静脈血の採取

執筆者:Yiju Teresa Liu, MD, Harbor-UCLA Medical Center
レビュー/改訂 2020年 10月
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静脈血の採取では,針を静脈に挿入して検査用の血液検体を採取する。

末梢静脈(典型的には肘部の静脈)が静脈採血の一般的な部位である。

装置があり,訓練を受けたスタッフがいる場合は,超音波ガイドを使用することで深部の触知不能な静脈からの採血が容易になることがある。

血管確保も参照のこと。)

適応

  • 臨床検査のため静脈血検体が必要である

禁忌

絶対的禁忌

  • なし

相対的禁忌

  • 予定穿刺部位の感染または血腫

  • 損傷または重度の浮腫がある四肢

  • 血栓性静脈炎または静脈炎

  • 静脈の予定穿刺部位より遠位の静脈カテーテル(静脈穿刺部位より遠位に輸液または薬剤が注入されている場合は,臨床検査結果に影響を及ぼす可能性がある)

  • 動静脈グラフトまたは動静脈瘻

  • 同側の乳房切除

上記の状況では,静脈穿刺に別の部位(例,対側の腕)を用いる。

凝固障害は禁忌ではないが,静脈穿刺後の圧迫時間を長くする必要がある。

合併症

合併症はまれであるが,以下のものがある:

  • 局所感染

  • 動脈穿刺

  • 血腫または出血

  • 静脈損傷

  • 神経の損傷

  • 血管迷走神経性失神

器具

  • 皮膚消毒用:アルコール,クロルヘキシジン,またはポビドンヨードを含浸させた綿棒またはガーゼ

  • 非滅菌手袋(血液培養検体を採取する場合は滅菌手袋)

  • 駆血帯(1回使い捨て)

  • 針および関連器具(例,針とシリンジまたは針と真空管,成人では一般的に21G針,新生児,幼児,ときに高齢患者では22Gまたは23G針)

  • 必要に応じて採血管および血液培養ボトル

  • ドレッシング材(例,テープ,ガーゼ,包帯)

追加の器具としては以下のものがある

  • 静脈検出装置(例,赤外線を用いて静脈を可視化する装置,超音波診断装置)

  • 表面麻酔薬(小児では標準):リドカインのインジェクター(針なし注射器)(needle-free lidocaine gas-injector),リドカイン-アドレナリン-テトラカイン混合剤,またはリドカイン-プリロカイン[prilocaine]クリーム

その他の留意事項

  • クロルヘキシジン過敏症:別の消毒薬を用いて皮膚を消毒。

  • ラテックス過敏症:ラテックスを含まない手袋および駆血帯を使用する。

  • 長時間の駆血帯留置および血液うっ滞により人為的な臨床検査異常(例,溶血および高カリウム血症)を引き起こす可能性があるため,これを回避するため,この処置は効率的かつ迅速に行う必要がある。

  • ポビドンヨードを用いて皮膚を消毒した場合は,誤った血液検査値(例,高カリウム血症,高リン血症,または高尿酸血症)が出ないよう,また皮膚への刺激を回避するため,皮膚を乾燥させた後,イソプロピルアルコールで除去する。

  • 針刺し事故を防止するため,採血終了後は直ちに使用済みの採血器具(針はシリンジまたは真空管ホルダーに装着したまま)を適切な容器に慎重に保管すること。容器がすぐに手に入らない場合を除き,廃棄前に標準的な(すなわち,安全装置のついていない)針をリキャップしてはならない。

関連する解剖

  • 採血には肘正中皮静脈および橈側皮静脈が望ましいが,腕や手の他の静脈を使用してもよい。

  • 橈側皮静脈は腕の外側(橈側)に位置し,尺側皮静脈は腕の内側(尺側)に位置する。これらの静脈は肘窩を通ってそこで枝分かれし,肘窩および前腕近位部の大きな静脈となる。

  • 上腕動脈(前腕と手に血液を供給する)は上腕の尺側皮静脈の深部に位置し,肘窩または前腕近位部で橈骨動脈と尺骨動脈に分岐する。動脈穿刺を避けるため慎重を期さなければならない。

  • 上肢の静脈に到達できない場合は,下肢の静脈(例,背側趾静脈および足関節内果の前下方の大伏在静脈)または外頸静脈を使用してもよい。

体位

  • 患者は背中を支えられた座位にするか,患者が不安を感じていたり血管迷走神経反射の既往があったりする場合は仰臥位にすべきである。

  • 回外した前腕(または他の選択した部位)を,快適な場所の上で支える。

  • 外頸静脈に到達するには,トレンデレンブルグ体位で頭部をやや対側に傾けさせる。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

部位の同定および準備

  • 適切な静脈を同定するために予備的な視診を(非清潔下に)行う:駆血帯を装着して患者に拳を作らせ,示指で触診して,可動性がなくツルゴールの良好な径の大きな静脈を同定する。

  • 静脈の拡張および位置確認の助けとするため,穿刺候補部位を指先で軽く叩く。腕を垂らすと静脈圧を上昇させるのに役立つことがある。適当な静脈を容易に視認または触診できない場合は,静脈検出装置を使用する。

  • 適当なカテーテル 挿入部位を同定したら,駆血帯を外す。

  • 麻酔薬(使用する場合)を塗布し,効果が現れるまで十分な時間をおく(例,針なし注射器では1~2分,表面麻酔では30分)。

  • 予定穿刺部位から外側に向けて円を数回描くようにして皮膚を消毒する。

  • 消毒液が完全に乾燥するのを待つ。ポビドンヨードを塗布した場合は,アルコールで拭き取った後,乾燥させる。

    血液培養用の血液を採取する場合,採取部位をアルコールで30秒間力強く消毒し,アルコールを乾燥させた後,クロルヘキシジンまたはポビドンヨードを含ませた綿棒で外側へ向けて重ね合わせた円を描く。消毒効果が現れるまで待つ(クロルヘキシジンで1分,ヨウ素で1.5~2分)。ポビドンヨードはアルコールで拭き取った後,乾燥させる。小児に対しては,アルコールのみを用いて綿棒で3回消毒する。この時点以降,滅菌されていないもので処置部位の皮膚に触れないこと。

血液検体を採取する

静脈に手際良く到達し,駆血帯を装着してから30秒以内に血液検体を採取するようにする。駆血帯を1分以上つけたままにしない。

  • 選択した穿刺部位の近位に再度駆血帯を装着する。採血中は患者に拳を作らせたり,腕を垂れさせたりしてはならないが,これらの手技は様々な誤った臨床検査値(例,カリウム,乳酸,リンの上昇)を引き起こす可能性があるためである。

  • 手袋をはめた指で触診して,標的静脈の正中部を同定する。

  • 利き手ではない方の手の母指で静脈の遠位側を愛護的に牽引し,静脈が動かないようにする。前腕または肘窩の大きな静脈には牽引は必要ないことがある。

  • これから針を刺すことを患者に伝える。

  • 針を近位(すなわち,静脈血流の方向)に向けて,針先のベベル型の刃面を上に向け,皮膚に対して浅い角度(約10~30度)で静脈の正中線に沿って挿入する。

  • 針の先端が静脈の内腔に入ると,血液が針のハブに現れる(逆血と呼ばれる)。針を進めるのを止め,静脈に沿うように針の角度を寝かせ,さらに1~4mm静脈内に進め,採血の間,針がその位置から動かないようにする。

    1~2cm挿入してもハブに逆血がみられない場合,ゆっくりと針を引き抜く。針が静脈の反対側まで貫通してしまっている場合,針の先端を内腔に引き戻す際に逆血がみられることがある。それでも逆血がない場合は,針をほぼ皮膚表面まで引き抜き,方向を変えて,再び静脈内への挿入を試みる。

    急速な局所腫脹がみられる場合,血液が血管外に漏出している。処置を終了する:駆血帯を取り外して針を抜去し,ガーゼパッドを当てて穿刺部位を圧迫する(凝固障害がない限り,通常は1~2分で十分である)。

  • 針が動かさないように固定する。

  • 採血を開始し,血液が流れ始めたら駆血帯を除去する。

    真空管を使用するときは,それぞれの採血管を真空管ホルダーに完全に押し込み,静脈から針が外れないように注意する。複数の採血管を適切な順序で充填する。*採血管をホルダーから外した後,6~8回静かに転倒させて内容物を混和する(ただし,採血管を振らないこと)。

    シリンジを使用するときは,血球の損傷や静脈の虚脱を避けるため,プランジャーは愛護的に引く。

  • 採血が完了したら,折りたたんだガーゼを利き手ではない方の手で静脈穿刺部位に愛護的に押し付け,一息に針を抜き,直ちにガーゼで同部位を圧迫する。まだ駆血帯を除去していない場合は,除去する。

  • 患者または助手に患部を圧迫し続けるよう指示する。

  • 採血にシリンジを使用した場合,採血管および採血ボトルに検体を移す。*針を真空管の上部に直接挿入するか,針を外して真空管ホルダーをシリンジに取り付ける。真空採血管に血液を注入するのではなく,真空採血管に血液を吸引させる。血液を採血管に注いだ後,試験管を6~8回静かに転倒させて内容物を混和する(ただし,採血管を振らないこと)。

  • 露出した針に安全カバーをかぶせる。使用済みの採血器具(針付き)をシャープスコンテナに保管する。シャープスコンテナがすぐに手に入らない場合を除き,廃棄前に安全装置のついていない針をリキャップしてはならない。

  • 穿刺部位をガーゼとテープまたは包帯で覆う。

*複数の血液検査を行う場合は,採血管に適切な順序で血液を分配すべきである;まず培養,次に抗凝固薬を添加した採血管,その他の採血管とする。

血液培養ボトルのゴム栓は,血液検体を採取する前に適切に消毒する必要があることに注意する(例,70%アルコール含浸ガーゼで各栓を30秒間こすり,空気に当てて乾燥させる)。

注意点とよくあるエラー

  • 駆血帯を使用する際は,軽く縛る程度に留める;動脈駆血帯ではなく静脈駆血帯を用いる。採血後に駆血帯を除去することを忘れないこと。

  • 静脈を穿刺する際,深く刺しすぎて静脈の反対側まで貫通してしまわないよう注意する。

  • 針が静脈に入らない場合は,先端を左右に動かして針の位置をずらそうとしてはならない;これにより静脈が押しやられ,組織が損傷する可能性がある。そうではなく,途中まで針を引き抜いてから挿入角度と挿入方向を変える。

  • 肘窩の静脈を穿刺した後に肘関節を屈曲させることはもはや推奨されていない;これは実際には血腫形成を促す。

アフターケア

  • 数分後に再点検を行い,出血/血腫がないことを確認する。

アドバイスとこつ

  • 静脈穿刺が困難な場合(例,新生児の細い静脈,高齢者の脆弱な静脈),シリンジに翼状針を装着するのが望ましい場合がある。

  • 適当な静脈の位置を特定するのが困難な場合は,当該肢を下げるか,温罨法またはニトログリセリン軟膏を用いて静脈の拡張を試みる。

  • 手袋はサイズがぴったり合ったものを使用すると,静脈の触診が容易になる。

  • 血管迷走神経反射を予防するため,器具や処置から目を逸らすように患者に指示する。

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