乳児および小児における悪心・嘔吐

執筆者:Deborah M. Consolini, MD, Thomas Jefferson University Hospital
レビュー/改訂 2020年 6月
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悪心とは嘔吐が今にも起こりそうな感覚で,心拍数増加や唾液分泌亢進などの自律神経系の変化をしばしば伴う。典型的には悪心と嘔吐は続いて起こるが,別々に起こることもある(例,頭蓋内圧亢進により,悪心が先行せず嘔吐が起こりうる)。

嘔吐は不快であり,水分が失われかつ経口による水分補給が制限されるため,脱水を引き起こしうる。

病態生理

嘔吐は,延髄に位置する嘔吐中枢によって調節される一連の事象の最終的な結果である。消化器系(例,咽頭,胃,小腸)および消化器系以外(例,心臓,精巣)からの求心性神経経路,第4脳室底の最後野に位置する化学受容器引金帯(ドパミンおよびセロトニン受容体が発現している),ならびに中枢神経系にある他の中枢(例,脳幹,前庭系)を介して嘔吐中枢が刺激される。

病因

嘔吐の原因は年齢により異なり,比較的良性のものから生命を脅かす恐れのあるものまで様々である( see table 乳児,小児,および青年における嘔吐の主な原因)。嘔吐は毒となりうるものを吐き出させる防御機構であるが,重篤な疾患(例,腸閉塞)を示すこともある。胆汁性嘔吐は上部腸管の閉塞を示唆し,特に乳児では直ちに評価する必要がある。

乳児

乳児では正常でも授乳中または授乳直後,しばしばげっぷをさせるときに少量(通常< 5~10mL)の溢乳がみられる。急速な授乳,空気嚥下,および授乳過多が原因となりうるが,このような因子がなくても溢乳がみられることがある。ときにみられる嘔吐も正常でありうるが,反復する嘔吐は異常である。

乳児および新生児の嘔吐で最も頻度の高い原因には以下のものがある:

乳児および新生児の嘔吐でその他の重要な原因は以下の通りである:

反復性嘔吐の比較的まれな原因には敗血症および食物不耐症などがある。代謝性疾患(例,尿素サイクル異常症,有機酸血症)はまれであるが嘔吐とともに発現しうる。

年長児

最も頻度の高い原因は

消化管以外の感染症でも,数回の嘔吐エピソードが起きる可能性がある。考慮すべき他の原因としては,重篤な感染症(例,髄膜炎,腎盂腎炎),急性腹症(例,虫垂炎),占拠性病変(例,外傷または腫瘍による)に続発する頭蓋内圧亢進,周期性嘔吐症などがある。

青年では嘔吐の原因として,妊娠摂食障害,および毒性物質の摂取(例,アセトアミノフェン,エタノール)などがある。

表&コラム

評価

評価には,重症度(例,脱水や外科的疾患または他の生命を脅かす疾患の有無)および原因の診断などがある。

病歴

現病歴の聴取では,嘔吐エピソードの開始時期,頻度,およびエピソードの特徴(特に,噴出性か,胆汁性か,または少量で溢乳により一致しているか)を明らかにすべきである。嘔吐に至るあらゆるパターン(例,哺乳後,特定の食物の摂取時のみ,主に朝か,または反復性周期性エピソードなのかなど)を確定すべきである。重要な関連症状には,下痢(血性または非血性),発熱,食欲不振,および腹痛と腹部膨隆,またはその両方などがある。排便回数および便の粘度ならびに尿量に注意すべきである。

システムレビュー(review of systems)では,脱力,吸啜不良,および発育不良(代謝性疾患);胎便排泄遅延,腹部膨隆,および嗜眠(腸閉塞);頭痛,項部硬直,および視覚の変化(頭蓋内疾患);過食または歪んだ身体像の徴候(摂食障害);無月経および乳房腫脹(妊娠);発疹(食物アレルギーでの湿疹または蕁麻疹,敗血症または髄膜炎での点状出血);耳痛または咽頭痛(消化管以外の限局性の感染症);頭痛,頸部痛もしくは背部痛,または腹痛を伴う発熱(髄膜炎,腎盂腎炎,または虫垂炎)などの原因疾患の症状がないか検討すべきである。

既往歴の聴取では,旅行(感染性胃腸炎の可能性),最近の頭部外傷,および無防備な性行為(妊娠)の既往に注意すべきである。

身体診察

バイタルサインでは,感染症(例,発熱)および体液量減少(例,頻脈,低血圧)の指標を評価する。

一般診察の際には,苦痛の徴候(例,嗜眠,易刺激性,なだめられない啼泣)および体重減少(悪液質)または増加の徴候に注意する。

腹部の診察により不快感が起こる可能性があるため,身体診察は頭部から始めるべきである。頭頸部の診察では,感染症の徴候(例,鼓膜の発赤および膨隆,大泉門の膨隆,扁桃の発赤)および脱水の徴候(例,粘膜の乾燥,涙液の不足)に集点を置くべきである。頸部を受動的に屈曲し,髄膜刺激症状を示唆する抵抗性または不快感を調べる。

心臓の診察では,頻脈の有無(例,脱水,発熱,苦痛)に注意すべきである。腹部の診察では,膨隆;腸音の有無と質(例,高調,正常,消失);筋性防御,筋硬直,または反跳痛を伴う圧痛(腹膜刺激徴候);および臓器腫大または腫瘤の有無に注意すべきである。

皮膚および四肢の診察では,点状出血もしくは紫斑(重度の感染症)または他の発疹(ウイルス感染またはアトピーの徴候の可能性),黄疸(代謝性疾患の可能性),および脱水の徴候(例,皮膚ツルゴールの低下,毛細血管再充満時間の延長)を調べる。

成長パラメータおよび順調な発達の徴候に注意すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 胆汁性嘔吐

  • 嗜眠または元気がない

  • 乳児では,なだめられない状態および泉門膨隆

  • より年長の小児では,項部硬直,羞明,および発熱

  • 腹膜刺激徴候または腹部膨隆(急性腹症)

  • 成長または発育不良を伴う持続的嘔吐

所見の解釈

初期所見は,疾患の重症度および即時介入の必要性を決定するのに役立つ。

  • 反復性嘔吐,胆汁性(黄色または緑色)嘔吐や噴出性嘔吐のある新生児または乳児はいずれも消化管閉塞がある可能性が高く,おそらく外科的介入が必要である。

  • 仙痛様腹痛,間欠的な疼痛または元気のなさ,排便消失または血便がみられる乳児または幼児では,腸重積症の評価が必要である。

  • 発熱,項部硬直,および羞明のある小児または青年では,髄膜炎の評価を行うべきである。

  • 発熱および腹痛に続いて嘔吐,食欲不振,および腸音減弱のある小児または青年では,虫垂炎の評価を行うべきである。

  • 最近の頭部外傷歴,または朝の嘔吐を伴う慢性進行性の頭痛および視覚の変化は,頭蓋内圧亢進症を示す。

他の所見は主に年齢に応じて解釈できる( see table 乳児,小児,および青年における嘔吐の主な原因)。

乳児では,易刺激性,窒息,および呼吸器の徴候(例,吸気性喘鳴)は胃食道逆流の症状である可能性がある。発達不良または神経症状の既往がある場合,中枢神経系疾患または代謝性疾患が示唆される。胎便排泄の遅延,その後の嘔吐の出現,またはその両方はヒルシュスプルング病または腸狭窄を示唆している場合がある。

小児および青年では,発熱は感染症を示唆し,嘔吐と下痢を併発している場合は急性胃腸炎を示唆する。指の病変および歯のエナメル質溶解がみられる,または体重の減少を気にしない青年や身体像に歪みのある青年では摂食障害が示唆される。朝の悪心および嘔吐,無月経,そしておそらく体重増加は,妊娠を示唆する。以前にも起こったことがあり発作性,一時的,かつ他に合併症状がない嘔吐は,周期性嘔吐症を示唆する。

検査

検査は疑われる原因疾患に照準を当てて行うべきである( see table 乳児,小児,および青年における嘔吐の主な原因)。典型的には,腹部または中枢神経系の病態を評価するため画像検査を行う。遺伝性代謝疾患または重篤な感染症を診断するため,様々な特異的な血液検査または培養を行う。

脱水が疑われる場合,血清電解質を測定すべきである。

治療

悪心と嘔吐の治療は原因疾患に対し行う。水分補給が重要である。

悪心および嘔吐を減少させるために成人でしばしば使用される薬剤は,小児での投与の有用性が証明されていないことから,また,それらの薬剤には有害作用のリスクや悪心・嘔吐の原因となっている病態を覆い隠すリスクがあることから,小児で使用されることはさほど多くない。ただし,悪心または嘔吐が重症であるか寛解しない場合や,2歳以上の小児では,慎重に制吐薬を使用してもよい。有用な薬剤としては以下のものがある:

  • プロメタジン:2歳以上の場合,0.25~1mg/kg(最高25mg)経口,筋肉内,静脈内,または直腸内投与,4~6時間毎

  • プロクロルペラジン:2歳以上で体重9~13kgの場合,2.5mg経口投与,12~24時間毎;体重13~18kgの場合,2.5mg経口投与,8~12時間毎;体重18~39kgの場合,2.5mg経口投与,8時間毎;体重39kgを超える場合,5~10mg経口投与,6~8時間毎

  • メトクロプラミド:0.1mg/kg経口または静注,6時間毎(最高10mg/回)

  • オンダンセトロン:0.15mg/kg(最高8mg)静注,8時間毎または,経口剤使用の場合,2~4歳は2mg,8時間毎;4~11歳,4mg,8時間毎;12歳以上,8mg,8時間毎

プロメタジンはH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)で末梢刺激に対する嘔吐中枢の反応を阻害する。最も頻度の高い有害作用は,呼吸抑制,鎮静,めまい,不安,霧視,口腔乾燥,勃起障害,および便秘であり,この薬剤は2歳未満の小児には禁忌である。プロメタジンの治療量により,斜頸などの錐体外路系有害作用が生じることがある。

プロクロルペラジンは弱いドパミン受容体遮断薬で,化学受容器引金帯を抑制する。眠気,めまい,不安,奇妙な夢,不眠症,乳汁漏出症,アカシジア,およびジストニアが最も頻度の高い有害作用である。

メトクロプラミドはドパミン受容体拮抗薬で,中枢性かつ末梢性に作用し,胃の運動を増加させ,化学受容器引金帯への求心性インパルスを減少させる。眠気,めまい,興奮,頭痛,下痢,アカシジア,およびジストニアが最も頻度の高い有害作用である。

オンダンセトロンは選択的セロトニン(5-HT3)受容体遮断薬で,末梢での嘔吐反射の開始を阻害する。急性胃腸炎で経口補水療法(ORT)が無効な小児では,オンダンセトロンの単回投与は安全かつ効果的である。オンダンセトロンによりORTが容易になることで,輸液の必要性を回避でき,また輸液を受けている小児では入院を避けるのに役立つ場合がある。典型的には,反復投与により下痢が持続する原因となる恐れがあるため,単回投与のみ行う。その他の頻度の高い有害作用としては,頭痛,めまい,眠気,霧視,便秘,筋硬直,頻脈,幻覚などがある。

要点

  • 一般に,嘔吐の最も頻度の高い原因は急性ウイルス性胃腸炎である。

  • 下痢の合併は消化管の感染症が原因であることを示唆する。

  • 胆汁性嘔吐,血便,または排便の停止は,原因が閉塞性であることを示唆する。

  • 持続する嘔吐(特に乳児)では直ちに評価が必要である。

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