振戦

執筆者:Alex Rajput, MD, University of Saskatchewan;
Eric Noyes, MD, University of Saskatchewan
Reviewed ByMichael C. Levin, MD, College of Medicine, University of Saskatchewan
レビュー/改訂 2024年 2月 | 修正済み 2024年 6月
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振戦は,相補的に機能する拮抗筋同士の律動的かつ振動性の不随意運動であり,典型的には手,頭部,顔面,声帯,体幹,または下肢に生じる。診断は臨床的に行う。治療法は原因と病型によって異なるが,具体的には誘因の回避(生理的振戦),プロプラノロールまたはプリミドン(本態性振戦),理学療法(小脳振戦),レボドパ(パーキンソン振戦)のほか,ときに脳深部刺激療法または視床切除術(薬剤抵抗性の振戦)も用いられる。

運動障害疾患および小脳疾患の概要も参照のこと。)

振戦には以下の種類がある:

  • 正常(生理的)

  • 病的

生理的振戦は,通常はかろうじて知覚できる程度であるが,身体的または精神的ストレスの下では多くの人が気づくようになる。視認可能な場合,この振戦はenhanced physiologic tremorと呼ばれる。

振戦は以下の点で多様である:

  • 発生パターン(例,間欠的,持続的)

  • 重症度

  • 急性度(例,緩徐,突然)

振戦の重症度は,基礎疾患の重篤度と関連しない場合がある。例えば,本態性振戦は一般に良性と考えられており,余命を短縮することはないはずであるが,症状によって生活に支障を来す場合がある。

振戦の病態生理

脳幹,錐体外路系,または小脳における様々な病変が振戦を引き起こしうる。振戦を引き起こす神経機能障害や病変は,外傷,虚血,代謝性の異常,または神経変性疾患に起因することがある。ときに,振戦は家族性の病態である(例,本態性振戦)。

分類

振戦は主に発生状況に基づいて分類される:

  • 安静時振戦は,静止時に観察できるものであり,身体の一部が完全に支えられているときに生じる。安静時振戦は活動時には最小になる,または消失する。古典的なパーキンソン振戦(最も頻度の高い安静時振戦)は,3~6サイクル/秒(Hz)である。

  • 動作時振戦は,身体の一部を随意的に動かすときに最大となる。動作時振戦は,目標に近づくにつれて重症度が変化する場合と変化しない場合があり,多様な振動数で生じる。動作時振戦は姿勢時振戦と運動時振戦に細分できる。

  • 姿勢時振戦は,一肢を固定した肢位で重力に抗して保持しているとき(例,腕を伸ばした状態を保持するとき)に生じる。姿勢時振戦は具体的な姿勢で変化することがある。

  • 運動時振戦は,随意的な運動中に発生し,単純運動時振戦と企図振戦に細分できる。単純運動時振戦は運動中を通じて振動数および振幅がほぼ一定である。企図振戦は漸増性であり,振戦のある部位が目標に近づくにつれて増強する。

複合振戦(complex tremor)は,複数の型の振戦が混在するものである。

振戦は以下のようにも分類できる:

  • 生理的なもの(正常範囲内)

  • 原発性のもの(本態性振戦,パーキンソン病)

  • 何らかの疾患(例,脳卒中)に続発するもの

振戦は通常,振動数(急速または緩徐)と動きの振幅(細かい[振幅が小さい]か粗大[振幅が大きい]か)に基づいて記述される。

振戦の病因

生理的振戦

生理的振戦は,それ以外の点では健康な人々に発生する。生理的振戦は,両手にほぼ同等に生じる動作時または姿勢時振戦である;振幅は通常,細かい。しばしば,特定のストレス因子が存在する場合にのみ気づかれる。これらのストレス因子としては以下のものがある:

  • 不安

  • 疲労感

  • 運動

  • 睡眠不足

  • アルコールや他の特定の中枢抑制薬(例,ベンゾジアゼピン系薬剤,オピオイド)からの離脱

  • 特定の疾患(例,甲状腺機能亢進症),症候性の場合

  • カフェインまたは違法薬物(コカイン,アンフェタミン類,フェンシクリジンなど)の使用

  • テオフィリン,β作動薬,コルチコステロイド,バルプロ酸など,特定の薬剤の使用

病的(非生理的)振戦

多くの原因があるが(振戦の主な原因の表を参照),最も多いのは以下のものである:

表&コラム
表&コラム

薬剤(型別に見た振戦の主な原因薬剤の表を参照)の投与は,様々な型の振戦の発生または増悪につながる可能性がある。一部の鎮静薬(例,アルコール)を低用量で使用すると特定の振戦(例,本態性振戦,生理的振戦)を軽減できることがあるが,高用量での投与は振戦の発生または増悪につながる可能性がある。

表&コラム
表&コラム

振戦の評価

振戦の診断は主に臨床的に行うため,詳細な病歴聴取と身体診察が不可欠である。

病歴

現病歴の聴取では以下を確認すべきである:

  • 発症の急性度(例,緩徐,突然)

  • 発症年齢

  • 振戦のある部位

  • 誘発因子(例,運動,安静,起立)

  • 軽快因子または増悪因子(例,アルコール,カフェイン,ストレス,不安)

突然の発症であれば,引き金となった可能性のある出来事(例,最近の外傷または疾患,新しい薬剤の使用)を尋ねるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,以下のような原因となる疾患の症状がないか検討すべきである:

既往歴には,振戦に関連する病態を含めるべきである(振戦の主な原因の表を参照)。家族歴には,第1度近親者の振戦に関する質問を含めるべきである。使用薬剤の聴取では,原因となる薬剤(振戦の原因薬剤の表を参照)を検討し,特にカフェイン摂取,飲酒,および違法薬物の使用(特に最近の中断)について質問するべきである。

身体診察

振戦に重点を置いた診察では,一通りの神経学的診察に加えて,以下の状態のときの振戦の分布および振動数を調べるべきである:

  • 振戦のある部位を静止しているとき,またはその部位が完全に支持されているとき(例,膝に置いている)

  • 特定の姿勢をとったとき(例,腕を伸ばした状態を保つ)

  • 歩くとき,または振戦のある部位を使って作業するとき

患者に気をそらす課題(例,100から7を順に引いていく)を行わせて,その間に振戦に変化がみられるかに注意すべきである。患者に長い発声を行わせて,その間の声質によく注意すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見には特に注意が必要である:

  • 突然の発症

  • 50歳未満の発症で良性振戦の家族歴がない

  • 他の神経脱落症状(例,精神状態の変化,筋力低下,脳神経麻痺,失調性歩行,構音障害)

  • 頻脈および興奮

所見の解釈

臨床所見が原因の推定に役立つ(振戦の主な原因の表を参照)。

振戦の型と発症様式は有用な手がかりとなる。

  • 安静時振戦は通常,パーキンソン病を示唆し,特に片側性の場合と振戦が下顎または下肢に限局している場合は,その可能性が高い。

  • 企図振戦は小脳障害を示唆するが,多発性硬化症ウィルソン病に起因することもある。

  • 姿勢時振戦は,発症が緩徐であれば生理的または本態性振戦を示唆し,発症が突然であれば中毒性または代謝性疾患を示唆する。

重度の本態性振戦は,しばしばパーキンソン病と混同されるが,通常は特異的な特徴によって鑑別できる(パーキンソン病を本態性振戦と鑑別するための主な特徴の表を参照)。ときに,これら2つの症候群が重複することがある(本態性振戦とパーキンソン病の混合)。

表&コラム
表&コラム

以下の所見から振戦の原因が示唆される場合がある:

  • 機能性振戦は急速な発症を特徴とし,振動数と分布は様々で,同調性と転導性がみられえる。この振戦はかつては心因性振戦と呼ばれていたが,診断に精神疾患の存在は必須ではない。

  • 階段状の進行は,虚血性血管疾患または多発性硬化症を示唆する。

  • 新しい薬剤の使用後に振戦を発症した場合は,その薬剤が原因であることが示唆される。

  • 入院24~72時間以内に興奮,頻脈,高血圧を伴う振戦が発症した場合は,アルコールまたは他の鎮静薬からの離脱症状や違法薬物の使用を示唆している可能性がある。

歩行を観察する。歩行異常は多発性硬化症,脳卒中,パーキンソン病,または小脳疾患を示唆している場合がある。パーキンソン病ではnarrow-basedの引きずり歩行,小脳障害ではwide-basedの失調性歩行が特徴である。心因性振戦の患者では,大袈裟な歩行や一貫性のない歩行がみられることがある。本態性振戦の患者では,歩行は正常であることが多いが,継ぎ足歩行(つま先に踵を合わせて歩行する)は異常であることがある。

機能性振戦は,患者が気をそらされると減少または消失することから,また,健側の部位を随意的に手で叩いて拍子をとらせると振戦の振動数がそれに同期(同調)することから,それと同定することができる。2つの異なる部位で異なる頻度の随意運動を同時に維持することは困難である。

検査

大半の患者では,病歴聴取と身体診察のみで可能性の高い振戦の病因を十分に同定することができる。しかしながら,以下の場合には,脳のMRIまたはCTを施行すべきである:

  • 振戦の発症が急性である。

  • 進行が急速である。

  • 局所的な神経学的徴候から器質的病変(例,脳卒中,脳腫瘍,脱髄疾患)が示唆される。

病歴や身体所見から振戦の原因がわからない場合,以下を行う:

  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)およびサイロキシン(T4)を測定して,甲状腺機能亢進症がないか確認する。

  • カルシウムおよび副甲状腺ホルモンを測定して,副甲状腺機能亢進症または副甲状腺機能低下症がないかを確認する。

  • 低血糖を除外するために血糖値を測定する。

中毒性脳症の患者では,通常は基礎疾患が明らかであるが,血中尿素窒素とアンモニア値を測定すれば病因の確定に役立つことがある。原因不明の難治性高血圧がある患者では,血漿遊離メタネフリン濃度の測定が適応となる。患者が40歳未満で,原因不明の振戦があり,特に羽ばたき振戦の性質がみられ(パーキンソニズムおよびジストニアの特徴の有無は問わない),かつ良性振戦の家族歴がない場合には,ウィルソン病がないか確認するために血清セルロプラスミン濃度と尿中濃度を測定すべきである。(羽ばたき振戦は,姿勢によって誘発される周期が長く,振幅が大きい腕の振戦であり,肘および手掌を屈曲した状態で腕の外転を維持することで誘発される。)

筋電図検査は,振戦を他の運動障害疾患(例,ミオクローヌスまたはジストニア)と鑑別するのに役立つが,これが必要になることはまれである。

振戦の治療

生理的振戦

症状が煩わしくなければ,治療の必要はない。誘因(カフェイン,疲労感,睡眠不足,特定の薬剤,可能であればストレスや不安など)を回避することが症状の予防または軽減に役立つことがある。

生理的振戦は,アルコール離脱症状,甲状腺機能亢進症,薬剤の使用,振戦を引き起こす病態によって増強される。振戦は,基礎疾患の治療に反応する。

短期的には経口のベンゾジアゼピン系薬剤が有益となりうるが,依存の可能性があるため,持続的な使用は控えるべきである。長期にわたる間欠的な使用は妥当であるが,日常的な慢性使用には認知症リスクの増加との関連がみられる。薬剤または急性不安(例,舞台負け)により増強する振戦には,プロプラノロール(20~80mg,経口,1日4回)および他のβ遮断薬がしばしば効果的である。

本態性振戦

プロプラノロール20~80mg,経口,1日4回(または他のβ遮断薬)がしばしば効果的であり,プリミドン50~250mg,経口,1日3回も同様である。

一部の患者では,少量のアルコールが効果的であるが,乱用のリスクがあるため,アルコールが治療法としてルーチンに推奨されることはない。

第2選択の薬剤は,トピラマート25~100mg,経口,1日2回とガバペンチン300mg,経口,1日2回または1日3回である。他の薬剤で振戦をコントロールできない場合は,ベンゾジアゼピン系薬剤を追加してもよいが,長期使用は可能であれば控えるべきである。

小脳性振戦

効果的な治療薬はない;理学療法(例,患肢に重りをつける,活動時に四肢近位部に装具を装着するように患者を指導する)がときに有用である。

パーキンソン振戦

レボドパは通常,大半のパーキンソン振戦に対して第1選択の治療となる。

一部の症例では抗コリン薬を考慮してもよいが,その有害作用(集中力の低下,口腔乾燥,ドライアイ,尿閉,タウ病態を促進する可能性)が便益を上回ることがあり,特に高齢者でその傾向が強い。

ドパミン作動薬を含む他のパーキンソン病治療薬が効果的となる可能性がある。

薬剤抵抗性の振戦

薬剤に抵抗性を示す重度の本態性振戦には,片側の定位視床凝固術または長期にわたる片側もしくは両側の視床脳深部刺激療法による外科的管理を考慮してもよい。高密度焦点式超音波療法(HIFU)を用いることで,視床腹中間核を破壊し,それにより対側の重度の本態性振戦をコントロールすることができる。

ジストニア振戦は,淡蒼球内節を標的とする機能的脳神経外科手術によく反応する場合がある。

パーキンソン病では,視床,淡蒼球内節,または視床下核の脳深部刺激療法の施行後に振戦がかなり軽減する。

これらの手法は広く利用可能であるが,妥当な薬物療法が不成功に終わった場合にのみ,重大な認知および精神疾患がない患者に限定して用いるべきである。

機能性(心因性)振戦

機能性振戦がみられる患者には,tremor entrainmentが助けになることがある。これは,患者が健肢で律動的な自発運動を行うことで振戦を変化または消失させる治療法である(1)。認知行動療法と集学的評価も助けになることもある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Espay AJ, Edwards MJ, Oggioni GD, et al: Tremor retrainment as therapeutic strategy in psychogenic (functional) tremor.Parkinsonism Relat Disord 20 (6):647–650, 2014.Epub 2014 Mar 20.doi: 10.1016/j.parkreldis.2014.02.029

老年医学的重要事項:振戦

多くの高齢者は振戦の発生を正常な加齢現象と考え,医療を求めないことがある。高齢者では本態性振戦の頻度が高いが,他の原因を除外するため,また症状が薬物療法や外科的治療を正当化できるほど重度のものかどうかを判断するために,徹底的な病歴聴取および身体診察が必要である。

高齢者では,比較的低用量の薬剤が振戦を増悪させる場合があり,慢性的に使用されている薬剤(例,アミオダロン,メトクロプラミド,選択的セロトニン再取り込み阻害薬,サイロキシン)の用量を最小有効量に調整することを考慮すべきである。同様に,高齢者は振戦の治療に使用される薬剤の有害作用を受けやすく,したがって,これらの薬剤は高齢者では慎重に使用するべきであり,通常は,高齢者以外では至適とみなされる用量より低い用量とする。可能であれば,抗コリン薬は高齢者に使用すべきでない。

振戦は高齢者の機能的能力に有意な影響を及ぼす可能性があり,ほかに身体または認知障害がある場合の影響は特に大きい。理学療法および作業療法では,単純な対処方略を与えることができ,補助器具は患者の生活の質を維持するのに役立つことがある。

要点

  • 振戦は安静時振戦と動作時振戦(姿勢時および運動時振戦を含む)に分類される。

  • 振戦の最も一般的な原因は,生理的振戦,本態性振戦,パーキンソン病などである。

  • 病歴および身体診察によって一般的に振戦の病因を同定できる。

  • 安静時振戦があればパーキンソン病を考慮し,姿勢時振戦または動作時振戦があれば本態性振戦または生理的振戦を考慮し,企図振戦があれば小脳性振戦を考慮する。

  • 振戦が突然始まった場合や,良性振戦の家族歴がない50歳未満の患者で発生した場合は,脳画像検査および臨床像に基づく臨床検査により迅速かつ徹底的な評価を行う。

  • 振戦の原因および型に応じて治療し,具体的には誘因の回避(生理的振戦),プロプラノロールまたはプリミドン(本態性振戦),理学療法(小脳振戦),通常はレボドパ(パーキンソン振戦)のほか,ときに脳深部刺激療法(生活に支障を来す薬剤抵抗性の振戦)も用いられる。

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