Acinetobacter属細菌は,あらゆる器官系で化膿性感染症を引き起こす可能性があるグラム陰性菌であり,入院患者ではしばしば日和見感染菌となる。治療は感受性試験の結果に基づく多剤併用療法による。
Acinetobacter属は,Moraxellaceae科に属するグラム陰性好気性桿菌または球桿菌である。これらの菌は遍在性で,乾燥した表面でも最長1カ月にわたり生存することができ,また一般的に医療従事者の皮膚に保菌されているため,患者への定着や医療器具の汚染を起こしやすくなっている。
Acinetobacter属には多くの菌種が存在し,その全てがヒト疾患の原因となりうるが,中でもAcinetobacter baumanniiが感染の約80%を占めている(1)。世界保健機関(World Health Organization:WHO)および米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は,脅威となる抗菌薬耐性菌リストにおいてカルバペネム耐性A. baumannii(CRAB)を優先度高の病原体に分類している(2)。
総論の参考文献
1.Wong D, Nielsen TB, Bonomo RA, et al.Clinical and pathophysiological overview of Acinetobacter infections: A century of challenges.Clin Microbiol Rev. 2017;30(1):409–447.doi:10.1128/CMR.00058-16
2.De Oliveira DMP, Forde BM, Kidd TJ, et al.Antimicrobial Resistance in ESKAPE Pathogens. Clin Microbiol Rev.2020;33(3):e00181-19.Published 2020 May 13.doi:10.1128/CMR.00181-19
Acinetobacter属細菌による疾患
Acinetobacter属細菌による疾患で最も頻度の高い臨床像は以下の通りである:
呼吸器感染症
A. baumannii(AB)感染症は,典型的には重篤な入院患者で発生する。熱帯地域では市中感染がより多くみられる。AB感染症に関連した致死率は,感染が抗菌薬耐性株によるものである場合,70%にも達しうる(1)。
Acinetobacter属細菌は,健康な小児では市中感染による細気管支炎および気管気管支炎を,易感染状態の成人では気管気管支炎を引き起こす可能性がある。Acinetobacter属細菌は気管切開部に容易に定着する。院内感染によるアシネトバクター(Acinetobacter)肺炎は,しばしば多葉性で合併症を伴う。二次性菌血症および敗血症性ショックは予後不良因子である。
Acinetobacter属細菌は,肺,尿路,皮膚,軟部組織を含めたあらゆる器官系で創傷感染症および化膿性感染症(例,膿瘍)を引き起こす可能性があり,菌血症を呈することもある。
まれに,これらの菌が髄膜炎(主に脳神経外科手術後),静脈カテーテル留置患者における蜂窩織炎または静脈炎,眼感染症,自然弁または人工弁の心内膜炎,骨髄炎,化膿性関節炎,膵および肝膿瘍を引き起こすこともある。
挿管患者から採取した気道分泌物や開放創から採取した検体など,臨床検体から分離されたAcinetobacter属細菌については,定着菌である場合も多いため,分離の意義を判断するのは困難である。
危険因子
Acinetobacter感染の危険因子は感染の種類(院内感染,市中感染,多剤耐性菌感染―アシネトバクター感染症の危険因子の表を参照)によって異なる。
アシネトバクター(Acinetobacter)感染症の危険因子
Acinetobacter属細菌の薬剤耐性
多剤耐性A. baumannii(MDR-AB)や,より特異的にはカルバペネム耐性AB(CRAB)が出現しており,特に集中治療室(ICU)の免疫抑制患者,重篤な基礎疾患のある患者,および侵襲的処置の後に広域抗菌薬による治療を受けた患者でよくみられる。ICUでの感染拡大の原因としては,医療専門職への菌の定着,共用器具の汚染,および静脈栄養液の汚染が特定されている。
歴史的には,アシネトバクター(Acinetobacter)感染症にはベトナムおよび朝鮮半島での戦争との関連が認められていたが,より最近では,イラクおよびアフガニスタンでの戦争との関連が報告されており,その大部分に抗菌薬耐性菌株が関係していた。
アシネトバクター( Acinetobacter)による疾患に関する参考文献
1.Wong D, Nielsen TB, Bonomo RA, et al.Clinical and pathophysiological overview of Acinetobacter infections: A century of challenges.Clin Microbiol Rev. 2017;30(1):409–447.doi:10.1128/CMR.00058-16
アシネトバクター(Acinetobacter)感染症の治療
感受性試験の結果に基づく抗菌薬療法
異物(例,静脈カテーテル,縫合糸)に関連した限局性の蜂窩織炎または静脈炎を起こした患者では,異物を除去して局所的な処置を施すだけで通常は十分である。気管挿管後の気管気管支炎は,気道・肺の清潔保持のみで解消できることがある。より広範な感染が生じた患者には,抗菌薬投与や必要に応じてデブリドマンによる治療を行うべきである。
MDRではない菌による軽症例では,典型的には単剤療法で反応が得られることがある。
MDRではない菌による中等症から重症のA. baumannii(AB)感染症は,通常は臨床的な反応がみられるまで多剤併用療法で治療する。典型的な組合せは,カルバペネム系薬剤(イミペネムまたはメロペネム)またはアンピシリン/スルバクタムとフルオロキノロン系薬剤またはアミノグリコシド系薬剤との併用などである。抗菌薬感受性に応じて,これら以外の組合せを考慮することが必要になる場合もある。
ABは以前から多くの抗菌薬に対して内因性の耐性を有していたため,経験的治療は,地域のアンチバイオグラムを含めて耐性の可能性を十分考慮した上で行うべきである。MDR-ABとは,3クラス以上の抗菌薬に対して耐性を示す菌株と定義され,一部の分離株(多くのCRABを含む)はほぼ全てのクラスに耐性を示す。経験的治療に一般的に使用される潜在的活性のある抗菌薬としては,厳選されたβ-ラクタム系薬剤(特にアンピシリン/スルバクタム,セフェピム,ピペラシリン/タゾバクタム,セフタジジム,および新規抗菌薬のスルバクタム/デュロバクタム[durlobactam]),カルバペネム系薬剤(メロペネムおよびイミペネム),フルオロキノロン系薬剤などがある。ほかにこれらの抗菌薬に耐性を示す軽症例の治療に使用されるか,これらの抗菌薬と併用される抗菌薬としては,厳選されたテトラサイクリン誘導体(チゲサイクリンおよびミノサイクリン),ポリミキシン系薬剤(コリスチンよりポリミキシンBが望ましい),セフィデロコルなどや,ときにアミノグリコシド系薬剤もある(1)。
重症のCRAB感染症は依然として一般的には追加の抗菌薬とともにアンピシリン/スルバクタムで治療される(2)。スルバクタム/デュロバクタム(durlobactam)は代替薬である。
感染拡大を防止するため,医療専門職は接触感染予防策(手洗い,バリア法)および人工呼吸器の適切な保守,ならびにMDR-ABが定着または感染した患者の洗浄を行うべきである。
治療に関する参考文献
1.Abdul-Mutakabbir JC, Griffith NC, Shields RK, Tverdek FP, Escobar ZK.Contemporary Perspective on the Treatment of Acinetobacter baumannii Infections: Insights from the Society of Infectious Diseases Pharmacists.Infect Dis Ther.2021 Dec;10(4):2177-2202.doi:10.1007/s40121-021-00541-4
2.Tamma PD, Aitken SL, Bonomo RA, Mathers AJ, van Duin D, Clancy CJ.Infectious Diseases Society of America 2023 Guidance on the Treatment of Antimicrobial Resistant Gram-Negative Infections. Clin Infect Dis.Published online July 18, 2023.doi:10.1093/cid/ciad428
要点
A. baumannii(AB)による感染症はAcinetobacter感染症全体の約80%を占め,重篤な入院患者で発生しやすい傾向がある。
最も頻度の高い感染部位は呼吸器系であるが,Acinetobacter属細菌は,あらゆる器官系で化膿性感染症も引き起こす可能性がある。
多剤耐性ABが問題になっており,場合により感受性試験の結果に基づき複数の薬剤を選択する必要がある。



