トコジラミ

執筆者:James G. H. Dinulos, MD, Geisel School of Medicine at Dartmouth
レビュー/改訂 2020年 5月
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トコジラミ刺症は,通常は疼痛を伴わないが,感受性の高い患者では,しばしばそう痒性の反応を引き起こす。診断は臨床的に行う。治療は,咬傷の対症療法とトコジラミの化学的および物理的根絶である。

トコジラミの病因

近年,トコジラミ(ナンキンムシ)の寄生が先進国で増加してきている。ヒトに影響を及ぼすトコジラミで最も多いのは,Cimex lectularis(温帯気候)とC. hemipterus(主に熱帯気候)である。トコジラミはマットレスなどの構造物(例,ベッドフレーム,クッション,壁;発展途上国では,泥壁の家や草ぶき屋根)の亀裂や隙間に隠れている。トコジラミは動きが遅く,温熱と二酸化炭素によってヒトに引きつけられる。トコジラミは露出部の皮膚を通常は夜間に刺咬する。吸血は5~10分で終わる。

トコジラミの症状と徴候

病変は一般に露出部の皮膚に生じる。病変は刺咬の翌朝から10日後までのいずれかの時点で生じる。病変は以下の形態で生じうる:

  • 刺し口のみ

  • 紫斑

  • 紅色の斑,丘疹,または膨疹で,しばしばそう痒を伴い,それぞれ中心に出血点を伴う

  • 水疱

病変は線状になることもあれば,集簇して認められることもある。高齢者では,若年者よりも症状が生じる頻度が低い。病変は約1週間で消失する。二次感染が生じる可能性がある。

患者はトコジラミの寄生を根絶することの難しさとそのための出費に対して,また感染の事実により受けうる社会的偏見に対して,不安を抱く場合がある。感染を拡大させないために患者が自ら引きこもる場合もある。

トコジラミの診断

  • 臨床的評価

通常は病変の外観が非特異的であるため,病変の外観に基づく診断は困難なことがある。しかしながら,トコジラミ刺傷の大半は,他の刺咬傷(例,ノミ刺症)と比べて大きく,浮腫が強い。

トコジラミを同定することが確定診断の一助となりうる。トコジラミの虫体は扁平な卵円形で,赤褐色である。吸血後の虫体は,やや扁平でなくなり,赤みが増す。C. lectularisの成虫は長さが約5~7mmであり,C. hemipterusはそれより若干長い。寝具上や壁紙の裏側でトコジラミの糞や血液が明らかに認められることがある。

トコジラミの治療

  • 対症療法

トコジラミ刺症は,必要に応じた対症療法により治療する(例,コルチコステロイドの外用および/または抗ヒスタミン薬の全身投与)。

トコジラミは物理的手段と化学的手段により駆除すべきである。物理的手段としては,生息場所の掃除機がけ,疑われる物品の洗濯,その後の最高温に設定した乾燥機での乾燥がある。さらに可能であれば,50℃以上での加熱や複数の殺虫剤の使用により,専門家の手で部屋全体を処理すべきである。

トコジラミの要点

  • 最初は無症状の病変が露出部の皮膚に線状に集簇している場合は,特にトコジラミ刺症を考慮する。

  • 診断の確定に役立てるために感染の所見を検索する。

  • トコジラミの駆除を促進するため,専門家の支援を受けることを推奨する。

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