エムポックスの予防には,複製能が限定的なmodified vaccinia Ankara(MVA)と複製能を有する生ワクシニアウイルスワクチンの2つの天然痘ワクチンが使用できる。
エムポックスを引き起こすウイルスは天然痘の原因ウイルスと非常に近縁であるため,天然痘ワクチンはエムポックスの予防法として少なくとも85%の効果を示すことが,アフリカでの過去の観察データから示唆されている(1)。6408人の男性を対象とした臨床試験では,エムポックスの予防におけるMVAワクチン1回接種の有効性が中等度(有効性58%,95%信頼区間31~75%)であったことが示された(2)。ただし,天然痘ワクチンの接種によって必ずしも終生免疫が得られるわけではないが,発症時の重症度が低下する可能性は高い。
2025年現在,複製可能型ワクシニアウイルスワクチンの効力は現在進行中のクレードIIの世界的アウトブレイクの中では(緊急使用が可能になったにもかかわらず)評価されていない;その接種にはかなり大きな有害事象との関連も認められる。
総論の参考文献
1.Jezek Z, Grab B, Szczeniowski MV, Paluku KM, Mutombo M: Human monkeypox: secondary attack rates.Bull World Health Organ.1988;66(4):465-470.
2.Navarro C, Lau C, Buchan SA, et al.Effectiveness of modified vaccinia Ankara-Bavarian Nordic vaccine against mpox infection: emulation of a target trial. BMJ.2024;386:e078243.Published 2024 Sep 11.doi:10.1136/bmj-2023-078243
エムポックスワクチンの製剤
米国では,2つのエムポックスワクチンが使用可能である。
複製能が限定的なワクシニアウイルスワクチン(modified vaccine Ankara[MVA]とも呼ばれる)
複製可能型ワクシニアウイルスワクチン
MVAワクチンは,接種者の体内で増殖しない弱毒生ワクシニアウイルスを含有する。このワクチンは現在のアウトブレイクにおいて米国で使用されている主要なワクチンである。
複製可能型ワクシニアウイルスワクチンは,天然痘ウイルスと近縁のワクシニアウイルスを含有する生ワクチンであり,エムポックスおよび天然痘ウイルスに対する交差免疫を誘導する。米国ではExpanded Access Investigational New Drugプロトコルの下でエムポックスに対して使用可能である。
エムポックスワクチンの適応
MVAワクチンは,エムポックス(または天然痘)のリスクが高い18歳以上の成人におけるエムポックス(および天然痘)の予防を適応とする第1選択のワクチンである。CDCは,エムポックスへの曝露リスクが高い個人とエムポックスへの最近の曝露歴が判明ないし推定される個人を対象として,このワクチンの接種を推奨しており,その対象に妊娠中の患者も含めている。
複製可能型ワクシニアウイルスワクチンは,エムポックス(または天然痘)のリスクが高い1歳以上の人も適応とする。しかしながら,感染予防と曝露後予防のいずれにおいても,ワクチン接種に関する第1選択の推奨にはなっていない。
危険因子としては以下のものがある:
性的に活動的で,互いに相手だけをセックスパートナーとする関係が長期間続いてたわけではない個人(例,過去6カ月間でセックスパートナーが複数いた)
性感染症(例,クラミジア症,淋菌感染症,梅毒)の評価または治療の必要性
商業的性サービスの提供施設や大規模な商業イベントでの性行為;金銭,物品,または違法薬物の対価としての性行為
男性と性行為をする男性
血液など感染を媒介しうる体液への職業曝露(例,医療従事者,検査室スタッフ)
エムポックス患者との家庭生活上の接触または性的接触
エムポックスの感染者または上述の危険因子を有する個人への曝露が判明しているか疑われる
流行地域への旅行
エムポックスの性的な危険因子を有する個人には,進行中のアウトブレイク中にエムポックスと診断されておらず,かつ過去に2回のワクチン接種を受けていないのであれば,ワクチン接種が推奨される。
中央および東アフリカへの旅行者にもワクチン接種が推奨され,これらの地域では有病率が高く,推定される曝露のリスクが高い。
エムポックスワクチンの禁忌および注意事項
MVAワクチンの禁忌としては以下のものがある:
易感染状態(他の生ワクチンと同様)
過去の接種後またはワクチン成分に対する重度のアレルギー反応(例,アナフィラキシー)の既往
ワクチン成分に対する重度のアレルギー反応(例,アナフィラキシー)が理論的に起こりうるが,まれである。同ワクチンに対するアナフィラキシー反応の既往がある個人は,一般にさらなるワクチン接種を避けるべきであるが,曝露のリスクが高い個人では,リスクとベネフィットを慎重に比較検討した上で,ケースバイケースで再接種を考慮してもよい(1)。
複製可能型ワクシニアウイルスワクチンの禁忌としては以下のものがある:
易感染状態(進行したHIV感染症の患者や免疫抑制薬を使用している患者など)
皮膚疾患(特にアトピー性皮膚炎)
眼の炎症
心疾患
年齢1歳未満
妊娠
禁忌および注意事項に関する参考文献
1.Duffy J, Marquez P, Moro P, et al.Safety Monitoring of JYNNEOS Vaccine During the 2022 Mpox Outbreak - United States, May 22-October 21, 2022. MMWR Morb Mortal Wkly Rep.2022;71(49):1555-1559.Published 2022 Dec 9.doi:10.15585/mmwr.mm7149a4
エムポックスワクチンの用法
MVAワクチンの用量は0.5mLの皮下接種(上腕での接種が望ましい)である。
2回接種を4週間の間隔を空けて行う。十分な免疫を獲得するには一連の接種を完了する必要がある。
代替の0.1 mL皮内レジメンを緊急使用許可(EUA)の下で考慮してもよいが,これは望ましい接種経路ではない。
エムポックスワクチンは感染予防策として接種されるのが大半であるが,適切な状況では曝露後予防(PEP)としても提案される。PEPとして使用する場合は,MVAは理想的には曝露後4日以内に接種すべきであるが,曝露後14日までは有益となりうる(CDC: Mpox Vaccinationを参照)。
複製可能型ワクシニアウイルスワクチンは,二股針で小さな領域を15回素早く突く(皮膚に対して垂直に立てた針を母指と示指でつまみ,皮膚の上に置いたワクチンの液滴を通して素早く強く穿刺する)ことによって接種する。これで1回の接種とみなす。その後,接種部位をドレッシング材で被覆して,他部位や他者にワクチンウイルスが伝播しないようにする。およそ6~11日後に小さな膿疱が現れれば,ワクチン接種が成功したと判断する。現れない場合は,もう一度接種する。
現時点では,いずれのワクチンについてもルーチンの追加接種は推奨されない。ただし,医療従事者や検査室スタッフなど曝露リスクが高い特定の高リスク集団では,初回接種の2~10年後に追加接種を行うことが推奨される。
エムポックスワクチンの有害作用
有害作用は一般に軽度であり,一般的には接種部位周囲の疼痛,紅斑,局所的腫脹,および硬結などがみられる。
接種後には6%未満の人で重篤な反応が発生する(1)。心筋炎および心膜炎の症例が数例報告されており,考えられる長期的続発症を同定するために市販後調査が実施されている。
これらのワクチンの有害作用に関する詳細については,処方情報を参照のこと。
有害作用に関する参考文献
1.van der Boom M, van Hunsel F.Adverse reactions following MPox (monkeypox) vaccination: An overview from the Dutch and global adverse event reporting systems. Br J Clin Pharmacol.2023;89(11):3302-3310.doi:10.1111/bcp.15830
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
World Health Organization (WHO): Vaccines and immunization for monkeypox: Interim guidance, 16 November 2022
Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Clinical Overview of Mpox
Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP): Changes in the 2025 Adult Immunization Schedule



