多尿

執筆者:Geetha Maddukuri, MD, Saint Louis University
レビュー/改訂 2021年 1月
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多尿とは尿量が3L/日を超える場合であり,頻尿(日中または夜間に頻回の排尿を必要とするが,尿量は正常であるか,正常より減少する)と鑑別する必要がある。どちらの問題にも夜間頻尿が含まれる可能性がある。

多尿の病態生理

水分量の恒常性は,水分摂取(これ自体も複雑な調節の対象である),腎血流,溶質の糸球体濾過および尿細管再吸収,ならびに腎集合管での水再吸収の複雑なバランスによって制御されている。

水分摂取量が増加すると,血液量が増加して血液の浸透圧が低下し,視床下部下垂体系からの抗利尿ホルモン(ADH;アルギニンバソプレシンとも呼ばれる)の分泌が減少する。ADHは腎集合管における水再吸収を促進することから,ADHの分泌低下が尿量の増加につながり,これにより血液の浸透圧が正常に回復する。

さらに,尿細管内の溶質量が増加することで受動的な浸透圧利尿(溶質利尿)がもたらされ,それにより尿量が増加する。この過程の典型例は,コントロール不良の糖尿病患者でのグルコースによる浸透圧利尿であり,上昇した尿のグルコース濃度(250mg/dL[13.88mmol/L]を超える)が尿細管再吸収能を上回るため,尿細管内のグルコース濃度が上昇し,水がこれに追随して移動する結果,糖尿および尿量増加が生じる。糖尿病でみられるグルコースによる浸透圧利尿は,ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬の使用によりさらに亢進するが,SGLT2阻害薬は腎臓でのグルコース再吸収を阻害し,腎臓でのグルコース排泄を増加させることにより,血漿血糖値を低下させる。

したがって,多尿は以下が関与するあらゆる過程によって生じる:

多尿の病因

成人の多尿の最も一般的な原因は以下のものである:

  • 利尿薬の服用

成人および小児の多尿の原因で最も一般的なもの(多尿の主な原因の表を参照)を以下に示す:

糖尿病のない状況での最も一般的な原因は以下のものである:

表&コラム

多尿の評価

病歴

現病歴には,多尿頻尿を鑑別するために水分の摂取量および排泄量を含めるべきである。多尿が認められる場合は,発症時の年齢,発症の速さ(例,突然か緩徐か),ならびに多尿を引き起こす可能性のある最近の臨床的因子(例,輸液,経管栄養,尿路閉塞の解除,脳卒中,頭部外傷,手術)について尋ねるべきである。口渇の程度についても質問すべきである。

システムレビュー(review of systems)では,ドライアイおよび口腔乾燥(シェーグレン症候群)や体重減少および盗汗(がん)など,可能性のある原因を示唆する症状がないか検討すべきである。

既往歴の聴取では,多尿を伴う病態について検討すべきであり,具体的には糖尿病,精神障害,鎌状赤血球症サルコイドーシスアミロイドーシス副甲状腺機能亢進症などが挙げられる。多尿および多飲の家族歴に注意すべきである。薬歴の聴取では,腎性尿崩症と関連のある薬剤(多尿の主な原因の表を参照)および排尿量を増加させる薬剤(例,利尿薬,アルコール,カフェイン飲料)の使用に注意すべきである。

身体診察

全身状態の観察では,肥満(2型糖尿病の危険因子として)または低栄養もしくは悪液質(基礎疾患としてのがんや摂食障害と患者が隠れて使用している利尿薬の影響を反映している可能性がある)の徴候に注意すべきである。

頭頸部の診察では,ドライアイまたは口腔乾燥(シェーグレン症候群)に注意すべきである。皮膚の診察では,ときにサルコイドーシスを示唆する色素沈着もしくは色素脱失病変,潰瘍,または皮下結節の有無に注意すべきである。包括的な神経学的診察では,基礎にある神経学的損傷を示唆する局所神経脱落症状に注意し,思考障害を示唆する精神状態の評価を行うべきである。尿量の状態を評価すべきである。四肢を診察して,浮腫がないか確認すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 突然の発症または生後数年内での発症

  • 盗汗,咳嗽,および体重減少(特に重度の喫煙歴がある場合)

  • 精神障害

所見の解釈

多尿と頻尿の鑑別は,病歴から可能となる場合が多いが,まれに24時間蓄尿が必要になることもある。

臨床的評価で原因が示唆される場合もあるが(多尿の主な原因の表を参照),通常は検査が必要である。尿崩症はがんまたは慢性肉芽腫症(高カルシウム血症に起因する)の既往,特定の薬剤(リチウム,シドホビル[cidofovir],ホスカルネット,イホスファミド)の使用歴,または比較的まれな病態(例,鎌状赤血球症腎アミロイドーシスサルコイドーシスシェーグレン症候群)の病歴から示唆され,これらの徴候は多くの場合,多尿よりも顕著で,多尿に先行する。

特定の時間に突然多尿が出現する場合は,患者が非常に冷たい水や氷水を好む場合と同様,中枢性尿崩症が示唆される。生後数年以内で発症する場合は,典型的には遺伝性の中枢性または腎性尿崩症かコントロール不良の1型糖尿病が関係している。糖尿病の既往からは溶質利尿に起因する多尿が示唆される。心因性多飲症は,最初に出現する臨床像としてより,むしろ精神障害(主に双極性障害または統合失調症)の既往がある患者でよくみられる。

検査

病歴または測定結果から過剰な排尿量を検証できたら,コントロール不良の糖尿病を除外するため,血清または指先採血での血糖値測定を行うべきである。

高血糖が認められない場合は,以下の検査が必要である:

  • 血清および尿生化学検査(電解質,カルシウム)

  • 血清および尿浸透圧のほか,ときに血漿抗利尿ホルモン(ADH)濃度

これらの検査では,高カルシウム血症低カリウム血症(隠れた利尿薬の使用に起因する),高ナトリウム血症,または低ナトリウム血症がないか検討する:

  • 高ナトリウム血症(ナトリウム > 142mEq/L[142mmol/L])は,中枢性または腎性尿崩症による自由水の過剰喪失を示唆する。

  • 低ナトリウム血症(ナトリウム < 137mEq/L[137 mmol/L])は,多飲に起因する自由水の過剰摂取を示唆する。

  • 尿浸透圧は典型的に,水利尿では300mOsm/kg(300mmol/kg)未満,溶質利尿では300mOsm/kg(300mmol/kg)超となる。

依然として診断がつかない場合は,水制限試験と外因性ADH投与に続いて血清および尿検体のナトリウム濃度および浸透圧を測定すべきである。この検査は重篤な脱水につながる可能性があることから,患者を常時監視できる状況でのみ施行すべきであり,通常は入院が必要になる。さらに,心因性多飲症が疑われる患者は,隠れて飲水しないように観察する必要がある。

水制限試験では,様々なプロトコルが使用できる。どのプロトコルにも何らかの制限がある。典型的には,この検査はまず,朝に体重測定,血清電解質濃度および浸透圧測定のための静脈血採血,ならびに尿浸透圧の測定を行うことで開始する。1時間毎に尿を採取して,浸透圧を測定する。水制限は,起立性低血圧および体位性頻脈が出現するか,体重が開始時から5%以上減少するまで,または連続採取した尿検体の浸透圧が30mOsm/kg(30mmol/kg)を超える直前まで継続する。血清電解質および浸透圧を再び測定して,バソプレシン注射液5単位を皮下注射する。注射の60分後に最後の採尿を行って浸透圧を測定し,検査を終了する。

正常な反応では,尿浸透圧が水制限後に最大値を示し(> 700mOsm/kg[700 mmol/kg]),バソプレシン投与後にさらに5%を超えて上昇することはない。

中枢性尿崩症では,典型的には血漿浸透圧以上に尿を濃縮できないが,バソプレシン投与後には尿浸透圧を上昇させることが可能になる。尿浸透圧の上昇幅は中枢性尿崩症では50~100%であるのに対し,部分型中枢性尿崩症では15~45%である。

腎性尿崩症では,血漿浸透圧以上に尿を濃縮することができず,バソプレシン投与もさらなる反応が認められない。ときに部分型腎性尿崩症患者では,尿浸透圧が最大45%上昇する可能性があるが,全体的に見れば,これらの数値は部分型中枢性尿崩症患者での数値よりはるかに低い(通常は300mOsm/kg[300mmol/kg]未満)。

心因性多飲症では,尿浸透圧は100mOsm/kg(100mmol/kg)未満である。水分摂取量を徐々に減量することで,排尿量の低下につながり,血漿および尿浸透圧と血清中ナトリウム濃度が上昇する。

血中ADH濃度の測定は,中枢性尿崩症を診断する上で最も直接的な方法である。水制限試験終了時(バソプレシン投与前)の測定値は,中枢性尿崩症では低く,腎性尿崩症では適切に上昇している。しかしながら,ADH濃度はルーチンには測定されない。さらに,水制限試験の精度が非常に高いため,ADHの直接測定が必要になることはまれである。測定する場合は,患者が十分に水分を摂取した水制限試験の開始時点でADH値を測定すべきである;ADH値は血管内容積の低下とともに上昇するはずである。

多尿の治療

治療は原因によって異なる。煩わしい夜間頻尿は,就寝前の水分摂取量を減らす,デスモプレシンを使用する,睡眠衛生を改善するなどの対策を単独または混合で用いることにより管理できる。

多尿の要点

  • 多尿でよくみられる原因は,利尿薬の使用とコントロール不良の糖尿病である。

  • 糖尿病および利尿薬の使用歴がない場合,慢性の多尿で最も頻度の高い原因は,心因性多飲症,中枢性尿崩症,および腎性尿崩症である。

  • 高ナトリウム血症は,中枢性または腎性尿崩症を示唆している可能性がある。

  • 低ナトリウム血症は多飲でより特徴的である。

  • 突然発症する多尿は中枢性尿崩症を示唆する。

  • 水制限試験は診断に役立つ可能性があるが,患者を綿密に監視できる状況でのみ施行すべきである。

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