コメンタリー:その腹痛は虫垂炎ですか? 注意すべき3つの徴候
コラム22年8月29日 執筆者: MSDマニュアル

虫垂については分かっていないことがまだ多くあります。

医療従事者の多くは、これを(尻尾のような)痕跡器官だと考えています。人類は遠い過去のある時点で虫垂を必要としていたかもしれませんが、もはや必要ではなくなったという考え方です。あるいは、虫垂は腸内の体によい細菌を保護するという役割で免疫系に役立っている可能性もあります。

現時点では、虫垂が私たちの体内で果たす役割について明確な理解は得られていません。しかし、虫垂に炎症や感染が起こると虫垂炎になる可能性があることは分かっています。

虫垂炎は米国において、突然起きる重度の腹痛の原因として一般的なものとなっています。全人口の5%以上が生涯のいずれかの時点でこの病気を発症します。ほとんどの場合、虫垂炎は虫垂がふさがること(閉塞)が原因で起こり、それにより炎症と感染が生じます。この閉塞が起こると、しばしば激痛を伴い、直ちに医師の診察を受ける必要があります。さもなければ、虫垂が破裂するリスクがあり、生命を脅かす可能性があります。

しかし、腹痛の原因は他にも数多くあり、ウイルス性の胃腸炎から単なる消化不良まで様々です。どのようなときに腹痛の原因が虫垂炎かもしれないかを知っておくことは、遅れなく効果的な治療を受けるのに極めて重要です。腹痛の原因が虫垂炎である可能性を示す3つの徴候を以下に示します。

1. 吐き気または嘔吐の前に激しい痛みが起きる

痛みは虫垂炎の最も一般的な症状です。他の種類の腹痛とは異なり、虫垂炎による強い不快感はほとんどの場合、吐き気や嘔吐の前に現れます。多くの人、特に乳児や小児では、痛みが全身のより広い範囲に及ぶことがあります。高齢者や妊婦では痛みが少ない場合があります。注意すべきその他の症状としては、発熱や食欲不振などがあります。

2. 痛みが臍から腹部の右下側に移動する

典型的には数時間すると、吐き気が治まり、痛みが右下腹部に移動します。この部位を医師や他の誰かが押すと痛み(圧痛)を感じ、押すのをやめるとその痛みが強まることがあります。

3. 痛みが数時間以上続く

痛みが5~6時間以上続く場合は、虫垂炎の可能性を否定するために医療機関を受診すべきです。吐き気、嘔吐、または発熱がある場合は、救急外来を受診してください。痛みだけの場合は、かかりつけ医に電話することがよい初期対応になります。

虫垂炎の診断と治療

ほとんどの場合、医師は診断を確定するためにCT検査を行いますが、ときに症状から十分に明らかな場合には、問診での患者の話に基づいて治療に進みます。従来手術が推奨されており、一般に発症後24~48時間以内に速やかに行われます。その目標は、虫垂が破裂してさらに深刻な状態になる前に虫垂を切除することです。

手術は典型的には腹腔鏡で行われ、それほど複雑なものではありません。しかし、虫垂炎は青年や20代の人に最も多くみられることから、その人にとって初めて受ける大手術であることが多く、当然のことながら患者は神経質になります。大多数の患者にとって、この手術は合併症を伴わず、速やかな回復をもたらします。虫垂なしで生活することに大きな問題はなく、ほとんどの人は気にすることもありません。

最近では、虫垂炎を手術ではなく抗菌薬で治療することへの関心が高まっています。このテーマについては現在も多くの研究が進められていますが、ある研究では、抗菌薬による治療を受けた患者の3分の1近くが90日以内に虫垂を切除する手術を受けていたことが明らかにされました。虫垂炎の患者では、抗菌薬の使用について医師に相談する価値はあるものの、多くの医師はほとんどの場合、依然として手術を勧めるでしょう。

覚えておくべき最も重要なことは、長引く腹痛を無視したり、我慢したりしてはならないということです。痛みが数時間以上続く場合は、それが虫垂炎ではないことやウイルス性の胃腸炎より悪い病気ではないことを確認するために、医師の診察を受けてください。

虫垂炎の詳細については、このトピックに関するMSDマニュアルのページやさしくわかる病気事典を参照してください。