RSウイルスと「トリプルデミック」 — 患者と親が知っておくべきこと
コラム23年3月6日 Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry

毎年冬になると呼吸器感染症が流行しますが、今季も例外ではないことは確かです。COVID-19インフルエンザに加えて、RSウイルスの感染者が急増しているという話が出ており、患者や親だけでなく、公衆衛生の専門家からも「トリプルデミック」に対する懸念が示されています。実際、カイザー・ファミリー財団の調査によれば、40%近くの人が今年の冬に、これらのウイルスによる3つの脅威(すなわちインフルエンザ、COVID-19、RSウイルス感染症)が自身の家庭に影響を及ぼしたと回答しました。

こうした関心の高さから、多くの人が、RSウイルスとは何か、他の呼吸器疾患とどう違うのかという疑問を抱くようになりました。

RSウイルスは呼吸器感染症の一般的な原因の1つであり、その感染症は特に小児でよくみられます。これは新しい病気ではなく、実際にはかなりありふれた病気です。ほとんどの人が4歳までにRSウイルス感染症にかかります。RSウイルスは今年になって、インフルエンザとCOVID-19とともに急増する可能性に対処するために医師や病院が対策を講じたことで、大きく注目され、認知度が上がりました。ここではRSウイルスにスポットライトをあてて、患者と親が知っておくべき重要な点をいくつか紹介します。

RSウイルスは幼い子どもと高齢者で最も危険になります。

幼児の親は、高齢者やその介護者とともに、RSウイルスについて最も注意を払うべきです。高齢者はもちろん新生児や乳児にとっても、極めて危険になる場合があります。生後数年の小児では、まだウイルスにさらされていないため、より重症になる可能性があります。

乳児と幼児については、親や養育者が、呼吸が速くなっていないかや、隣り合う肋骨の間の筋肉がへこんでいたり、体全体を使って呼吸していたりするなど、新生児が「苦しそうに」呼吸をしているかどうかに、目を光らせておくべきです。子どもに呼吸困難がみられたら、すぐに病院に連れて行くべきです。

ほとんどの成人では、RSウイルスは典型的にはかぜに似た症状を引き起こしますが、より重症になることがあります。高齢者に対しては、医師はRSウイルス感染症を「発熱がないインフルエンザ」と説明することがあります。高齢者では肺炎につながる可能性があります。

RSウイルスとCOVID-19は似ていますが、重要な相違点がいくつかあります

「トリプルデミック」に関していえば、RSウイルス、COVID-19、インフルエンザの間には明らかに共通する部分があります。一方で、重要な相違点もあります。COVID-19パンデミックの初期には、共用部分の表面や食料品までも消毒するよう推奨されていたことを覚えていますか? この感染経路という点では、RSウイルスに感謝してもよいでしょう。RSウイルスは、たいていの場合、その感染症にかかった子どもとの接触や、ウイルスが付着した表面に触れることによって感染します。子どもや他の人が、ウイルスが付着した自分の顔に触れた手で他の物を触り、それを別の人が触るわけです。

COVID-19は主に、感染者がせきやくしゃみをしたり、歌唱、運動、発話をしたりするときに発生する飛沫(ひまつ)を介して人から人へと広がることが、今日ではよく知られています。これがRSウイルスとCOVID-19の重要な違いの1つです。保育施設でRSウイルスの集団発生が起こりやすい理由も強調されています。子どもは愛着があるものや玩具を共用するのと同じくらい、自身がもつ病原体も他の子どもと共有します。そのため、親や養育者は、保育施設や家庭でのRSウイルスの感染を最小限にとどめるための対策を講じるべきです。つまり、定期的に物の表面を拭くようにし、食器類の共用を避け、子どもか大人かにかかわらず体調が悪い人は家の中で過ごさせるということです。

RSウイルスの検査もありますが、必要がない場合もあります。

ほとんどの呼吸器感染症には、主に症状の管理に重点を置いた、同様の治療が行われます。したがって、症状を引き起こしているウイルスを特定するための検査は、必ずしも必要ではないということになります。公衆衛生の観点からは、医師はどの病気が特定のコミュニティや集団に影響を及ぼしているかを把握しておくことが重要になります。しかし、個々の患者については、呼吸器感染症がRSウイルスによるものかそうでないかを確認するための検査は必要ではなく、特に明らかにされることもありません。したがって、たとえRSウイルス感染症に似た症状で医師の診察を受けたとしても、その原因がRSウイルスかどうかについて明確な答えが得られると決めてかかってはいけません。

RSウイルス感染症では、必ずしも医療機関を受診する必要はありません

RSウイルスとその危険性に関する多くの報道を受けて、一部の患者と親たちは、治療のために医師の診察を受ける必要があると思い込んでしまっています。長い時間をかけて受診した人は、しばしば不満に感じることがあります。RSウイルスに対する検査が必ずしも必要であるとは限らないのと同様に、症状があっても必ずしも医療機関に行く必要があるとは限らないのです。現実には、RSウイルスのようなウイルスの治療に抗菌薬は使用されず、それ以外の薬剤や治療選択肢については研究が続けられている状況です。実際には、医療現場から距離を置くことに明確な利点がいくつかあります。他の人をウイルスにさらすこともなければ、自身が感染の可能性がある他の病気にさらされることも回避できます。

繰り返しになりますが、あなたの幼いお子さんが呼吸困難になっているのに気づいたら、緊急で医療機関に行くべきです。それ以外の場合は、まずは、かかりつけの医師や小児科医に電話をして、治療法や受診の必要性について判断するのがよいでしょう。

乳児と小児におけるRSウイルスおよびウイルス感染症についての詳しい情報は、このトピックに関するMSDマニュアルのページを参照してください。