副甲状腺機能低下症

執筆者:James L. Lewis III, MD, Brookwood Baptist Health and Saint Vincent’s Ascension Health, Birmingham
レビュー/改訂 2021年 3月
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副甲状腺機能低下症は副甲状腺ホルモン(PTH)の欠乏に起因し,この欠乏は多くの場合,自己免疫疾患,医原性損傷,または甲状腺摘出術もしくは副甲状腺摘出術中の副甲状腺の切除によって生じる。副甲状腺機能低下症の症状は低カルシウム血症によるものであり,手または口周囲のピリピリ感や筋痙攣などがある。重度の場合は,テタニーが生じる。原因となっている疾患の症状および徴候を認めることもある。診断には副甲状腺ホルモン濃度の測定が必要である。治療にはカルシウムおよびビタミンDの補充がある。

副甲状腺機能低下症は,低カルシウム血症および高リン血症を特徴とし,しばしば慢性テタニーを引き起こす。

病因

副甲状腺機能低下症は副甲状腺ホルモン(PTH)の欠乏に起因し,これは以下の状況で起こりうる:

  • 甲状腺摘出術または副甲状腺摘出術中の複数の副甲状腺の切除または損傷

  • 遺伝性疾患および自己免疫疾患

術後副甲状腺機能低下症

一過性の副甲状腺機能低下症は甲状腺摘出術後に一般的にみられるが,恒久的な副甲状腺機能低下症の発生率は,熟練した外科医が甲状腺摘出術を執刀した場合であれば術後3%未満にとどまる。低カルシウム血症の症状は,通常は術後約24~48時間経って発現するが,数カ月後または数年後に生じることもある。がんに対する根治的甲状腺摘出術後,または副甲状腺に対する手術(副甲状腺の亜全摘術または全摘術)後は,より高い頻度でPTHの欠乏が起こる。副甲状腺亜全摘術後の重度低カルシウム血症の危険因子としては以下のものがある:

  • 術前の重度高カルシウム血症

  • 巨大腺腫の摘出

  • アルカリホスファターゼ上昇

  • 慢性腎臓病

特発性副甲状腺機能低下症

特発性副甲状腺機能低下症はまれである。これは副甲状腺が欠損もしくは萎縮する,孤発性または遺伝性の疾患である。小児期に発症する。副甲状腺がときに欠損しており,胸腺形成不全および鰓弓から生じる組織の異常(ディジョージ症候群)が存在する。

その他の遺伝性の病型には,多腺性自己免疫不全症候群皮膚粘膜カンジダ症に関連する自己免疫性副甲状腺機能低下症,およびX連鎖劣性特発性副甲状腺機能低下症がある。

偽性副甲状腺機能低下症

偽性副甲状腺機能低下症はまれな疾患群であり,ホルモン欠乏ではなく標的臓器のPTH抵抗性を特徴とする。この疾患群の遺伝による伝達は複雑である。

Ia型偽性副甲状腺機能低下症(オルブライト遺伝性骨異栄養症)は,アデニル酸シクラーゼ複合体を刺激するGsα1タンパク質(GNAS1)の変異によって引き起こされる。その結果,PTHに対する腎臓の正常なリン利尿反応や尿中cAMP(サイクリックアデノシン一リン酸)の増加が起こらない。患者は通常,低カルシウム血症および高リン血症を呈する。二次性副甲状腺機能亢進症および副甲状腺機能亢進性骨疾患が起こることがある。随伴する異常には,低身長,丸顔,大脳基底核石灰化を伴う知的障害,中手骨および中足骨の短縮,軽度の甲状腺機能低下症,その他の軽微な内分泌異常がある。腎臓ではGNAS1の母由来のアレルだけが発現するため,異常遺伝子が父由来である患者では,本疾患の身体的特徴が多数認められるにもかかわらず,低カルシウム血症,高リン血症,そして二次性副甲状腺機能亢進症が生じない;この病態はときに偽性偽性副甲状腺機能低下症と呼ばれる。

Ib型偽性副甲状腺機能低下症は,あまり知られていない。この疾患の患者には低カルシウム血症,高リン血症,二次性副甲状腺機能亢進症が認められるが,それ以外の異常は随伴しない。

II型偽性副甲状腺機能低下症は,I型よりもさらにまれである。罹患者では,外因性PTHによって尿中cAMPは正常に上昇するが,血清カルシウムや尿中リンは上昇しない。cAMPに対する細胞内抵抗性が提唱されている。

症状と徴候

手または口周囲のピリピリ感や筋痙攣など,低カルシウム血症による症状から副甲状腺機能低下症の存在が示唆されることがある。重度の場合は,テタニーが生じる。

何らかの基礎疾患の臨床像がみられることもある。Ia型偽性副甲状腺機能低下症患者には,低身長や第1,4,5中手骨の短縮といった骨格異常,丸顔,知的障害,大脳基底核石灰化症がしばしばみられ,ときに白斑がみられることもある。Ib型患者には,低カルシウム血症および高リン血症による腎症状はあるが,Ia型にみられる骨格異常はない。II型偽性副甲状腺機能低下症患者にも,腎臓の異常がみられる。cAMPの触媒サブユニットに関する変異を有する患者では,複数のホルモン抵抗性,知的障害,および短指症もみられる。

診断

  • PTHおよびカルシウムの測定

インタクトPTHの濃度を測定すべきである。低カルシウム血症はPTH分泌の主要な刺激因子であるため,正常であれば低カルシウム血症に反応してPTH値は上昇するはずである。したがって:

  • 低カルシウム血症の患者においては,PTH濃度が低値または正常低値であるのは不適切であり,副甲状腺機能低下症が示唆される。

  • PTH濃度が検出限界未満であれば,特発性副甲状腺機能低下症が示唆される。

  • PTH濃度の高値は,偽性副甲状腺機能低下症またはビタミンDの代謝異常を示唆する。

さらに,副甲状腺機能低下症は,血清リンの高値および正常範囲内のアルカリホスファターゼにより特徴づけられる。

I型偽性副甲状腺機能低下症では,血中PTH濃度が高値であるにもかかわらず,尿中にcAMPおよびリンは認められない。副甲状腺抽出物または組換えヒトPTHを注射して行う誘発試験では,血清中または尿中のcAMP濃度は上昇しない。

治療

  • カルシウムとビタミンD

甲状腺摘出術後または副甲状腺部分摘出術後の一過性の副甲状腺機能低下症には,カルシウムの経口補給で十分な場合がある:1日1~2gのカルシウム元素を,グルコン酸カルシウム(1g当たりカルシウム元素90mg)または炭酸カルシウム(1g当たりカルシウム元素400mg)として投与することがある。

副甲状腺亜全摘術は,特に重度で遷延する低カルシウム血症を引き起こすことがあり,慢性腎臓病患者または大きな腫瘍を摘出した患者ではとりわけこの傾向が強い。術後にカルシウムの長期非経口投与が必要になる場合がある;経口のカルシウム元素およびビタミンDで十分となるまで,1g/日ものカルシウム元素(例,10mL当たりカルシウム元素90mgを含有する,グルコン酸カルシウム111mL/日)の静注を5~10日間要することがある。このような患者における血清アルカリホスファターゼ高値は,カルシウムが骨に迅速に取り込まれている徴候であると考えられる。大量のカルシウムの非経口投与は,通常はアルカリホスファターゼ濃度が低下し始めるまで必要である。

カルシウムおよびビタミンDの補充に十分に反応しない副甲状腺機能低下症には,遺伝子組換え副甲状腺ホルモン(rhPTH)による治療が必要になることがあり,これはまた副甲状腺機能低下症の長期合併症(例,高カルシウム尿症,骨密度低下)のリスクを下げ,カルシウムおよびビタミンDの必要量を減少させる可能性がある。rhPTHの投与は50μg,1日1回の皮下投与から開始し,同時にビタミンDの用量を50%減量する。血清カルシウム濃度および血清リン濃度を綿密にモニタリングし,rhPTHの用量を最大で100μg,1日1回,最小で25μg,1日1回まで,必要に応じて数週間毎に調節する。

要点

  • 副甲状腺機能低下症は副甲状腺ホルモン(PTH)の欠乏に起因し,この欠乏は多くの場合,自己免疫疾患または甲状腺摘出術における副甲状腺の切除によって生じる。

  • 副甲状腺機能低下症は,低カルシウム血症およびそれに関連する症状として,手または口周囲のピリピリ感や筋痙攣を引き起こす。重度の場合は,テタニーが生じる。

  • 低カルシウム血症の患者において,PTH濃度が低値(正常低値を含む)であれば,診断が下される。

  • 治療はカルシウムおよびビタミンDによる。一部の患者では,遺伝子組換え副甲状腺ホルモン(rhPTH)が必要となる。

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