腹腔穿刺

執筆者:Zubair Malik, MD, Lewis Katz School of Medicine at Temple University
レビュー/改訂 2023年 2月
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腹腔穿刺とは,経皮的な穿刺吸引により腹腔内の液体(腹水)を除去する手技である。

腹腔穿刺は,腹水の分析(この場合腹水の除去は少量)による診断や治療を目的として行われ,典型的には腹水による慢性の腹部膨隆がある患者(この場合は大量の腹水を除去する)に対して施行される。

腹腔穿刺も参照のこと。)

腹腔穿刺の適応

診断的穿刺

  • 新たな腹水または病因不明の腹水がある患者

  • 腹水があり,腹水の感染(例,特発性細菌性腹膜炎)を示唆する発熱や疼痛の増強などの症状がある患者

治療的腹腔穿刺

  • 症状(通常は大量の腹水による呼吸困難または疼痛)の緩和

腹膜炎の原因の多くは外科的緊急事態であり,腹腔穿刺を必要としない。

腹水の患者で一般的に行われる臨床検査の選択については,腹水の診断で考察されている。

腹腔穿刺の禁忌

絶対的禁忌

  • 重度かつ是正不能の血液凝固障害

  • 腸管の膨満を伴う腸閉塞(安全に到達可能な腹水の貯留域が画像検査によって同定されている場合を除く)

  • 腹壁の感染

相対的禁忌

  • 非協力的な患者

  • 穿刺部位の手術瘢痕:穿刺部位は瘢痕部位から離れた位置を選択すべきである。手術瘢痕は腹壁への腸管の癒着を引き起こす可能性があり,穿刺時の腸穿孔のリスクを高める。

  • 大きな腹腔内腫瘤または第2もしくは第3トリメスターの妊娠:これらの状況にある患者に対する腹腔穿刺は超音波ガイド下で行うべきである。

  • 腹部側副血行路を伴う重度の門脈圧亢進症:この状態では,腹壁の拡張した静脈を針で損傷するリスクが高まる。

腹腔穿刺の合併症

  • 動脈または静脈が針で損傷すことによる出血:腹腔内出血はコントロール困難となることがあり,死に至ることもある。

  • 穿刺部位からの腹水漏出の遷延

  • 感染症(例,針または皮膚細菌叢による汚染に起因する)

  • 腸穿孔(腸管内容物の腹腔への漏出および腹水の感染を引き起こす)

  • 腹腔穿刺で大量の腹水を除去した場合,低血圧のほか,ときに一過性の低ナトリウム血症やクレアチニン上昇

腹腔穿刺で使用する器具

  • 同意書への署名

  • 局所麻酔薬(例,1%リドカイン10mL),25Gおよび20~22G針,ならびに10mLシリンジ

  • 消毒液とそれを塗布する器具,ドレープ,手袋

  • 滅菌ガーゼ

  • 腹腔穿刺用の針:診断的腹腔穿刺には18~22G(長さ4cmまたは必要に応じて9cm)の針,治療的腹腔穿刺には18~14G(4cmまたは必要に応じて9cm)の針または15G(8cm)の金属カテーテル付きCaldwell針

  • 11番のメス刃(刺入部の幅を広げるために必要になることがある[特に大量の腹水を除去する場合や太い針の場合])

  • 三方活栓

  • 30~50mLシリンジ

  • 創傷用ドレッシング材(例,絆創膏)

  • 臨床検査用に腹水を採取するための適切な容器(例,赤い蓋のチューブ,紫の蓋のチューブ,血液培養ボトル)

  • 大量の腹水を除去する場合,吸引瓶または排液バッグ

  • 超音波によるガイドを使用する場合,超音波検査機器

腹腔穿刺に関するその他の留意事項

  • 腹腔穿刺により大量(例,5L以上)の腹水を除去する際には,有意な血管内容量の変化と術後の低血圧を予防するため,ときに静注アルブミン(除去した腹水1L当たり6~8g/Lまたは50g)またはデキストラン70(感染リスクがない)の同時投与などによるコロイドの補充が推奨される。

  • 超音波ガイド下で穿刺を行う場合は,穿刺部位に印を付けたら,リアルタイムガイド下で手技を行うか,体液や腹腔内臓器の移動を回避するため患者を動かさずに可及的速やかに穿刺すべきである。

  • 術者が好ましいと考える場合,患者が第2または第3トリメスターの妊娠中である場合,大きな腹腔内腫瘤がある場合,ならびに瘢痕がある場合は,常に超音波ガイドを用いるべきである。瘢痕がある場合は,瘢痕から離れた部位には盲目的に穿刺を行ってもよい。

腹腔穿刺での体位

  • 患者をベッドに座らせ,頭部を45~90°挙上させる。左下腹部に針を刺入する場合は,患者を左向きにやや回転させ,その部位に体液が貯留するようにする。

  • あるいは,患者に側臥位をとらせる。この体位では,腸管の空気で充満した係蹄が浮き上がる。

腹腔穿刺における重要な解剖

  • 白線(linea alba)は,剣状突起から恥骨結合部まで縦方向に走る正中線上の線維帯である。この線維帯には重要な神経や血管は含まれていない。

腹腔穿刺のステップ-バイ-ステップの手順

  • 処置の内容を患者に説明し,文書によるインフォームド・コンセントを取得する。

  • 排尿して膀胱を空にするよう患者に指示するか,導尿カテーテルを挿入する。

  • 患者をベッドに座らせ,頭部を45~90°挙上させる。明らかな大量の腹水を認める患者では,臍と恥骨を結ぶ正中線上の臍から約2cm下を刺入部位とする。あるいは,左下腹部(例,上前腸骨棘から上内側に約3~5cmのところ)に刺入部位を決定する。左下腹部を選択した場合は,患者の体を左向きにやや回転させ,その部位に体液が貯留するようにする。刺入部位は,内部に下腹壁動脈がある腹直筋鞘を避けるため,十分に外側にとるべきである。

  • あるいは,患者に側臥位をとらせる。この体位では,空気で充満した腸係蹄が浮き上がり,刺入部位(液体で満たされた領域の下部とする)から遠ざかる。左側臥位にして左下腹部に針を刺入する方法が一部の医師に好まれているが,これは,右下腹部で盲腸がガスにより拡張することがあるためである。必要であれば,右側臥位を選択することもできる。

  • 刺入部位を選択するために入念に打診を行うが,これは,打診に対する濁音は液体の存在を意味するからである。

  • 必要であれば,超音波を用いて部位を同定して,腹水が存在し,腸管が上に重なっていないことを確認する。

  • 刺入部位を選択する際には,手術瘢痕や目に見える静脈は避けること。

  • スキンマーカーがあれば,刺入部位に印をつける。

  • その領域にクロルヘキシジンやポビドンヨードなどの消毒剤を塗布し,滅菌手袋をはめた手で滅菌ドレープをかける。

  • 25G針を使用して,刺入点に局所麻酔薬を注入して膨疹を作る。より太い針(20~22G)に持ちかえ,麻酔薬が腹膜に到達するまで深部に向けて注入していく(腹膜は敏感であるため,よく浸透させるべきである)。針を進めるときは,リドカインを血管内に注入しないように,一定の陰圧を維持する。

  • 診断的腹腔穿刺では,18~22G(長さ4cmまたは必要に応じて9cm)の針を選択する。治療的腹腔穿刺では,18~14G(長さ4cmまたは必要に応じて9cm)の針またはCaldwell針(15G,長さ8cm)を選択する。より細い針は腹水漏出などの合併症のリスクを低下させるが,治療的腹腔穿刺を完了する時間が長くなる。

  • 印を付けた部位の皮膚に垂直に針を刺入する。あるいは,Z-track法を用いて針を刺入するが,これにはいくつかの方法がある。選択肢1:皮膚を牽引し,針を垂直に刺入し,皮膚の牽引を続けながら,腹腔に入るまで針を進める。選択肢2:まず皮膚のみを穿刺し,そこで皮膚を下方に牽引し,それから針を腹腔内に進める。選択肢3:針を皮膚に対して一定の角度(通常は45°)で刺入して進める。Z-track法が好まれるのは,この方法を用いると,針を抜去した後に腹腔内圧により刺入経路が密閉され,腹水漏出のリスクが減少するからである。

  • 腸管を穿刺しないように針はゆっくり刺入し,間欠的な吸引をして針が血管に入らないようにする。組織(例,腸管,大網)によって針の先端が閉塞する可能性があるため,持続吸引は避けること。

  • 針を腹膜に貫通させ(一般にプツンと抜ける感覚がある),腹水を緩徐に吸引する。

  • 診断的腹腔穿刺では,十分な量の腹水(例,30~50mL)をシリンジに吸引し,検査用の腹水検体を適切なチューブやボトル(血液培養ボトルを含む)に入れる。

  • 治療的腹腔穿刺では,Caldwell針を使用する場合,針を覆う外側の金属カテーテルを進めた後,カテーテル内部から針を抜去する。チューブを用いて排液バッグまたは吸引瓶にカテーテルを取り付ける。

  • 治療的腹腔穿刺では,大量の液体を除去する。5~6Lの腹水除去は一般によく耐えられる。患者によっては,最大8Lまで除去することができる。腹腔穿刺により大量(例,5L以上)の腹水を除去する際には,有意な血管内容量の変化と術後の低血圧を予防するため,静注アルブミンの同時投与などによるコロイドの補充がしばしば推奨される。

  • 排液ボトルを交換するとき,または診断用検体が必要な場合には,体液の流れを制御するために三方活栓を使用することができる。

  • 針を抜去し,その部位を圧迫する。

  • 刺入部位に無菌の絆創膏を適用する。

腹腔穿刺のアフターケア

  • 有意な腹水の漏出が起きている場合は,弾性包帯を巻く。

  • 大量の腹水を除去した後は,処置後2~4時間にわたり血圧をモニタリングする。

腹腔穿刺の注意点とよくあるエラー

  • 針を刺入する前に,腹水が存在し腸管が上に重なっていないことを確認するため,打診で濁音を聴取しなければならない。不確かな場合は,超音波を用いて刺入部位を同定して,腹水が存在し,腸管が上に重なっていないことを確認する。

腹腔穿刺のアドバイスとこつ

  • 穿刺中に腹水の流れが止まった場合は,針またはカテーテルを緩徐に回転させ,1~2mmずつ進める。流れが再開しない場合は,一旦吸引装置から外して(通常は三方活栓を使用する)吸引を解除し,それから吸引を再開する。あるいは,カテーテルを1~2mmずつゆっくり引いてもよいが,カテーテルが腹膜から出てしまうと再び挿入できなくなるため,慎重に行うべきである。

  • 腹腔穿刺を繰り返し必要とする患者もいる。次回以降はこの経験を指針として,刺入部位を同定し,安全に除去できる腹水の量を推定する。

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