異所性妊娠

執筆者:Antonette T. Dulay, MD, Main Line Health System
レビュー/改訂 2022年 10月
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異所性妊娠は,子宮腔の子宮内膜以外の部位,すなわち卵管,子宮角,頸部,卵巣,腹腔または骨盤腔内に着床する妊娠である。異所性妊娠では満期まで妊娠を継続できず,最終的には破裂または自然消失する。初期症状および徴候として骨盤痛および性器出血がある。破裂に伴って出血性ショックが起こりうる。診断はヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニットの測定および超音波検査による。治療は腹腔鏡や開腹での外科的切除,またはメトトレキサートによる。

異所性妊娠は生命を脅かす出血を引き起こす可能性があり,疑われる場合は,患者をできる限り早く評価し,治療すべきである。異所性妊娠の発生頻度は診断された妊娠の約100分の2である(1)。

総論の参考文献

  1. 1.Van Den Eeden SK, Shan J, Bruce C, Glasser M: Ectopic pregnancy rate and treatment utilization in a large managed care organization.Obstet Gynecol 105 (5 Pt 1):1052–1057, 2015.doi: 10.1097/01.AOG.0000158860.26939.2d

異所性妊娠の病因

大半の異所性妊娠は卵管に位置し,卵管癒着のリスクを増大させる感染症もしくは手術またはその他の異常の既往は異所性妊娠のリスクを増大させる。

異所性妊娠のリスクを特に上昇させる因子として以下のものがある:

  • 異所性妊娠の既往

  • 腹部または骨盤内手術の既往,特に卵管手術(卵管結紮術を含む)

  • 卵管異常

  • 子宮内避妊器具(IUD)の使用

  • 体外受精による現在の妊娠

卵管結紮またはIUD挿入を行えば,妊娠が起こる可能性ははるかに低くなるが,妊娠が起きた場合には,異所性妊娠のリスクが増大する(例,IUD使用中の妊娠の約5%)。

異所性妊娠の他の危険因子としては以下のものがある:

  • エストロゲン-プロゲスチン経口避妊薬を現在使用している

  • 骨盤内炎症性疾患または性感染症の既往(特にChlamydia trachomatisによる)

  • 不妊症

  • 喫煙

  • 自然流産または人工妊娠中絶の既往

異所性妊娠の病態生理

最も多くみられる異所性妊娠の部位は卵管であり,続いて子宮角(子宮角妊娠または間質部妊娠と呼ばれる)である。頸管,帝王切開瘢痕,卵巣,または腹膜の妊娠はまれである。

子宮内外同時妊娠(異所性妊娠および子宮内妊娠の同時発生)は妊娠10,000~30,000例当たりわずか1例であるが,排卵誘発,または体外受精および配偶子卵管内移植(GIFT)などの生殖補助医療の治療を受けた女性でより多くみられることがある;このような女性で報告されている異所性妊娠率は1~2%である(1)。

胎児を含んだ解剖学的構造物は通常6~16週間後に破裂する。破裂による出血は,徐々に起こるか,出血性ショックを生じるほど急激に起こることもある。破裂が起こる時期に妊娠が進んでいるほど失血が急激となり,死亡のリスクが高まる。

病態生理に関する参考文献

  1. 1.Perkins KM, Boulet SL, Kissin DM, et al: Risk of ectopic pregnancy associated with assisted reproductive technology in the United States, 2001-2011.Obstet Gynecol 125 (1):70–78, 2015.doi: 10.1097/AOG.0000000000000584

異所性妊娠の症状と徴候

異所性妊娠の症状は様々で,破裂が起こるまで認められないこともある。

大半の患者に骨盤痛(鈍い,鋭い,または痙攣性であることがある),性器出血,または両方が起こる。月経が不規則な患者は妊娠に気づいていないこともある。

破裂の前兆は突然の重度の疼痛であり,その後,失神,または出血性ショックや腹膜炎の症状および徴候が現れる。子宮角妊娠で破裂が生じると急激な出血が起こる可能性が高い。

頸部移動痛,片側または両側の付属器の圧痛,または付属器腫瘤を認めることがある。過度の圧迫は妊娠を破裂させうるため,内診は慎重に行うべきである。子宮はわずかに大きくなることがある(しかし最終月経日に基づく予想よりもしばしば小さい)。

異所性妊娠の診断

  • 血清β‐ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG)の定量

  • 骨盤内超音波検査

  • ときに腹腔鏡検査

性交歴,避妊歴,月経歴にかかわらず,妊娠可能年齢の全ての女性において,骨盤痛,性器出血または原因不明の失神や出血性ショックがあれば,異所性妊娠を疑う。身体診察(内診を含む)の所見は感度や特異度が低い。

異所性妊娠の破裂は,母体出血を引き起こし,死亡リスクを高めることから,外科的緊急事態であり,迅速な診断が必須である。

パール&ピットフォール

  • 性交歴,避妊歴,月経歴および診察所見にかかわらず,妊娠可能年齢の全ての女性に骨盤痛,性器出血または原因不明の失神や出血性ショックがあれば,異所性妊娠を疑う。

まず最初に,妊娠(異所性およびそれ以外)の感度が約99%の尿妊娠検査を行う。尿のβ-hCGが陰性であり,臨床所見が異所性妊娠を強く示唆しない場合,症状が再発または悪化しない限りさらなる評価は不要である。尿中β-hCGが陽性であるか,または臨床所見が異所性妊娠を強く示唆し,尿中β-hCGに基づいて検出するには妊娠が早期すぎる場合は,血清β-hCG定量および骨盤内超音波検査の適応となる。

超音波検査で子宮内妊娠が発見された場合は,女性が生殖補助医療を利用していた場合(このような患者ではまれであるものの,子宮内外同時妊娠のリスクが上昇する)を除いて異所性妊娠はほとんど考えられない。しかしながら,子宮角妊娠および間質部妊娠は子宮内妊娠のように見えることがある。子宮内妊娠の診断に有用となる所見は,卵黄嚢を伴う胎嚢または子宮腔内の胎芽(心拍の有無は問わない)である。子宮内に妊娠が認められないことに加え,異所性妊娠を示唆する超音波検査所見には,複雑な構造の(充実性成分と嚢胞性成分の混合)骨盤内腫瘤(特に付属器における),およびダグラス窩のエコー源性の液体がある。

血清β-hCG が一定の値(discriminatory zoneと呼ばれる)を超えている場合,子宮内妊娠の患者では超音波検査で卵黄嚢を伴う胎嚢が検出されるはずである。経腟超音波検査では,3500mIU/mLという高い値が設定される場合もあるが,多くの施設では2000mIU/mLを採用している(1)。β-hCG値がdiscriminatory zoneよりも高く子宮内に妊娠がみられない場合は,異所性妊娠である可能性が高い。

β-hCG値がdiscriminatory zoneよりも低く,超音波検査で胎嚢が検出されない場合には,患者は子宮内妊娠初期または異所性妊娠である可能性がある。臨床的評価で活動性出血または破裂を伴う異所性妊娠が示唆される場合(例,著明な出血または腹膜刺激の徴候)は,診断および治療のために診断的腹腔鏡検査が必要になることがある。

異所性妊娠が確認されておらず,患者の状態が安定していれば,β-hCGの血清中濃度を外来で連続的に測定する(典型的には2日毎)。正常では,値は妊娠41日まで1.4~2.1日毎に2倍となる;異所性妊娠(および潜在的な自然流産)における値は期日から予想されるよりも低く,通常はそれほど速く倍増しない。β-hCG値が予測されるように上昇しない場合,または低下する場合は,自然流産または異所性妊娠の診断の可能性が高い。

診断に関する参考文献

  1. 1.Connolly AM, Ryan DH, Stuebe AM, Honor M Wolfe HM: Reevaluation of discriminatory and threshold levels for serum β-hCG in early pregnancy.Obstet Gynecol 121 (1):65–70, 2013.doi: 10.1097/aog.0b013e318278f421

異所性妊娠の予後

異所性妊娠は胎児にとって致死的であるが,破裂前に治療すれば母体の死亡はまれである。2007年の米国では,異所性妊娠による死亡率は女性10万人当たり1人未満であった;死亡率は白人女性より黒人女性で高く,35歳以上の女性で高かった(1)。

予後に関する参考文献

  1. 1.Creanga AA, Shapiro-Mendoza CK, Bish CL, et al: Trends in ectopic pregnancy mortality in the United States: 1980-2007.Obstet Gynecol 117 (4):837–843 2011.doi: 10.1097/AOG.0b013e3182113c10

異所性妊娠の治療

  • 小さな,未破裂の異所性妊娠に対しては通常,メトトレキサート

  • 破裂が疑われる場合,またはメトトレキサートによる治療の基準を満たさない場合には外科的切除

  • Rh陰性の妊婦ではRho(D)免疫グロブリン

メトトレキサート

卵管妊娠の患者が以下の全てに該当する場合にはメトトレキサートで治療することがある:

  • 患者の血行動態が安定しており,破裂した徴候や破裂が迫っている徴候が認められない。

  • 血算および腎,肝機能検査結果が正常で,患者に他の禁忌がない。

  • 妊娠が直径3~4cm未満である。

  • 胎児の心拍がみられない。

  • β-hCG値が5000mIU/mL以下である。

  • 患者に治療後のフォローアップを遵守する意思と能力がある。

一般的に用いられるプロトコルでは,1日目にβ-hCGを測定し,患者にメトトレキサート50mg/m2を単回筋注する。4日目および7日目にβ-hCGを再測定する。4日目から7日目にかけてβ-hCG値が15%減少しなければ,2回目のメトトレキサート投与または手術が必要である。代わりに他のプロトコルを使用してもよい。

β-hCG値は検出されなくなるまでその後毎週測定する。メトトレキサートの成功率は約87%である;7%の女性に重篤な合併症が起こる(例,破裂)。

通常,メトトレキサートを使用できるが,破裂が疑われる場合,患者がメトトレキサート療法後のフォローアップを遵守できない場合,またはメトトレキサートが無効の場合は,手術が適応となる。

外科的切除

血行動態が不安定な患者には,即座の開腹および出血性ショックの治療が必要である。

安定している患者については,通常,外科的治療は腹腔鏡手術によるが,ときに開腹が必要となる。可能であれば,卵管を温存するために卵管切開術を行い,異所性妊娠を除去する。

以下のいずれかのケースでは卵管切除術の適応となる:

  • 異所性妊娠が破裂している。

  • 卵管切開後に出血が続いている。

  • 卵管が再建されている。

  • 過去に部分的な卵管切除を受けた女性における異所性妊娠が過去の不妊手術の失敗を反映しており,特に盲端になった卵管遠位部で異所性妊娠が発生している。

  • 卵管が再建されている。

卵管のうち不可逆的に損傷した部位のみを除去し,卵管の修復により妊孕性が回復する可能性が最大になるようにする。卵管は修復することもしないこともある。子宮角妊娠後では,罹患した卵管および卵巣は通常,救済可能であるが,ときに修復不可能であり,子宮摘出が必要となる。

Rh陰性の全ての患者には,メトトレキサートで管理するか手術で管理するかにかかわらず,Rho(D)免疫グロブリンを投与する。

要点

  • 異所性妊娠は,子宮腔の子宮内膜以外の部位,すなわち卵管,子宮角,頸部,卵巣,腹腔または骨盤腔内に着床する妊娠である;最も多い異所性妊娠の部位は卵管である。

  • 症状としては,妊婦における骨盤痛および性器出血があるが,女性が妊娠していることに気づいておらず破裂が起こるまで症状がないこともあり,その場合は,ときに極めて深刻な結果を伴う。

  • 妊娠可能年齢の全ての女性に骨盤痛,性器出血または原因不明の失神や出血性ショックがあれば,異所性妊娠を疑う。

  • 尿妊娠検査が陽性である,または臨床所見が異所性妊娠を示唆する場合は,血清β-hCGの定量および骨盤内超音波検査を行う。

  • 治療は通常,メトトレキサートによるが,破裂が疑われる場合やメトトレキサートによる治療の基準を満たさない場合には外科的切除を行う。

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