つまりその静脈がプローブ下の中央に来るようにする)。標的とする静脈刺入部位のすぐ遠位の仮の位置にプローブを移動させる。

  • 針先のベベル型の刃面を上に向けて留置針を皮膚に挿入する。プローブをわずかに向こう側へ傾けることで,留置針が撮影面に入り,先端を確認できる。先端が同定されたら,プローブを数mm近位側(標的とする静脈刺入部位の近く)に移動させる。プローブを静止させたまま,留置針の先端を示す明るい白い点が再び現れるまで,画面を見ながら留置針を進める。

  • このプロセスを繰り返して留置針を進める。

  • カテーテル 挿入時は常に短軸(横断面)像を観察することが望ましい。留置針を進めながらプローブを前後に軽く傾け,静脈に近づくにつれて針の先端(白い点)が消えたり現れたりするのを絶えず確認する。

    あるいは,縦断面(長軸)像に切り替えて,留置針が静脈に接近して入る様子を縦に見ることもできる。プローブを90度回転させ,必要に応じてわずかに側方に移動させて,留置針と静脈の両方の完全な縦断面(in-plane)が見えるように維持する。

  • 留置針が静脈に到達すると,針がまず血管壁表面に凹みを作り,その後,壁を貫通して内腔に入るのが見えるはずである。同時にシリンジ内部に暗赤色の血液が戻れば,血管内に入っていることが確認できる。

  • 標準的な手順に従ってカテーテルを進め,確実に血管内に留置し,超音波検査用ゼリーを拭き取ってからカテーテルを固定し,点滴を開始する。

アフターケア

  • 留置後72時間以内にカテーテルを交換または抜去する。

アドバイスとこつ

  • 多量のゼリーや潤滑剤は必要なく,むしろプローブのセンターマーカーを見えにくくすることがある。

  • 使い捨てのゼリーは,ボトル入りの超音波検査用ゼリーよりも望ましい。

注意点とよくあるエラー

  • 挿入時は常に超音波で針の先端を観察できるようにしておく。

  • 実際には静脈に穿刺されていなくても,針が静脈の内腔に入っているように見えることがある。プチッと弾けるような感覚を感じるか,カテーテルチャンバー内の逆血がみられるまで,超音波ガイド下に静脈内へ進め続ける。

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