トコジラミ刺症は,通常は疼痛を伴わないが,感受性の高い患者では,しばしばそう痒性の反応を引き起こす。診断は臨床的に行う。治療は,咬傷の対症療法と化学的および物理的方法によるトコジラミの駆除である。
トコジラミの病因
トコジラミの寄生は世界中で発生している。ヒトに影響を及ぼすトコジラミで最も多いのは,Cimex lectularis(温帯気候)とC. hemipterus(主に熱帯気候)である。
トコジラミはマットレスやその他の構造物(例,ベッドフレーム,クッション,壁)の亀裂や隙間に隠れている(泥壁の家や草ぶき屋根などがある生活環境が良好でない地域で多い)。トコジラミは指数関数的に増え,数匹のトコジラミが2~3カ月で数千匹にまで増殖する。トコジラミは動きが遅く,温熱と二酸化炭素によってヒトに引きつけられる。
トコジラミは露出部の皮膚を通常は夜間に刺咬する。吸血は5~10分で終わる。トコジラミがヒトに感染症を伝播するという報告はない(1)。
病因論に関する参考文献
1.Goddard J, deShazo R: Bed bugs (Cimex lectularius) and clinical consequences of their bites.JAMA 301(13):1358-1366, 2009.doi: 10.1001/jama.2009.40
トコジラミの症状と徴候
病変は一般に露出部の皮膚に生じる。病変は刺咬の翌朝から10日後までのいずれかの時点で生じる。病変は以下の形態で生じうる:
刺し口のみ
紫斑
紅色の斑,丘疹,または膨疹で,しばしばそう痒を伴い,それぞれ中心に出血点を伴う
水疱
病変は線状になることもあれば,集簇して認められることもある(1)。高齢者では,若年者よりも症状が生じる頻度が低い。病変は約1週間で消失する。二次感染が生じる可能性がある。
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患者は寄生したトコジラミを駆除することの難しさとそのための出費に対して,また感染の事実により受けうる社会的偏見に対して,不安を抱く場合がある。感染を拡大させないために患者が自ら引きこもる場合もある。
症状と徴候に関する参考文献
1.Thomas I, Kihiczak GG, Schwartz RA: Bedbug bites: A review.Int J Dermatol 43(6):430-433, 2004.doi: 10.1111/j.1365-4632.2004.02115.x
トコジラミの診断
臨床的評価
通常は病変の外観が非特異的であるため,病変の外観に基づく診断は困難なことがある。しかしながら,トコジラミ刺傷の大半は,他の刺咬傷(例,ノミ刺症)と比べて大きく,浮腫が強い。
Image courtesy of CDC/DPDx.
Image courtesy of CDC/Harvard University, Dr. Gary Alpert, Urban Pests–Integrated Pest Management (IPM); Dr. Harold Harlan; and Richard Pollack via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.
トコジラミを同定することが確定診断の一助となりうる。トコジラミの虫体は扁平な卵円形で,赤褐色である。吸血後の虫体は,やや扁平でなくなり,赤みが増す。C. lectularisの成虫は長さが約5~7mmであり,C. hemipterusはそれより若干長い。寝具上や壁紙の裏側でトコジラミの糞や血液が明らかに認められることがある。
トコジラミの治療
対症療法
教育と寄生の予防
トコジラミ刺症は,必要に応じた対症療法により治療する(例,コルチコステロイドの外用および/または抗ヒスタミン薬の全身投与)。
トコジラミの駆除は困難であり,検出と密接に関連している。駆除には典型的には多方面からのアプローチが必要であり,具体的には正確な検出およびモニタリング手法,化学薬品によらない方法,化学薬品などが用いられる。化学薬品によらないコントロールの選択肢としては,加熱,侵入防止対策,物理的な除去などがある(1)。
物理的な除去としては,生息場所の掃除機がけ,疑われる物品の洗濯,その後の最高温に設定した乾燥機での乾燥がある。さらに可能であれば,50℃以上での加熱や複数の殺虫剤の使用により,専門家の手で部屋全体を処理すべきである。殺虫剤の使用は,主に耐性に関する問題から制限されている。トコジラミと汚染物に付着した虫卵は,-20℃(-4°F)で2時間以上冷凍すれば死滅するが,大半の家庭用冷凍庫では一般的に不十分である(2)。
治療に関する参考文献
1.Doggett SL, Lee CY: Historical and contemporary control options against bed bugs, Cimex spp.Annu Rev Entomol 68:169-190, 2023.doi: 10.1146/annurev-ento-120220-015010
2.Parola P, Izri A: Bedbugs.N Engl J Med 382(23):2230–2237, 2020.doi: 10.1056/NEJMcp1905840
トコジラミの予防
予防法としては,構造が単純化された家具(例,金属ベッド)の使用などがある。トコジラミの潜伏は,亀裂や隙間をふさぐことで軽減できる。普段と異なる場所(例,ホテルの客室)で寝る場合は事前に点検を行い,特にマットレスと寝具に注意を払うべきである(1)。
予防に関する参考文献
1.Doggett SL, Miller DM, Lee C-Y (eds): Advances in the Biology and Management of Modern Bed Bugs. John Wiley & Sons, Inc, Hoboken, NJ, 2018.
要点
最初は無症状の病変が露出部の皮膚に線状に集簇している場合は,特にトコジラミ刺症を考慮する。
診断の確定に役立てるために感染の所見を検索する。
トコジラミの駆除を促進するため,専門家の支援を受けることを推奨する。
予防,検出とモニタリング,化学薬品によらない方法(例,加温または冷却),および化学薬品を含めた多方面からのアプローチで駆除を行う。



