背面切開を行わない嵌頓包茎の整復

執筆者:Paul H. Chung, MD, Sidney Kimmel Medical College, Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2020年 9月
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嵌頓包茎は包皮が翻転した位置で嵌頓してしまった状態であり,泌尿器の緊急事態であり,亀頭の壊死を予防するために,亀頭が覆われる正常な遠位の位置まで包皮を整復する必要がある。

包茎および嵌頓包茎も参照のこと。)

嵌頓包茎は包皮切除を受けていない男性に発生するが,しばしば泌尿器科診察や尿道カテーテル挿入などの手技の際に包皮を牽引した後に整復しないことが原因で起きる。

背面切開などの侵襲的な方法を行う前に試される用手的な整復法として,以下のものがある:

  • 浮腫を来した亀頭および包皮を圧迫し,締め付けている包皮輪の中に亀頭を押し戻す

  • 包皮の周囲を複数のバブコック鉗子(組織を押し潰さない鉗子)で牽引し,包皮を亀頭を覆う位置まで引き戻す

適応

  • 嵌頓包茎は緊急整復を要する。

禁忌

絶対的禁忌

  • 嵌頓包茎の整復に絶対的禁忌はない。

相対的禁忌

  • 局所感染,潰瘍,または陰茎癌がある場合は,包皮の浮腫を軽減するための侵襲的な補助的処置(例,包皮への針の穿刺を伴う処置)は控えるべきである。

合併症

合併症としては以下のものがある:

  • 陰茎皮膚または包皮の裂傷

  • 包皮の損傷による包茎

器具

ルーチン

  • 滅菌ドレープおよび滅菌手袋

  • ポビドンヨード

  • 滅菌ガーゼ,4インチ四方

  • 水溶性潤滑剤

  • 2%リドカインゼリー

  • 局所麻酔薬(例,アドレナリン無添加の1%リドカインまたは0.5%ブピバカイン)

追加(場合によって使用される)

  • 伸縮包帯ロール(約5cm幅)

  • バブコック鉗子(6~8本)

  • 砕いた氷を手術用手袋の中に入れたもの

  • 浮腫を来した包皮に穿刺するための細い針(21~27G)

  • ヒアルロニダーゼ,1mL(150U),27G針,ツベルクリン用シリンジ

  • 浸透圧治療用の塩または砂糖(1)

その他の留意事項

  • 亀頭壊死または陰茎癌が懸念される場合は,緊急に泌尿器科医へのコンサルテーションを行う。

  • 大半の成人患者なら,穏やかな態度で安心させ,表面麻酔薬を使用するだけで非侵襲的な整復に耐えられるが,一部のケース(例,激しい用手的整復,バブコック鉗子の使用,包皮への針の穿刺)では,penile ring block(リドカインを陰茎基部の周囲に皮下注射する)や陰茎背神経ブロックなどの陰茎麻酔が必要になることがある。

  • 一部の症例(例,小児)では,処置時に鎮静または全身麻酔が必要になることがある。

体位

  • 患者を仰臥位にする。

  • 術者はストレッチャーのそばに座るが,ストレッチャーの上に楽に肘を置けるように高さを調節する。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

  • 全ての器具をベッドサイドトレイ上の容易に手の届く範囲に置く。

  • 亀頭および包皮に麻酔用ゼリーを塗布し,閉鎖性ドレッシング材(例,合成樹脂製のラップまたはガーゼ)または使い捨て手袋の指先を切り取ったもので包み,亀頭および包皮を圧迫する。麻酔の効果が現れるまで20~30分間待つ。

  • 患部に異物があれば除去する。

  • 処置した領域を消毒する。陰茎の先端から基部に向かって数センチにわたり,同心円状にポビドンヨードを綿棒で塗布する。

  • 患者の協力を得るために適切な疼痛コントロールを行う。激しい用手的整復,包皮への針の穿刺またはヒアルロニダーゼの注射,バブコック鉗子を用いた包皮の牽引のいずれかが予想される場合は,penile ring blockまたは陰茎背神経ブロックにより陰茎を麻酔する。必要であれば,経口または静注の鎮痛薬,鎮静薬,またはその他の麻酔も用いる。

  • 亀頭および包皮を圧迫することにより局所性浮腫を軽減する。手袋をはめた手掌で陰茎の遠位部を把持し,5~10分以上にわたりきつく締める。あるいは,成人ではガーゼまたは伸縮包帯を患部の周囲に巻いてもよい(遠位から巻き始め,遠位で最も強く,近位では弱めに巻く)。焦らずに待つと,浮腫が徐々に軽減していく。用手的整復を行う前に包帯を全て除去する。

  • 亀頭を包茎輪を通過するように近位側に押す。両手を使って,陰茎の包茎輪のすぐ近位の箇所を両側の示指と中指の間でしっかり把持する。その後,両手の母指で近位へ向けてゆっくりと一定の圧をかけて亀頭を包茎輪の中に押し込み,同時に包皮をしごくように遠位側に戻して,包皮が亀頭を完全に覆うようにする。あるいは,成人では片手で陰茎体をつかんで牽引し,もう一方の手の母指で亀頭を包茎輪の中へ押し込んでもよい。

  • 整復が成功すると,包皮が腫脹した亀頭の上に戻った状態になる。

亀頭および包皮の浮腫を軽減して用手的整復を容易にする補助的な方法として,以下のものがある:

  • 氷をあてる:手術用手袋に水と氷片を入れ,空気を完全に抜いてから手袋を縛る。手袋の母指部分を翻転し,陰茎にかぶせ,その位置で手袋を保持して,5~10分間圧迫する。陰茎の寒冷障害を避けるため,10分後には氷嚢を取り除く。

  • 浮腫を来した包皮の周囲に針を刺す:まず陰茎を麻酔する。次に21~27G針で浮腫を来した包皮を複数回(約10~20回)穿刺し,その部位を用手的に圧迫して,浮腫の液体が滲み出るようにする。圧迫中,包皮周囲にガーゼを用いて滲出液および血液を吸収させる。

  • 包皮へのヒアルロニダーゼ注射:ツベルクリンシリンジを用いて計1mL(150単位)を1回または2回皮下注射する(アナフィラキシーを引き起こす可能性があるため血管内注射は避ける)。ヒアルロニダーゼは浮腫を周囲組織へ急速に分散させる。圧迫中,包皮周囲にガーゼを用いて滲出液および血液を吸収させる。

  • 包皮への浸透圧物質の散布:砂糖と塩は高張性の物質であり,亀頭および包皮に散布すると低張性の浮腫から液体を引き出す。この過程は数時間かかることがあるため,急性嵌頓包茎では使用すべきではない(1)。

これらの手技のいずれかを行った後,上述の通り用手的に包皮を整復する。

バブコック鉗子を用いた整復

  • 6~8個のバブコック(組織を押し潰さない)鉗子を,包茎輪の外縁全周にわたり等間隔に置く。

  • 全ての鉗子を同時に把持し,ゆっくりと遠位側に牽引して包茎輪を亀頭の上へと戻す。包皮を破らないように注意すること。

アフターケア

  • 用手的整復の試みが不成功に終わった場合は,直ちに泌尿器科医へのコンサルテーションを行う。

  • 用手的整復が成功した後は,外科的治療(包皮環状切除または背面切開)が必要かどうかを評価するため,泌尿器科医によるフォローアップを手配する。

  • 大半の皮膚損傷は用手的整復後に縫合を必要としない。

  • 感染リスクを低下させるために抗菌薬を経口または外用で投与することもあり,高リスク患者(例,易感染性患者,糖尿病患者)では特にその傾向が強い。

  • 再診時の評価が終わるまで包皮を翻転させないよう患者を指導しておき,再診時に医師の監督の下で翻転を行わせる。

注意点とよくあるエラー

  • 辛抱強く待てずに,包皮および亀頭を十分な時間圧迫せずに整復を試みてしまうことがある。

アドバイスとこつ

  • 嵌頓包茎の整復を成功させるには,患者の協力が不可欠である。小児や,成人でも不安の強い患者では,治療を行うために局所麻酔やときに鎮静が必要になることがある。

参考文献

  1. Kerwat R, Shandall A Stephenson B: Reduction of paraphimosis with granulated sugar.Br J Urol 82(5):755, 1998.doi: 10.1046/j.1464-410x.1998.00902.x

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