血栓塞栓性疾患(深部静脈血栓症[DVT]または肺塞栓症[PE])は母体死亡の主な原因の1つである。
妊娠中は以下の理由のため,リスクが増大する:
下肢の静脈容量および静脈圧が増大し,結果としてうっ滞が起こる。
妊娠により,いくらかの凝固亢進状態が生じる。
しかしながら,大半の血栓塞栓症は分娩後に発生し,これは分娩中の血管傷害に起因する(1)。血栓塞栓性疾患の発生リスクは,分娩後約6週間にわたって増大する可能性が高い。帝王切開も,他の手術と同様に,リスクを増大させる。
症状は非妊娠時と同様の場合がある。血栓塞栓性疾患は,無症状のこともあれば,ごく軽微な症状のみの場合や,明らかな症状を呈する場合もある。さらに,腓腹部の浮腫,痙攣痛,および圧痛は,妊娠中に正常な場合でも生じることがあるが,ホーマンズ徴候(膝関節を伸展した状態で足関節を背屈することで誘発される腓腹部の不快感)と類似することがある。
敗血症性骨盤静脈血栓症(septic pelvic thrombophlebitis)はまれな分娩後疾患で,卵巣静脈,腸骨静脈,および/または大静脈に形成された血栓内に細菌感染が認められる。敗血症性塞栓が起こることがある。分娩後の患者で,抗菌薬療法にもかかわらず発熱が少なくとも3~5日続き,ほかに同定可能な病因がない場合には,敗血症性骨盤静脈血栓症を疑う。
参考文献
1.American College of Obstetricians and Gynecologists' Committee on Practice Bulletins: Obstetrics.ACOG Practice Bulletin No. 196: Thromboembolism in Pregnancy [published correction appears in Obstet Gynecol. 2018 Oct (reaffirmed 2022);132(4):1068]. Obstet Gynecol.2018;132(1):e1-e17.doi:10.1097/AOG.0000000000002706
妊娠中の血栓塞栓性疾患の診断
深部静脈血栓症には,ドプラ超音波検査またはときに造影CT
肺塞栓症には,ヘリカルCT
深部静脈血栓症の診断は通常,妊娠中および分娩後にドプラ超音波検査により行う。Dダイマーの値は妊娠中に上昇し,その後分娩後に徐々に低下する;したがって,この検査は結果が陰性(血栓が除外される)の場合を除き,妊娠中および分娩後には有用ではない。
敗血症性骨盤静脈血栓症が疑われる場合,診断はCTまたはMRIによる。
肺塞栓症の診断は,肺換気血流シンチグラフィーよりもヘリカルCTによって行われることが多くなっているが,これは,CTは被曝がより少なく,同等の感度を有するためである。肺塞栓症の診断が確定しない場合は,肺血管造影が必要である。
妊娠中の血栓塞栓性疾患の治療
非妊娠時と同様であるが,ワルファリンの使用は避ける
リスクが高い女性には,妊娠中および分娩6週間の間,予防的に低分子ヘパリン
深部静脈血栓症や肺塞栓症を妊娠中に認めた場合,第1選択の抗凝固薬は低分子ヘパリン(LMWH)である。LMWHはその分子の大きさのため,胎盤を通過しない。また,母体の骨粗鬆症を起こさず,未分画ヘパリンの長期(6カ月以上)使用により起こりうる血小板減少症を起こしにくい。ワルファリンは胎盤を通過し,胎児の異常または死亡を招きうる(の表を参照)。
妊娠中の血栓溶解療法の適応は,妊娠していない患者の場合と同様である。
効果的な抗凝固療法にもかかわらず肺塞栓症が再発した場合は,手術の適応であり,通常は腎血管のすぐ遠位側での下大静脈フィルター留置術を施行する。
過去の妊娠で深部静脈血栓症または肺塞栓症が発生していた場合,または血栓性の基礎疾患をもつ場合には,最初に妊娠が診断された時点でLMWH(例,エノキサパリン40mg,皮下注,1日1回)による予防的治療を開始し,分娩後6週まで継続する。
要点
妊娠中は血栓塞栓性疾患のリスクが増大するが,大半の血栓塞栓症は分娩後に発生し,これは分娩中の血管損傷に起因する。
症状は非妊娠時と同様となりうるが,患者に症状がみられないか,典型的な妊娠症状(例,息切れ,下肢の浮腫)と間違われることがある。
深部静脈血栓症はドプラ超音波検査を用いて診断する;敗血症性骨盤静脈血栓症が疑われる場合は,CTまたはMRIを施行する。
肺塞栓症はヘリカルCT,または必要があれば肺血管造影を用いて診断する。
低分子ヘパリン(LMWH)が第1選択の治療法である;妊娠中のワルファリンは避けるべきである。
高リスクの女性は,妊娠が診断され次第すぐにLMWHによる予防的治療を開始し,分娩後6週まで継続する。



