腸回転異常症とは,子宮内での発生過程において腸管が腹腔内の正常な位置に収納されなかった状態である。診断は腹部X線による。治療は外科的修復である。
(消化器系の先天異常の概要も参照のこと。)
腸回転異常症は,最も頻度の高い小腸の先天異常である。無症候性の腸回転異常症が出生200~500人当たり1例の頻度で発生すると推定されているが,症候性の腸回転異常症の頻度はこれよりも低い(出生6000人当たり1例)(1)。
発生過程において,原始腸管は一度腹腔内から脱出する。その後腹腔内に戻る際に,正常であれば大腸が反時計方向に回転し,最終的に盲腸が右下腹部に納まる状態となる。ここでこの回転が不完全であるがために,最終的に盲腸が別の位置(通常は右上腹部または上腹部中央)に納まる場合,後腹膜から伸びる靱帯(Ladd靱帯)が十二指腸を横切るか,または腹膜との正常な付着を欠くために狭く茎状になった腸間膜部位で小腸が捻転を起こすことにより,腸閉塞が発生することがある(2)。
他の形成異常が30~60%の患児にみられ,最も頻度が高いのは他の消化管異常(例,腹壁破裂,臍帯ヘルニア,横隔膜ヘルニア,腸閉鎖,メッケル憩室)である。次いで心形成異常が多く,これには内臓心房錯位症候群(胸部および腹部で内臓が異常に配置している状態)が含まれる。
腸回転異常症の患者は乳児期または成人期に発症するが,30%は生後1カ月以内,75%は5歳までに発症する。急性腹痛および胆汁性嘔吐に伴い,急性腸捻転,典型的な逆流症状,または慢性腹痛がみられる(3)。別の問題の評価時に腸回転異常症が偶然発見される患者もいる。
乳児における胆汁性嘔吐は緊急事態であり,直ちに検査を行って回転異常や中腸軸捻転がないかを確認しなければならず,無治療の場合は,腸梗塞とその結果として生じる短腸症候群または死亡のリスクが高くなる。
総論の参考文献
1.Khara HS, Kothari ST, Gruss CB, et al: True versus pseudo-intestinal malrotation: case series and review. ACG Case Rep J 1(1):29-32, 2013.Published 2013 Oct 8.doi:10.14309/crj.2013.12
2.Langer JC: Intestinal rotation abnormalities and midgut volvulus.Surg Clin N Am 97(1):147–159, 2017.doi: 10.1016/j.suc.2016.08.011
3.Salehi Karlslätt K, Husberg B, Ullberg U, et al: Intestinal Malrotation in Children: Clinical Presentation and Outcomes [published online ahead of print, 2023 Mar 7]. Eur J Pediatr Surg 10.1055/s-0043-1764239, 2023.doi:10.1055/s-0043-1764239
腸回転異常症の診断
腹部X線
下部消化管造影および/または上部消化管造影
胆汁性嘔吐がみられる乳児には,腹部の単純X線撮影を直ちに施行すべきである。ここで閉塞が示唆される場合,例えば胃と近位小腸の拡張(double-bubble sign),十二指腸より肛門側の腸管ガス減少,またはその両方(中腸軸捻転を示唆する)がみられる場合は,さらなる診断と治療を緊急に行う必要がある。典型例では,下部消化管造影で盲腸が右下腹部以外にあることが示されれば,回転異常症と確定する。この診断法でも依然として不明確な場合は,上部消化管造影を慎重に施行する。
単純X線の所見が非特異的で,閉塞がみられない場合は,同様の症状を引き起こす別の疾患が検出される可能性があることから,ときに上部消化管造影が最初に施行される。
緊急性の低い状況では,上部消化管造影が腸回転異常症の確定診断検査となる。超音波検査による腸回転異常症の診断について研究が行われており,その方法では十二指腸第3部の腸間膜背側への移動,あるいは腸間膜動静脈の逆位とwhirlpool sign(上腸間膜動脈の周囲を腸管が渦巻き状に取り囲む像)がないか確認することで診断を下す。超音波検査の使用は経験豊富な放射線科医または放射線技師による検査が可能かどうかに依存している。現在のところ,腸捻転合併の有無を問わず,腸回転異常症の標準的診断法は上部消化管造影である(1,2)。
診断に関する参考文献
1.Graziano K, Islam S, Dasgupta R, et al: Asymptomatic malrotation: Diagnosis and surgical management: An American Pediatric Surgical Association outcomes and evidence based practice committee systematic review.J Pediatr Surg 50:1783–1790, 2015.doi: 10.1016/j.jpedsurg.2015.06.019
2.Zhou LY, Li SR, Wang W, et al: Usefulness of sonography in evaluating children suspected of malrotation: Comparison with an upper gastrointestinal contrast study.J Ultrasound Med 34:1825–1832, 2015.doi: 10.7863/ultra.14.10017
腸回転異常症の治療
外科的修復
回転異常と中腸軸捻転の存在は迅速な手術を必要とする緊急事態であり,その手術は腹膜靱帯の切離を伴うLadd手術と中腸軸捻転の軽減である。Ladd手術は腹腔鏡下または開腹下で施行できる。腸捻転を合併しない腸回転異常症に腹腔鏡下Ladd手術を施行すると,開腹手術と比べて経腸栄養再開までの時間と入院期間が短縮する可能性がある(1)。
無症状の小児で腸回転異常症が偶然認められた場合は,腸捻転の予後が深刻となりうる可能性があることを念頭にLadd手術を考慮すべきであるが,このような状況での本手術の施行については議論がある。
治療に関する参考文献
1.Ooms N, Matthyssens LE, Draaisma JM, et al: Laparoscopic treatment of intestinal malrotation in children.Eur J Pediatr Surg 26:376–381, 2016.doi: 10.1055/s-0035-1554914
要点
発生過程では,腸管は腹腔外で発生した後に腹部に戻って回転するが,その回転が不完全であると,腸閉塞が生じることがある。
患者はしばしば無症状であるが,一部では軽度の非特異的症状(例,逆流)や,腸捻転に起因する生命を脅かす腸閉塞の症状(例,胆汁性嘔吐)がみられる。
他の形成異常(典型的には先天性消化管形成異常)が30~60%の患者でみられる。
消化管のX線撮影と上部消化管造影および/または下部消化管造影を施行する。
症状がある患児には外科的修復を行う。