IgG4関連疾患

(IgG4-RD)

執筆者:Cory Perugino, DO, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2020年 9月
意見 同じトピックページ はこちら

IgG4関連疾患(IgG4-RD)は,免疫が介在する慢性の線維炎症性疾患であり,しばしば複数臓器の腫瘍様腫瘤および/または無痛性腫大を呈する。血清IgG4が高値となることが多いが,必ずしもそうなるわけではない。症状は,侵される臓器により異なる。診断には,典型的に生検を要する。治療はコルチコステロイドのほか,ときにリツキシマブによる。

IgG4はIgGの4つのサブタイプの中で最も少ない。その機能は状況によって異なる可能性が高く,アレルギー疾患では,アレルゲンに対するアナフィラキシー反応の予防において免疫を抑制する役割があると考えられている。自己免疫および悪性腫瘍においても役割があると報告されているが,これらの状況における機能は十分に確立されていない。IgG4-RDには幅広い臨床像があり,病理組織学的所見および治療に対する反応によりまとめられる。

大半の患者は中年から高齢の男性であるが,本疾患はあらゆる年齢および性別で発生しうる。

IgG4関連疾患の病態生理

IgG4-RDの臨床症状は通常,腫瘍様腫瘤または臓器腫大であり,これは免疫細胞による高密度な組織浸潤および細胞外基質の拡張に起因する。単一または複数の臓器が侵される;IgG4-RDに典型的と考えられる11の臓器は,膵臓,胆管,涙腺,耳下腺,顎下腺,肺,腎臓,後腹膜組織,大動脈,髄膜,および甲状腺である。

大半の患者は,診断時点で複数臓器が侵されているが,1つの優勢な表現型を有する傾向がある。2019年の研究(1)により,以下の臨床表現型がほぼ等しい比率で同定された。

膵肝胆道疾患(pancreato-hepato-biliary disease)

膵が侵されると一般的に自己免疫性膵炎(1型,IgG4関連)として現れ,以下の病型をとりうる:

  • 疼痛を伴わない黄疸およびびまん性の膵腫大を伴う,閉塞性の膵腫瘤

  • 腹痛および悪心を伴う急性膵炎

  • 膵外分泌機能不全および/または顕性糖尿病を伴う,くすぶり型で潜行性の慢性膵炎

IgG4関連の硬化性胆管炎が生じることがあり,通常は自己免疫性膵炎の併存する患者にみられる。この組合せはIgG4-RDを強く示唆する。

後腹膜線維症および/または大動脈炎(retroperitoneal fibrosis and/or aortitis)

IgG4-RDは,大半の特発性後腹膜線維症症例の原因となっている可能性が高い。線維化は通常,大動脈の周囲に全周性にみられる(大動脈周囲炎)か,前外側部のみにみられる。線維化は下方に伸展し腸骨血管に至ることもある。主な合併症は,水腎症を引き起こす尿管圧迫である。

さらに,IgG4-RDは胸部または腹部大動脈の非感染性大動脈炎を引き起こす可能性があり,これは画像検査で全周性の大動脈壁の肥厚または造影効果を認めることにより後腹膜線維症と鑑別される。大動脈炎はときに大動脈瘤を合併する。

頭頸部に限局する疾患(head- and neck-limited disease)

大唾液腺(例,耳下腺および/または顎下腺)および涙腺が侵されることが多い。腺は痛みを伴わず両側性に腫大するが,通常その機能は障害されない。IgG4高値および特徴的な病理組織学的所見は,これらの臓器のIgG4-RDをシェーグレン症候群サルコイドーシスなどの疾患と鑑別するために役立つ。

眼窩が侵されることもある。炎症性眼窩疾患(以前は眼窩偽腫瘍と呼ばれた)の約25~50%の症例で,IgG4-RDが原因となっている。また,IgG4-RDは眼窩筋炎を引き起こす可能性もある。

全身症状を伴う古典的ミクリッツ症候群(classic Mikulicz syndrome with systemic involvement)

IgG4関連ミクリッツ症候群では,涙腺,耳下腺,および顎下腺の異常が合併する。血清IgG4高値が組み合わされば,この臨床像では実質的にIgG4-RDの診断に至る。

その他の表現型

肺および胸膜が侵されることがあり,サルコイドーシスに類似しうる肺門リンパ節腫脹および肺結節を伴う場合がある。これらの疾患の鑑別には病理組織学的検査が不可欠である。間質性肺疾患が生じることがあり,肺機能の顕著な悪化を引き起こすが,これは間質性肺疾患のない患者ではまれである。

腎臓が侵されると,ほとんどの場合尿細管間質性腎炎として現れ,通常は無症候性の腎機能障害を呈し,ときに透析を必要とする。随伴する糸球体症を反映してタンパク尿(ときにネフローゼレベル)が生じることがあるが,細胞円柱および/または血尿はまれである。通常,複数の腎腫瘤および低補体血症が存在する。

皮膚,前立腺,髄膜,副鼻腔など,他の多くの組織が侵されることがある。脳,消化管内腔,脾臓,骨髄,または末梢神経が侵されることを示すエビデンスは限られている。

病態生理に関する参考文献

  1. Wallace ZS, Zhang Y, Perugino CA, et al: Clinical phenotypes of IgG4-related disease: an analysis of two international cross-sectional cohorts.Ann Rheum Dis 78(3):406-412, 2019.doi:10.1136/annrheumdis-2018-214603

IgG4関連疾患の病因

IgG4-RDの原因は不明であるが,その慢性で潜行性の性質,抗体による自己タンパク質の標的化(1),および免疫抑制に対する反応性から,自己免疫が関与すると考えられている。

病因論に関する参考文献

  1. Perugino CA, AlSalem SB, Mattoo H, et al: Identification of galectin-3 as an autoantigen in patients with IgG4-related disease. J Allergy Clin Immunol 143(2):736-745.e6, 2019.doi:10.1016/j.jaci.2018.05.011

IgG4関連疾患の病理

IgG4-RDは,CD3陽性T細胞,活性化B細胞,およびIgG4を発現する過剰な数の形質細胞(通常,全てのIgG発現細胞の40%を超える)で構成される高密度なリンパ形質細胞浸潤を特徴とする(1)。古典的には,炎症が特徴的な「花むしろ状」または渦巻き状の配列を示す線維化へと,時間の経過とともに進行する。さらなる特徴としては,閉塞性静脈炎および軽度の好酸球浸潤がある。重要な点として,好酸球成分がリンパ形質細胞の浸潤よりも顕著であってはならない。大半の患者では血清IgG4高値もみられるが,正常値の場合もある。

病理に関する参考文献

  1. Deshpande V, Zen Y, Chan JK, et al: Consensus statement on the pathology of IgG4-related disease. Mod Pathol 25(9):1181-1192, 2012.doi:10.1038/modpathol.2012.72

IgG4関連疾患の症状と徴候

IgG4-RDの一般的な全身症状としては,リンパ節腫脹や体重減少などがある。体重減少は,複数臓器の異常および/または膵外分泌機能不全がある場合に特によくみられる。発熱はIgG4-RDでは非常にまれであり,発熱がある場合は別の診断を考慮すべきである。

その他の症状は侵された臓器に特異的なものである。

膵が侵された場合,疼痛を伴わないこともあれば(ときに閉塞性の膵腫瘤がある場合に黄疸を伴う),急性膵炎がある場合に腹痛および悪心を引き起こすこともある。一部の患者は,比較的くすぶり型で潜行性の慢性膵炎と膵外分泌機能不全の症状(例,鼓腸,腹部膨隆,脂肪便,低栄養,体重減少),および/または膵内分泌機能不全(例,無症候性の高血糖または顕性糖尿病)を呈する。

後腹膜線維症は,側腹部痛または背部痛として現れることが最も多いが,しばしば症状を伴わず腹部画像検査で偶然同定される。大動脈炎はほぼ常に無症状であり,画像検査によるか大動脈切除術後に,偶然によってのみ同定される。

唾液腺および涙腺が侵された場合は,通常,痛みを伴わない両側性の腫大を引き起こす。口腔乾燥および/またはドライアイはまれである。

眼窩が侵されると,眼球突出,眼窩痛,眼窩周囲浮腫,または外眼筋運動に伴う疼痛が引き起こされることがある。

肺が侵された場合,無症状のこともあれば,咳嗽,呼吸困難,または胸膜炎が引き起こされることもある。

IgG4関連疾患の診断

  • 生検

  • 血清IgG4値

  • 血清補体値(C3およびC4)

  • 選択的な画像検査

IgG4-RDの診断は,前述の臨床表現型のいずれかを呈する患者で疑う。以下に示す,類似の臨床像を呈する他の原因を考慮しなければならない:

IgG4-RDの分類基準が最近公表されたが(1),これには32の除外基準が含まれており,それらが存在する場合はIgG4-RDを考慮対象から除外すべきである。これらの基準は診断目的で設計されたものではないが,推奨される検査および結果の解釈など,本疾患について考えるための枠組みを提供する。

一部の患者では,適切な臨床状況(例,ミクリッツ症候群)で血清IgG4高値を伴えば生検なしでIgG4-RDの診断を下せるが,通常は,IgG4-RDを腫瘍様病変および/またはリンパ節腫脹の他の原因と鑑別するために生検が必要となる。IgG4およびIgGによる免疫染色法は,高密度のリンパ形質細胞浸潤,花筵状線維化,および閉塞性静脈炎という3つの病理組織学的所見のうち少なくとも2つが認められる場合にのみ行うべきである。生検でIgG4陽性形質細胞数が高値であった場合は,それ自体は非特異的であるため,IgG4-RDを診断するには他の所見と組み合わせなければならない。

臨床的な患部(例,眼窩,胸部,腹部,骨盤)の断層撮影の画像検査(例,CT,MRI)を施行すべきである。無症状の病態(例,後腹膜線維症)をスクリーニングするために,他の部位の画像検査を施行することが多い。

血清IgG4高値はIgG4-RD患者の60~70%でしかみられず,高値であっても診断はつかないため,その解釈には注意が必要である。慢性アレルギー疾患は,血清IgG4の軽度高値の原因となることが多い。

役立つ可能性があるその他の検査には以下のものがある:

  • 尿検査,包括的な生化学検査:腎障害

  • 血清アミラーゼおよびリパーゼ,ヘモグロビンA1c,便中エラスターゼ:膵障害

  • 血清補体値(C3およびC4):IgG4関連尿細管間質性腎炎では低値

  • 総IgGおよび総IgE値

総IgG高値(高ガンマグロブリン血症)またはグロブリン・アルブミン比高値は,IgG4-RDに典型的であるが特異的ではない,抗体分泌細胞の活性化を示す。総IgG高値は自己抗体の蓄積を反映している可能性が高い。IgG4-RD患者では,総IgE値の著高(しばしば正常上限の5~10倍)がよくみられる。これらの値は,喘息または慢性アトピー性疾患の患者のIgE値よりも著しく高いことが多い;IgG4-RDの病態生理との関係は依然として不明であるが,総IgE高値はIgG4-RD再発の独立した予測因子である(2)。

診断に関する参考文献

  1. Wallace ZS, Naden RP, Chari S, et al: The 2019 American College of Rheumatology/European League Against Rheumatism Classification Criteria for IgG4-Related Disease. Arthritis Rheumatol 72(1):7-19, 2020.doi:10.1002/art.41120

  2. Wallace ZS, Mattoo H, Mahajan VS, et al: Predictors of disease relapse in IgG4-related disease following rituximabRheumatology (Oxford) 55(6):1000-1008, 2016.doi:10.1093/rheumatology/kev438

IgG4関連疾患の予後

大半の免疫性疾患と同様に,IgG4-RDも治癒は得られないが,治療効果が大きく,回復は可能である。本疾患における臓器障害の大半は診断より前に起こる。

IgG4関連疾患の治療

  • コルチコステロイド

  • リツキシマブによるB細胞標的療法

IgG4-RDの治療は,炎症を軽減し,寛解を導入し,臓器機能を温存することを目的とする。典型的には,腫瘍様腫瘤または臓器腫大は治療後に正常化するはずである。臓器が正常化しない場合は,通常,不可逆的な線維化が示唆され,これは後腹膜線維症患者でよくみられる。

初期治療は,経口コルチコステロイド(例,プレドニゾン30~40mg,1日1回)を2~4週間投与した後,2~3カ月かけて漸減する。リツキシマブは,患者がコルチコステロイド投与に不適切な場合(例,コントロール不良の糖尿病がある患者)に,コルチコステロイド節減の選択肢としてしばしば使用され,患者がコルチコステロイドの漸減に耐えられない場合,またはコルチコステロイド中止後12カ月以内に疾患が再発した場合は,寛解の導入または維持のために使用できる。リツキシマブは,活動性のIgG4-RDの治療にほぼ例外なく効果的である(1)。

一部の患者では,尿管または胆管の機械的閉塞を解除するために,ステント留置術などの外科的手技が必要となる。

治療に関する参考文献

  1. Carruthers MN, Topazian MD, Khosroshahi A, et al: Rituximab for IgG4-related disease: a prospective, open-label trial. Ann Rheum Dis 74(6):1171-1177, 2015.doi:10.1136/annrheumdis-2014-206605

IgG4関連疾患の要点

  • IgG4関連疾患(IgG4-RD)は,慢性の免疫性疾患であり,しばしば複数臓器の異常および腫瘍様腫瘤を呈し,膵臓,胆管,涙腺,大唾液腺,肺,腎臓,後腹膜組織,および大動脈を侵すことが最も多い。

  • IgG4-RDは発熱を引き起こさず,典型的には潜行性に発現する。

  • 血清IgG4は通常高値を示すが,この所見は感度も特異度も高くない。

  • 診断はほとんどの場合,臨床所見,放射線学的所見,病理組織学的所見,および免疫染色法での所見の組合せに基づき,組織検体の採取に重点を置く。

  • 治療としてはコルチコステロイド,およびしばしばリツキシマブなどがある。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS